「俺はどうしてこんなところに・・・・・・その前に、ここはどこなんだろう?」
記憶を失ってしまった一刀は、自分に与えられた部屋で何かを考えている。
一刀の悩みとは裏腹に彼女たちは自身のために動き始める。
「具合はどうだ?」
「えっと・・・・・甘寧さん・・・・・もう大丈夫です、痛みも引きましたし」
「そうか、それは良かった・・・・どうなるかと思ったぞ」
「どうして、そんなに心配してくれるんですか?」
「そ、それはな・・・・・」
顔を反らしてはいるが、完全に顔が真っ赤になっているのは隠すことができていない。
「それは?」
「私たちが夫婦だからだ」
「え?夫婦・・・・・えぇぇぇぇぇ!そ、そんな、俺・・・・いや、記憶が無いからそう思うのか?」
「ならば誓いを見せようか?」
言葉を聞く前に、思春の唇が一刀の唇を塞ぐ、それどころか舌を口内へと積極的に入れてくる、明らかに手慣れている。
「ふう・・・・・」
唇を離したとき、銀色の糸ができ、残滓として残り切れた。
「あ、あの・・・・・」
「思春だ」
「えっと・・・・思春」
「そうだ、それでは私は仕事があるからこれで失礼する」
「俺結婚してたのか・・・・・」
時を少し置き
「一刀様!」
「えっと・・・・・周泰さん?そんなに焦ってどうしました?」
「大丈夫なんですか?」
「はい、色々とご迷惑をかけたようで、本当に助かりました」
お礼を言った顔にはいつもより輝いて見える笑顔が写っていた。
「・・・・・・・・・・・」
「周泰さん?」
「はうあ!思わず見とれてしまっていました」
「そうですか?見とれるような顔はしていないはずですが」
異常なまでの丁寧さを全く崩そうとしない。
「そんなに丁寧にしなくてもいいんですよ、わ、私たちは愛し合い、将来を誓い合った同士なんですから」
「え?」
「そういうことですから、明命とお呼びください、それでは私はこれで」
「え、いやちょっと!待っ・・・・はぁ・・・・・どういうこと?」
「一刀さ~ん、大丈夫ですか~?」
「あぁ、陸遜さん、もう大丈夫です」
「それは良かったです~」
ニコニコと笑いながらずっと一刀のことを見ている。
「あ、あの、俺の顔に何か付いていますか?」
「いえ?いつもの一刀さんの顔ですけど」
「いつもの?」
「はい、いつも一緒に寝て・・・・・昨日もあんなに愛してくださったじゃないですか~」
「なっ!そ、そうなんですか?」
「そうなんですよ~」
全く笑みを絶やさないところを見ると、嘘をついているようには見えない。
「そろそろ、私の指示が終わるころなのでこれで失礼します、それと私の事は穏とお呼びくださいね~」
「どういうことだ・・・・・もう三人めだぞ」
「か、一刀様・・・・・お、起きてらっしゃいますか?」
「起きてるよ、どうぞ」
「し、失礼します・・・・・」
オロオロしながら亞莎が部屋に入ってくる。
「呂蒙さん、どうかしたの?」
「い、いえ、御調子を伺いに来ただけです」
「そうですか」
「こ、これを食べてください」
袖から、紙に包まれた何かを一刀に差し出した。
「これは・・・・・ゴマ団子」
「はい、いつも一緒に作ってたんですよ」
「そうなんだ・・・・・・うん、美味しいよ呂蒙さん」
「そうですか、それは良かったです・・・・・あ、ちょっと動かないでくださいね」
そう言うと、口元についていた餡を嘗めて取った。
「一刀様の味がしますね・・・・・・私たち、もうすぐ結婚する予定だったんですよ」
「え?」
「それなのにこんな・・・・・」
「そ、そうだったの?呂蒙さん」
「亞莎です」
「そうなの?亞莎」
「そうです、私も仕事があるのでこれで失礼します」
「一刀~!起きてる?」
「あぁ、起きてますよ、孫尚香さん」
「だめ!小蓮かシャオって呼んでくれなきゃ」
頬を膨らませ、抗議してくる。
「じゃ、じゃあ小蓮・・・・」
「なぁに?一刀」
ごく自然な動作で寝台に寝ている一刀の上に乗ってくる。
「どうしてこんなによくしてくれるんですか?」
「決まってるじゃない、一刀は私のお婿さんだもの」
「へ?そ、そうなんですか?」
「そうなの!私が信じられないの?」
「い、いや、そういうわけではないのですが」
「そう?ならいいけど、それじゃあ私用があるから、また来るからね♪」
そう言い残すと、そのまま部屋から出て行ってしまった。
「北郷!」
「は、はい!」
「ふむ、大丈夫そうじゃな」
「お、おかげさまで元気になりました、ありがとうございます、黄蓋さん」
「いや、儂は謝らなければないのだ」
珍しく祭が悲しそうな顔をする。
「どういうことですか?」
「お主が記憶の無くなる原因を作ったのは、他ならないこの儂じゃからな」
「そんな気にしてませんよ、どうしたって、こんな魅力的な女性と話すことができるのなら・・・・・」
その先を言うことはできなかった、祭の唇が一刀の唇を塞いだためだ。
「お主は変わらぬの・・・・・・」
「そうですか?」
「あぁ、そうでなければ儂の夫なぞ勤まるわけがない」
「お、夫ですか?」
「なんじゃ、不満か?」
「そ、そんな事はありませんよ」
「ならば良いが・・・・・ほれ、手を貸してみよ」
首をかしげながらも手を差し出すと、その手を自らの胸に押し当てた。
「なっ!」
「ほれ、いつものように揉みしだいてくれ、それから、儂の事は祭と呼べ」
「そ、そんなこと・・・・・」
「まぁ、急にとは言わん、じゃが、できるだけ早く思い出してくれよ」
そう言い残し、部屋から出て行ってしまった。
「・・・・・・・・・」
「一刀?」
部屋に入ると、疲れているのか静かに寝息を立てている一刀の姿があった。
「大丈夫そうね」
「ん・・・・・・あぁ・・・・すみません」
「いいのよ、そのまま寝てても」
「いえ、そういうわけにはいきません、孫権さん」
孫権と呼ばれたことに少しムッとしたようであった。
「その呼び方はあなたらしくないわ、蓮華と呼んで」
「い、いいんですか?」
「いいわ」
「そ、そうですか」
「もう・・・・・私たちはこれから二人でこの国を背負っていく・・・・」
「く、国って」
思わず食らいついてしまった。
「呉をあなたと私で良くしていくと約束したでしょ?あ・な・た」
上目づかいでそんな事を言われてしまうと、抱きしめたい衝動に駆られる。
「もうこんな時間・・・・・ごめんなさい、また来るから」
「もう、訳が分からない」
夜が暮れかかったときにまた来客があった。
「北郷、体の調子はどうだ?」
「もう大丈夫です」
「そうか、それなら良かった。」
「周瑜さん、俺は・・・・・・・」
「それ以上言うな、お前には私がいる・・・・」
「でも・・・・・周瑜さん」
「冥琳だ」
「冥琳・・・・・」
「大丈夫、お前には私が付いているから、大丈夫だ」
抱きしめると、子をあやすように背中を叩く。
「私は、お前の妻なのだからな」
「・・・・・そうですか・・・・・」
そのまま、身をゆだねるなぜか安心できた。
「一刀?」
中をうかがうようにこっそりと雪蓮が部屋に入ってくる。
「こんばんは、孫策さん」
その言葉にむっとする。
「むっ!雪蓮よ」
「雪蓮さん」
「雪蓮」
「雪蓮」
「よくできました」
すぐに抱きついて喜びを表現している。
「さすが私の婿ね、覚えがいいわ」
「そ、そうかな?」
「そうよ!このまま初めて会ったとことかに旅行に行きましょうか?」
「え?それは、ちょっと」
「そう、でも、今日は一緒に寝よう」
「さすがにそれは・・・・・」
「いやなの?」
途端に悲しそうな顔、しかも上目遣いで見上げられたら断ることはできない。
そのまま、その日は雪蓮が添い寝をしたいと言ってきたので、一緒に寝た。
「俺って、こんなに女たらしだったのかな?」
ついに城までもが劫火に飲み込まれた、風はさらに吹き付け、火炎を大きくする、所々竜巻がこちらへと向かっている、この状況では絶望的な観測しかできない。
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全く予想がつかない展開にしてしまったことを後悔しつつがんばります