No.627314

司馬日記39

hujisaiさん

その後の、とある文官の日記です。

2013-10-12 10:40:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:12949   閲覧ユーザー数:7745

2月16日

先日の士季とのやりとりを思い出し、多少なりとも女性らしい何かを掴めるかと書店へ行き阿蘇阿蘇を買ってみた。

「女子力を上げる下着特集」

「『髀肉之嘆』事件を越えて…今日から出来る美容体操」

「陸遜先生の星占い」

「大好評連載『三国志』最新話」

「于禁ちゃんに聞け!着こなし術」

「許子将姐様の今月の『いい女』」他

…確かに参考にはなったのだが、私が学ぶべきはこういった事で良いのだろうか…?

ただ、王粲殿の三国志は面白かった。また次号も買いたいものだ。

 

2月17日

どこかで見た美少女が後宮の庭園で佇んでいると思ったら蔡文姫殿であった。

ふと目が合ったので会釈しようとしたが、ふいとどこかへ行かれてしまった。

目元が赤かったように見え、泣かれていたのかと思う。彼女にとっては久しぶりの漢土と聞く、淋しい思いをしているのかも知れない。詠様か月様にそれとなく伺ってみよう。

 

2月18日

対外国向けの一刀様の宣伝資料が桐花様の回覧決裁箱に入っているのがたまたま目にとまった。

大変な性豪であることと幅広い房事が誇大気味に表現され、文末に「貴国の子女の御安全の為不必要な接見等の接触はお避け頂き、文書又は次官級による連絡をお願い致します」とまで記するのは一刀様に無礼な表現ではないでしょうかと公達様に申し上げると、

「ああ…これ目的が一刀様の女除けだからね。こないだ蔡文姫の件があったでしょ?あんなのがしょっちゅうじゃ堪らないってことで始まったの、国内向けには同じ事やってもどうせ見透かされて却って地方や後宮入りしてない娘の反発招くだけって分かってるからやらないけどね。皆が皆、あんたみたいに性質さえ良ければ一刀様の女は幾ら居てもいいみたいに考える女って少数派なのよ。それにあんただって、女増えすぎて一刀様が耳元で『仲達さーん』って囁いてぺろぺろちゅっちゅずっこんばっこんしてくれなくなったら嫌でしょ?」

と言われた。

釈然とはしないものの、感情としては理解は出来る。

入庁した頃はお慕いしているだけで十分幸せだったというのに、その御腕に抱いて頂けるようになってからは身も心も一刀様無しでは生きていけないとさえ思えてしまう私は、自分勝手な女なのだろうか。

 

2月19日

総務室と各国重臣を集め緊急会議が開かれた。青い顔をして書類を握り締めて会議室へ向かわれる詠様に並んで歩きながら議題は何でしょうかと伺うと、怪文書よ、と答えられた。

会議室へ集まると、重臣の方達に加えて王粲殿と陳琳殿も出席されていた。

曹操様が重々しくでは会議を始めるわ、ではまず王粲と陳琳、その文章を読んでどう思う、と聞かれた。二人の席にはその怪文書と思しき薄い本が置かれており、陳琳殿は青い顔で

「…文章としては、名文と言わざるを得ません。緊張感のある初夜の様子や、青い性に溺れていく一刀様と身体を馴染ませ淫らに花開いていく少女…『瑠璃』との爛れた愛欲に耽る日々の様子は読む者をして情欲に駆り立たせ、羨望の思いを沸き起こさせるものに他ならないものと思います。それに彼女の母…『美苑』を交えた情交のくだりに到っては、その描写の濃厚さ、美麗さは我を忘れて読ませる力を持っております」

と答え、王粲殿は顔を赤くして同意見ですと付け加えた。

一刀様が、詠…これの出所って…と聞かれると、

「うちで手数を結構出して、それに七乃にも風にも手伝ってもらって調べてるけど掴めてないの。…薄々気づいてるだろうけど、これだけ調べてるのに出てこないって事は…、言わなくても分かるわよね?」

と答えられながら劉備様の方を見られた。劉備様が困ったように苦笑いされるのを見て、一刀様が劉備様に「…紫苑に、調査の協力は…?」と聞かれ、

「う、うん、あのね…『別件の業務繁多の為御容赦下さいませ。ただ、誓って【私では】ありませんわ』だって…」

と答えられると全員が顔色を失い、詠様がこれで確定ね…と呟き、陳琳殿が

「彼女が…あの年で、このような名文を、このような淫らなものを書かれるなんて…有り得るのでしょうか…」

と述べても誰も答えなかった。

 

暫く重苦しい沈黙が続いたが、劉備様が

「もう…この通りになっちゃっても、いいんじゃないかな…?」

と言われると、吹っ切れたように据わった目をされた詠様、曹操様、稟様らが

「そうね…あんたは食われる。いや、食われたって考えるわ」

「しょうがないわよね。私は許してあげるから。ただ周りの娘がどんな目で貴方を見るか分からないけど」

「青少年保護育成法にも例外規定がありましたから…」

「後世の史家は荒淫暴虐の王などと書くかもしれませんけど、彼らはこちらの事情など斟酌出来るものではありませんから諦めましょう」

等と発言され、皆三々五々席を立っていき、会議は自然散会となった。

 

残された一刀様も席を立たれ、ふと私を認めると微笑まれて

「出来る限りの抵抗はするから。恵達ちゃん、雅達ちゃん、幼達ちゃん達の将来のためにも」

と言って私の肩を叩いて引き上げていかれた。

会議内容全般も最後の一刀様の御言葉の意味も今一つ分からなかったが、一刀様の背中になぜか胸が切なく締め付けられるように感じた。

 

2月20日

出てこられた詠様と入れ違いで会議室に入り昼食をとろうとしたところ、蔡文姫殿が一人で座っており弁当を片手に俯かれていた。入らせて頂いてよいか声をかけたところ、どうぞ構いませんと答えられた。

弁当を摂りながら、こちらの暮らしに慣れられましたかと伺ったところその最中ですと言い、何か不明な点や悩み事がありましたら出来得る限りでお力になりますので御相談下さいと申し上げた。

するとぽつぽつと話される事には、自分は匈奴の供物として一刀様へ嫁いだが、一向に夜伽に呼ばれない。それどころか口調こそ柔らかいもののまるで自分は愛妾として不要であるかのような説得をされてしまったが、一刀様が如何様な特殊性癖の御持ち主であったとしてもこの方を愛し仕えていく事こそが自分の使命でありそれ以外の生き方は考えていない。しかし一刀様は房事に及ぶことを良しとせず二人きりで会う事を避けられているようで、愛妾として果たすべき仕事を何一つ出来ておらず現状月様の居候となってしまっている。それでは余りに立場が無い為、月様に付いて調理や一刀様の身の回りのお世話の勉強をさせてもらっているがある程度以上の作業は月様からやんわり断られてしまう。そこで他の寵姫と同じくいずれかの国にて仕事を求めてみたところ、能力は方々で認めて頂いたものの中々採用してもらえず、今も詠様に総務室の仕事を求めたが近親上等☆姉妹が戦力になって来ている事を理由に断られてしまったという。

 

多少元気を損ねてしまってはいるが、ですがこれくらいの事では挫けませんと語る彼女の瞳に宿る強い意志に好感を抱いた。

一刀様は寵姫の方々に体のみを求めるという事を良しとされない為、徐々に御親密になり(伽に)呼ばれるのを待たれるのが宜しいでしょう。又仕事を御求めでしたら私の方でも当たってみますと答え、昼食を片付けた。

 

2月21日

早速公達様に蔡文姫殿の就職口の当てについて伺ってみたが、

「無理よ無理、匈奴から『皇帝用のオンナを送ったのに一般人みたいに働かせてるとか馬鹿にしてんのか』って言われたらあんた責任取れんの?『そういうプレイだ』で通じる相手と通じない相手が居るのよ世の中には。それに早くお手つきになりたいって言っても一刀様って一回目まではなっかなか抱いてくれないからねぇ、あたしだって処女貰って頂くまで勝負下着何着無駄にしたか…時間がかかるのは割り切るしかないわよ。話戻るけど、どうしても仕事したいってんならいっそ公務じゃなくて民間に求めた方が本人の自由意志って事になるから角が立たなくていいんじゃない」

と言われた。

民間と言われてもここの仕事しか知らない私には当ても無い。それに怪しげな所に勤めてその身に何かあったりすれば外交問題なので迂闊なところには勧められないだろう。

彼女の為に何か出来ることがあれば良いのだが。

 

2月22日

会議後に張任殿と廊下で立ち話をしていたところ、張松殿と法正殿が通りがかった。

張任殿との間に以前の様な刺々しい雰囲気は無かったが互いに気まずげに、どうも、と会釈して通り過ぎられて行った。

…まあ、いがみ合われるよりは余程良いのだが…。

 

2月23日

子孝様、子廉様がたまたま総務室へお見えになったので蔡文姫殿の就職先について御相談させて頂いた所、

「じゃあ菫のとこでも紹介したら?」

と御提案され、菫とはどなたのことでしょうかと伺うと

「あれ?仲達、菫の事知らないの?文烈よ曹休文烈、あんたしょっちゅうあの飲み屋行ってるじゃない。菫はあんたのこと知ってたわよ?」

と言われた。曹休様のお名前は知ってはいたが、よく聞いてみると休職して酒楼「三国一」の給仕長をされているとの事だ。あいつ真面目だからあそこだったら間違いないんじゃない、との御意見ではあるが曹休様に直接の面識が(何度も顔は見ていたのだろうが)無いので子丹御嬢様に伺って頂くこととした。

 

2月24日

曹休様から応諾の御返事をもらったと御嬢様から御連絡を頂いた為、文姫殿に打診してみたところ喜んで勤めたいとの事だ。一度文烈様にご挨拶に伺おう。

 

2月25日

朝に庁内で一刀様とすれ違った際に御髪が乱れているのに気がついたが、周囲に人も多く御指摘するべきか迷い事務室に戻って公達様に御相談した所、

「ほっといても大丈夫よ。ま、どうしても気になるなら濡らした手拭と櫛持ってお部屋に上がったら?」

とどうでも良さげに答えられた。

一刀様の身嗜みがそのようにどうでもよい事は無いのではと思いながらも慌ててお部屋へ伺ったところ櫛と手拭を持ってお部屋から出てこられた月様とすれ違い、一刀様の御様子を伺うと御髪は既に整えられていた為何もせずに帰ったが、おそらくは月様が整えて下さったのだろう。その旨を公達様に御報告すると

「でしょ?月さんそういう事に命賭けてる人だからね」

と言われた。

 

2月26日

たまには昼食を外で摂ろうと思い町に出てみると人だかりがあり何事かと見に行ってみた。すると酒楼の屋根の上に面妖な眼鏡(?)をかけた趙雲殿が高笑いをしており、道の脇では凪が破落戸らしき者を取り押さえ、于禁殿と李典殿が野次馬を遠ざけていた。凪に事情を聞くと、

「いえ、大した事ではないのですが…星さんがお元気になられたようでなによりです」と微笑み、また周りを見てみると関羽殿と一刀様も趙雲殿を見上げて微笑まれていた。しかし

屋根の上の趙雲殿が

「はーっはっはっは!都の風紀を乱す者は、主の白く濁った愛を下腹いっぱいに注がれたこの華蝶仮面が許さぬぞ!」

と叫ぶと

「まさに今お前が乱してるよ!」

と一刀様が窘められ、「よしあいつ逮捕しましょう」と言って笑顔で偃月刀を取り出した関羽殿を凪が必死に止めていた。

 

2月27日

蔡文姫殿を連れて酒楼に曹休様を訪問した。改めて見たが目つきは鋭いが落ち着いた話し方をされる方で、「文烈でよいです。貴女の事は知っていますよ」と言われた。

既に話は通されているので直ぐに勤務等の話に移りそれを聞いていたが、打ち合わせ後になぜ御休職されているのですかと伺うと、

「軍務に多少疲れましてね。…まあ、女でもありますし」

と言われた。子孝様らのお話では一騎当千の強者だったらしいが、文烈様なりの御事情があるのだろう。

 


 
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