『これより、海鳴中学校文化祭を開催します』
「「「「「「「「「「イエーーーーーーーイ!!!!」」」」」」」」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ
スピーカーから流れた文化祭の開会宣言に校舎内外から歓声と拍手が沸き上がる。
教室の窓から外を眺めると一般客が賑わいながらも正門から入ってくる姿が見える。
「そう言えばメガーヌさんがルーとジークを連れて来るんだったっけ」
何時頃に来るかは聞いてなかったけど。
「ユウ、ボーッとしてないで喫茶店の準備手伝ってよ!!」
「はいはい。……ていうかその格好で給仕するのか?」
「当然だよ♪動きやすいもん♪」
俺に声を掛けてきたレヴィの服装はバリアジャケットだ。
コイツはフェイトと違って視線を向けられても恥ずかしがらない。
これは良い事…なのだろうか?
給仕に支障をきたさないのは望む所だが、羞恥心が無いっていうのもなぁ…。
「よーーーし!!!これより僕達のクラスは何処のクラスよりも利益を確保して自分達の小遣いに還元するぞーーーー!!!!!」
「「「「「「「「「「おーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」」」」
クラスの男子女子共に気合とやる気は充分。
そう…文化祭で稼いだ利益は全て配分し、自分達の懐に還ってくるのだ。
そして食材以外の物資には一切コストを掛けない様に教室の机と椅子を利用し、テーブルクロスは全て桃子さんに頭を下げて翠屋の物を拝借した。
コスプレ衣装に関してだけが唯一お金掛かってるね。
まあ、俺、レヴィ、フェイト、リンディさんはバリアジャケットのデザインを変更するだけで事足りるので衣装代もタダだがな。
「食材の貯蔵は充分かーーーーーー!!!!?」
「「「「「「「「「「おーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」」」」
「飲料の貯蔵も充分かーーーーーー!!!!?」
「「「「「「「「「「おーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」」」」
「目の保養は充分かーーーーーーー!!!!?」
「「「「「「「「「「まだでーーーーーーす!!!!!」」」」」」」」」」
「なら今すぐに保養したまえ。実際に仕事が始まると保養出来るかどうかわからないぞーーー」
「「「「「「「「「「はーーーーーーい!!」」」」」」」」」」
そう言って男子達の視線は主にレヴィ、フェイト、テレサ、リンディさんに向けられ…
「「「「「「「「「「ジーーーーーーー…」」」」」」」」」」
女子達の大半は俺の方に視線が向く。
「……ひょっとして似合ってないか?」
元のキャラがイケメンだからなぁ。やっぱ俺には似合わなかったかな?
「そ、そんな事無いよユウ。スッゴク似合ってるよ(ふえ~…カッコイイなぁ)////////」
「うん…もっと自信を持って良いよ勇紀(あうぅ…目を合わせられないよ)////////」
「ふふ。凄く凛々しいわよ勇紀君(普段のバリアジャケットも似合ってるけど今の衣装も中々…)////////」
「そうね。大人っぽい感じがするわ(不覚にも見惚れてたわ)////////」
レヴィ、フェイト、リンディさん、テレサは目を合わせようとしてくれないが褒めてくれる。
良かった。似合って無い訳じゃ無いんだ。
「長谷川君、もっとドーンと構えたら?」
「そうそう。せっかくリーダーっぽい恰好なんだしさ」
「大槻君には一歩及ばないけど…」
「充分魅力的だと思うよ」
他の女子も褒めてくれるので少しは自信がついた。
今の俺の恰好は『るろうに剣心』の登場キャラ、『四乃森蒼紫』初登場時の衣装だ。
このコート、格好良いもんね。
フェイトは新しく仕様を変更したバリアジャケットでテレサは純白のナース服、リンディさんは婦警さんの制服だ。
レヴィに比べると露出度は格段に低いのだが男子の受けは良い。
約1分程、見つつ見られつつの状況になるが
「目の保養はもういいだろ?お客さんも来るんだから準備しないと」
エプロンを掛けたいがコートにエプロンは合わないので自重する。
まあバリアジャケットだし、一旦解除してもう一度纏えば汚れは綺麗に無くなるしね。
「うむ…名残惜しいが後は各自余裕が出来た時にでも保養する事にしよう」
「「「「「「「「「「うーい」」」」」」」」」」
「じゃあ俺も持ち場に」
そう言って俺と数人のクラスメイトは教室の隅に移動して調理の準備を始める。
「「「「「「「「「「いらっしゃいませー」」」」」」」」」」
早速お客さんがやって来たようだ。
頑張って働きますかね………。
「オーダー入りまーす。4番テーブルにオムライスとオレンジジュース2人前お願いしまーす」
「了解!!」
「オーダー入りまーす。6番テーブルにカレーライスお願いしまーす」
「はーい!!」
「テイクアウト入りまーす。カツサンドセット3人前お願いしまーす」
「任せてー」
……い、忙しい。
文化祭が始まり、我がクラスのコスプレ喫茶は開店してから5分経たずに満席だ。
既に廊下には順番待ちの列が形成されてるとか。
目的は店の料理……何かよりもコスプレ目当ての客が多数だな。
尚、店内での撮影は固く禁じている。もしも撮影しようものなら…
「おいお前!!それはカメラだな!!今、盗撮してただろ!!」
「えっ…そ、それは……」
「当店での撮影はご法度だ!!『アニキ部屋』に引き渡してやる!!」
「す、すみません。許して下さい!出来心だったんです!!」
「駄目だ!!例外なんてモノは認めん!!」
「た、助けてえええぇぇぇぇぇ…」
首根っこ掴まれて引っ張っていかれるお客さん。
「あの勇紀。お客さんが1人連れて行かれたんだけど?」
「気にするなフェイト。盗撮してた客が悪い。それよりその客の席に皿やコップがあるなら回収してきてくれ」
「あっ、うん分かった」
フェイトは踵を返して去って行く。
全く……『撮影禁止』のルールぐらい守ってほしいもんだ。
「ねえねえユウ」
「何だレヴィ?お前はホールスタッフなんだからお客さんの相手しろよ」
「分かってるよ。けど気になる事があるんだけど『アニキ部屋』って何なの?」
「…………レヴィ、世の中には知らない方が良い事っていうのがあるんだよ」
俺はレヴィの頭を優しく撫でながら諭すように言う。
「むぅ…教えてくれないの?」
「残念だけどコレばっかりはな」
事前に情報を入手したのだが『アニキ部屋』と呼ばれる催し物……聞いた事を鵜呑みにするなら男にとっては地獄だろう。
耐え難い拷問とも言える。
そこはボディービルディング部の催し物でビキニパンツだけを穿いたムキムキマッチョな男子生徒達によるポールスタンドダンス(主に激しく腰を振る)行為を行うという風営法ギリギリの危ない出し物だ。しかも強制的に10分間見させられ、5000円を支払わされる。
怖い怖い。
「とにかくそんな事は気にしないで接客に集中してくれ」
「でも気になって仕事に集中できないよ」
「それでも頑張る事が出来たら家に帰った後で俺の手作りプリンを進呈しよう」
「死ぬ気で頑張るよ!!!(プリンプリンプリンプリン♪♪♪♪♪)」
一瞬で持ち場に戻るレヴィ。
こういっちゃ悪いけどチョロ過ぎだろアイツ。
知らない人にお菓子でホイホイ釣られないか心配で仕方ないぞ。
「うむうむ。盛況で何よりだね」
売り上げを計算している謙介は満面の笑顔を浮かべている。
「どうだ?元は取れそうか?」
「充分取れるだろうね。ただ…」
「ただ?」
「2組と3組も喫茶店らしいからね。そちらにも客は流れ込んでるだろうね」
「は?」
待てや。3組はともかく、2組はこの前のジャンケンでアリシアが負けたから素直に引き下がったんじゃないのか?
「そんな事は僕に言われても知らないよ。勇紀こそ家でシュテルさんから何か聞いてないのかい?」
「うんにゃ。何も聞いてない」
家の家族、こういうイベントで敵対する際はライバル意識バリバリッスからねぇ。
お互い、情報の公開は一切無いんですよ。俺にとってはそこまでする事無いと思うんだけどな。
その度にルーテシアに怒られる4人。ジークは俺にしがみついて『アワアワ』するぐらい。メガーヌさんは微笑んで事態を見守っている。
……我が家の最強はシュテルからルーテシアになりつつあるな。
「…何なら少し、行ってみたらどうだい?」
「んー……今はいいわ。流石に
今すぐ見に行かなければいけない理由も無いしな。
「ふむ。じゃあ休憩のタイミングで行くのかい?」
「そうするつもり」
シュテルやディアーチェ、ユーリが何してるのかは気になってたから見に行くつもりだったし。
「ふむ。勇紀が休憩入るのは午後1時からだったよね?」
「ああ。1時から2時までの1時間だな」
俺は調理する手を止めず、謙介と会話する。
…うむ、こんがり狐色。良い感じにカツが揚がったじゃないか。
「オーダー入りまーす」
しかしさっきからオーダーが収まる気配が無いよな。
「リンディさんとテレサさんには外でビラを配って店の宣伝をして貰っているからね」
「ああ…道理で2人の姿が見えない訳だ」
つまりこの客足の多さの一端を担っているという事ですな。
こりゃ、時間通りに休憩取れるかも怪しいな………。
コスプレ喫茶を開店して早1時間。
「キャベツがもう無くなりかけてる?」
突如、謙介に『キャベツの在庫がヤバい』と言われた。
「キャベツ、そんなに使ったっけ?」
「カツサンドのテイクアウト注文が思っていたより多くてね。肉は予め多く買っておいたのだがキャベツに関してはあまり買ってなかったんだよ」
だねぇ。男性客は大抵店内で食べていく(コスプレしてる女子生徒を眺めるのが目的)が女性客や色々文化祭を見て回りたい人はテイクアウトで注文していく。
「…で、どうすんだ?カツサンドにキャベツ挟むの止めるのか?それとも挟む量減らすか?」
「そういう訳にはいかないよ。手抜きはしたくないんでね」
「ふむ」
「だからキャベツを買いに行って貰おうと思ってね」
「誰が行くんだ?」
「君が」
俺をご指名ッスか。
「行くのはいいけどその間、離れても大丈夫なのか?」
「クラスで料理が出来る人材はまだいるからね」
「はあ……まあ、それで良いなら行くけどな」
「じゃあコレだけ渡しておくからキャベツを買えるだけ頼むよ。少ないと思ったら悪いけど立て替えておいてくれないかい?」
「了解」
俺は調理場を離れる旨を皆に伝え、買い出しに出かける。
で、教室を出た瞬間
「うわぁ……」
あまりの人が作る列の長さに驚いた。
大変な訳だ。
しかも2組と3組も同じぐらいの列が出来ている。
「嬉しい悲鳴が出る訳だなぁ…」
並んでいるのはほとんどが男の客だが。
「こっそり覗くのも無理そうだし……今は買い出しに専念するか」
素直に踵を返して階段を下りていく。
で、昇降口の所で見知った顔ぶれ…八神家一同と遭遇した。
「ようこそ皆さんお揃いで」
軽く会釈して挨拶するが皆さん、こちらを見た瞬間固まってしまった。
「???」
どうしたのだろうか?
「勇紀か。それは文化祭用の衣装か?」
唯一固まっていなかったザフィーラが話し掛けてくる。今日は普通に人型なんだな。
「おう。俺のクラス、コスプレ喫茶だからさ」
けど俺、コスプレする意味あるのかねぇ?基本は調理担当だから人前にあまり姿見せないのに。
「ふむ。しかも『四乃森蒼紫』の衣装か」
「ん?ザフィーラ、『るろうに剣心』知ってんの?」
「主が単行本を揃えているのでな。愛読書になっている」
成る程。はやてが単行本持ってんのか。
「いつかは『二重の極み』を習得したいものだ」
「…頑張れば出来るんじゃね?」
魔法で身体能力をブーストすればいけるっしょ。
「ちなみにシグナムも読んでいるぞ」
「マジか!?」
俺はシグナムさんの方に向く。未だに皆固まってるけど。
シグナムさんがマンガをねぇ…。意外な事実を知ってしまったぜ。
「ところで我等は主のクラスへ行きたいのだが…」
「ん?ああ、2組ならこの階段上がったらすぐに分かると思うぞ。何せ行列が出来てるからな」
『1組と3組も行列なのでクラスのプレートは確認しろよ』と言う事も忘れずに伝えておく。
「恩にきる」
「いいよいいよ」
ていうかいい加減フリーズしてる人達どうにかしないと。
「皆さん、いつまでも固まってないで再起動して下さいな」
「「「「「……………はっ!!?」」」」」
おっ?元に戻った。
「いきなりどうしたんですか?固まっちゃって」
「ななな、何でも無いぞ!!//////」
「そそ、そうだ!!何でもねーぞ!!//////」
「きき、気にしないで!!//////」
「かかか、勝手に我等が固まっただけだからな//////」
シグナムさんを筆頭にヴィータ、シャマルさん、リンスが慌てて答え出す。
「勇紀さん、凄く似合ってますよぉ~////」
「ありがとリイン」
近付いて来たリインが褒めてくれた。
俺は『よしよし』と頭を撫でながらお礼を言う。嬉しそうにはにかむ笑顔を見ると心が和む。
「時に長谷川よ。その恰好は『るろうに剣心』の『四乃森蒼紫』か?」
「そうですよ」
「『緋村剣心』ではないのか…」
何故に剣心?
シグナムさんは若干肩を落とす。
「《シグナムは剣心と『飛天御剣流』がお気に入りなのだ》」
ザフィーラが念話で理由を教えてくれる。
剣心と飛天御剣流がお気に入りかぁ…。案外、隠れて飛天御剣流の技の練習してたりして。
「(西洋剣で出来るのかは疑問だけど)」
レヴァンティンは日本刀じゃないからね。
ちなみにキャラは蒼紫が好きな俺だけど好きな技と言われたら『牙突』シリーズと言わざるを得ない。
「ところで勇紀よ。もし良ければ校舎の中を案内して貰えないだろうか?//」
「そうねぇ。皆で一緒に回りましょうよ//」
リンスとシャマルさんからお誘いがかかるが
「あー…すいません。俺、これから食材の買い出しに行かなければならないんで」
残念だがついて行く事は出来ない。
それに今は休憩中でも自由時間って訳でも無いからどっちにしろ勝手に行動は出来ない。
「「「「「そんなぁ~…」」」」」
いや、そんなあからさまにションボリしないで下さい。罪悪感感じるじゃないですか。
「ま、今日はゆっくり楽しんで行って下さい」
ここで話し込んで時間を無駄に消費すると皆に怒られるな。
ペコリと頭を下げてから八神家一同と別れる。
キャベツ、キャベツ……っと。
校門を出て俺はスーパーを目指す。その際、通行人の人達に視線を向けられる羽目になるが
「(やっぱ制服に戻してから買い出しするべきだったかなぁ…)」
まあ、今更そんな事を言っても仕方ないので視線は気にせず俺はスーパーへ向かった………。
「勇紀、ご苦労様。休憩してくれていいよ」
「……やっとか」
謙介の一言で一息つく。
キャベツの買い出しから戻ってきて再び調理に取り組んでいた俺。
忙しかった。マジ忙しかった。
時計を見ると休憩が取れる予定の時間より30分程オーバーしていた。
「じゃあ今から1時間休憩取るから」
「うん。文化祭を楽しんできなよ」
「おー」
未だに客足は途絶えてないけど先程より減ったのは確かだ。これなら俺が抜けても大丈夫だろう。
実際には俺と数人の女子が抜ける訳だけど。
「さて…と」
教室から出てまず隣の2組の方へ行く。
多少並んでいる人がいるので最後尾に並ぶ。
程無くして店内に入れる様になったので2組に足を踏み入れる。
「「「「「「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様♪」」」」」」」」」」
「……………………」
…メイドさんや。
「こちらのお席へどうぞー」
女子生徒に案内され空いている席に座る。
で、メニューを見てオムライスを注文。
「(シュテル達は……いないな)」
2組の原作キャラは1人もいない。奥で調理担当でもしてんのか?
店内はメイド服を着た女子生徒と執事服を着た男子生徒が接客をしている。
「(つーかアイツは何してんだ?)」
俺の視線の先に映っているのは吉満だ。
吉満だけは他の男子達と違って金の計算をしている。会計担当か?
「やっ、勇紀いらっしゃい」
「長谷川も休憩か?」
そんな俺に声を掛けてきたのは執事服に身を包んだ亮太と直博だ。
「おー、2人共。執事服が様になってるじゃないか」
「そうかい?ありがと」
「お前こそ様になってるな。まさか蒼紫とは」
「羨ましいか?」
「いや、俺斎藤のファンだし」
そうですか。
「それより何で2組もコスプレ喫茶してんの?この前のアリシアカチコミの際に俺達がコスプレ喫茶の権利を得た筈なんだが…」
「それはアリシアさんの独断と暴走だから2組の総意じゃないよ。別に他のクラスの出し物と被ったらいけないって訳じゃ無いし」
アイツの独断かよ。
「それより勇紀もやっぱり気になった?」
「まあな」
あの吉満ならテンションが跳ね上がっていても可笑しく無い筈なのに、今は黙々と売り上げの計算を行っている。
「ここ最近、変なんだよ。シュテルさん達に一切絡まなくなったし」
「シュテル達はむしろ喜んでたけどな」
とはいえ、いきなりの態度の変化は気になる。
…以前阿部先生が呟いてた事に何か関連性あるのか?
「…まあいいか。それよりもシュテル達はどこ行ったんだ?」
「皆揃って買い出し中。飲み物が予想以上に売れちゃってさ」
どうやら2組は食材より飲料の方が売れ行きが良いらしい。
「……っと、噂をすれば帰ってきたみたいだぞ」
直博の言葉で教室の入り口に目をやると
「ふぅ…ただ今戻りました」
「こんだけの量買うと疲れるなぁ。階段上るん大変やったわ」
「やっぱり台車を借りて行けば良かったね。ビニールが指に食い込んで痛かったよ」
「次に買い出しに行く様な事があれば台車使おうね」
ゾロゾロと入って来たこのクラスの稼ぎの主戦力であろうシュテル、はやて、なのは、アリシアの姿があった。
「ではさっさと接客業に……」
喋ってる途中でシュテルと目が合ったので小さく手を振っておく。
「……………………」
するとシュテルは硬直した。
「なんやシュテル?どない…し……」
「???あっちに何……か……」
「……………………」
続いてはやて、なのは、アリシアも俺に気付いたみたいだが、シュテル同様にフリーズする。
「???」
何で固まってるんだアイツ等は?
あそこで突っ立ってたら他のクラスメイトの邪魔になるだろ。
「(うーん…普段身に纏わない衣装を纏うだけで原作キャラを魅了するなんて……流石勇紀。『みたポ』は健在だね)」
「…何か言いたそうだな亮太」
「そんな事は無いよ(ま、アイシスちゃんに手を出そうものなら勇紀が相手でも殺るけどね)」
……何故だろう?何か変な事したら亮太に葬られそうな気がするこの不安感は?
「「「「…………はっ!!?」」」」
そして一斉に覚醒する4人。
皆してコッチにやって来る。
「あ…あのユウキ!!き、来ていたのですか!?//////」
「そ、それが勇紀君のコスプレなんだ//////」
「しかも蒼紫やん!わたしも『るろうに剣心』は読んでるんやで勇紀君//////」
「似合ってるよ勇紀。ウチのクラスの男子の誰よりも!!//////」
亮太と直博を含め、総勢6人に囲まれる。
…他の客からの視線が痛い。
男は女性陣、女は亮太目当てといったところか。
「あー、お前等皆仕事に戻れ。他のお客さんがコッチ見てるから」
「ええ~?私は勇紀君といっぱいお話したいよ?」
「わたしもや。『るろうに剣心』について語り合おうや」
「あのなぁ…」
俺は客でお前等は従業員なんだよ?君等は喋るよりも働かないといかんでしょ?
「…まあ、勇紀の言う通りだね」
「そうだな。さっさと仕事に戻るか」
亮太と直博は素直に頷き、離れていく。けど4人はまだここを離れる気配が無い。すると
「ゴルァテメエ等!!!サボってねーでさっさと働けや!!!」
いきなり怒声が飛んできたのでビックリした。
しかも声の主はあの吉満だ。
「(アイツがシュテル達に向かって吼えた!!?)」
その事実に俺は驚かざるを得なかった。
いや、吼えるとは思ってなかったからさ。それに吼えたとしても俺に向かって吼えるもんだとばかり…。
「そう言うなら貴方こそ働いたらどうなんです?朝からずっと会計ばかりで接客や調理すらしていないじゃないですか」
お?シュテルが噛み付いた。不機嫌そうな表情を浮かべて反論する。
「あ゛?粋ってんじゃねーぞブスが」
『ブス』って言った!!?あれだけ『俺の嫁』宣言の1人だったシュテルに対して『ブス』って言っちゃったよ!!
「……今、何て言いましたか?」
「顔だけじゃなくて耳まで悪いのかよ。ホント、救い様の無えブスだな」
ピキピキッ
いかん!!シュテル様のお怒りゲージが上昇している!!
『俺の嫁』なんて言われるのは当然として『ブス』と断言されるだけでも本人からすれば許されざる暴言なんだろう。
「ほらブス。さっさと働け。テメエなんか自分の身体使って男誑かすぐらいしか才能無えんだからよ」
「……潰します」(ボソッ)
力強く拳を握りしめるシュテル。その瞳には強い殺意が宿っている。
けど流石にここまで酷い事を言われて俺は黙ってられない。シュテルは家族だからな。
「そこまでにしとけ吉満。それ以上、俺の家族に暴言吐くようなら流石に黙っていられないぞ」
「はっ。だったらどうするってんだよクソモブ」
「お前を完膚なきまでに叩き潰すさ」
俺はゆっくりと席から立ち上がって宣言する。
「面白れぇ。だったら外に…」
ガラガラ
「ふぅ~っ。良い写真が撮れたわ~♪」
吉満が言い掛けてる途中で教室の扉が開き、デジカメを持ったホクホク笑顔のプレシアさんが入って来た。
「「……………………」」
「以前のフェイト(のバリアジャケット)も良かったけれど今のフェイト(のバリアジャケット)も負けず劣らずの素晴らしさね♪」
プレシアさんは超ご満悦。
「プレシアさん?確か今は接客の担当やった筈ですけど、どこ行ってはったんですか?」
はやてが上機嫌のプレシアさんに質問する。
「どこって、野暮な事を聞くのね。可愛いフェイトの給仕姿をこのデジカメに収めるために1組へ行ってたのよ♪」
自分の仕事サボってまでですか…。
貴女の『娘LOVE』な精神には感服致します。
「おいババア。何勝手な事してんだよ!」
ピキッ
あ、プレシアさんの額に青筋が…。
吉満の一言で機嫌が反転する。
「…今、何て言ったのかしら?」
「テメエも耳が悪いのかよ。これだから年齢詐称の年増ババアは…」
溜め息吐いて『やれやれだぜ』とか言ってるけど吉満……背後にはお前のせいで般若が降臨なされてるぞ。
若返っているプレシアさんに対してそんな暴言吐けるアイツは死をも恐れぬ精神力の持ち主なのかただの自殺志願者なのか…。
「…ねえ、少し外に出てO☆HA☆NA☆SHIしましょうか?」
「は?何でテメエみたいな年増のために時間割かなきゃいけねえんだよ?」
ああ…また言っちゃったよ『年増』(←禁句)って……。
「…それで君達は何故に俺の後ろに隠れるのかね?」
「「「「だって……」」」」
いや、聞かなくても理由は察するよ。
「い・い・か・ら!!こっちに来なさい」
「ぐああっ!!耳を引っ張るなババア!!超イケメンの俺様の耳が変形したら阿部…」
吉満が喋り終える前に扉が『ピシャン!!』と音を立てて閉められた。
最後の方で『阿部』って聞こえた様な気が…。
数分後、すぐ近くで雷が落ちた様な音が聞こえた。
「……とりあえず危機は去ったってとこか」
しばらくしてから俺は席に座る。
吉満……迷わずに成仏してくれよ。
「お待たせしました。ご注文のオムライスです」
そう言って運んできてくれたのは暁だ。
「あ、サンキュー」
「いえ、それではごゆっくりどうぞ」
一礼して再び自分の仕事に戻る。
アイツ、さっきの騒動とかには興味無かったのかマイペースだったな。
「あの…ユウキ……」
「ん?」
「先程はありがとうございました。私のために怒ってくれて」
「気にするな。お前やレヴィ、ディアーチェ、ユーリ…それにメガーヌさんやルー、ジークは俺にとって大切な家族だからな」
プレシアさんが吉満を拉致っていかなければ俺が殺るつもりだったし。
「そ、そうですか(大切…ユウキにとって私は大切…ふ、ふふふ……)//////」
「「「(シュテル……ズルい)」」」
何やら嬉しそうなシュテルと、シュテルをジト目で睨む3人。
ところでコイツ等はいつまで俺の側にいるんだろうか?
オムライスを食べ始めながら俺はそんな事を思っていた………。
2組の次はディアーチェ達が所属する3組……これまた喫茶店だったりする。
まだお腹には余裕あるので食う分には問題無いけど。
列の最後尾に並んでこれまたすぐに入る事が出来た。貴重な休憩時間を順番待ちにあまり割かずに済むのは嬉しい限りだ。
「いらっしゃ……」
出迎えてくれたのはユーリだ。だが俺と目が合うと固まる。
何故に皆して固まるのかなぁ?俺は別に石化の魔眼なんて持ってないよ?
「ユーリ?席の案内を頼みたいんだけど?」
「……………………」
「おーい……」
「……………………」
…駄目だ。全く反応しねぇ。
こうなりゃ他の人に頼むとしよう。
俺は他の女子生徒に頼んで席まで案内して貰い、サンドイッチとアップルジュースを注文して座る。
時折、忙しそうに給仕するディアーチェ、アリサ、すずかを見掛けるが俺と目が合うとやはり固まる。
「ねえ勇紀。私のクラスの主戦力を行動不能にするなんて営業妨害もいいところよ」
「全く。お前は正々堂々と戦うタイプだと思っていたんだがな」
「俺は何もしてねえよ」
俺の側までやってきた椿姫と誠悟。
ホントに俺は何もしてないよ?アイツ等が勝手に固まるんだもん。それより…
「このクラスの服装って
「ええ、そうよ。似合う?私の
椿姫がウインクしながらポーズを取る。
パジャマを着込んでの接客ねぇ。それって…
「《元ネタは『ダ・カーポⅡ』の先行版『春風のアルティメットバトル!』に収録されていた『セクシーパジャマパーティー』よ♪》」
やっぱりそれが元ネタかい!!
周りを見てみるとパジャマ姿の女子生徒が男の客に擦り寄る様にしながら接待している。接待されてる男の客は鼻の下を伸ばしまくりだ。
男子生徒の姿は見えない。完全に裏方に徹してるみたいだ。
「(喫茶店ていうよりキャバクラじゃないのか?)」
女性陣はよくこんな催し物に反対しなかったなオイ。
「滝島さんの提案は見事ハマり、客から金を搾り取るのに成功している。おかげで俺達の懐は潤いそうで何よりだ」
誠悟は現状に満足している様だ。
コイツ、さては買いたいゲームが大量にあるんだな。だから金を稼げる方法に是非は問わんという事か。
「ちなみに女子達も『お金を稼がないと今月ヤバいの』との事で今回の催し物に反対はしなかったわよ」
……逞しいな、3組の女子は。
「よくディアーチェ達は反対しなかったな」
「説得には苦労したわ(まあ、『パジャマ姿で勇紀を籠絡しちゃえば?』って言ったら素直に賛成してくれたけどね♪)」
どんな説得したんだコイツは?
「それより勇紀は?誰かご指名するの?」
「いらねえ。さっさと食って他の催し物も見て回りたいからな」
ていうか指名って言う時点でもうキャバクラだよな?喫茶店ちゃうよな?
「そんな事言わないでゆっくりして行ってよ♪」
フニュッ
椿姫が腕を組んできた時に、パジャマ越しに感じる柔らかい感触。
コイツ、中身は(俺に対してだけ)最悪だが見た目は悪くないからな。スタイルも良いし。
「「「「ちょっと待てい椿姫!!(ちょっと待って下さい椿姫!!)(ちょっと待ちなさいよ椿姫!!)(ちょっと待って椿姫ちゃん!!)」」」」
そこへディアーチェ、ユーリ、アリサ、すずかから制止の声が掛かる。
硬直は解けていたのか?
「どうしたの4人共?私は勇紀の接待で忙しいんだけど?」
「お前はクラスの指揮が仕事だろうが!!」
「そうよ!!現場の担当は私達よ!!」
「だからユウキから離れて下さい!!」
「勇紀君は私と『るろうに剣心』について色々話し合うんだよ!!」
『ガルルルル』と吼えるディアーチェとアリサ。ユーリとすずかも頬を膨らまして抗議する。
…すずか、お前も読んでるのか。女子に対して意外に人気あるんだな『るろうに剣心』。
「えー…でもぉ~」
「「「「『でも』じゃない!!」」」」
怖いなぁ、今の4人は。
「…ていうか俺、指名なんてしないから」
お願いですから静かにサンドイッチ食べさせて下さい。
「むっ、ユウキ。お前は我のパジャマ姿が似合ってないと言いたいのか?」
「え?そんな事無いだろ?メッチャ似合ってるし」
「っ!!?………////////」
お前も充分女子達の容姿では上位に入るんだからさ。
「「「わ、私は!!?」」」
続いて3人も聞いてくる。
「似合ってるよ。…てか恥ずかしい事言わせんな//」
「「「………////////」」」
顔を赤らめて沈黙する。
そして隣でニヤニヤしてる椿姫がムカつくので額にチョップをかます。
ガラガラ
「ふぅ、疲れたぜ。ディアーチェ、ユーリ、アリサ、すずか、椿姫。俺様と一緒にメシ食おうぜ」
そこへ現れたのは吉満と暁の魔力、レアスキルを奪った銀髪イケメンオッドアイの自称オリ主君である西条だ。
…ああ、コイツこのクラスだったなぁ。静か過ぎて忘れてたよ。
今までいなかったって事は文化祭を見回ってたのか?
そんな西条と……目が合ってしまった。
「おいモブゴルァ!!!!何俺様の嫁達に手ぇ出してやがる!!!!」
この反応……間違い無い。
吉満と違って西条は西条のままだった。
「ふん!我等はもう休憩を取り終えたのだ。貴様の様な塵芥と食事をする理由は無いな」
「ていうか男子は裏方専門でしょうが!!早く他の男子の応援に行きなさいよ」
「ふっ、相変わらず素直じゃないなディアーチェとアリサは」
前髪をかき上げる仕草をする西条。
男子は裏方担当……『なら誠悟がここにいる理由は?』と本人に聞いた所、教室の現状を確認しに来たらしい。
「ユーリ、すずか、椿姫。お前達は素直に自分の気持ちを言えるよな?」
「コッチ来ないで下さい」
「そのいやらしい視線止めてくれないかな?」
「貴方の存在が不愉快ね」
ユーリ、すずか、椿姫は正直に言った。
「またまたー。照れなくても良いんだぜ」
コイツは本当にブレないねぇ。
「…とりあえず勇紀はお客様だぞ」
「ああ゛?モブ野郎が俺様に口聞いてんじゃねえよ!!」
誠悟が注意しただけで半ギレの西条。
「それにお前に是非給仕をしたいという人がいるんだが…」
ピクッ
あ、西条が誠悟の言葉に耳を傾けた。
「おいモブ。今言った言葉は本当か?」
「ああ、むしろ『お前以外眼中に入らない」とまで豪語していた」
「そうかそうか(ま、オリ主なら当然の待遇か)」
うわー…メッチャニヤけてるよ西条の奴。
「その人を給仕役に任命したいのだがいいか?」
「おう、いいぜ。せっかくの好意を無下には出来んからな(ディアーチェ達も嫉妬して俺に給仕してくれるかもしれないしな。ヒャハハ)」
そう言ってから誠悟は携帯を取り出し、誰かに電話する。
「《…なあ、ディアーチェ。アイツの事が好きそうな女の子に心当たりってある?》」
「《いや、無いな》」
だよなー。アイツのニコポは海中にいる女子には効かない筈なんだけど。本性知られまくってるし。
そして誠悟が電話を切った瞬間
パカッ
「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ズシーーーーーン!!!!
教室の天井が開き、雄叫びと共に鉄先輩が降り立った。
「ご主人様ぁん♪貴方専用の肉奴隷、鉄漢女到着よぉん♪」
ダッ!!!
西条は逃げ出した。
「待ってぇん♪ご主人様ぁん♪」
ズドドドドドドッ!!!!
その西条を追い掛ける先輩。
服装はパッツンパッツンのネグリジェを着ていた。
……とんでもない最終兵器だぜ。客の男のほとんどはその姿を見た瞬間、口から泡を吹いて失神していた。
俺はかろうじて耐え、誠悟は事前に目を瞑り、悲劇を回避していた。
てか誠悟…事前に教えてくれても良かったじゃねえか。後なんで鉄先輩の電話番号知ってるんだ?
「これが西条対策だ。俺は一言も『女』と明言していないから嘘も言ってないし」
確かにこの学校で唯一西条に好意を持ってる人だな鉄先輩は。
しばらくは校内で逃げまくる西条の悲鳴が木霊しているのだった………。
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神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。