No.624209

恋姫のなにか 38

くらげさん

宣言道理の猛暑ネタ。

2013-10-01 13:16:08 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:10631   閲覧ユーザー数:6723

 

季節外れの猛暑ネタ。

腹を空かせた小僧っ子に手料理を振舞うのは、一刀を拾ってやって以降桔梗の密かな楽しみであったりするのだが、クソ暑いこの時期『食材が痛む』との言い訳が出来て頻繁に作ってやる事が増えた。

一刀としても華琳の洒落た料理や昔から馴染んでいる秋蘭お手製の料理とも違う、記憶はないけれど【オフクロの味】が楽しめるので言う事は無い。

無いのだが、年増というより美熟女、妙齢の女性が一人暮らしをしている所に夜遅くに居るのも申し訳ないので、桔梗のからかいに適当に返事をして去るのが何時もの事だった。

 

「一刀。お前さん、帰らんでいいのか?」

「あー……すんません、もうちょっと涼ませて下さい」

「泊まるなら泊まるでさっさと言うんじゃぞ」

 

色々準備もあるんだから。とまでは続けず、桔梗はクーラーの冷風を楽しんで寝転んでいる一刀を見下ろしながら洗い物をしに流しへ食器を運ぶ。

スポンジで食器の汚れを落としながら、時折振り向いて一刀の体勢を確認しても寝転んだ体勢から動く気配はまるでない。

 

「一刀。おい、一刀」

「………」

「やれやれ」

 

よっぽど疲れているのか、それともクーラーの風が心地良いのか一刀はうつ伏せで寝こけていた。

手に付いた水を切り、一刀の寝顔を確認した桔梗は苦笑すると寝室からタオルケットを持ってきて、一刀を起こさない様にそっと掛けてやる。

最初にこうやって眠ってしまった時は、舌なめずりで服を剥ごうとした桔梗だったが意外にも一刀は敏感に反応して起きた。

それ以降も、こうやって眠ってしまった時はそれとなく近づいてみるのだが、畳に直で寝ているのは存外キツいのか、それとも生存本能からなのかパチッと眼を覚まして謝るのが何時もの事だった。

その癖、邪な考えを捨てて布団を掛けてやったりする時は眼を覚まさないのだから大した才能だと思う。

 

(ま、慌てて起こす必要もあるまい)

 

どうせ一刀の明日の予定は自分の店でバイトなのだ。このまま朝所か昼まで寝かせてやっても問題は無い。

もしかしたら“物凄い寝巻き”だとか、“とんでもない下着”が日の目を、いや夜光ランプ(ピンク色の光が出る様に改造済)を浴びる日なのかもしれない。

桔梗は流しに向かうと、先程とはうって変わって鼻歌なんぞ歌いながら二人分の食器を片付けるのだった。

 

 

「………やべぇ、寝ちまったのか」

 

ん゛ー。と濁音交じりの唸り声を上げながら一刀は寝ぼけ眼で周囲を見る。

家主の桔梗は何処かに消え、テーブルに乗っていた食器は綺麗さっぱりと消えている。

あーやっちまった。と一刀は反省しながら、書置きを残して去るべきか、桔梗が戻ってくるのを待つべきか。と回らない頭で逡巡する。

所が考えても考えても浮かんでくるのは『喉が渇いた』という要求だけで、こりゃだめだ。と居間から進んで台所の冷蔵庫を開ける。

中は酒が九割を埋めていたが、手前の方にあるお茶の色をした液体を発見すると、匂いをスンスンと鼻を鳴らして嗅ぐ。

 

「……お茶、だよな?」

 

以前今よりも寝ぼけて飲んだお茶が水割りされたバーボンだった事がある。

速効でぶっ潰れて桔梗に朝揺すり起こされ、痛む頭を抱えて学園に行き、早退して家で唸っていた記憶が蘇り用心深く飲む直前まで匂いを嗅ぐ。

 

「なんじゃ、起きたか」

 

指を入れておそるおそるソレを舐め、漸くお茶だと分かってグイッと飲んだその時、タイミング良く桔梗から声を掛けられた。

お茶を流し込みながら振り返り、バスタオルを身体に巻きつけるよりも凄い桔梗の格好にお茶を噴出してゲホゲホと咳き込んで蹲る。

 

「……お前な、ワシは今風呂から上がった所じゃぞ」

「ずんまぜん……げほっ!ごほっ!」

 

多少お茶が掛かったのか、気分を害した風な桔梗の声色に一刀は謝りながらも反射的に顔を上げてしまい、桔梗が身体を隠していた普通の長さのタオルを持ち上げて顔を拭いているのを見てしまった。

桔梗は女性にしては大変長身で、しかも脚が長い。お風呂上りなので、何時もは結い上げている髪も降ろされていてギャップ萌えだし濡れて艶っぽいのだ。

その身体を普通の長さのタオルを、六割ほどの長さになる様に腕に引っ掛けて隠していたら横乳とかムチムチの太股とか丸見えなのだ。

そのタオルを顔まで持ち上げれば、そりゃあもう大変な事になる。

少しの間見惚れて、慌てて顔を逸らした一刀の姿に思うところがあったのか、桔梗はからかう事も攻める事もせずに寝室に戻ると薄ピンク色の襦袢(だけ)を羽織って出てきてくれる。

それはそれで眼の毒なのだが、裸よりはマシ。とテンパッた一刀が判断したのも無理はない。

 

「一刀、最近は良く此処で居眠りしとるが、仕事がキツいか?」

「いや、そういう理由じゃないっすけど」

「そんなら、掛け持ちしとる所かい?」

「いや、もう他のは辞めて此処一本ですから」

 

一刀の返事に、何となく自分が選ばれた気分になって嬉しくなった桔梗は顔には出さず、しかし一刀の顔を見続けるのもそれはそれで恥ずかしく冷蔵庫まで向かって缶ビールを四、五本引っつかんで戻って来る。

カシッ!と良い音を出してビールを開けると何時もより若干胸を張り、谷間を一刀に見せつけながらも一本を直ぐに空ける。

 

「ふぃー…… なんじゃ、他に理由があるのかい?」

「あー……最近暑いじゃないっすか」

「確かにのぉ。 外に出るのも億劫じゃわ」

「情けない話なんすけど、今扇風機壊れてて部屋が蒸し風呂状態なんですよ。窓開けてても風入ってこねーし、クーラーなんか付いてねーし」

「ふーむ……そりゃ確かにキツいのぉ」

「それで……相談なんですけど、給料前借とか、させてもらえないっすかね?」

 

さて困った。前借自体は何ら構わないのだが、あい分かった。と出してしまえばそれでお終いである。

一刀は感謝してくれるだろうが、恩を売れるとは言い難い。

物や金で釣るのは桔梗の美学に反するのだが、後は抱き締めてベロチューかますだけになった獲物を逃すのはもっと美学に反するのだ。

 

「……応えてやりたい所じゃが、お前を特別扱いすると他の従業員から不満が出るしのぉ」

「俺以外にバイトいないじゃねーっすか」

「何か言ったか?」

「暴君が此処にいる……」

「しゃーないの。 ボーナス代わりにワシが買ってやろう」

「……え、マジっすか?!」

 

言葉を脳味噌に入れて意味を確認した一刀の顔が喜色で染まるのを見て、桔梗は背筋にゾクゾクしたモノを感じて腰をモゾつかせる。

ダメだ、まだ笑うな。と自分に言い聞かせながらも顔がニヤけるのを押えられず、桔梗は誤魔化す為に二本目のビールに手を伸ばす。

 

「で、何時買いに行くんじゃ?早い方がよかろ」

「えーっと……俺的には明日とかが有り難いんですけど、ダメっすか?」

「構わんぞー。しかし、起きれるかのー」

「いや別に朝一で行かなくても、昼からでも良いんじゃ……」

「このくっそ暑い時期に、お天道さんが一番元気な時間に出歩けっつーんか?」

「すんません……んじゃ、朝一でって事でいいっすか?迎えに来ますんで」

「んな面倒な事せんでも、泊まればよかろ」

「いや、それは不味いんじゃないっすか?」

 

一応男ですよ、俺。と当たり前の事を言う一刀だったが、会話しながら次々にビールを空けて行った桔梗はその言葉に以前一刀がぶっ潰れた日の事を思い出す。

アレをもう一度狙うのは桔梗の手腕を持ってすれば簡単な事なのだが、そんな事をしたら腰が立たずに明日のデートがおじゃんになってしまう。

前は一刀を起こして送り出せばよかったので気合で何とか乗り切ったのだが、その後つかれ果てて泥の様に眠った後、赤面しながら寝室を片付けたのだ。

 

「お前が寝坊せんとも限らんしの。 言っとくが、もし寝坊なんぞして昼にでもなったらワシは一歩も外に出んぞ」

「一晩お世話になります」

 

一刀は正座して土下座すると、風呂入ってきます。と立ち上がって風呂場に向かう。

桔梗は最後の缶ビールを飲み干すと空き缶を持って流しに向かい、一刀用の寝巻きと下着を取りに寝室へ向かった。

 

 

 

前日の不安は何だったのか、と聞きたくなるぐらい早起きした桔梗は一刀を起こさない様に朝の仕事をテキパキと終わらせ、お茶を啜りながら一刀の寝顔を一頻り堪能した後で一刀を起こした。

一刀の服装は昨日のままで、そこだけが唯一不満に思う所だったがまぁ眼を瞑れない事も無い。

片や特筆出来るポイントのないフッツーの学生。片や見る人が見れば唸る着物に身を包み、締め付けているのに隠しきれない巨乳とお尻を揺らして歩く美人。

誰がどう見てもセレブに愛されてる若いツバメだった。滅茶苦茶好意的に見て親戚だろうか。

そんな人目を引きまくる二人は、店の開店時間まで時間潰すか。と喫茶店に飛び込んで其処でも注目を集めまくってからショッピングモール内の家電量販店に来ていた。

 

「お前、こういう所じゃとテンション上がるタイプか?」

「いや全く」

「ほ、そりゃ楽でええわい」

「桔梗さんも興味無い口っすか」

「色々書いてあるのを見ると頭痛くなってくるんじゃ」

「楽でいいっす」

 

こやつめ。と内心ウキウキの桔梗に頭を小突かれながらも一応は店内を見て周り、漸くたどり着いた扇風機のコーナーは非常に小さかった。

まぁこのご時勢、必須ではあるがクーラーありきだろうし、対して面積を取れないのは仕方が無いとも言えるのだが―――

 

「一刀? こんな所で―――何をしておる」

「あ、一刀さんお久しぶりでーっす♪」

「祭せんせーこそ。シャオちゃん久しぶり」

「あん? ……あぁ、一刀の担任か」

 

バチッ!と祭と桔梗が視線を合わせた瞬間、火花が散るのをシャオは悟って身震いする。

チラッと一刀の顔を見てみると、ヤベー所見られた。と後悔はしているものの、腰が引けた様子はまるでない。

 

「何をしておる」

「あー……あはは、ちょっと買い物に来てまして」

「何故、この女と来ておる」

「このご時勢の担任は、そこまでズケズケと生徒のプライベートに踏み込むんかい?」

「風紀上、問題がある関係なんでな」

「いや、恥ずかしながら扇風機がぶっ壊れまして。んで桔梗さんに給料の前借頼んだんですよ」

「ま、そういう訳ですので。担任殿はご心配なく」

(わぁなんだろう、桃香の前口上みたいなプレッシャーと嘲りを感じる)

 

シャオ的には今すぐに祭の腕を引いてこの場を立ち去りたいのだが、脚が竦んで動けない。

ならば一刀の腕を引いて避難するべきだろうか。いやいや、扇風機目的で来ていて、目的地は此処なのだ、一刀が立ち去る理由はこれっぽっちもない。

 

「祭せんせー達はどうしたんすか?」

「あ、あぁシャオ達は「奇遇にも、扇風機を新調しに来たんじゃ。のぉ?」……いえす、まむ」

 

あれーなんかおかしいぞー。とシャオは思ったのだが、君子は危うきに近づかないのだ。

決して、昨日の夜家庭内ジャンケン大会に負けてその買出しに来て、なんか言われた物だけを買って帰るの悔しいから色々見て回る途中だなんて口が裂けても言ってはいけないのだ。そう決して。

 

「おや、丁度良いではないか。 一刀、古くなった扇風機でよけりゃくれてやるぞ」

「え、いやいいっすよ」

「何故じゃ? 大して長く使っておらんで、中古と言っても新品同様じゃぞ?」

「先生、無茶を言われては困りますな。 第一どうやって運ぶと言うのですかな?」

「担いで帰ればよかろう」

「この炎天下の中をですかな? 少々、無茶が過ぎると思いますが」

「自転車操業を身に付けさせる為に、コヤツのアルバイトを黙認しておる訳ではない」

 

ダメだ。この場所はダメだ。

シャオは必死にどうやったら生き延びられるのかを計算し、どちらの味方をすればいいのかを考える。

当然家族である祭の味方をするべきなのだが、果たして母と互角の言い合いを演じるこの女性がそう簡単に折れてくれるのだろうか。

 

「……お母さん、ちょっとシャオ、お化粧直してくるね。汗かいちゃったから」

「おぉ。 ついでに色々見てきて構わんぞ」

 

結果、シャオは逃げ出した。あの二人は紛れも無く大魔王クラスなのだが、シャオは立ち向かわなかったので勇者認定はされなかったのだろう。一刀がどうかは知らないが。

 

 

「……一刀、このままこうしておっても仕方がない。さっさとレジに行ってこい」

「うぃっす」

「一刀、お前まさかワシに逆らう訳じゃあるまいな?」

「えー……どうすりゃいいの俺」

 

互いにメンチを切りながら、それぞれ一刀に要求を告げる桔梗と祭。

一刀的には祭に譲って貰うのは申し訳無く、前借りと言いはしたが実際はボーナスの現物支給らしいし、桔梗に乗っかりたいのだが祭がそれを認めてくれない。

 

「あの、祭せんせー。 マジで平気っすから、そんな気ぃ使って貰わなくていいっすよ?」

「そういう問題ではないわい」

「別に桔梗さんに集ってる訳じゃないですし」

「じゃから、そういう問題ではない」

 

ただ単に桔梗が一刀に頼られているのが気に食わないのだ。そう言える立場だったらどれだけ祭の気持ちは軽くなっただろう。

桔梗と一刀が懇ろだとまでは思っていないが、何が切欠でそうなるかも分からない。

 

「一刀、ワシはホスト崩れになるのを許可した覚えはないぞ」

「そこまで言う事はなかろう。 常日頃真面目に働いてくれておる従業員への感謝の印じゃ」

「ああ言えばこう言う……頭の固い偏屈じゃのぉ」

「あぁ?」

 

やべぇ祭せんせーキレる。とビビッた一刀だったが、周囲の喧騒から切り離された空間にのほほんとしたメロディが響く。

ポケットを弄ってケータイを取り出した一刀は【着信:華琳】の文字を確認するとこれ幸い。と電話に出ると告げてお店の外へと出て行った。

 

 

「……戻って来る前にケリつけようか?」

「上等」

「ウチの話に外野が首突っ込むな」

「監督者なら十分関係者じゃろうが」

「唯の担任が偉そうに囀るな」

「そう言う貴様は、アヤツがバイト辞めたら赤の他人になるのぉ?」

「残念じゃったのぉ? 一刀はワシの所に就職する腹じゃ」

「先の事なぞ誰にも分からんじゃろ。 もしかしたら、卒業と同時に誰かと結婚して家庭に入るやもしれん」

「それがワシで無いとも限らんのぉ?」

「……話が飛躍しすぎた。今は扇風機じゃ扇風機。 とりあえずワシの所の物をやるという事で良かったかの?」

「ほ。 ええよ、今は気分が良いで貴様に譲ってやるわ」

 

『華琳ちゃん召還機という名の扇風機を入手するまでアタシ一歩もあのサウナには足踏み入れない!! で、リサイクルショップ行くなら付き合うけどどうするー?』

「扇風機は本日中に何としてでも手に入れる。ただ今それで修羅場ってる」

『相変わらずデンジャラスな交友関係持ってるね。 そんなら近いウチに行ったげるから、それまでに冷蔵庫の中身食べとくんだよー。賞味期限そろそろヤバいから』

「来る時貢物持って来いよ。アイス希望」

『りょーかーい。 万が一当たってお腹痛くなったら我慢しないで電話してね~ん』

 

ばっははーい。と華琳が電話を切り、さてこれで謎の修羅場に戻らなければならなくなった。と重い足取りで扇風機売り場に戻ると、意外な事に二人は肩を並べて扇風機を見比べていた。

 

「この扇風機からどうやってマイナスイオンが出るんじゃ?」

「受けての心持の問題じゃろ。 ぶっちゃけ、首振り機能って客が来た時ぐらいしか使わんと思わんか?」

「そもそも客が来た時はクーラーつけるじゃろ、この陽気なら」

「そうじゃなぁ……タイマー連打して時間延ばすの、面倒な事この上ないと思わんか?」

 

会話を聞く限り仲直り?した様だ。と一刀は安心して二人に声を掛けたのだが、振り返った二人の顔を見た瞬間背筋がゾクッとして思わず足を止めてしまった。

桔梗が獲物を見つけた女郎蜘蛛の様に目を細めて薄く笑い、祭が赤い舌をチロッと出して唇を舐めた様に見えたのだが、気のせいだと思いたい。

 

「お待たせ、しました……」

「おう、待ち草臥れたわ」

「とりあえず話が付いた。 お前へのボーナスは次回に回すとして、今回は担任殿の物を貰え」

「はぁ……え?!祭せんせーの家から持って帰るんすか?!」

「流石にそれはキツかろうから、ワシも家まで一緒してやる。ついでに家庭訪問も出来るしの」

「……車とかは?」

「家訓で家の者は運転してはならん事になっておるんじゃ」

「無茶苦茶だ……」

 

ほれ、さっさとシャオ拾って帰るぞ。と祭に腕を引かれて連れて行かれる一刀だったが、桔梗はどうするのかとそちらに顔を向けてみると笑顔で手を軽く振っていた。

 

「忘れ取った。一刀! “今日の晩”、遅刻するでないぞ!」

「りょ、了解っす!」

 

手を上げて返事をした一刀は桔梗が返事を聞いて頷いたのを見た。

だから、桔梗と祭のアイコンタクトには気がつかず―――バイト先まで着いてきて、酒を自分に勧める祭、それを止めない桔梗を見て頭を抱えるのだった。

 

おまけ。その日の孫家事情。

 

「帰ったぞーい」「たっだいまー」

「お邪魔しまーす」

 

何が起きたかは分からないけど上機嫌な祭を見て胸を撫で下ろしたシャオは一刀と三人でアチラコチラを冷やかして周り、一刀と半分こしてさっきまで食べていたアイスの棒を高く掲げて家に入る。

アイスの到着を待ち構えていた蓮華は、あまりに自分勝手な母と妹に一言文句を言ってやろうとふんす!と鼻息を荒くして玄関まで歩いて、予期せぬお客様に眼を白黒させる。

 

「あ、蓮華おひさー」

「お久しぶり……え? なんで?」

「やだーおねーちゃんったらそんなかっこでもー」

「やだー蓮華ったらそんな格好でもー」

 

外に出る時は例え目的地がコンビニであろうとも小奇麗に着飾ってから行くのが信条の蓮華の貴重な部屋着姿。

上は白黒ボーダーのキャミソール、下は少し小さいのかそれとも魂に染み付いているのか、お尻の形がクッキリ出るサイズの短パンという格好は、まぁそんなに変な格好でも無いだろう。

しかしそれで人前に出れるかどうかは人其々で、蓮華の答えは勿論NOだ。

 

「な、なん、なんで?!」

「一刀、茶でも淹れてやるからお前はさっさと扇風機担いで降りてこい」

「うっす。 で、何処にあるんすか?」

「はーい♪ シャオが案内しまーす♪」

 

こっちこっちー。とシャオが可愛らしく両手で一刀の手を掴み、靴を脱ぎかけていた一刀はおっとっと!と体勢を崩しながらも何とか着いていく。

それを呆然と見送る蓮華だったが、祭に肩をポン。と叩かれて我に返ると眼の前にナイロン袋を突きつけられる。

 

「ほれ、お前等の戦利品じゃ。お土産の一刀付き♪」

「……どうも」

 

かっかっか!と機嫌良く笑って台所に向かう祭をまたも呆然と見送る蓮華だったが、手から滑り落ちたナイロン袋の音に気付くと中身を確認する。

封の切られた、箱に入った棒アイス(六本入り)だった。一本しか残ってない。

 

「母様!!」

「ワシは一本しか食べてないもーん」

 

 

所変わって一刀達は二階の廊下、とある部屋の前に立っていた。

ここ?と一刀がシャオに聞けば、シャオは真剣な顔でシッ!と人差し指を立てて【静かに!!】とジェスチャーを送る。

神妙な顔をしたシャオが人差し指を立てて無い方の手で扉をしつこく何度もノックした。

七回目ぐらいのノックで部屋の中からダンッ!!と床を踏みしめる音が聞こえた。

 

「一刀さん、はいコッチコッチ」

「何何、何なの?」

 

扉は外開きで、一刀が立っていた位置だと激突されてしまうのでシャオは一刀の背中を押してドアに当たらない場所、部屋の中の猛獣が出てきた時最初にご対面出来る位置まで移動させる。

そのまま自分は一刀の背後に隠れて、お腹の脇からヒョイッと顔を出す。

そして、ズバンとでかい音を立てて扉が開いた。

 

「何よ!?朝からうっさいわね!!」

「……すんません、でした」

「何よ今日は随分素直じゃないシャ………オ?」

「ええっと、五月蝿くするつもりは無かったんですけど」

「……良い一刀くん。貴方は今夢の中にいるの、そう、人はその夢を悪夢と呼ぶわ」

「おねーちゃんったらおぎょーぎわるーい」

「一刀くん、ちょっと、その腰にへばり付いてるウチの妹、この部屋の中に放り込んでくれるかしら?」

「え、あの……」

 

開き直ったのか、それとも一刀の動体視力を上回る自信があったのか、雪蓮は笑いを堪えているシャオの頭をむんずと掴むと部屋の中に引きずり込む。

どがん!と音がしたので思わず部屋の中を覗き込みそうになったのだが、それより早く雪蓮は全開になっていた扉を一度閉めると、今度はソローッと開いて顔だけ出した。

 

「ごめんね、たった今部屋の中散らかっちゃって。恥ずかしいから、また今度ね?」

「はい……あの、扇風機貰いにきてまして、この部屋にあるって……」

「うん、その辺りの事はシャオに聞いて置くから、一刀くんはリビングでくつろいでて。シャオの皮剥いだらアタシも行くから」

「何か今とんでもない事聞いた気がするんですけど」

「やだ、一刀くんったら。 今日シャオにお化粧してあげたからそのメイクを落とすだけよ。業界用語でメイクを落とす事を皮を剥ぐっていうのよ?」

「無理だと思うけど騙されないで一刀さん!!シャオこのままじゃ「それじゃ、下で待っててね?」

 

パタン。と軽い音を立てて扉が閉まり、シャオの悲鳴がまるで布団かタオルで押さえつけられたかの様にくぐもった。

そして一度、ドンッ!!!!と物凄い衝撃がした。

 

(ど、どうするべきだ……いや、まさか雪蓮先輩に限ってウチの姉ちゃんみたいな事は……)

「か、一刀? お茶の用意が出来たから、どうぞ?」

「あ、うん。ありがと。 着替えたの?」

「そ、そんな事ないわよ?!さっきと同じ服だし?!」

「いや、さっき短パンだった気が……」

「や、やだ一刀ったら。短パンとミニスカート見間違うなんて、女の子のお洒落に無頓着なのはダメよ?」

 

あれ、俺が可笑しいの?炎天下でいよいよ頭茹ったの?と真剣に悩む一刀だったが、蓮華に再度促されて階段を下りた。

その後暫くして、雪蓮が扇風機をダンボールに詰めて持って降りてくれたが、その時は普段一刀が見慣れた雪蓮の姿だった。

シャオはどうしたのかと聞いた所、お風呂で半身浴の真っ最中だというので、それ以上はセクハラになると思って一刀はそれ以上尋ねるのをやめた。

 

 

 

おまけにもならない小話。

 

「一刀、ちょっと小耳に挟んだんだけど、アンタこの前奥さん連れて海行ったの?」

「あー行った行った。流石桂花さん、何でも知ってらっしゃる」

「物凄い事してたって聞いたけどアンタ主導よね?」

「カキ氷の容器でピラミッド造りに挑戦した件ならYES。薄地のパーカーで二人羽織の件についてはNO」

「後者kwsk」

「思春が通販で激エロビキニ買ったのは良いんだけど、他の人にも見られるって現地行ってから気が付いた。思春はギャルゲーの知識を現実に持ち込むから困る」

「人っ子一人いない空間があると思い込んでたわけね……」

「ちっぱいが気持ちよくて困った」

「早々に撤退してラブホで五時間過ごしてたって情報もあるんだけど、まだ子供作らないの?」

「桂花はそろそろ俺のプライバシーを尊重するべきだと思うの」

あとがき。

祭せんせーの『家訓で運転はうんぬんかんぬん』の所は冗談に見えて結構マジな所です。

今回は祭と桔梗の同時出現でしたが、前回みたいな修羅場にはならず一安心。緩衝材(華琳様)があるって便利ですね。

 

小話はなんとなく思いつきました。思春あふたーでいちゃいちゃは前に書いたので、今更蒸し返してもなぁ、でも思いついちゃったしなぁと言う事で小話程度で。

水着似合うって言って欲しいけど他の人に身体見られたくないとか思って一刀の背中にべっとり張り付いて離れない思春さんとか何そのご褒美。

 

 

お礼返信。

 

 

ミドリガメ様       ざんねん!華琳のぼうけんはここでおわってしまった!

 

hujisai様        此方の華琳様の何処が気に入ったのか全くわかりませんが、お気に召したなら司馬日記に使って戴いて構いませんのよ?(チラッチラッ

 

ちゃあ様         ネタに困ったら華琳いじめとけって誰かが言ってた。

 

禁なる玉⇒金球様     良くないですよね(キリッ

 

ノワール様        何時から華琳の抜けがけがデートだけだと錯覚していた?証拠は秋蘭が持っておりますw

 

HIRO様          ヤる事はヤッてるんですけどね、一刀くん。

 

よしお。様        水着回は人選難しいのと、冥琳のエア水着以上のネタが思いつきませんので多分無いかと思います。

 

Alice.Magic様      感想感謝です(>Д<)ゞ考え方を変えるんだ!「殴られちゃってもいいや」と考えるんだ!そうすればきっとサンドバックになれる!

 

ちきゅさん様      いえす( ̄ー ̄)b

 

帽子屋様         華琳様は意識して落としております。出ないと自然とエンディングに向かってしまうので。

 

クロ様          今回のお話です。

 

月光鳥~ティマイ~様   決まってるじゃないですか、私の頭とHDの中ですよw

 

観珪様         華琳様諦め入りましたー!

 

shirou様        華琳は強い子負けない子!

 

ゴーストチャイルド様  気に触った様で失礼しました。

 

ヴィヴィオ様     感想感謝です(>Д<)ゞ 半差し伝待って頂けている人がいらっしゃるとは思いませんでした。あまり浮気せずに頑張ります。

 

SRX-001様      華琳様マジ天使。え、そんなの知ってる?ハハハ、こやつめ!

 

KU-様        華琳様は逃げてが無いと無双しだすし、皆納得してくれないから……

 

R田中一郎様     これが平常ってどういうことなの……

 

MiTi様        華琳式ダイエット。心が死ぬ。

 

呂兵衛様       小川の流れる山の中で水着姿の三人相手にくんずほぐれつでぬるぬるぐちょぐちょです。ね、簡単でしょ?

 

kaz様        くっ!ガッツが足りないっ!

 

happy envrem様    華琳様マジ有能。彼女を出すと指の動きが違いますw

 

悠なるかな様     書きましたー


 
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