新しい試みとして、今回は仲達さん視点でガンバッタゾ。
お嬢様や桐花様と昼食を食べていた時の事である。
食事中の手をピタリと止め、何となく気になった方向を向きながら咀嚼し、飲み込んだ私にお嬢様が声を掛けられた。
「どうしたの仲達?貴女がそんな行儀の悪い真似するなんて珍しい」
「……いえ、何故でしょうか、私にも分かりません」
気付いたら既に首を回していたのだから、我が事ながらはしたない。士載は本日共にしていないので、行儀の悪い真似を見せず良かったと胸を撫で下ろす。
「偶に変な行動取るわよね、仲達ってば」
桐花様の叱責にも恥じ入るばかりで、精進致します。と頭を垂れて返事をしたのだが、しかしどうにも気になって仕方が無い。
お嬢様がすぐさま間に割って入って下さったのだが、その行動を無意味にするかの様に私はもう一度同じ方向に首を回してしまう。
「一体どうしたの仲達ってば。一刀様が恋しすぎて病気にでもなっちゃったの?」
「仲達の事だから発症はしてるんでしょうけど、感染が怖いわねその病気」
お二人の言葉がまるで耳に入ってこず、本来有り得てはならない事なのだが食器を下げる様にお願いするといてもたってもいられずに『向かずには居られない方向』へ駆けてしまう。
「休憩が終わるまでには帰ってくるのよー」
「心得ております」
都合の良い言葉だけは耳に届くものだと、他人事なれば叱っただろう。
つい無意識に早足で、脚の赴くままに歩を進めていると凪とバッタリ出くわした。
凪も随分と驚いていたが、私の方が驚いた。
「凪、貴女は確か演習に出払っている筈では?」
「ええ、それはそうなのですが……何故かこう、居ても立ってもいられず、丁度昼時で休憩を挟んでいたのもあって、華琳様に一言断って単騎駆けを」
「しかし、随分と距離があったと記憶していますが」
「こう見えても、脚には自信がありますから五里程度なら半刻もあれば」
成程、あの激戦を駆け抜けた脚なれば納得もいくというものだ。
「それで、仲達さんは何故此処に?」
「笑わないで聞いて貰いたいのだが、私も同じ理由で此処まで歩いてきてしまったのだ。別段何があるという訳でもないのだが」
言いながらも私たちの足は止まらず、何処へ向かっているのかも分からぬまま、しかし赴く先は同じというのは何とも不可思議な現象だと思う。
結局中庭へ伸びる通路の先、曹操様が意匠を御考案された休憩所まで歩いてきてしまい、何と其処には一刀様がいらっしゃった。
「隊長!」
凪程の武人であれば一刀様の気配を察するなど造作もない事だと思うのだが、本人に聞くと最近気配を察する能力が一刀様限定で落ちてきたとの事らしい。
その代わり、こと一刀様に限っては異様に鼻が利く様になったので有事の際でも問題はないらしいので、部外者ながら一安心だ。
その凪は彼女達だけが使える愛称を口に出すと顔をぱああっと輝かせて、思わず見惚れるぐらいに美しく光沢を放つ三つ網を揺らしながら一刀様の元まで駆けてきた。
「凪ちゃんは相変わらずですわね、ご主人様」
「有り難い事です」
「そして司馬懿さんは何時駆けて来られたのか、不覚にも見えませんでしたわ」
「有り難い事です」
共に居られた黄忠殿の二つの感想に、同じ返事を返された一刀様だったがその声色が微妙に違った様な気がしたが一刀様の笑顔が見られたのでそんな事は無かった。
日々を忙しく過ごしておられる一刀様だが、その笑顔にはまるで憂いというものが感じられる事は無く、やはり一刀様が天から遣わされた存在である事は疑いようの無い事実である。
私達に出来る事は、そんな一刀様を思い悩ませる事象を一刀様が気付かれる前に取り除く事であり、やはりあの店のあの無礼な物言いをした店員は暗に葬る冪であり
「あー仲達さん、ちょっと相談事があるんだけど、いいかな?桐花には俺から断るから」
「勿論で御座います。如何様にも私をお使い下さいませ」
「凪、使いっぱで悪いんだけど、『仲達さんちょっと借りる』って桐花に言伝てきてくれない?」
「了解しました!」
敬礼をすると、凪は物凄い勢いで駆けて行く。やはり一刀様直属の部下というのであれば彼女ぐらいの気迫があってしかるべきである。
「ご主人様、いつか飼い犬に手を噛まれますわよ?」
「刺されないだけマシだと思いたい。甘噛み程度だと思い込みたい」
「まぁご主人様なら手綱を上手に取られるんでしょうけどね」
如何に黄忠殿であろうとも、今のお言葉は如何なものか。と一言申そうとすると、一刀様がすっと手を伸ばされて私の頬をなんと撫でられ、指で耳を触って下さると咳払いを一つなされた。風邪などでなければ良いのだが。
「隊長!任務完了しました!」
「はっや!」「凪ちゃんですものねぇ……」
流石は凪だ。北郷三羽烏の中でも真っ先に名前が挙がるだけの事はある。
「桐花何て言ってた?」
「『仲達では解決出来ない問題でしたら是非私を。寧ろ私を』としきりに仰られていました」
「気持ちだけ貰っておこう。んで本題なんだけどさ、ちょーっと困った事になっちゃって」
「一体どの様な?」
「うん、凪はよく知ってるだろうけど、俺ってそんなに乗馬って上手くないのね?
まぁ今までは何とかなってきたし、今じゃ乗馬なんてお遊び程度の腕でも良くなったから訓練を怠った俺が悪いんだけど、この間匈奴から保護した娘さんが来てからちょっとややこしくなっちゃってさ」
「蔡文姫殿の事でございますか?」
一刀様の発言を遮る様な無礼は許されぬ事であるので、手を軽く上げて発言する旨を示し、それから記憶に新しい名前を告げると、一刀様が首を縦にふられたので成程。と内心で呟いて先を伺う。
が、黄忠殿が何やら可笑しそうに合いの手を入れてこられた。
「あら?私達は輿入れだと伺いましたわよ?」
「名目上ね、名目上。 月と詠に聞いたら昔はすっごいお嬢様だったらしいし、名目上は輿入れだけど、別に閨の相手を強制する気はこれっぽっちもないからね、俺」
「しかし隊長、風様からは『またお兄さんが新しいこまし方を思いついたのですよー』と伺いましたが」
「いやだから自由意志で選んで貰うってだけだから。 仲達さんは良く知ってるよね、昔の麗羽」
凪もそうだが、特に黄忠殿、黄蓋殿、厳顔殿といった一刀様の保護者件後見人。といった立ち振る舞いをされるお方は往々にして一刀様のお立場を貶める様な物言いをされる。
しかも一刀様の言を遮って、だ。これは規律上問題があるのではないか。と上告申し上げる算段を立てようと考え始める所だったが、そもそも今は一刀様のお悩みを解決する時間である。気を引き締め直さなければ。
「はい。かなり、その……失礼な物言いながら、傍若無人であったと記憶しております」
「そうそう。 昔の麗羽は俺の事なんか箸にも棒にも引っ掛けないって態度だったし、多分蔡文姫もそんな感じだと思う訳だよ」
「それは……しかし一刀様の御威光と精悍なお顔立ちを鑑みれば、女なれば心揺さぶられるが自然の理かと思いますが」
「仲達さんの仰る通りです!隊長は素晴らしいお人ですから!」
「紫苑、俺はもう仲達さんをお嫁さんにすれば一生幸せに生きていけるんじゃないかなって思う。顔の事褒められたの生まれて初めてだ」
「戦争になる前にお考えを改めて下さいね?」
「話を戻して。 まぁ名目上は輿入れだけど俺の中では実質保護な訳で、まぁ色々歓待の準備とかあるんだけどさ、匈奴にいたからなのか、それとも元々そういう人なのか知らないんだけど、狩りに行く事になっちゃってさ。
乗馬すらまともに出来ないのに騎射なんかできっこないから断りたいんだけど、そうもいかないのよ。だからせめて恥かかない程度に練習しようとしたんだけどさ……」
「あぁ。それで霞様の機嫌が良かったんですね」
凪の一言に一刀様は難しい顔付きになられ、黄忠殿は苦笑される。
一体何が問題なのか分からず首を傾げて悩んでいると、一刀様が口を開かれた。
「そう、そこなんだよ……霞と翠がすんごいやる気満々で訓練の名乗りを上げてくれたのは嬉しいんだけどさ、俺の腕前じゃそもそも二人について行けない訳さ」
「翠ちゃんも霞ちゃんも、一度馬に跨ってしまうともうご主人様所ではないですからね」
「うん。でも他にって言われると、ちょっと思いつかなくてさ。でも二人のどっちを選んでも、あの二人は馬上に命張ってる二人だから」
馬術の妙手。と思い浮かべた時、ふと思い浮かんだ顔があった。
が、あの人は大変御多忙な身の上な筈だが、私の一言で迷惑を被られはしないだろうか。
「あ、あの、隊長。それで霞様には……」
「まだ言えてないんだよねぇ…翠もだけど霞もこの件に関しちゃ譲る気はないだろうし。
でも、そもそも二人のレベルが高すぎて俺じゃついていけないのさ。両方とか死んじゃう。俺死んじゃう」
「悪い事ではないのですけどね……お二人とも上手すぎて参考にならない、という理由で、二人に落ち度は少しもないのですから」
「弓は太史慈と秋蘭と、あと紫苑にも教えて貰えるし皆教え方上手いからそっちは心配してないんだけどさ」
「纏めさせて頂きます。弓術の指導に関しての不安はないものの、馬術訓練の指導は、挙げられたお二方が凄すぎるので何とか断る、もしくは代案が欲しい。という事で宜しいでしょうか?」
「うん、ひっどい話だけど。 で、霞も翠も傷つけないで断る方法ってあるかな?」
一刀様に縋られる様な視線を向けて頂き頼りにされる。なんと心地の良い感覚であろうか。
陸遜殿は兎も角、あの周喩殿や稟様が一刀様専属の教師件相談役という役職を作ろうと画策しているなど下らぬ噂だと思っていたが、この感覚を日常的に味わえるのであればそれも止む得ないというものだ。
無論その役職に私程度が就任出来ると考える事なぞ夢想するだけでもおこがましいというものである。
(仲達さんお願い助けて!仲達さんだけが頼りなんだよ!)(畏まりました一刀様。仲達は一刀様のお望みを叶える為、この世に生を受けた身で御座います)
「――――愚考では御座いますが、纏まりました」
「おぉ流石仲達さん!」
(仲達さん本当に助かったよ。やっぱり仲達さんは頼りになるな)(身に余る光栄に御座います。仲達は一刀様の為に存在しております)
「なるべく傷つけずに断る。とのお考えですが、馬超殿と張遼殿の気性を鑑みるにそれは悪手かと。
先ずは馬超殿に師事され、次に張遼殿に馬超殿に教えられた事を見せ、最後に白蓮殿に仕上げて頂く。という方法は如何でしょうか?」
「あー!白蓮!!白蓮いた!!」
「た、確かに。白蓮さんは霞様も一目置く程の腕前でしたね、隊長」
「でもそれだと白蓮ちゃんの良い所取りで、翠ちゃんも霞ちゃんも良い気はしないんじゃないかしら?」
(仲達。これからもずっと、俺の傍にいてくれる?)(はい、一刀様。仲達の身も心も全て一刀様にお捧げし、一刀様に尽くす事を今一度誓います)
「推察ですが、馬超殿も張遼殿殿も騎射は槍と比べると幾分不得手かと思います。なので先ず馬超殿には馬術、取り分け馬体上での身のこなしと体重移動を。
馬超殿に教えられた内容を張遼殿に言伝れば、恐らく張遼殿は負けじととっておきの術を披露される事でしょう。
白蓮殿のご器量であれば、一刀様に行わせて良い術かそうでないかの取捨と、御三方より行われる弓術の出来も合わせて一刀様に御負担の無い指導を行って頂ける筈です。
馬超殿、張遼殿、白蓮殿、何れも劣らぬ馬術の名手ではございますが、何も師をお一方に絞る必要はございませんし、その全てを一刀様が修める必要は御座いません。
馬超殿と張遼殿には術を授けて頂く。それを白蓮殿にみっちりと稽古して頂ければ御三方の何れにも角は立たぬかと」
何よりも先ず案ずるは一刀様の御身体で御座います。と付け加え一礼すると、一刀様は黄忠殿と凪にそれぞれ目配せし、彼女達二人も感心した様に頷いたのが見て取れた。
「凪、ちょっと白蓮呼んできてくれる?大至急」
「はい!」
「いや仲達さんマジで助かった。ありがとう」
指示を出される一刀様のお姿に見惚れていると、何と一刀様は私の手を握って下さると頭を下げてまでお礼の言葉を下さった。
身に余る事であるし、なにより一刀様に頭を下げさせるなどあってはならない事だ。と私は一刀様を押し留めようとするのだが、どうにも身体も口も上手に動いてくれない。
「ご主人様。司馬懿さんの策は素晴らしい物ですけれど、そもそも翠ちゃん達が拘っている所は其処じゃない気がしますわ……」
「言うなよ紫苑。あと、祭と桔梗の事煽るの禁止ね!」
「あら失礼な。私はそんな事はしませんわ」
「なら良いんだけどさ……どうも桔梗が拗ねちゃって。祭は祭で太史慈がいるから大丈夫って言ってるのに毎回口出してくるし」
「それは仕方ありませんわよ、ご主人様の事になれば眼の色が変わる代表じゃありませんか」
「隊長、ただいま戻りました!」
どうもこの辺りから記憶は定かではないのだが、白蓮殿との打ち合わせが終わった後、白蓮殿に是非に!とお誘い頂き飲みに行く事になった。
別段感謝していただく事などなかったのだが「勘定は私が持つから!いや持たせてくれ!!」と言い切られては断るのも失礼である。
私自身としても白蓮殿から学ぶ点は非常に多く、一刀様にご寵愛頂く身として彼女の作法を少しでも盗みたい。という欲望にも負けてしまい、随分遅くまで飲んでしまった。
「仲達、アンタにお客様よ」
「私にでしょうか?一体どなたが?」
「桔梗さんと祭様だけど、なんか随分鼻息荒く乗り込んでこられたんだけど、何かしたの?」
「別段これといっては思い浮かびませんが……」
「司馬懿様、お客様がお見えなのですが……」
「黄蓋殿達ではないのか?それならば今桐花様から伺った所だが」
「あの……呂布様が弓を持ってお見えに……用件を伺っても『弓、上手い』と仰るばかりで……」
「仲達、貴女にお客様よ」
「え、えぇ。伺っておりますお嬢様」
「そうなの? ついさっきお見えになったんだけど、何時の間に?」
「ちなみに、どちら様でしょうか?」
「関羽さんと甘寧さん。なんか荒縄と首輪を握り締めて凄い形相だったけど、どんな失礼したのよ」
「よし、そっちは私が受け持つわ」
「司馬懿様、お客様が―――」
本日は何故か来客が非常に多く仕事にならなかった。また、お見えになった方々に用件を伺った所桐花様に大変叱られた。理不尽だと思う。
おまけ。太史慈さん奮闘記・小覇王とその親友編。
hujisai様が【頑張れ太史慈ちゃん】を書かれる前に書いたので、色々と齟齬があるかもしれませんが暖かい眼で見守ってくだしあ。
「それにしても、随分極端な変身しちゃったわねーアンタ」
「雪蓮、失礼な事を言わないで下さい。私は元々こういう素質があったのです」
「物は言い様。とは良く言ったものだ」
「もう、冥琳までなんですかその物言いは!」
ぷくっと頬を膨らませて拗ねてはみせるものの、何か嬉しい事があったのか太史慈は直ぐに頬を緩めるとエヘエヘと照れる様に身を捩りながら笑い出す。
この奇行に当初は随分驚いた雪蓮と冥琳だったが、酔いも随分回った今となってはまた始まった。ぐらいにまで落ち着いていた。
「ねぇ聞いて下さい雪蓮!一刀様が「弓を持つ姿が格好良いって褒めてくれたのよねー」
「それで良い気分になって自慢の三本打ちを披露したらそれもべた褒めしてくれたんだったな」……二人とも意地悪です」
いいじゃないですか、嬉しかったんだから!とまた膨れっ面で拗ねてしまった太史慈に雪蓮と冥琳は取り合う事無く酒瓶を傾ける。
「もう今更だけど、一刀に本性ぶっちゃけちゃえば?いい加減肩凝らないの、それやってて」
「馬鹿な事言わないで下さい!一刀様を騙していたなんて知れたら、良くて打ち首、悪ければもう閨に招いて頂けないじゃないですか!」
「基準がおかしい気がするんだが」
「っていうか騙してないですから!私はコレが地なんですからね!?」
「当時の部下が今のアンタみたらひっくり返って笑うと思うわ」
「『私』ってなんだ『私』って。 お前の一人称は『オレ』か『オレ様』だったと記憶しているが」
「わーっ!!わーーーーっ!!」
「アンタさ、アレは一刀に見せなかったの?」
「アレってなんですか?」
「アレだろ、お前雪蓮と一騎打ちして右手を負傷した時、左手で弓を構えて口で矢を「冥琳テメェそれ以上喋ったら【ペチャンコ】にすんぞコラ」
ほら出た、やーん久しぶりじゃないのーと明るく笑う雪蓮と、ニヤニヤと意地の悪い笑みを返す冥琳にしまった!と慌てて口を紡ぐ太史慈。
落ち着け私、平常心。ほら一刀様が見てるのよ!と眼を瞑って今日の事を思い出せばあら不思議。荒ぶっていた闘気が萎んで消えていく。
「んんっ! とにかく!私はもう過去とは決別したんですっ!昔の事はくれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も!!一刀様には内密にお願いしますよ!?」
「言うなって言われると言いたくなっちゃう性質なのよね、私」
「雪蓮、もし貴女の口から一刀様に伝わったと分かったら、私本気で怒りますよ、本気で」
「いやまぁ嫌がる事はしないけどさ……でも言っちゃった方が楽になるんじゃないの?ねぇ冥琳」
「そもそも何で隠したんだお前。一刀なら当時のお前でも嫌う事はしなかったと思うぞ」
「そんな事言われても……一刀様に初めてお会いした時、自然と猫被っちゃったんだから仕方ないじゃないですか……」
「まぁ初対面じゃ皆多少なりとも演技はするけど、アンタはちょっと行き過ぎよね」
「その後の演技まで含めて、な。 お前が其処まで演技派だったとは知らなかった」
「……この間、一刀様から刺繍の入った綺麗な着物を頂いたんです」
へぇ。と興味深そうな声色で雪蓮が呟く。
一刀命の太史慈なら、もっと物凄いはしゃぎ様で報告しても良さそうな物なのだが、一体どうしたのだろうか。
「今あるのか?」
「勿体無くて着れる訳ないじゃないですか!キチンと一刀様に『当家の家宝として、代々伝えてゆきます』とお断りをして「アンタの家ってアンタ以外誰がいるのよ」……話の腰を折らないで下さい」
「まぁ雪蓮の茶々は置いておくとして。 どんな物だったのだ」
「足首まで丈のある、一枚繋ぎの着物で、腰と胸元に切れ目が入っていて、背中からお腹を這う様に金糸で大変華麗な意匠がどんっ!と入っている物でした」
「なーんか、聞いた限りじゃアンタの趣味に合わない感じね」
「まぁ……その、自分では決して手を取らない様な物でしたけど……」
「珍しいな。一刀が女への贈り物をしくじるなど」
「いや違いますよ?!気に入らなかった訳ないじゃないですか!嬉しくてその日は寝られなかったんですから!!」
「んー……なんか、聞いた感じは紫苑とか祭が着てる服に近いのかしら?」
「あぁ成程。 一刀の頭の中では弓の名手が好んで着る意匠。というのが出来上がっているのかもしれんな」
「アンタ弓打ちより拳とか蹴りの方が得意じゃないの」
ぐっ。と唸る太史慈の脳裏に浮かぶ、泥まみれになりながら相手を血達磨になるまで殴りつける、過去のちょっぴりはしたない自分の姿。
「そもそもアタシと勝負した時に右手怪我したのだって、南海覇王を素手で掴み取ろうとしたからでしょ。初めて見たわよあんな馬鹿」
「今までそれで何とかしてきた事が既におかしいと思うぞ」
「男衆に裸見られたって何とも思ってなかったってヤバいわよね」
「よくそれで純潔だけは守り通してたなお前。尊敬するぞ」
「純潔所か唇だって許して無かったってもう奇跡よ奇跡」
「っるせぇんだよ!!いいだろうが昔の話は!!」
やーん久しぶりー♪とはしゃぐ雪蓮に何年ぶりだ。息災だったか?と合わせる冥琳。
ぐぬぬ。と唸る太史慈だったが、ここで譲るからダメなのだ。
(コレは試練です……過去を乗り越えろという試練だと受け取りました!!)「昔話はもういいでしょう?! 純潔だって唇だって全部一刀様にお捧げしたんですからいいじゃないですか!!」
「この三人で集まって昔話以外に何の話するのよ?」
「祭殿でも呼んでこようか。 偶には無礼講もよかろう」
「その祭殿の話です!!なんなんですかあの人!一刀様には私が!一刀様から直々に!弓を教えて欲しいと頼まれたんです!!
それをどこで聞きつけたのか知りませんけど私の指導に一々難癖つけてきて!一刀様が強く言い返さないのを分かって意地の悪い事されるんですから!」
「あー……まぁアンタには申し訳ないんだけど、勘弁してあげてくれない? 祭にしてみたら一刀はもう別格中の別格なのよ。祭、一刀は自分の物だって思ってる所あるから」
「女盛りだった時代を文台様に捧げ、その忘れ形見達を守り導く事に残された時間の全てを捧げてこられた方だからな」
「やっと祭でも惚れる良い男と出会えて、後進も育って憂いも無くなったんだから大目にみてあげてよ」
「そりゃあ雪蓮や冥琳はいいですよ、昔から一刀様と一緒で不満なんてないでしょうし」
「あのね、アタシがやりたい放題やっちゃったら蓮華達が悲惨な事になるでしょ? これでもアタシだって自制してんのよ?」
「「え?そんなんできるんですか?」」
「何なのその阿吽の呼吸……アタシだって冥琳だって我慢はしてるんだから、太史慈だって我慢しなさいよ」
「冥琳は分かりますけど、雪蓮が我慢出来るなんて聞いた事ないですよ」「お前が一体どんな我慢しているというんだ」
「一刀連れて愛の逃避行なんて今でも算段立ててるけど?」
その時の雪蓮の眼があまりにもマジで、冥琳と太史慈はすーっと眼を逸らしてしまった。
見る人が見れば、その場でガチの殴り合いが勃発したであろう。
「優秀なのはたーくさんいるし、もうそっちはソッチに任せてさー、アタシと一刀は鍬持って畑を耕して、魚とか釣って慎ましく暮らすのよ。
出来が悪かったりしたら一つのお茶碗を二人で分け合って食べたりとか。
そんな貧乏暮らしだから当然布団なんて一組だけで、寄り添って互いに暖めあったりとかしちゃってもー!」
「一応言っておくが、やるなよ?」
「だーかーらー!我慢してるって言ってるでしょー!?」
「どの口で『祭にとって一刀は特別だから勘弁してあげて?』とか言うんですか。貴女なんて取り上げようとしてるじゃないですか」
「なんでアタシだけ怒られるのよぅ……冥琳はー? なんかないの、我慢してる事」
ふーむ。と腕組をして考え込む冥琳だったが、彼女の場合『洒落で済む事』と『洒落でも済まない事』の格差が凄すぎるが故の苦悩である。
「一刀が、四月バカをやった事があるだろう?」
「あったわねー」「思い出したくねぇ……」
「あれが嘘だと分かってから、真剣に詠の立場を喰ってやろうと考えている」
「…………」「………あの、冥琳?」
「一刀に謀られていた。というのも屈辱だったが、事の次第を私以外の知恵者が知っていた。というのが非常に我慢ならん。
ちょっと考えればどんな惨事を生むかぐらいわかるだろうが。それを『一刀様が仰られていたので……』だと?無茶を諌めるのが我等の仕事だ!」
「あの、冥琳、さん?」「ちょ、ちょっと待って下さい冥琳!」
「詠も朱里も雛里も風も桂花も稟も穏も、私からすれば一刀に甘すぎる。
少し一刀に頼まれた程度で分別を超えて手を回しよってからに。亜莎なぞ論外中の論外だ」
(ねぇ雪蓮、確か蜀の人材無理矢理呉に入れようとしたの、冥琳ですよね?)
(不平不満なんのその!でごり押し決めてたわよね……桃香が上手い事立ち回ってくれたから立ち消えになったけど、あれ決まってたら蓮華の立場危なかったわよ?)
「何をコソコソ話している」
「えーっと……話の本題は、我慢している事だったんだけど、不満になっちゃったわねー?」
「そ、そうですね!!もう雪蓮しっかりしてくれないと、貴女の尻拭いをしているのは冥琳なんですよ?」
「いやーこれは一本取られちゃったわーうふふー」「あははー」
「だから今も我慢してい「おっけーアタシ一刀呼んでくる!こういう時は一刀よねやっぱり!」
「ちょ、ちょっと雪蓮!!私今の冥琳と二人っきりなんて嫌ですよ!?」
「太史慈、必ず戻ってくるわ!」
「――――だぞ全く。 それで太史慈、お前の不満は他に無いのか。この際言いたい事は言ってしまえ」
「……あ、終わりました? まぁ不満と言えば、皆さんが一刀様へのご奉仕のやり方を教えてくれないのが不満です」
「あの太史慈が、男にご奉仕ねぇ……」
「な、なんですかその言い方。 好きな殿方に尽くすのは女の誉れじゃないですか!」
「いや言っている事は正しいのだが、どうしても昔の姿がチラついてしまってな」
「もういいじゃないですか昔の話は……そりゃあ、一刀様を騙しているみたいで心苦しくはありますけど」
「ん?俺が何?」
「おや、早かったな雪蓮」「蓮華には悪い事したわ……」
「ちが、違うんです一刀様!!今の話は別に深い意味は無いといいますか、思い出話を大きくしちゃった的な?!」
「うわー見て冥琳、スッケスケよスッケスケ。これパンツって言ったらパンツへの冒涜よね」
「お母さん許しませんよ。 ……いやまぁ、趣味は人其々だとは思うんだが、これはひどい……」
「貴女達は何をしているんですか!!違うんです一刀様!これは違うんですーー!!」
恋敵は異常に多いが、幸せ掴むその日まで頑張れ太史慈さん。
あとがき。
今回から始まりました【太史慈さん奮闘記】 嫁認定頂けるその日まで、太史慈さんの奮闘は続くトイイナー
今回マイナーさんを出す事が出来なかったのは、ちゅーたつさん視点だったからです。やっぱりhujisaiさんはすごいや!
お礼返信
前原 悠様 ゴツい武器持った美人さんって大正義ですよね!!
zero様 太史慈さん頑張りました!!
ミドリガメ様 蓮華様のポテンシャルは三国一やでぇ…… 華雄さんは天然クールを目指して書きました。
hujisai御大 宜しい、ならば戦争だ<嫁認定 いくぜっ!俺のターン、ドロー!!太史慈奮闘記!!
茶渋様 泡姫明命ちゃんはNo.1なのでお客様のえり好みが激しいらしいですよ。
ちゃあ様 基本的に明命ってかなりの一刀デレですよねw
七夜様 戻ってきて!!
牛乳魔人様 大変申し訳ありませんでした。
fatfishwen様 上記と合わせての突っ込みありがとうございました。失礼しました。
禁なる玉⇒金球様 私なりに白蓮贔屓してみました。こういう事ではないとは思いますが。
よしお。様 華雄さんはなんか姉さん女房な気がします。
HIRO様 裏番長に逆らってはいけない(迫真
Alice.Magic様 コメント感謝です(>Д<)ゞ 和気藹々とした職場ってすてきねー
ちきゅさん様 恋ちゃんにもメイド服着せてゴツ武器メイド部隊とか妄想しました。
相駿様 蜀のNo.1泡姫は桃香、魏のNo.1は沙和の様な気がします。
月光鳥~ティマイ~様 超綺麗でめっちゃクールなお姉さんがレザー生地な超ミニスカートとか最強だと思った。わるぎはない、はんせいもない。
帽子屋様 嫁認定頂けた娘の名前を間違うへっぽこでございます。
shirou様 蓮華+濡れると透ける生地の服=なにその天国
観珪様 ほら、霞さんは魏で輝いた人だから……
朱月 ケイワ様 明命の衣装は【上・どう頑張ってもピンクのぽっちが見えるサイズのお祭りの法被】【下・丈が足りなくて大事な所が思いっきり見える褌】でした。俺は変態かもわからんね。
SRX-001様 華雄さん裏話。 一刀が好きすぎて力込めて抱き締めすぎて一刀の骨が軋んだ。
アルヤ様 その場のノリです<まっとぷれい検定
きの様 蓮華ちゃんは良い子ですからw
叡渡様 天然クール+ちっぱい+メイドさん=大正義!!
メガネオオカミ様 平和って素晴らしいw
呂兵衛様 月様の魅力は【献身】だから……いや、何故か華雄さんも逆らえないんですけどね……
kaz様 教育係が祭さんだったから仕方ないねw
happy envrem様 別にちっぱいでもええやん……年上のお姉様すてきですやん……なんでや、なんで原典に出んかったんや……
MiTi様 光栄の極みでございます。
悠なるかな様 次の娘は誰にしようかしらw
yosi様 泡姫でおもっくそ拭きましたw 頑張って直接的な表現は控えてたのに!!w
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「なにか」の方も書き上げてから。と思ったのですが、hujisai様の新作を見て「いいや限界だ、上げるね!!」なテンションになりました。