No.620131 リリカルなのはSFIAたかBさん 2013-09-16 20:57:04 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:4014 閲覧ユーザー数:3578 |
第四十九話 覚えていますか?
ジ・エーデル視点。
『傷だらけの獅子』からの強力な一撃に僕とアサキムは黄金に光る鉄槌の下敷きにされる。ただの力の塊であるが故に対処が難しい。
僕の目の前で僕を守るための障壁と黄金の光がぶつかり合い火花を散らしている。
いくら『傷だらけの獅子』とはいえ、これだけの力をいつまでも出し続ける事は出来ない。二人掛かりでとはいえこの攻撃の最大出力が僕等の防御力を越えきれたとしてもとどめを刺すまで持たなければ意味がない。
正直、この光の鉄槌。『傷だらけの獅子』のこの攻撃の破壊力は僕やアサキムの威力を超えるだろう。
これで僕を倒せたら彼の勝ちだ。だけど、このアーク・ライナスには『聖王のゆりかご』の機能を移植している。『尽きぬ水瓶』の力を全てに防御に。そして、二つの月から得られる魔力があればこの攻撃に耐えられる。
だけど、その障壁の出力が徐々に低下して、光の鉄槌によって障壁の所々に亀裂が入る。
…おかしいよ。
計算上、彼の攻撃力よりも僕のアーク・ライナスの防御機構脳の方が上だ!それなのにどうして?!
スフィアの問題?!…いや、スフィアのエネルギー機関はスフィア自体も含めて正常運転している。では、障壁の出力が落ちている原因は?
月から補充される魔力の低下?
それを知って僕は自分の状況を把握した。
今、僕は『傷だらけの獅子』の光の鉄槌を受け止めていてその後ろには月。
つまり、月に打ち込まれている状態。だと、思っていたがそれは見解違いだった。
『傷だらけの獅子』は僕とアサキムだけじゃない。そこに押し付けている月そのものすらも砕いているのだ。
その強靭な防御力を持つアーク・ライナス。そして、彼の攻撃で生じた膨大な光量で自分の後ろにある月が砕かれていることを感知することが遅れたのだ。
「「「「…ははは。あ~はっはっはっはっ!!」」」」
僕は目の前でドンドン亀裂が広がっていく様を見ながら笑った。
まさか、こうも簡単に自分が終わるなんて思いもしなかったから。
「「「いーひっひっひっ!この喪失感!臨場感!失望感!最高だ!最高だよ!!」」」
バリンッ。
と、アーク・ライナスを囲んでいた王冠が障壁と共に砕け散る。
数瞬もしないうちにアーク・ライナス本体に光の鉄槌が迫る。
「「…だからこそっ。だからこそ!この絶望感を君達にも味わってほしい」」
僕は精一杯に抵抗しながらあるプログラムを発動させた。
プレシア・テスタロッサの研究データから関心を受けたのは別にプロジェクトFだけじゃない。
「…それに。このまま僕のスフィアを君達にあげたくはない。僕は君達を苦しめたい。僕がこの世界で味わった屈辱も喪失感も味あわせたい」
だって、そうじゃないとフェアじゃない。
僕はぶたれるのは好きだけどね。それと同じくらいに、ぶつのも好きなんだよ!
プレシア視点。
「…やったの?」
タカが振り降ろした超重力を伴った光の鉄槌はアサキム。そして、ジ・エーデルを巻き込みながら、その後ろにあった月をも砕き切った。
そして、その月があった空間には粉々になった月の欠片が浮遊しているだけに見えた。が、そこには小さく光る物体が二つあった。
「…リニス。あれが何かわかる?」
恐らく、小さく光る物体がスフィアなんだろう。
人の握り拳よりも小さい物体。あれがスフィアなんだろうと私は予想していた。
「あれは…。『偽りの黒羊』。そしてもう一つ『尽きぬ水瓶』…。間違いありません!あれはジ・エーデルが持っていたスフィアです!」
リニスはタカが打ち放った攻撃の興奮を未だに沈めきれていないのか興奮したように私の質問に答えた。
「…そう。タカ。アレをすぐに確保してきなさい」
『…無理。正直もうマグナモード使えない。…空、飛べない。出来るのは、せいぜいじたばた腕を動かす程度。全身の筋肉が悲鳴を上げているんだけど…』
ぷかーっと宇宙空間を漂っているガンレオンからそのような返事を受け取った私はため息をこぼす。
「アサキムのスフィアが辺り反応が無いから逃げられたんでしょうけど、完全に倒したわけでもないわ。何かされる前に回収しなさい。血反吐を吐きながらでも」
『今の俺はアリシアと完全融合しているから、アリシアも悲鳴あげるんだけど。それでもいいなr』
「帰ってきなさい。いえ、今すぐ回収するから、その場でのんびりクラゲのように漂っていなさい」
『………』
「…プレシア」
なに?リニスまで今のガンレオンみたい力無い瞳で私を見て?
娘至上主義の私の行動に何か問題でも?
『「…いや、なんでもないです」』
二人そろって同じ言葉で私に声をかける。
そう、私は何も間違っていない。
とはいえ、周りには管理局の船がある。タカの先程の攻撃に驚いているのかあまり動きは見られない。今のうちに二つのスフィアを回収して、それを使って今後の展開にユウリになるように交渉しなければ…。
特に最後にはなった攻撃は完全に物理?兵器だ。
その馬鹿げた攻撃力を実現できたのも元をただせばスフィアの力である。
管理局の馬鹿どもに悪用される前にこちらで悪用。もとい、有効利用しないと…。
「…ガンレオンを私のSPIGOTで捕獲。これから回収しますね」
リニスは遠隔操作でSPIGOTをアースラの外に展開し、その輪っかで引っかけるようにガンレオンを捕まえるとアースラの方に引っ張る。
その間にもアースラの歩を進めながらガンレオンとスフィアの回収をしている時だった。
ビィイイイイ!ビィイイイイ!
と、アースラの警戒報知機が作動した。
その警戒先は、宙に浮いている二つのスフィアからだった。
そのエネルギーはまるで爆発寸前のエネルギーの塊。いや、私はこのエネルギーの波動。そして、このエネルギーの計測データに見覚えがあった。
「…これ、は」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
と、まるで宇宙全体を揺るがしそうな鳴動音を鳴らす二つのスフィアを見て私は忌々しい事件を思い出した。
ヒュードラ事件。
私のミスで次元世界を三つも吹き飛ばした忌々しい事故。
私の。いや、アリシアの命を奪った忌むべき事件の時に発生したエネルギーの波動だった。
「もしかして…。トラップ?!」
リニスは慌ててガンレオンを捕まえているSPIGOT以外のSPIGOTを二つのスフィアに向けて飛ばす。
あれはスフィアに似せた時限爆弾なのではないかと…。
が、そのSPIGOTから贈られてきたデータは爆弾ではなく、間違いなくスフィアだった。むしろ、トラップの方がよかった。スフィアが爆発した時、この世界に何を及ぼすか。いや、果したらジュエルシードやヒュードラ事件を超える災害を招く恐れもある。
「リニス!あれを封印することは出来る!」
「やってみます!」
ガンレオンをアースラの甲板に乗せた後に四つのSPIGOTは『尽きぬ水瓶』『偽りの黒羊』の周りを浮遊しながら封印するための術式を展開するが、二つのスフィアはそれを拒絶するように光が増す。
その光を浴びたSPIGOTは砕ける。
「っ」
「リニス?!」
SPIGOTが砕けたと同時に顔をしかめたリニスの両腕にまるで刃物で切り付けられたかのような傷が生まれる。
「…大、丈夫です。ですが、厄介なことが分かりました。あのスフィアはいまにも爆発寸前の風船みたいな状態です。爆発したらこの宙域どころかミッドだけじゃない。なのはさん達の管理外世界まで被害を及ぼす威力を持っています」
私の予想を超えた威力を持った爆弾となったスフィアを見て私は歯噛みする。
せっかく。せっかくここまで頑張って来たのに全てを無にしようとする現象を恨まずにはいられなかった。
「対処方法は!対処方法は無いの!」
「あるにはあるのですが…」
リニスは私の顔を見て顔伏せながら言いよどむ。
「リニス!お願いっ、答えて!」
「…スフィアはスフィアに反応します。ですからあの二つのスフィアに直接スフィアリアクターが呼びかければ、恐らく…。ですが、それには高い演算能力と高度な魔力操作が必要なんです」
今、ここにいるスフィアリアクターはタカとリニスだけ。
そして、この宇宙空間で活動できるのは…。
『…ようは、俺達でどうにかしろってことか』
ガクガクと、アースラの甲板の上でワイヤーに包まるように体を固定していたガンレオンが立ち上がる。
「無茶よ!あなたはもうスフィアを扱えるような状態じゃ…。それに貴方がそんな演算能力があるわけない!」
『…俺じゃあ、な。…だけど、『傷だらけの獅子』はもう一人いる』
それって…。アリシアの事を言っているの!?
確かにアリシアはDエクストラクターの扱いは器用なほうだったけど…。
『時間も無いんだろ。だったら、間に合わなくなる前に行かせてもらう!』
スフィアの力。自身の痛みを『傷だらけの獅子』のスフィアで魔力に変換。痛みの連鎖で魔力と体を回復させる。
何のためらいもなく、痛みの連鎖を繰り返すという事はもうタカとアリシアは『放浪者』になりきったということになる。
だけど、その精神までは回復しない。
連戦に続く連戦。
タカは少しでも気を抜けば死んだように眠るだろう。
アドレナリンが異常分泌されているのがモニタリングされているのが分かる。
戻ってきたら何が何でも休ませよう。
ガンレオンが飛び立とうとした時、ガンレオンとスフィアを挟んで正反対の方から不気味な色を放つ物体があった。
『そのスフィアをそのまま君達に渡すわけにはいかない』
「あれは…。シュロウガ?!アサキムの奴まだ諦めてなかったの!」
いけない!今の状態で『尽きぬ水瓶』『偽りの黒羊』のスフィアを奪われたら…。
疲労困憊状態のタカやリインフォース。リニスすぐに殺される。
「タカ!急いでスフィアを回収しなさい!」
『こんちくしょおおおおおおおっ!!』
ガンレオンの翼を広げてスフィアに向かって飛翔するが、疲弊しきった精神状態のタカではアサキムを超えるスピードは出ない。
そして一分もしないうちにアサキムは二つのスフィアの元にたどり着くと不気味な魔方陣を展開する。
が、いつまでたってもスフィアを取り込もうとしない。
むしろスフィアを取り込むための魔方陣は今にも砕け散りそうな亀裂が入る。
『…。仕方ない。印をつけるだけで精一杯か』
二つのスフィアはアサキムの魔力光。赤紫色の光に包まれると二つのスフィアは再び出力を上げてエネルギーを上昇させる。
『…。タカシ。そして、アリシア。この爆発を抑え込みたかったら、スフィアを八。魔力を一の割合で押さえつけるんだね』
シュロウガの鎧が二つのスフィアの放つ光を浴びて徐々に崩れ落ちていく。
まるで制御できなかった力におし潰されていくように。
『…アサキム?お前何を…』
そして、アサキムの行動。そしてその意味についてタカが声を上げようとした瞬間。
『…これでいい』
そう言い残すと、シュロウガの鎧はスフィアの光に飲み込まれていくように消えていった。
ほんの数瞬呆けていたタカだったが現状を思いだし、二つのスフィアに飛びつく。
すると、二つのスフィアはアサキムの魔力をはねのけて、再び緑と赤紫の光を放ちながらそこに再びエネルギーを溜めこんでいく。
『絶対に止める!』
そのエネルギーの量に押しつぶされそうになりながらもガンレオンがその二つのスフィアに触れた瞬間。
―――――――――――――――――――――!!!
無音の爆発と共にスフィアの光が私の視界を埋め尽くした。
リインフォース視点。
リニスやプレシアに言われて主はやて達と共に地上。グラナガンのほぼ中央に位置する公園に転送された私達は、そこ避難誘導を行っていたナカジマ三佐の部下を通じて、かられに協力する形で人命救助を行う。
奇跡的にも避難が早かったお蔭で民間人での死亡者は出てない。それでも『聖王のゆりかご』そして、その偽物の破片を全て破壊しきるのは無理だった。
その時に破壊された建物や地下道などに逃げ遅れた人達がいるかもしれない。
その人達を助ける為、私は高町なのはと二人で尽力していた時だった。
「っ!」
私は不意に感じた視線とも意志ともいえない何とも形容しがたい物を感じた。
その感じた方向。自分の頭上に向かって障壁を展開した次の瞬間。
―――――――――――――――――――――!!!
「なんなの!?」
無音の爆発。その衝撃波のような物を頭上から障壁越しに受け止める。が、事前に察知することが出来なかったなのはは思わず身をすくめる。
痺れも無ければ、衝撃も無い。かといって熱いわけでもなんでもない。ただ、自分に何らかの衝撃があった。としか、感じ取れなかった。
「…光の、雪?」
空から舞い落ちてくる緑と赤紫色の光の雪が降って来るまでは。
それは雲一つない空から降り注いでくる不思議な光の雪。その雪の光は私の持つ『悲しみの乙女』のスフィアの魔力光の赤紫。そして、リニスや高志の持つスフィアの緑に酷似していた。
だが、その雪がただの光の雪でない問ことに気がついたのは、赤紫の雪が壊れたビルに接触した時だった。
バシュンッ。
「な?!ビルが直った!?」
それだけではない。緑の雪を浴びた私の傍で避難誘導をしていたなのはのバリアジャケットと魔力がわずかながらに回復した。
「…え?なんで体力が回復して…?…つっ」
不意に降って来た雪避ける仕草もせずにそのまま雪を浴びたなのは一瞬、目の光を失い、立ちくらみのようなしぐさを見せたので思わず彼女を抱きかかえる。
「大丈夫か、高町!」
まさかと思うがこの雪には毒があるのか。と、思って彼女に軽い身体を調べる魔法をかけて調べるがその兆候は見られない。
「…う、うん。大丈、夫?!」
そう答える彼女にほっと胸をなでおろす。
その時、私も二つに光る雪を多少あびてしまう。その時何故か『傷だらけの獅子』の顔が脳裏に浮かび、消えてしまった。
…待て?今私は誰を思い出そうとした。今、誰の事を忘れてしまったのだ?
その忘れてしまったことを思いだそうとすると目の前の高町が驚いた表情で私の肩を掴んできた。
「
消えていく。『 れ 秤』の ニスと話し合った時の記憶が。
光る雪が私に接触するたんびに私の傷がいえ、魔力が満ちていく。
「な、何を言っている高町?私はお前と共に人命救助に」
消えていく。『 の黒 』が落とした『聖王のゆりかご』の偽物を砕いた記憶が。
雪にふれる体に力が漲る。だけど、私の中から何かが消えていくのが分かる。
「そうじゃないよ!だって、リインフォースさんは…」
消えていく。『 が 山 』との死闘も。
私が愛した男の事も…。
「リインフォースさんは
消えていく。私が『 』で、その で生きながらえたことも。そして、『傷だ けの 子』である高志の事も。
「うわぁああああああああああ!!」
私は思わず、魔力を使って自分に降りかかってくる雪を払いのける。そして、魔力のシェルターを作りだし、自分を雪から遠ざける。
「なんだ?!何なんだこの雪は!」
私は自分の体を抱きしめる。あのまま目の前でチラつく雪を浴びていたらと考えるとぞっとしかねない。
自分で浴びてわかった。
この雪は『 』で負った傷や魔力を回復させる。そして、それを忘れさせる雪。
まるで『 』は元からなかったように。まるで『嘘』だったように。そして、その『 』でおった『痛み』は空から降り注がれるまるで『愛』のように万人に降り注ぎ人々を。そして、町を癒していく。
『 』を忘れる事ことで。『 』で傷ついた人や町を癒していく。
「リインフォースさん!リインフォースさん!どうして!?ううん、そんなことよりはやてちゃんの所に一緒に来てください!きっとはやてちゃんも喜んでくれますから!」
魔力のシェルター越しに私に語りかけてくる高町。
私は、この現象が、自分自身だけのものだと思いたかった。思いたかったから高町に話しかけた。
「…高町。彼を。『傷だらけの獅子』の事は覚えているか」
頼む。そうであってくれ。
私は自分自身から消えた。いや、思い出せない記憶なのだと思いたかった。だが、現実はいつも非情だった。
「え、えと、『傷だらけの獅子』って誰ですか?」
「――――――――――――――――っ!」
赤紫と緑に光り輝く雪は降り続ける。
私の声にならない悲鳴を埋め尽くすように。
雪はこのミッドに降り注ぐ。『 』で傷ついたものを、悲しんでいるものを、全てを覆い包み隠すような愛のように降り続ける。
その怪我も被害も全て嘘だったかのように。
雪で癒えた者はその雪の事すらも忘れる。
その雪自体が嘘だったかのように。
その雪はミッドだけではなく管理世界だけではなく、管理外世界。文字通り世界中に降り注ぎ、忘れられた。
たった一人。
悲しみにくれる女性を残して。
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