No.618659 リリカルなのはSFIAたかBさん 2013-09-12 01:30:22 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:3425 閲覧ユーザー数:3185 |
第四十六話 アリシア・テスタロッサは■んだ
アサキム視点。
やれやれ。回りくどい事をするね、ジ・エーデル。
『偽りの黒羊』の力で『尽きぬ水瓶』を騙し、その力を引き出す。
『知りたがる山羊』を持つ僕ではそこまで『偽りの黒羊』を扱う事は出来ない。
あの試験管の脳みその状態でよくやる。
『白歴史』。この世界。リリカルなのはの世界ではあの脳みそは十中八九ぶちまけられて『死』んでいる。
『ほぼ確実に死ぬ状況』で転生するのはジ・エーデルくらいだろう。
いや、『黒歴史』を知っているジ・エーデルなら並行世界の壁を越えてその世界その世界にいる自分達の知識や記憶をリンクさせているから何らかの手立ては打っていたのだろう。
その予防策が『聖王のゆりかご』で作られていた聖王オリヴィエのクローンなのだろう。
『聖王のゆりかご』は文字通りゆりかご。自分の本体(脳みそ)の元に運ぶための船。いや、コンテナのようなものだったのだろう。
『聖王のゆりかご』の役目はそれだけじゃない。
まずグラナガンに転移させて、そこに住む人たちに恐怖や絶望を味あわせる。それを救おうとする意志。見返りも求めず救おうとする『慈悲』を司る『尽きぬ水瓶』を目覚めさせるための誘発剤。
更にはスフィア狩りで邪魔になるだろう高町なのは達の戦力を削げるだけ削ぐ。
ついでにスフィアリアクターであるリニスやリインフォース。タカシを疲弊させるために。むしろこちらが本命か?
一回目の『聖王のゆりかご』落としは、クアットロのファインプレーもあってかヴィータとゼストが疲弊した。
二回目。
紅色の『聖王のゆりかご』は『偽りの黒羊』の力で生み出し、質量があるだけの岩石落としに近いがそれでも効果は上々。この攻撃でエリオが離脱した。
三回目。
二つ目のゆりかごもどきを落し、はやてと『揺れる天秤』『悲しみの乙女』の力も削いだ。その時、エースオブエースのなのはもさすがに魔力が底を尽きた。
そして、四回目。
三隻目のゆりかごもどきが落下していく光景に絶望しかけていたものの、はやてとシグナム。リニスとリインフォースは息を切らせながらも、攻撃を行う。が、彼女達の力も破壊するまでには至らなかった。
だが、そこに現れたのは黒と白の巨大な影。その異形の怪物と思える影はこの事態を聞きつけてグラナガンに転移してきたルーテシアの白天王。もう片方はキャロの呼び出した二足歩行をする黒い竜ヴォルテールだった。
彼女達が召喚した召喚獣は腹部や肩から極太の光線を放つ。その威力は絶大な威力を持っていたものの砕ける物ではなかった。だが、このまま押しつぶされるとジ・エーデルに『傷だらけの獅子』のスフィアを奪われてしまう。
だから…。
「君が出てきたという訳かい?アサキム?」
「そう言う事になるね。管理局最高評議会の長。…いや、ジ・エーデル」
僕はそう言うと先程打ち砕いた『聖王のゆりかご』もどきの欠片を払いながら目の空間を歪めながら転移してきた五メートルほどの大きさを持つ白い鎧。そして、それを囲むかのように宙に浮いている金の王冠を浮かべている張本人に言葉を返す。
「体を持つというのは素晴らしいね。出来なかったあれこれが出来るよ。今も手を開いて握れる。それだけでも感無量さ♪そして、君とこれから殺しあえるというのもね♪」
「『尽きぬ水瓶』を制御できるようになったようだね。ジ・エーデル。これでようやく、スフィアを思う存分に狩り取れる」
「ふっひゃ♪物凄い殺気♪僕は今ようやく手に入れた自由の前に死を感じちゃっているよ、だけど、それも……イイ。イイね!とてもイイよ!さあ、殺しあおうアサキム!僕に『恐怖』と『痛み』を感じさせてくれ!」
その快楽主義は前世。いや、この世界ではない。タカシの知っている世界の『原作』にいた君と変わらないようだね。
「…いいだろう。ジ・エーデル。君の持つ『尽きぬ水瓶』を狩り、貸し与えていた『偽りの黒羊』を返してもらう!」
そう言い終えると、グラナガン上空には白と黒の光がぶつかり合った。
リニス視点。
アサキムと突如現れた白い鎧が現れ戦闘を繰り広げている最中。
私は先程まで医療室ベッドの上で寝かされていた騎士ゼストを車椅子で運んでいた。
今から彼共々機動六課の救助要請と言う形で聖王教会に保護してもらう為に。
Dエクストラクターの使い過ぎで体の限界を超えたのか、全身の組織が疲弊しきっている彼はそのダメージの所為で深い眠りに落ちている。
その医療室に残されているのは一組の男女。
一人は『傷だらけの獅子』こと沢高志。彼の右手は緑色の光を生み出し、目の前のベッドの上で寝かされた女性。アリシアを包んでいた。
医務室にいるのは二人だけだった。
「ごめん、なさい。ごめ、んなさ、い。ごめ、ぇ、んなざい」
二人を残した医務室の外では、緊急転送でアースラに転移してきたシャマル。彼女は両手で嗚咽を必死に抑えようとしていたが、謝罪の言葉を呟き続ける彼女にそれを抑えることは出来なかった。
魔力での回復は済んだ。だけど、これから先は外科的な作業を行わなければならない。
でも、このような混乱時。医療関係の施設は何処も一杯だ。そこに行くよりアースラの医療機器の方が確実だ。それでも、もう…。
高志の持つスフィア。『傷だらけの獅子』の力。ピリオド・ブレイカ―でアリシアの傷を塞ごうとした。だが、それが弾かれた。
そこからは仮説だが、恐らくピリオド・ブレイカ―は一度使うと同じ人間には二度と効かないのではないだろうか。
高志は以前プレシアには二度と使えないと言っていた。
アリシアは一度『傷だらけの獅子』のスフィアで生き返っている。だから、ピリオド・ブレイカ―は受けていなくてもそれ以上の回復をしたことがあるから効かないのではないか。
それでも高志は何度も何度もアリシアの回復を行った。
自分の体がその時に発せられる魔力で傷つけられても…。それでもアリシアの傷は埋まらない。
出来る事と言えば、彼女の傷ついた心臓を魔力で塞ぎ何とか動かしているという事だ。
今、高志がアリシアにかけている回復の魔法。それは穴だらけのバケツに水注いでいるに等しい行為。
そして、彼自身もそれが無駄だと悟ったのか、
『…二人きりにしてくれ』
高志からの言葉を聞いてシャマルも私もゼストを機動六課側に引き渡す為にはやてさん達が待機している指令室に連れて行く。
高志の言葉を聞いて私は感じ取った。アリシアの命がもう間もなく消えるという事を。
それまで高志はこの回復魔法を彼女に注ぎ込む。無駄だと理解しても…。
『…シャマルさん。はやく、その騎士を連れて聖王教会へ連れて行きなさい』
私達が医療室の扉の前で立っているとモニターが浮かび上がると、そこに映されたプレシアが表情を見せたくないのか、俯きながら私達にそう言うとモニターを切った。
いや、アースラから出て行けと言っているのだ。
今から空で戦っている白い鎧を倒しに行くために彼女達は足手まといだから。
今戦えるのは私とリインフォース。そして、高志。スフィアリアクターとこのアースラの艦長で新装備バトルフロンティアの操者であるプレシア。
奇しくもゼクシスメンバーのみだった。
「…ぐすっ、リニスさん。今のは」
「…ええ、決戦。ですね」
鼻を鳴らしながら私に話しかけるシャマルさんは口元を抑えている。
せっかくこちらに来たのに力になれなかったことを悲しんでいるのか?
だけど、そんなことはない。
彼女にはアースラに乗り込んでいるはやてさん達をサポートするのは彼女だけだ。
それに…。白い方はどうなのかは知らないがアサキムはスフィアリアクター以外に興味はない。
ゼクシスから離れるだけでも彼女達はアサキムの目から離すことが出来る。
「…シャマルさん。フェイトとアルフをよろしくお願いします」
今、フェイトは地上で救助作業を行っているスバルたちの部隊で保護されている。
今から彼女達をそこに転送するのだ。
「…リニッ。……わかりました。フェイトちゃんは貴方達の分まで私達が守ります」
きっと、私達はこの戦いに勝っても負けてもロクなことにならないだろう。
勝てたとしてもこの次元世界でスフィアリアクターは疎まれている。特に『傷だらけの獅子』の特殊な力。死者蘇生に回復の力。戦闘能力の爆発的上昇は垂涎ものだろう。
きっと何かにつけて拘束にかかろうとする者達が出てくるのは間違いない。
そうなればフェイトやリンディ達に迷惑をかけるだろう。
それをプレシアも高志も是としないだろう。だから、戦いを終えたらそのままどこか違う場所。管理外世界に逃げ込むと、高志の存在がミッドに広まった時にプレシアと話し合いをした。
それに負ければ私達のスフィアを狩られて死ぬ。
最悪の場合。アースラを自爆させてでもアサキム達を仕留めるつもりだから。
その巻き添えにならないように彼女達には退場を願う。
フェイト。アルフ。本当にごめんなさい。
二度もあなた達に何も言わずに去る私達を許してください。
フェイト視点。
「―――っ!」
「フェイト。気がついたっ」
シグナム達に『聖王のゆりかご』で助けられた私はいつの間にか気を失っていたようだ。
気がついたら奥の人が寝かされている野戦病棟にあるベッドの上に寝かされていて傍にはアルフが付き添ってくれていた。
「ヴィヴィオは?!『聖王のゆりかご』は?!」
「いたっ。痛いよ、フェイト」
私はアルフの方を掴みながら質問を投げかけた。
ちょっと力の入れ過ぎでアルフが痛そうな顔をしたので慌てて手を離す。
「ご、ごめん。アルフ」
「…うん。まあ、あれだけの事があったから仕方ないさ。質問に答えるけどヴィヴィオも無事。『聖王のゆりかご』もなのは達がぶっ壊したよ」
「…そう、なんだ」
私は安どのため息を吐く。が、アルフの言葉は続く。
「だけど、アサキムがまた出た」
「っ!」
「しかも、管理局を裏から操っている奴。悪い事をしていた奴が出てきた」
「…え?」
私がその発言に質問しようとした時だった。
私が寝かされている部屋の外がわっと声が湧いた。
窓際で寝かされていた私は声のする方を見ると宙に浮かび上がったモニターに映し出されている映像に驚いた。
黒い鎧。シュロウガを纏ったアサキムと白い鎧アーク・ライナスと呼ばれていた機械兵が戦っている映像だった。
私が見た機械兵とは違い、映し出されたアーク・ライナスは五メートルほどの大きさ。更にそれを囲うように宙に浮いた黄金の王冠。
その王冠にはめ込まれている宝玉を見て私は驚いた。
その宝玉と思われた者の中に人がいた。私が『聖王のゆりかご』で見た聖王オリヴィエのクローンたちだった。
しかし、外の人達が驚きの声を上げたのはそれではない。その宝玉の中にいる人達が笑っていたのだ。
みな同じ表情で。
『『『『『『尽きぬ水瓶』の力は凄い。凄いねェ!特にこの攻撃力と防御力!君の放つ黒い炎も通さない!剣でも傷がつかない!そして何より、僕が振るうだけで遥か彼方の雲まで切り裂ける!』』』』』
そして、一字一句たがえることなく喋っているのだ。
『その分、君はダメージを負うけどね』
『『『『『『ノンノンッ。君じゃなく
っ!
違う。タカシは決して目の前で戦っている白い鎧の王冠。
その中で戦っているクローンたちのように笑って戦うなんてことは無かった!
本当は戦いとかそんなのとは無縁にヴィヴィオやお姉ちゃん達の傍でのんびりするのが好きな人だ。
絶対に違う。
彼等とタカシは絶対に違う!
『………』
『『『『『『おや、だんまり?もしかして怒った?君が彼女にしたように、あの『傷だらけの獅子』を貶されて怒っちゃった?』』』』』
ぞくっ。と、悪寒が奔った。
映し出されている映像を見る限り彼等はかなり高い空の上で戦っている。そのはずなのに…。
『ジ・エーデル。君は。君という存在は、僕がこの手で必ず天の獄へ突き落す』
アサキムの放つプレッシャーが上がった。
私の周りでは映像越しのプレッシャーに気絶する人たちもいた。
『『『『『『…いい。イイねぇイイねェ。その殺気だけでイっちゃいそうだよ!もっとだ。もっと僕を高みに連れて行ってくれアサキム!』』』』』
それなのに宝玉の中にいる人達の顔は愉悦に歪む。
狂っている。
そうとしか考えられなかった。
あれだけのプレッシャーを放つアサキムを目の前にしてそんなことを言える存在に。
『『『『『『だけど、その前に。もう一組この殺し合いに参加するチームがあるみたいだ』』』』』
アサキムとジ・エーデル以外に映し出された物。それは…。
「…アースラ」
「リニスとリインフォースもアースラの甲板に乗っているよ!」
そう、機体のあちこちに傷をつけながらそれでもグラナガンの上空からアサキム達を追う為にやって来たアースラ。その上にアルフがいう二人が立っていた。
『『『『『『…『悲しみの乙女』に『揺れる天秤』。あれ?『傷だらけの獅子』はもしかして逃げたのかな?』』』』』
『彼を貶めるような発言。許さんぞ!尽きぬ、いや『狂った水瓶』!』
リインフォースはガナリーカーバーの持ち手から血が噴き出さんばかりに力を込めて、その砲身をジ・エーデルに向ける。
『一度ならず二度も。ヒュードラ事件に続いて二度もプレシアから、マイマスターから家族を奪ったことを私も決して許しません!』
リニスの周囲に四つの銀のチャクラムが展開される。
「…二度?二度ってどういうこと!」
私は思わず叫んでしまう。
それはつまり…。
『『『『『『…そうかい。アリシア・テスタロッサは死んだのか。まあ、仕方ないよね。だって彼女はもう死んじゃった存在だし』』』』』
今、なんて 言った?
え?
アリシア・テスタロッサは ■んだ?
アリシア・テスタロッサは■んだ。
アリシア・テスタロッサは死んだ。
「…う、そ。…嘘だよね」
いつも笑って私に接してくれているお姉ちゃんが死んだなんて。
アルフに声をかけるけどアルフは何も答えなかった。
アルフは映像越しにではあるが見ていた。
アリシアの背中に突き刺さった。致命傷になった『聖王のゆりかご』の破片を。
『『『『『『それでお兄ちゃんは悲しんで外に出れないという事か。うんうん、それじゃあ仕方ないよね。でも、安心していいよ。死んでいった彼女の分まで君達を倒した後の世界は僕が守るから』』』』』
『ふざけるなぁああああっ!』
リニスの放つ魔力の収束砲がジ・エーデルに向けて放たれるが、その収束砲は王冠に触れると同時に霧散した。
『『『『『『ふざけてなんかいないさぁ。僕は本気で世界を守ろうというんだよ?ここにあるすべてのスフィアを僕の物にしたら僕はこの技術力で君達に奉仕しようじゃないか。大丈夫だよ。僕の邪魔をしなければ僕をこき使ってくれても構わない。…ああ、君達のスフィアを貰うには殺さないといけないね。だとしたら君達の為にその技術はふるえないね。死んでいるから♪これは失敬失敬♪』』』』』
『…貴様。…どこまで狂っている!』
リインフォースがその顔を憤怒に染めながらジ・エーデルを睨みつける。
その顔を見ながらジ・エーデルは笑って答えた。
『『『『『『どこまで?そんなの決まっているじゃないか』』』』』
『『『『『『何から何まで全部だよ!』』』』』
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