No.618008

リリカルなのはSFIA

たかBさん

第四十五話 『嘘』の絶望。『狂気』の水瓶

2013-09-10 05:22:22 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3227   閲覧ユーザー数:3007

 第四十五話 『嘘』の絶望。『狂気』の水瓶

 

 

 

 地上に落下してくる『聖王のゆりかご』をはやて達が壊そうとしている時、地上でも管理局員達は彼女達が打ち漏らした瓦礫の破壊を行っていた。

 その中にはシャマルとザフィーラ。そして、ティアナもいた。

 レジアスも自分の身の安全ばかり考えてシェルターに引きこもっているだけでも十分なのに、瓦礫の迎撃が可能な管理局員を自分の元から離そうとしないある程度位の高い局員をぶん殴って気絶させた後、「今は君のような力を持った人間が一人でも必要だ」と、言い同様にくすぶっていた局員達を送り出していた。

 

 砲撃が可能な管理局員は地上から少しでも瓦礫を砕こうと、

 飛行が可能な管理局員は悪路で進めなくなった道を渡る橋代わりとなって逃げ遅れた人達を避難区域まで運んでいた。

 そして、

 

 「断空拳!」

 

 ドゴンッ!

 

 瓦礫が人に当たる直前にそれを魔力で強化を施した体で砕く者がいた。

 

 「ありがとうよお嬢ちゃん。私よりも小さいのに助けてくれて、管理局はやっぱりすごいんだね」

 

 「…いえ、私は管理局員では。いえ、そんなことより早く非難してください」

 

 銀の髪と左右の瞳が違う少女は逃げ遅れた人達を守る為に己の力を振るっていた。

 今、力の出し惜しみをしている場合ではない。と、この町に生きている者として、力を持つ者として動いているにすぎなかった。

 

 「っ」

 

 「…?どうしたんだいお嬢ちゃん」

 

 「…いえ、何でもありません。行きましょう」

 

 少女は先祖代々、強力な魔力を引き継いでいる。だからこそ空から降ってくる瓦礫。いや、魔力に疑問を感じた。

 

 (…先程砕いた瓦礫に魔力?空で戦っている管理局員の魔力の残滓?でも、こんなに空虚(・・)な魔力は?)

 

 少女は自分が砕いた瓦礫を確認しようとしたが力のない避難している人達を守らねばならない。

 だから、確認することが出来なかった。

 まるで風景に溶け込んでいくかのように、まるでそこにあったのが()だったように消えていく紅色(・・)の瓦礫の破片を。

 

 

 リインフォース視点。

 

 ギィイイイイイイイインッ。

 

 高志とアリシアが抱き合っている光景を見てしまった。その瞬間まるで金属音のような高い音が鳴り響いた。と、同時にリインフォースの中にあるスフィアが反応した。

 

 「っ。これは、まさか?!」

 

 「っ!?皆さんアレを見てください!」

 

 はやて同様に瓦礫を砕いていたエリオが何もない。いや、何もなかったはず(・・・・・・・・)の空を指さす。

 そこには…。

 

 「紅色(・・)の『聖王のゆりかご』?!」

 

 先程砕いたばかりの全体の1/3になった『聖王のゆりかご』があった。

 ただし、砕いた『聖王のゆりかご』とは違い全体が紅色に染められた船の残骸だった。

 

 「攻撃ぃいいいいいっ!攻撃が出来る奴はあの『聖王のゆりかご』もどきを全力攻撃ぃいいいっ!絶対に落とすなぁあああああっ!!」

 

 はやての叫び声にも似た声を聴いた全員が攻撃に移っていく。

 

 「火竜一閃!」

 「VXブレイザァアアアッ!」

 「ザ・グローリースター、フルバーストォオオオオ!」

 

 シグナム。リニス。そして、リインフォースの攻撃を受けて『聖王のゆりかご』もどきは爆散する。

 見た目とは裏腹に本家のゆりかごよりも装甲があっけない程脆かった。

 それが拙かった。

 爆散したもどきの船の破片の中にはビル一つ分の大きさはある瓦礫があった。

 それを破壊するにはシグナムの剣戟も今はなった全力攻撃の所為で鞭のようにしなった状態では届かない。

 リニスとリインフォース。はやての砲撃も威力と射程が強すぎるので破壊できない。

 それが分かったからだろう。

 

 「ストラーダッ!カートリッジロード!」

 

 エリオは己が振るう槍に命じてその身を雷の矢の如く空を疾駆する。

 その矢はビルほどの大きな瓦礫を一度貫くと、反転して再度ビルに突撃する。

 反転していくたんびにその瓦礫は小さく砕かれていく。が、それはエリオの自身の身と彼自身が持つ槍も同様だった。

 そして、その瓦礫を完全に砕き斬ると同時に槍も砕け、彼の小さな体は地上へと落下していった。

 

 「エリオ!」

 

 シグナムがそれを見て助けに行こうとするがそこに念話が入ってくる。

 

 (大丈夫です!バリアジャケットはまだ展開されてます!これなら地上に落ちても平気ですから構わず攻撃を)

 

 そこでエリオの念話が切れた。

 もう見えなくなった彼の姿に無事を願わずにいられなかったが、もどきの船の残骸は未だに残っていた。

 

 「フレーズベルク!」

 

 ドオオオオオオオオオオンッ!!

 

 はやてが当たりに飛び散らないようにいつもよりも精度をあげた魔力砲撃を行う。

 そのお蔭でか、残っていた瓦礫はすべて吹き飛ばされた。だが、

 

 「…嘘やろ」

 

 爆散したもどきの船の陰に隠れていた所為だろうか。

 

 

 

 二つ目(・・・)のもどきの船が立ち込める砂煙の向こう側から現れた。

 

 

 

 「こん、ちくしょぉおおおおおおおっ!」

 

 はやては残りわずかになった魔力を振り絞って砲撃を行う。

 そんな彼女に続いてシグナム達も攻撃に移る。

 だが、それでも完全に二つ目のもどきを砕くことは出来なかった。

 

 「ごめんね。レイジングハート。リイン。私の無理に付き合って…」

 

 [いつものことです]

 

 (出来ることをしてから後悔はしたいです。だから、気にしないでください)

 

 はやて達が攻撃を行っている間になのはとヴィータはアースラの甲板の上に降り立っていた。

 なのはを支えるように立つヴィータもそれ以上の事が出来なかった。

 なのはの持つ杖。レイジングハートの矛先に魔力光が集まる。

 

 「スター…」

 

 今まで攻撃したはやて達の魔力の残滓をかき集めて、なのはは砲撃しようとしている。

 もちろん、これはタダで撃てるものではない。

 自分の魔力ではない。いわば異物をかき集め固めるという作業でも負担はかなりかかる。

 ブラスターモード。そして、二度目の無茶な収束砲撃。なのはの体は限界を迎えていた。

 

 「ライトォ」

 

 だが、このもどきの船が落ちれば多くの死者を出すのは明白。だからこそ…。

 

 「ブレイカァアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 桜色の光がもどきの船を呑みこんでいった、

 そして…。

 

 

 

 

 

 その光の中から三つ目の船の影が生まれるのを彼女達は見てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 そこはレジアスが管理局の闇の根源を見た部屋だった。

 部屋の中には脳みそだけプカプカと浮かべられた試験管のような柱が建っていた。

 それだけなら、以前と何も変わっていない風景だったのだが、そこには金髪の髪を有し、左右の目が赤と緑と言う人間らしき人影が幾つもあり、彼等の見つめる先にはゆりかごの中にあったアークライナスの鎧。そして、アークライナスを包み込む程の巨大な王冠があった。

 これは『聖王のゆりかご』にあったアークライナスのオリジナル。

 それは人が着込むには巨大すぎる鎧。巨人の鎧かと思わせる純白の鎧。

 その部屋にいる人影達からは寸分狂わない声で会話をする。

 

 人影の一人。ここではAと明記させてもらおう。

 それ以降の人影をB。Cと、明記させてもらう。

 

 『最終チェック終了。目の前の僕とのリンクを確認。リンク終了。アークライナスを起動』

 

 機械的な声がオリジナルのアークライナスから発せられると、Aは願う。

 あの桜色の砲撃はエースオブエース。高町なのはの放つ光

 避難警報に従って避難している民衆はただ降りかかる恐怖におびえていることしか出来ない。そんなわずらわしさを感じながらも、そんな民衆を救うことが出来る彼女達を羨ましくも思う。

 力があれば。と、

 このような危機に立ち向かえるだけの力があれば・・・。と、

 純粋にそう願う。

 

 BはAの様子を見て嬉しそうに一人納得する。

 僕がそう思うように。完全に慈悲の心を仕込んだ僕に『尽きぬ水瓶』が反応した♪

 純粋な『自分以外の誰かを救おう』という意思を確認♪

 やはり、これぐらいしないと『尽きぬ水瓶』のスフィアは目覚めないんだな♪

 だから、今機動六課とゼクシスに事件をここで終わらせてもらったら困るんだよねぇ♪

 

 Cもまた嬉しそうにAを眺めている。

 よし、そのまま。そのまま。良い調子♪その調子だよ僕♪

 ジェイルが僕に復讐するように。と、『国が滅亡するほどの危機』の条件は満たしていたからね♪

 

 Aは願う。

 …力は、ある。僕は僕と違う僕を助けることが出来る。

 僕は僕以外の僕を救う。

 それがこの世界を救うことになるから。

 

 Bは試験管のような柱の中から脳みそを丁寧に引き出すとオリジナルのアークライナスの頭部に植え込む。

 そして、『偽りの黒羊』の力で自分達自身を騙していることを確認する。

 AはBでもあり、Cでもあると。

 BもまたAであり、Cであると。

 CもAでありBであると。

 Aを除き、B以降の人影は真面目にではなくまるでテレビの向こう側で行われている喜劇を眺めている感覚でグラナガンの危機を楽しんでいる。

 それなのにAもBもCも同じ人間だと、思い込ませている。

 

 『偽りの黒羊』の力でここにいる自分達は一人の人間だと本気で思い込んでいるのだ。

 そうする事により、Aが発動させた『尽きぬ水瓶』のスフィアの力をBもCも使えるようになるのだ。

 

 Cは思いにふける。

 二百年以上も前に手に入れた『尽きぬ水瓶』のスフィア。だが、自分では発動させることが出来なかった。

 

 条件が厳し過ぎたのだ。

 『尽きぬ水瓶』のスフィアは『国が滅びかけない程の危機に苦しむ他人すらも救おうという慈悲の心をもった人間』でないと発動させることが出来ない。

 どこかの国に所属もしくは統治していて、その平和を脅かす存在が必要である。

 カプセルに自分の脳みそを補完することで自我を保ってきた。

 

 

 だが、狂気と称されたこの性格では『尽きぬ水瓶』を発動させることは出来ない。

 そこでAという『慈悲』を司るクローンを作り、『尽きぬ水瓶』を発動させることのできるもう一人の自分を作り出す。だが、ここでも問題が起こる。

 

 狂気でない自分は自分ではない。せっかく聖王のクローンと言う最強と言われた最高の肉体を手に入れたのに狂った性格の自分が楽しめない。

 そもそもクローンにはクローン自身の自我が生まれる。だから、全く同じDNAを使ってもその性格まで瓜二つになることは出来なかった。

 

 

 

 そう…。

 プレシア・テスタロッサがアリシアのクローンを。

 アリシアの記憶を僅かながらも継承したフェイトの存在を知るまでは。

 

 

 

 そこからは破竹の勢いで事が進む。

 プレシア・テスタロッサの研究データからクローン技術を盗み、更に自分が得た知識を織り交ぜて作り出したクローンに自分の『狂気』を植え込むことに成功。

 『偽りの黒羊』の力で自分達を同一の存在と認知、リンクさせることにも成功した。

 

 

 

 つまり『偽りの黒羊』の力で『尽きぬ水瓶』を騙し、使用する事が可能になったのだ。

 

 

 

 作り上げたクローンは多少自分との違いはあってもちゃんと自分らしさの『狂気』を持っていた。

 ジェイル・スカリエッティの研究成果もあってか聖王のクローンでありながら『狂気(自分自身)』を植え込むことにも成功した。

 しかもそこにアサキムから渡された『偽りの黒羊』の力で細かい調整も終え、管理局の暗部が行ってきたことも全て『慈悲』だとAに思わせることに成功し、『尽きぬ水瓶』を発動させることに成功した。

 

 

 

 Aは戦いに赴く。

 グラナガンに済む人たちを救うためアークライナスを起動させ、グラナガンの人達が安心して眠れるように『傷だらけの獅子』『揺れる天秤』『悲しみの乙女』の三人のスフィアリアクターを倒すと。

 

 Bは笑みをこぼす。

 これから行う事。それは『偽りの黒羊』で誤認した『尽きぬ水瓶』の力を思う存分に触れることが楽しみで楽しみでたまらないから。

 そして、『尽きぬ水瓶』の力を使えば使うほど『傷だらけの獅子』のように自分が苦痛に苛まれるという被虐的な快感に。

 そして、今から見られるだろう機動六課とゼクシスが絶望に苦しむ表情を想像しただけでゾクゾクと走る加虐的な快感に。

 

 その考えはC以下の人物にも該当していた。

 この争いには『知りたがる山羊』の力を持つアサキムも必ず参加するだろう。

 何故なら自分達を含め、その場に五つのスフィアがあるのだから。

 乱戦。それは結末がどうなるか分からない。下手すれば自分がやられるかもしれない。今まで二百年以上も積み重ねてきた計画が泡沫の夢に終わる。

 だが、その喪失感の恐怖すらも楽しみにしている自分に。

 

 

 

 もうお分かりだろう。

 この人影の一人一人全てが『狂気』を人の形にした。ジ・エーデルであることに。

 そして、幕が上がる。

 これまでにない程のスフィアリアクター達による戦いの幕が。

 

 


 
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