No.61845

曹魏アフター・封神伝03

上弦さん

四話目投稿させていただきました。
やっと、真の原作キャラとの接点作れました。

2009-03-06 17:00:02 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:6974   閲覧ユーザー数:5370

「卑弥呼を探すじゃと!?」

 

 仕事を終え、久遠の分の賄い飯を持って部屋に戻り先ほどのやり取りを伝えたところ、久遠は大声を上げた。

 先ほどのやり取りというのは、壱与が師である卑弥呼を探して大陸に来たということから始まる。

 実は壱与がアルバイトをしている理由というのが、卑弥呼を追ってこの大陸に来たはいいものの、右も左も分からず迷いに迷った結果、偶然この店の前で行き倒れたらしい。

 

「戦後一年して、もう大きな戦は無いと思うけど、女の子一人で大陸を旅させるには、まだ危ないと思うし」

 

 ならば、許昌まででも一緒に行かないかと提案したのだった。

 許昌なら、三国中の情報が集まるだろうし、張三姉妹がいれば興行先で見かけなかったか聞くこともできる。

 

「…で?何故、余達まで探すのを手伝わなければならないの」

 

 久遠は心底嫌そうな表情でいる。

 

「いや、ほら俺達も行き倒れてるとこ助けてもらったし、そのお礼に」

 

 一刀の返事を聞いて久遠は呆れたように深く溜息をついた。

 

「そんな理由で、あんなものを探す気になったのか。とんだお人好しじゃな」

「あんなもの?」

 

 まるで久遠は卑弥呼のことを知っているかのような口ぶりに疑問を覚え、聞きかえすと、久遠は「しまった」という表情した。

 

「いや、なんでもない」

「?…まぁいいけど。べつにいいだろ、南昌から許昌まで結構あるし、旅するんなら人数は多いほうがいいし」

「いいもなにも。もうその壱与とかいう娘と約束してしまったのだろう」

 

 どうやら、お見通しらしい。

 一刀は笑いながら頷いて返事をすると、久遠は机に肘を乗せて溜息をすると、そっぽむいた。

 

「戻って早々に種馬根性発揮とはな」

「な…」

 

 久々に呼ばれた呼び名に戻ってきたんだなという嬉しさ一割、不本意に呼ばれる悲しさ九割。

 っていうか、なんで知ってるんですか?この人

 

「魏の面々にヤキモチで首を斬られんことだな」

「う…」

 

 どちらにしろ、どこをほっつき歩いていたと春蘭あたりに大剣持って追いかけられそうな気がする。

 そんなことを考えたら自然に鳥肌が立ってきた。

 今までにも何度か追いかけられたことはあったが、あれは慣れない。

 戦場の怖さも最後まで慣れなかったが、あれはまた違う意味で怖い。

 

「まぁよい、どうせ余が反対しても無駄なのだろう?なら反対するだけ意味がない」

「よかった、ありがとう」

「礼などよい。じゃあ、出立は一週間後だと伝えてこい」

 

 一刀はわかったと返事をすると、壱与に予定を伝えるために部屋を出て行った。

 

「あの髭ダルマが来ているということは、あのバケモノも一緒なのだろうな」

 

 残された久遠は、もう一度盛大にため息をついた。

 

「今更ながら、この外史に来たのは間違いだったかの」

 

 後悔先に立たず、いくら退屈だったとはいえ、あの暑苦しい二匹に関わるのは避けたかったのだが。

 

「アヤツらが魏にいないことを願うほかないか」

 

 左慈たちもあんな言葉だけで考えを変えるとも思えない。

 おそらく、間接的に一刀を排除しにかかるだろう。

 

「人形を使うか、または他の勢力を利用するか。どちらにしても面倒なことだ」

 

 

「姉さん、あそこ。南昌で一番人気の点心が食べれるんだって」

「ほんと、ちぃちゃん。じゃあ食べてこうよ」

「ちょっと、姉さん。公演まで楽屋に戻らなきゃならないんだから…聞こえてないわね」

 

 そう言って聞くはずもなく天和と地和は点心の売っている店へ突撃していった。

 そんな姉達に人和は溜息をついていたが内心、そんな天和と地和の姿に安心していた。

 

「一刀さんがいなくなってから、もう一年か…」

 

 一刀が姿を消してから一年、長かったような短かったような。

 蜀呉との決戦から帰ってきた軍の中に一刀の姿が見えなかったとき、底知れない不安を感じたのは人和だけではなかった。

 一刀の所在を聞こうと北郷隊の凪、沙和、真桜の三人のところに行ったところで不安は確信に変わった。

 戦に勝利して、やっと戦乱の世が終わったというのに三人は意気消沈していた。

 それでも一抹の希望に縋るように聞いて返ってきたのは、北郷一刀は天命を全うして天に帰ったという言葉だった。

 華琳にどういうことなのかを聞きにいっても返ってきたのは同じ答えだった。

 人和は、それを聞いて足もとが崩れるような感覚がした。

 今まで自分を支えていたものがなくなってしまったような。

 それは、姉二人も同じようだった。

 

「わぁ、すごい混んでるね」

「う~ん、これだと中で食べてくのは無理ね」

 

 天和も地和も数日泣き続け、歌を歌う気力も失うほどだった。

 人和も二人同様に声を大にして泣きたかった。

 でも、それはできなかった。

 自分まで泣いてしまったら、今まで一刀と一緒に積み重ねてきたものまで崩れてしまいそうな気がしたから。

 

「なら、波才さんに買ってきてもらおうよ」

「無理。姉さんたちに振り回されたせいで楽屋で休んでる」

「え~、情けないわね。一刀ならあのくらい平気でいたわよ」

「一刀と同じように見るのはかわいそうだよ、ちぃちゃん」

 

 波才は一刀の代わりに雇用した世話役だった。

 期間は一刀が戻ってくるまでということで雇用したのだが、本人は一刀以上の働きをして自分の実力を認めさせ正式に雇用させようと考えていた。

 しかし、そんな考えも今や昔のこと、日中天和と地和の二人に振り回されて胃の薬を手放せない日々、最近では一日でも早く一刀が戻ってきて、この仕事から解放されることを願っていた。

 

「仕方無いから、私が並んで買ってくるわ。姉さんたちは先に楽屋に行ってて」

「わーい、ありがとう!れんほーちゃん♪」

「じゃあ、一人二人前ずつでよろしく!」

「ダメ」

 

 前にもあったようなやり取り。

 ぶぅぶぅと文句を言う姉二人を説き伏せると二人を楽屋に向かわせて人和は店の列に並んだ。

 今日は南へ、明日は西へ、黄巾党のときにも同じように興行で行っていたが、あのときとは全く違うような感じがする。

 これも一刀が居てくれたおかげかもしれない。

 

「一刀さん、どこにいるんだろ」

 

 しばらくすると、列が進んでいき列の順番が人和に回ってきた。

 売り場の前までいくと割烹着を着たおばちゃんが、笑顔で点心を売っていた。

 

「桃饅頭三人前」

「お譲ちゃんラッキーだったね。桃饅頭、お譲ちゃんの分で最後だよ」

「らっきぃ?」

 

 聞いたことの言葉に聞き返す。

 

「あぁ、すまないね。最近、雇ってた若いのがよく使ってたからうつっちまってね」

「若いの?」

「ああ、珍しい服を着ててね。どこの言葉だか聞いたら天界とか言ってね」

 

 おばちゃんの言葉に人和は目を見開いて驚いた。

 

「運がいいって意味らしいけど、ホントかどう…」

「おばさん、その人の名前教えて!!」

 

 突然の大声と気迫に今度はおばちゃんが驚いた。

 

「な、なんだい知り合いかい?確かカズトって名前だよ」

「その人って、こんな顔してた?」

 

 おばちゃんの口から出た名前に顔の表情を明るくすると、今度はいつも持ち歩いていた一刀の似顔絵が描かれた紙を取り出して見せた。

 

「そうそう、こんな顔だよ」

「今、どこにいるの!?」

「もう南昌にはいないんじゃないかね。お義姉さんと一緒に旅してるって言ってたし」

「お姉さん?」

 

 先ほどの喜びもどこへやら、不穏な単語が聞こえた。

 確か一刀に兄妹はいないはず、なのにおばちゃんの話では一刀は姉を名乗る女性と旅をしているらしい。

 先ほどまでの喜びも引いて、冷静になってくる。

 

「どこに行くとか言ってなかった?」

「さぁね、とりあえず許昌に行くとは言ってたけどね。もう一人雇ってた娘も連れて一昨日、出発したよ」

「そう」

 

 とりあえず、魏に戻ろうとはしていることは確かなようだ。

 しかも、義姉を名乗る女性ともう一人を連れて…。

 

「ハァ」

 

 元気でいたことと自分たちのところへ帰ってこようとしてくれていることは嬉しかったが、節操無しなところまで健在なことに人和はおきれてしまっていた。

 

「ありがとう、おばさん」

「あいよ、また来ておくれよ」

 

 人和はお代を渡して三人分の桃饅頭を受け取ると駆け足で二人の姉が待つ楽屋へとむかった。

 

 

「姉さんたち!!」

 

 扉が壊れんばかりの勢いで開き、人和が楽屋に入ってきた。

 

「どうしたのよ人和、そんなに慌てて」

「慌てなくても、お姉ちゃん達はもう準備できてるよ。それより買ってきてくれた?」

 

 天和と地和は舞台衣装に着替え、人和が買ってくる点心を待っていた。

 

「人和さんも着替えてください。もう観客も大勢入ってきてますから」

「わかった。あと波才さん墨と紙を用意しておいて。あとはいこれ、姉さんたち」

 

 波才が衣装を持ってくると人和はひとまず衣装を受け取ると、天和たちに買ってきた桃饅頭の入った袋を渡して、波才には墨と紙を用意してもらう。

 

「わーい、ありがとう。れんほーちゃん」

 

 桃饅頭の入った袋を受け取ると天和は嬉しそうに袋を開けて、取り出した桃饅頭を地和に分けた。

 

「墨と紙って、今から手紙でも書くっていうの」

「ええ、華琳様に緊急の報告があるの」

 

 人和は素早く舞台衣装に着替えると、天和と地和に抱きついた。

 

「一刀さんが帰ってきた」

「……」

「……」

 

 呆気に取られる、天和と地和。

 

「…ほんと?」

「それ、ほんとなの人和!?」

「うん。一昨日まで、さっきの店で働いてたみたい。似顔絵も見せて確認したから間違いないと思う」

 

 二人も嬉しくなって一緒に抱きしめ合う。

 

「それで?アイツ今どこにいるのよ」

 

 地和がそれを聞いた瞬間、人和の動きがぴたりと止まった。

 

「許昌に向かってるみたい、女の子二人連れて…」

 

 人和が店のおばちゃんから聞いたことを言うと、天和と地和のぴたりと止まった。

 そして、三人の顔には見た者を畏縮させる笑みが浮かんでいた。

 

「へぇ~女の子二人と一緒に…」

「これは早速迅速に華琳さまに報告すべきね」

「そのつもり」

 

 三人は笑みを浮かべたまま、波才に用意してもらった紙に人和が華琳宛ての報告書を書きはじめる。

 天和と地和は、横からあれやこれやと報告内容に尾鰭をつけるように言う。

 三人の様子に波才は痛む胃を押さえながら、楽屋の隅で震えていた。

 そして、書き終えるとそれを折りたたむ。

 

「波才さん、これを早急に華琳さまに届けて」

「え…と…今からですか…?」

 

 波才はびくびくしながら聞き返す。

 

「………」

「………」

「………」

「い、今からなんですね」

 

 答える必要があるんですか?無言で応える三人に波才は薬を纏めて飲み込むとすぐに楽屋を出て行った。

 がんばれ波才さん、これを乗り切ればどんな仕事も楽なはずだ。

 

「さて、と。もう公演の時間だね」

「今夜、いつも以上に盛り上げちゃんだから」

「うんうん、おねえちゃんも張り切っちゃうんだから」

 

 そして、三人は舞台に走って行った。

 

 

――――そのころ

 

「??」

 

 突然の寒気に一刀は身を震わせた。

 

「どうした一刀?」

「いや、なんか突然寒気が…」

「風邪でもひいた?」

 

 壱与が心配そうに一刀を見る。

 

「う~ん、たぶん違うと思う」

 

 風邪とは違うと思うが、風邪よりも性質の悪いもののような気がするのはなぜだろう。

 

「それで、これから何処に行くの?」

「ここから北に向かい建業へ向かう予定じゃ」

「建業?直接、許昌に行くんなら遠回りにならないか?」

「旅と同時にこやつの師を探すのだろう。ならば、普通の街よりも都に寄ったほうがよかろう」

 

 確かに、と壱与と一刀は納得した。

 

「それに、どちらにせよ長江を渡らなければならんしの」

「…長江か」

 

 長江の名前が出ると一刀の表情に一瞬、影がさした。

 


 
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