No.616776

高みを目指して 第16話

ユキアンさん

久しぶりの更新
今回は零樹sideです。
というより今回からテンポよく行きます。

2013-09-07 05:57:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2110   閲覧ユーザー数:1968

 

side 零樹

 

 

「この世界も外れか」

 

燃える村の中で左手で掴んだ悪魔の頭を握りつぶす。ここにもアリスは居なかった。目の前には憎たらしい顔を持つ少年の死体が転がっている。オレの魔法に巻き込まれて左半身が吹き飛んだのだ。

 

「次の世界だ」

 

背後に現れた銀色のオーロラを潜り、限りなく近くて遠い世界に渡る。そこもまた燃える村で悪魔が闊歩している。

 

「命が欲しければオレの邪魔をするな」

 

オレの言葉を無視して悪魔共が襲いかかってくる。

 

「召還されただけで本体が悪魔界にあるからと油断したのが運の尽きだ」

 

悪魔の消滅専用の術式を起動させて魂を打ち砕いていく。途中、ナギさんが戦闘に介入して来たが無視してアリスを捜し続ける。しかし、見つからない。見つかったのは両足が砕けたネカネさんと自分の慎重の2倍以上ある杖を震えながらオレに向かって構えるナギさんに似た少女だけだった。

 

「安心しろ。危害を、あ~、君たちを襲うつもりは無い。オレは人を捜しているだけだ」

 

「ほ、本当?」

 

「ああ、本当だ。それよりこの人は君のお姉ちゃんかい?」

 

「うん」

 

「悪魔の石化光線で石化した所が壊れたようだな。さすがにこれは治療出来ないな」

 

「ええ!?ネカネお姉ちゃん、もう歩けないの!!」

 

「大丈夫だ。本物そっくりの義肢、あ~、まあ足をつければ日常生活、普通に暮らす分には問題無い。それよりも、ここは危ないから移動するぞ。空は、飛べないよな。ほら、おぶってやる」

 

少女に背中を向けてしゃがむ。しばらく待っていると意を決したのか背中に抱きついて来た。落ちない様にバインドで少女をオレに固定してネカネさんを抱き上げて空を飛ぶ。場所が変わっていないのならこの先に魔法学校があるはずだ。しばらく飛んでいると新たに呼び出されたと思われる悪魔が後ろから魔法の射手を飛ばして攻撃してくる。

 

「汝は炎、空を舞う気高き魂」

 

コートの中から符を飛ばし、炎の鳥が魔法の射手を迎撃する。

 

「数が多いな。少し大技を使うしか無いな。耳を塞いでいろ、五月蝿いぞ」

 

空中に足場を作ってその上に立ち、詠唱を始める。

 

「メイル・ラン・ボーテクス、四重詠唱、契約に従い我に従え高殿の王、来れ巨神を滅ぼす燃ゆる立つ雷霆。百重千重と重なりて走れよ稲妻。千の雷」

 

視界を覆い尽くす程の雷撃が悪魔の群れを飲み込み、消滅させる。

 

「す、すごい」

 

「今ので終わりのようだな。それから、お迎えが来たようだぞ」

 

魔法学校の方角から多くの魔法使い達がこちらに向かって飛んで来ている。

 

「オレはもう行くぞ」

 

地面に降り立ち、ネカネさんと少女を降ろす。

 

「待って」

 

次の世界に向かおうとした所で少女に抱きつかれて止められる。オレは何故かそれを振り払えずに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから時は流れ、オレはまだ同じ世界に居た。オレは見極めたいと思ったのだ。あいつを、ネギ・スプリングフィールドという存在を。アリスを殺し、あの災厄を引き起こした奴は、どうしようもない悪だったのかをオレは知りたくなった。

オレが背負っていたあの少女、それがこの世界のネギ・スプリングフィールドであった。基本的に比較的近い世界、同じ原作の世界においてTSが発生しても本質は同じなのだ。少女になっているおかげでアリスの仇であるあいつとは違うと思えるのが心に余裕が持てる理由だ。男のままでは姿を見ると同時に身体が動いてしまう。

 

魔法学校からの救助部隊と合流した後、オレはネカネさんの義肢を用意し、ネギの暮らしていた村の人々の永久石化を治療を行った。治療方法はアリスが生前に編み出した使い捨ての解呪用の短剣を投影で産み出して使用した。魔力をかなり消耗するので2週間に分けて解呪していった。その後はMMの元老院がうるさかった。技術を公表しろや、偉大なる魔法使いに認定してやるからこちらの指示に従えや、最終的には賞金をかけるぞと脅されたが無視した。もちろん何もしなかった訳では無い。村人を救った後、オレは魔法学校の近くに滞在して小さな診療所兼雑貨屋をやり始めた。それと同時にオレが英雄の生まれ故郷を救ったという噂も流した。おかげで容易にオレに手出しが出来なくなった。小さな診療所と言っても医師がオレ一人なので治療出来る人数が少ないだけで救えない人は居らず、雑貨屋と言っても数は少ないが魔法関係の触媒や素材で手に入らない物は無いという超優良店なのだ。最も出張治療や販売は行なっておらず、過激な人物や裏でMM元老院と繋がっている人物には売らないのでMM元老院からの評判はかなり悪い。オレは評判など関係ないとばかりに店を続けながらネギの面倒を見ている。

まあ、なんだ、懐かれた。最初はおどおどとして隠れたりしていたのだが、義肢の面倒を見ていたりして縁が出来ていたネカネを魔法学校を卒業後に店で雇ってから店に良く顔を出す様になり、次第にオレに慣れたのか暇さえあれば店に顔を出す様になった。基本的にオレは子供好きだし、最近(60年程前)まで二児の父親をやっていたから子供の扱いには慣れている。それで世話を焼いていたら懐かれた。信じられない事にネギはオレとスタンさん以外に怒られた事が無いと言うのだ。明らかに傀儡にするのが目に見えてしまったので無理矢理保護責任者の地位を手に入れたのは間違っていないはずだ。オレはヴィヴィオやエリオの時と同じ様にネギに躾を施しながら、ちょっとばかりこの世界に無い技術を教えながら暮らしてきた。そして6年の時が立ち、ネギは今日魔法学校を卒業する。卒業試験の内容は原作と同じく麻帆良で教師をやる事だろう。卒業式が終わり店にやってきたネギは不安そうな顔をしていた。

 

「どうした、ネギ?」

 

「……お兄ちゃん、試験の内容なんだけど」

 

そう言ってオレに卒業証書を見せてくる。内容は日本で教師をやる事か。

 

「上は何を考えているんだ?10歳にもなっていない子供を先生にするとは」

 

「やっぱりおかしいよね。僕に先生なんて無理だよ」

 

「今は絶対に無理だな。だが、どうする?試験を合格出来なければ立派な魔法使いにはなれないが」

 

「……お兄ちゃん、昔の約束覚えてる?」

 

「オレが立派な魔法使いを辞退する理由を教える約束か。覚えていたか」

 

「うん。卒業するときまで覚えていたら教えてくれるって。教えて、何故辞退するの」

 

「旅に出るぞ、ネギ。荷物を纏めておけ」

 

「えっ、それはどういうこと?」

 

「答えは自分の目と耳と足で知る必要がある。これはお前の両親にも関わる事だ」

 

「僕の両親の!?」

 

「お前は知るべきだ。お前の父と母が為した事を。それによって産み出した罪を。そしてその罪以上の悪を。幼いお前には耐えられないかも知れない、だが目を反らす事は許されない。お前はそういう産まれなのだ」

 

「父さん達が、でも、そんな、いや、だけど」

 

「今はその考えを置いておけ。答えは旅の最後に出すんだ」

 

「……うん」

 

「さあ、今日はゆっくり休むと良い。夕飯は好きな物ばかり作ってやる。出発は三日後だ」

 

「うん」

 

「辛い旅になる。だが、この旅は必ずお前の人生の糧になる。それだけは覚えておくと良い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後、オレとネギは魔法世界の土を踏んでいた。

 

「ここが魔法世界」

 

「そうだ。日常的に魔法が使われている箱庭の世界だ」

 

「箱庭?」

 

「その意味もこの旅で分かる。まずはグレート=ブリッジに向かうぞ」

 

「うん」

 

ネギが杖に跨がり、オレは影の倉庫からボードを取り出してそれに乗る。二人で空を飛びながらグレート=ブリッジまで二日をかける。その間も念のために日本語の勉強も行なう。

 

「うわぁ~、凄く大きな橋だね、お兄ちゃん」

 

「20年前、MMとヘラスの間で戦争が起こった」

 

「お兄ちゃん?」

 

「ここはMMの首都目前の最後の要所であるが、帝国側は大規模な超長距離転移魔法を用いた奇襲を行い、占拠した。そしてMMは状況の打破の為に強力な傭兵部隊を投入することにした。赤き翼、お前の父、ナギ・スプリングフィールドがリーダーの部隊だ」

 

こちらを見たネギに幻術をかけ、過去の映像を見せる。

そこにはナギさんを中心に赤き翼のメンバーが帝国の兵士を殺していく姿が見える。

 

「あ、ああ、あああ」

 

幻術内でナギさんは楽しそうに人を殺していく。その光景にネギはかなりのショックを受けている。

 

「こうして赤き翼の活躍によりMMはグレート=ブリッジの奪還に成功した。ここからしばらくの間、赤き翼を中心としてMMは反撃に出る」

 

そこまで話した所で幻術を解く。

 

「今日はここまでにしておこう。宿の方に行こう」

 

ショックで落ち込んでいるネギを抱き上げて宿の部屋に戻る。抱き上げるとネギはオレを離さない様にぎゅっと服を掴んでくる。何も言わずに背中を軽く叩きながらベットに腰掛ける。そのままネギが自分から離れるまでそっとしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤き翼の足跡を辿る旅は続き、少しずつネギの心は摩耗し始めてきた。宿に戻ったときや周りに人の目が少なければすぐに甘えてくる。すぐに抱きついてきたり、風呂やベットを共にする。自分の存在を保つ為に。幼く優しい彼女の心には父親が為してきた行為を受け止める事が出来なかった。半分も消化していないがネギ・スプリングフィールドの本質は理解出来た。ネギは何処までも純粋なんだ。純粋だからこそ染められた、染まってしまった。周りの大人達に。そして今はオレのエゴに。もしウェールズの山奥で魔法学校に通わずに、普通の都市の普通の学校に通っていたのならネギは幸せに暮らせたのかも知れない。いや、オレが魔力と記憶を封印して顔を整形させれば今からでも幸せになれるはずだ。だが、これもオレのエゴか。答えを出すのはネギ本人だ。それまでオレは待とう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅の終わりに近づき、オレ達はオスティアに足を踏み入れた。

 

「あそこに見える場所、あれが赤き翼と完全なる世界の最終決戦が行なわれた場所だ。そこで完全なる世界の首領を打ち倒し、いや、打ち倒したのは依り代だけだったか。まあ、倒した事により完全なる世界の儀式が暴発し、それをお前の母、アリカ・テオタナシア・エンテオフシュアが率いる艦隊の封印術式により抑えられた。そして、その代償が目の前に広がる風景だ」

 

おなじみの幻術によって過去を再現しているのだが、目の前で多くの浮遊大陸が落ちていく。まだ人が残っている浮遊大陸がだ。

 

「最終決戦で用いられた封印術式により、この一帯に魔力消失現象が発生した。アリカ・テオタナシア・エンテオフシュアは、自らの国を代償に魔法世界を救った。そして死の奴隷法などが生まれ世界は混乱期に入り、MMは混乱を収める為にアリカ・テオタナシア・エンテオフシュアに全ての罪を被せ、処刑した。表向きはな。実際にはナギが救い出し、その後の足取りはよく分かっていないが何かを追っていたみたいだな。そして今から10年程前に二人の間に産まれたお前をナギの故郷であるウェールズの村に預けた後、消息不明となっている。オレの独自の調査により、完全なる世界の首領の魂をナギの身体に入れて封印したようだな。今日はここまでだ。明日は赤き翼が知ってしまった魔法世界の秘密を教えよう。そしてネギがどうしたいか答えを出してもらう。それで今回の旅は終わりだ」

 

そして何時もの様にネギを抱きかかえて宿に向かおうとする。

 

「見つけた!!」

 

オレ達に向かって叫んだ男の方を見る。そこには白いスーツで身を固めた男が立っていた。

 

「ネギちゃん、僕と一緒に帰ろう。ネカネさんも心配しているよ。君も大人しくするんだ。今ならまだどうにかなる」

 

「高畑・T・タカミチか。今は邪魔をされるわけにはいかない。お前達の歪んだ教育からこの子を救わなければならないのでな」

 

「なっ、歪んだ教育だって!?」

 

「そうだろう。少女の意見を無視して記憶を消し去ってこちらの世界から切り離したと思えば、再びこちらに関わらせようとしている。それを歪んだ教育と言って何が悪い。気付いているのかいないのかは知らないが、今も完全なる世界の計画は動いているぞ」

 

「何処でそれを!?」

 

「終わりはすぐそこまで迫っている。お前がここに居る時間など残っていない。奴らは少なくとも5年以内に全てを終わらせる。いや、黄昏の姫巫女さえ見つかれば1年もしないうちに奴らの言う完全なる世界は完成する」

 

「そんな馬鹿な。幾ら何でも速すぎる」

 

「知らされていないのか。さすが赤き翼の中でのお荷物だ。重要な事は何一つ知らされず、上からの命令で残党狩りばかり。お笑い草だな、高畑・T・タカミチ。赤き翼から離れたクルト・ゲーテルは既に知っていて、魔法世界人を見捨てる覚悟を持っているぞ。お前は何をしていた。今の現状で満足していないか?僕はこれだけしか出来ない。後は未来の英雄に任せれば良い、とな」

 

「う、五月蝿い、黙れ!!」

 

両手を合わせて咸卦法を使おうとしたのでフォースを使ってそこら辺の建物に投げ飛ばす。

 

「さて、目的は既に果たした以上ここに用はない。貴様はオレの友と遊んでいるが良い。頼むぞ、レイフォン・アルセイフ」

 

足止めの為に友人を模した式神を召還する。最後に会ったときの姿で現れた友に武器を手渡す。

 

「練金鋼(ダイト)だ。使い潰してくれて構わない。設定は刀と鋼糸、数値は同じはずだ」

 

「うん、ありがとう。あの人を足止めすれば良いんだね?」

 

「そうだ。そこまで強くないさ。お前ならやれる」

 

「分かったよ。その子、ちゃんと守ってあげてね。レストレーション01」

 

「ああ、頼んだ」

 

影のゲートを開き、宿まで転移して荷物を担いで再び転移する。その後も何度も転移を繰り返して完全に追えない様にしてから再びオスティアに戻り、別の宿をとって休む。

 

「お兄ちゃん」

 

「どうした、ネギ」

 

「さっきの話に出てきた少女って、完全なる世界に捕まってたあの娘なの?」

 

「そうだな。アスナ・テオタナシア・エンテオフシュア。今は神楽坂明日菜という名前で日本の学校に、お前が送られる学校にいる」

 

「なんでなの、なんで皆僕やその娘みたいな子供にこんなことを押し付けようとするの!!自分たちでどうする事も出来ないからって、僕に、英雄の子供ってだけの僕に押し付けようとするの!!」

 

「英雄という言葉にはそういう魔力があるのさ。物語の様に自分たちを救ってくれる。そう思っているんだ。本人達の意思を無視してな。一度でもそれを受け入れてしまえばずっとだ。過剰な期待を寄せられ、一度でも失敗すれば手のひらを返して切り捨てる。そう言う大人が多いんだよ、魔法使いには」

 

「じゃあ、お兄ちゃんが立派な魔法使いを辞退するのって」

 

「そういうことだ。過剰な期待はされたくないし、称号に縛られたくもない。それにオレは人から尊敬される様な人物でもない。そして高畑・T・タカミチの様に名ばかりの英雄などご免だな」

 

「……これが魔法使いの正体」

 

「違うな、魔法使いじゃなくても大人は、汚い大人なんて幾らでもいる。ネギ、お前もいつかはあんな風に汚れる日が来る」

 

「そんなの嫌だ!!」

 

「そうだな、オレも嫌だ。だけどオレも汚れてしまった。若い頃の輝く夢は砕け散り、絶望に墜ちてこの手を血に染めてきた。組織を嫌い、信じられる家族とすら顔を合わせずに二千年程一人彷徨った。その途中で気になった奴が居れば適当に弟子にしたりもしたが、基本は一人だった。やがて家族達の計画に乗り、異なる世界を旅した。その旅でオレはかつての輝きを思い出し、あの頃のオレを取り戻そうとしている。6年前のあの日、お前の元から去らなかったのは、ある答えを得る為だ」

 

「答え?」

 

「これに関してはお前が答えを出した後に教えよう」

 

ちょうどそこで外が慌ただしい事に気付き、宿主に何があったのかを聞くと、高畑・T・タカミチが瀕死の状態で見つかったそうだ。両腕を切り落とされ、両足を折られた状態で病院に投げ込まれたそうだ。犯人は茶髪の若い男で、サファイアの様な色をした刀を持っていたそうだ。さすがはレイフォンだ。刹那姉さんの夫だっただけはある。そんなレイフォンを奴らは子供を盾にして殺し、子供をも皆殺しにした。そしてオレと刹那姉さんに国ごと滅ぼされた。フェイトとリーネ姉さんが止めなければ国民の全ても皆殺しにする位にオレ達は怒り狂った。そう言えば結局甥と姪を抱く事も出来なかったな。それどころか男か女かも分からないオレの実の子供も。ちょっと鬱になるからこれは考えない様にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、オレとネギは完全なる世界のアジトに乗り込んでいた。迎撃に出てきたテルティウムとその従者を重力結界で無効化し、デュナミスを影繰術で縛り付ける。

 

「いきなり訪ねた事は謝罪しよう。オレはレイキ・M・天龍。未来の可能性を知る者だ。そして絶対強者でもある。オレの機嫌一つで貴様達の計画は潰えることになる。発言には気をつけろ」

 

そう言ってから全員を解放する。

 

「くっ、何が目的だ」

 

拘束されていた部分を摩りながらデュナミスが質問してくる。

 

「この子に真実を教えてやって欲しい。この世界の全てを、貴様達があの大戦でやろうとした事全てを。嘘偽り無く、この子が納得するまで教えてやって欲しい。MM側からの真実は既に語った。今度は貴様達完全なる世界側からの真実を知る必要がある。だが肉体的に危害を加える事は許さない。無論、対価は用意してある。貴様達が望む情報を何でも一つ教えよう。技術でも良いし、貴様らの主の居場所でも何でも良いぞ。私は未来の可能性を知る者だ。知らぬ事の方が少ない。物品が欲しいと言うのなら揃えれる限り揃えよう」

 

「何?だが、その娘はあの男の子供なのだろう」

 

「だからこそだ。親の罪は子には無い。だが、知る必要はある。だからこそここに連れてきた。この子はもうすぐ運命の分岐路に立つ事になる。そこで自分の力や知識によって選べる道が決まる。その分岐を少しでも多く増やす為に旅をしてきた。力に関してはダイオラマ魔法球を使えば問題無いからな。そして貴様達次第ではその子と手を取り合う事も出来る。一応は王家の魔力を持っている。自覚して訓練すればある程度は扱えるはずだ」

 

「なんと!?」

 

「さて、どうする。オレの提案を飲むか飲まないか、今すぐ答えてもらおうか」

 

「……分かった。その条件を飲もう。ただ、対価の方は少し考えさせて貰っても良いか?」

 

「そうだな。一ヶ月以内なら構わない。ではここの一画を借りるぞ。オレのダイオラマ魔法球を設置させてもらう。オレは基本的にここに居る。ネギ、オレはあの中に居る。触れれば中に入れるからな。しっかりと真実を教えて貰うと良い。ああ、貴様らは入れない様にしてある」

 

部屋の片隅にオレの別荘として父さんに与えられたダイオラマ魔法球を設置する。中は母さんが最初に作った南の島の別荘がモデルになっている。姉さん達も同じ物を貰い、愛用している。

中に入り、久しぶりに警戒を解く。この中は完全に外界とは繋がっておらず、例外は入り口だけであり、許可無き者は入ってくる事が出来ない。そして中にはこのダイオラマ魔法球を管理するブラザーズとシスターズが居る。そしてオレを出迎えてくれたのは左目に片眼鏡を掛けた老執事、ウォルター・C・ドルネーズ。ブラザーズの中でも上位の戦闘能力と非の打ち所の無い執事スキルを兼ねた完璧な従者だ。

 

「お帰りなさいませ零樹様」

 

「出迎えご苦労ウォルター。オレの部屋と一応もう一つ部屋を用意しろ。しばらくはこちらで休む。食事はそうだな、薄味の魚介類で頼む。魔法世界の料理は味が濃すぎる」

 

「かしこまりました。零樹様の部屋はいつでもご使用可能です。また浴場の方もご用意しております」

 

「完璧(パーフェクト)だ、ウォルター」

 

コートを預けて浴場に向かう。来ていた服を脱ぎ捨てながらプールと思える程の広さを持った湯船に身体を沈める。幻術で露天風呂の様な空間に変化させる。

汚れを落とすだけならば清めの炎を使えば良いだけだが、やはり日本人としては湯に浸かるというのは身体を休めるには持って来いだ。脱ぎ捨てた服は疑似人格が搭載されていない自動人形が回収して行った。そして別の自動人形が酒を持って来てくれる。それを受け取り、盆を湯に浮かべながら飲む。最近はほぼ休まず世界を渡り歩いて戦い続けたり、ネギの面倒を見ていた為に酒を断っていた所為でついつい手が伸びてしまう。気付けばかなりの量を飲んでいた。かなり酒臭い。結局、浴場ごと纏めて清めの炎で清めてしまった。世界を彷徨っていた時の和服に着替えてリビングに向かう途中、ネギが別荘に入ってきたのを感じて入り口に迎えに行く。

 

「ようこそ、オレの別荘へ」

 

そう出迎えたのだが、ネギはかなり消耗していた。やっぱりショックが大きかったか。

 

「食事は取れそうか?」

 

ネギは首を横に振る。

 

「部屋は用意してある。ゆっくり休め。チンク!!」

 

「どうした」

 

オレの背後に銀髪のメイドが現れる。

 

「ネギを部屋に案内してやってくれ。ネギ、何か欲しい物があればチンクに言えば良い。旅はここで終わりだ。ゆっくり休みながら、考えを纏めると良い」

 

「……うん」

 

旅を始めてからネギは暗い顔ばかりしている。まあ当然なんだが。殺人処女も捨てていない普通の9歳児に耐えられる物ではないからな。それも信じていた常識がほとんど嘘だったのだからな。立ち直るまでどれだけ時間がかかる事やら。

夕食を終えた後、オレは屋根に登って星を見上げる。こうして星を見上げたのはヴィヴィオとエリオとギンガ達とキャンプに行った時以来だな。星を見上げながら謳ったっけ。父さんが一度だけ聞かせてくれた。とある龍が愛した人間の女性に捧げた詩。たぶん、父さんの最初の奥さんに捧げた詩。

今頃、ギンガ達はどうしているだろうか。あの世界は時の流れが遅いからな。今頃ならエリオとヴィヴィオの間に孫が産まれたかどうかって所だろうな。初孫か、抱いてやりたいなぁ〜、というか初めてのオレのちゃんとした子供も抱いてねえじゃん!?ちょっとだけ、いやいや駄目だ。そうしたら今度はその子供、更にその子供の事が気になるのが目に見える。不老不死の最大の欠点だよな。時間を気にしないですむ様になるのは。あ〜、早くアリスに再会したい。それでとっとと子供を作って家族で暮らしたい。不老の研究はとっくの昔に出来てるし、真祖の吸血鬼の研究も終わってるから今度こそ離ればなれになる様な事は無いし、そう言えばこの世界の母さんがどんな人なのかもちょっとだけ気になる。若い頃に父さんに出会わなかったらどんな風に過ごしたのか気になる。

 


 

 
 
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