第30剣 真実を知りに…
明日奈Side
スリーピング・ナイツのみんなとボス攻略をして、ユウキが姿を消した翌日の金曜日、冬休みが終わって学校が始まった。
年末年始の京都への帰省や課題を片付ける為に時間を費やしたから、和人くん以外のみんなと会ったのは久しぶりで嬉しかった。
そう、そのはずなのに、わたしの心は晴れなかった…。
どうしてもユウキのことを考えてしまって、授業にも集中出来ていない。
今日の授業を5コマ目で終えて、帰宅した。
和人くんは6コマ目まで授業を受けていて、その後どこかに出掛けると言っていたから、わたしは先に帰宅したのだ。
家に着いて、橘さんと佐田さんに声を掛けてから自室に戻り、着替えを済ませて机の上に置いてあるアミュスフィアに目を向ける。
もしかしたら、ユウキが戻っているかもしれない、そう思って早速アミュスフィアを被り、ベッドに横になる。
彼女になにをしてしまったのか理由は分からないから、まずは謝ろう。
「リンクスタート」
呟いた後、わたしはALOへとダイブした。
明日奈Side Out
アスナSide
「はぁ~、駄目かぁ…」
溜め息を吐きながらそう漏らしてしまう。
ALOにダイブしてから、何度もユウキに向けてメッセージを送ったけれど、
全て『送信相手がログインしていません』という表示が出てくる。
そして夕方の5時、わたしの元に一通のメッセージが届いた……シウネーからだ。
『話しがあります。ロンバールのあの宿屋に来てください』という彼女の言葉、
わたしはすぐさまロンバールへと向かい、スリーピング・ナイツが溜まり場にしている宿屋を向かう。
辿り着いたあの宿屋、そこでわたしを待っていたのは…。
「こんにちは、アスナさん…」
少しばかり悲痛そうな表情をしたシウネー、ただ1人だった。ユウキは居ないか聞いてみたけど、彼女は首を横に振った。
「私達も、あれからユウキと連絡が取れていません。ALOどころか、フルダイブそのものをしていないようで…。
現実世界の彼女について、知っていることもほとんどないのです」
正直、驚いた…。あれだけ仲が良かったのだから、きっと現実世界でも会っているんだと、そう思い込んでいた。
シウネーは気遣わしげな視線をわたしに向けると、続きを話した。
「多分ですが、ユウキはアスナさんとの再会を望んでいないと思います……貴女自身の為に…」
「わたしの為って、どういう意味…?
確かにユウキやシウネー達が、必要以上にわたしと距離を縮めないようにしていたのには気付いたよ?
迷惑だったのなら近づかないようににするけど、でも……それがわたしの為って、納得できないよ…」
わたしに為という彼女の言葉が解らない。本当に迷惑だったのなら、あれ以上深入りしてはいけなかったのかな…?
そんなわたしの考えか表情を読み取ったのか、シウネーは言葉を発した。
「迷惑だなんて思っていません。私達はアスナさんと出会えたことを本当に嬉しく思っています。
貴女のお陰で私達は最後に素敵な思い出を作ることが出来ました。
もちろん、クーハさんやキリトさん、他のお二人のお陰でもあります。
そしてボス攻略の手伝い、私達と友達になると言ってくれた貴女の言葉には、感謝しても足りないくらいです…」
彼女は本当にそう思ってくれている、そんなことは痛いくらいに良く分かった。
だって、シウネー自身が辛そうな表情で言っているから…。
「ですが…いえ、だからこそ、これで私達のことは忘れてほしいのです…」
そこで言葉を切ったシウネーは左手でウインドウを操作して、わたしの前に小さなトレードウインドウを出現させた。
そこに映るアイテム名やユルドを見て分かった……これは、彼女達の持ち物だと…。
「い、要らない…受け取れ、ないよ…」
「アスナさん…」
せめてもの気持ち、お礼のつもりなのだろうけど、わたしはこんなことをしてほしくて手伝ったわけじゃない。
「わたし…ユウキやシウネー、みんなのことが好きだよ…。
友達として、やってはいけないの…? これで、本当にお別れなの…?」
嫌だった。折角出会うことが出来て、一緒に戦うことが出来て、
少しの間だけど苦楽を共に出来て、ボスを倒すことが出来たのに…。
友達じゃなくて、仲の良い知人で終わるのは、嫌だった。
「ごめんなさい……でも、本当にこうしたほうが、ここで別れたほうがいいんです…。
ごめんなさい…そして、ありがとうございました、アスナさん…」
「っ、待って、シウネー!」
彼女の言葉を聞きとったわたしは彼女も
けれど、シウネーはそれを振り切るように、逃げるかのように、ウインドウを操作して、ログアウトしてしまった…。
「ど、う…して…?」
理由も解らないわたしは呆然としながら呟くしか出来なかった…。
この日、スリーピング・ナイツの全員が姿を消した…。
アスナSide Out
明日奈Side
シウネーと話した後、呆然としたまま
そんなわたしを迎えたのはユイちゃんとリズ達で、わたしの様子を見て大慌てでいた。
まぁ、意識不安定状態で居たから、無事に戻れた方が不思議かもしれないけど…。
ユイちゃんはすぐに和人くんへと連絡しようとしていたけれど、彼の携帯端末に電源が入っていないことに気付いたらしい。
みんなに事情を説明した後、ログアウトして家でゆっくりすることになった…。
土曜日の学校。昨日と同じく、いや…昨日以上に陰鬱とした調子で学校に行く事になった。
授業に関しては昨日と同じで集中することが出来なくて、そのまま昼休みに入った。
その時、一通のメールが届いた。それは和人くんからで、内容は『屋上で待っている』というもの。
それに従って屋上に行くと、そこには彼が瞑目しながらフェンスに寄り掛かっていた。
「来たか…」
和人くんが短くそう呟いた気がした。思わず駆け寄って彼の肩口に額を置く。
彼に甘えて胸の中の様々な感情を吐き出したい。
そう思うけれど、どう言葉にすればいいのかも分からなくて、唯々嗚咽が漏れそうになる。
そんなわたしを、彼は右手で頭を優しく撫でてくれて、左手で背中を優しくぽんぽんと叩いてくれた。
「どうしても…【絶剣】に、ユウキに会いたいか?」
「っ、うん…」
前の行動とは裏腹に和人くんは珍しく威圧の篭った声でそう言ってきた。これは多分、わたしを試す為だと思う。
例えどんな理由であったとしても、わたしはもう1度ユウキと会って話しをしたい。
だから彼の問いかけに動揺しながらもしっかりと頷く。
「もう会わないほうがいい、そう言われたんだろ? それに俺も覚悟を決めて戦えと言ったはずだが?」
和人くんには事の顛末と最後のシウネーからの言葉は伝えてある。
けれど、わたしがユウキと戦う前に掛けた彼の言葉には、現状を想定した意味も含まれていたなんて…。
でも、それでもわたしは…!
「それでも会いたい…どうしても、もう1度、ユウキと会って話しをしたい。それに…絶対にやり遂げるって決めたから」
威圧の篭り続ける和人くんの瞳を見つめながらわたしは怯まずに決意を口にする。
すると、彼の瞳がふっと和らぎ、いつもの優しげなものに変わった。
ブレザーのポケットに手を入れると1枚のメモを取り出し、わたしに渡してきたので受け取る。
「それに書かれている場所に行けば、彼女に会える……まぁキミに会うのを決めるのはユウキ自身だがな」
「え…? ど、どうして…和人くんが知ってるの…?」
戸惑いながら彼に聞くけれど、その答えは返してくれなかった。それでも言葉を紡いでくる。
「その場所は日本で唯一、『メディキュボイド』の臨床試験を行っている場所だ」
「メディキュ、ボイド…?」
「悪いが、これ以上俺から詳しく言えることはない」
聞き慣れない単語に首を傾げる。和人くんには色々と聞きたいことがあるけれど、どうやら今は知るべき時じゃないみたい。
それから受け取ったメモを開いて中身を見る。そこには『横浜港北総合病院』という名称とアドレスと住所が書かれていた。
「日付は明日。そこに行ったら、受付で名前と身分証明を提示すればいい……ただ、絶対に覚悟はしておくんだ」
「っ、はい…」
真剣な表情と言葉、それを真摯に受け止めてから、彼に促されてわたしは屋上を後にした。
「俺に出来るのはここまで……あとは、
「ここに、ユウキが…」
翌日、わたしは和人くんに教えてもらった病院へと訪れた。入り口へと向かったわたしを待っていた人物がいた。
「ども、明日奈さん」
「九葉君…」
奈良にいるはずの彼が入り口のところで立っていた。
「昨日、和人さんから連絡があったんだ。『ユウキのことを知りたければ、こっちに来い』って…」
「そっか…うん、それじゃあ一緒に行こう」
そうだ、彼も知りたかったはずだ。あの時、あの場所に九葉君も居たから。
何かとユウキ達を気に掛けていたし、余計かもしれない。わたし達は共に中へと進んで面会受付カウンターに向かう。
「あの、面会を希望しているんですけど……ここに来たら、名前と身分証明を提示するように言われていて…」
「それでしたら、お名前と身分証明になるものを提示していただけますか?」
受付の女性看護師さんに声を掛けて事情を説明するとそう返してきたので、わたしは学生証を、九葉君は生徒手帳を取り出す。
「結城明日奈です。これが学生証です」
「時井九葉です。生徒手帳を」
「……はい、確認しました。連絡を取りますので、少々お待ちください」
看護師さんは傍らの受話器を取ってから、どこかと連絡をとったようで小さな声で何かを話してから向き直った。
「第2内科の倉橋先生がお会いになりますので、正面エレベータから4階に上がって、受付にこれを出してください」
学生証と生徒手帳、2枚のパスカードを受け取り、一礼してからわたし達は4階に向かった。
4階の受付で少し待たされたあと、1人の白衣の男性が近づいてきた。
「お待たせして申し訳ないです」
「い、いえ、こちらこそ急にお邪魔して…」
「幾らでも待てますから…」
「ああ、大丈夫ですよ。今日の午後は非番を入れていたので」
白衣の男性が謝ったけれど、元々わたし達の方が押しかけてきたのだから、こちらも謝罪で返す。
「結城明日奈さんと時井九葉君ですね?」
「「はい」」
「僕は倉橋といいます。紺野さん…いえ、
倉橋先生は最初に紺野さんと言い、そのあとにゆうきさんと言った。ということは、その紺野というのがユウキの…。
「ユウキくん、本名を『紺野木綿季』さんと言います。紺色の紺に野原の野、木綿に季節の季です。
僕は彼女のことを木綿季くんと呼んでいます」
そっか、それがユウキの本当の名前…。わたしと同じでリアルの名前をキャラネームにしているんだね…。
「お二人のことは木綿季くん…そして、桐ヶ谷君から窺っています」
「「え?」」
先生の口から思いもしない名前が出てきた。どうして、先生が和人くんのことを…。
「彼は以前に神代博士と共にここを訪れました。
その際に知り合いまして、今回お二人に事情を話してほしいと直接頼み込んできたのです」
「なるほど、それでオレと明日奈さんの面会があっさり通ったわけか…」
それじゃあ、一昨日の学校が始まった日の放課後、彼が行くと言っていたところはここだったんだ…。
「木綿季くんはここのところ毎日お二人の話しをしていますよ……っと、上のラウンジに行きましょうか」
倉橋先生に案内されて、待合スペースの奥まった席にわたしと九葉君が並んで座り、正面に先生が座った。
何から話をすればいいのか分からないわたしの代わりに、九葉君が口を開いた。
「ですが、幾ら和人さんが頼み込んだと言っても、良くOKしましたね」
「確かに桐ヶ谷君のこともありますが、実は木綿季くんもキミ達がここに来るかもしれないと言っていたんです」
驚いた、まさかユウキもわたし達が来るかもしれないって思っていたなんて。
「木綿季くんはお二人の話をする時は凄く嬉しそうにしていました…ですが、
話を終えたあとはいつも泣き出してしまうんです。自分のことでは弱音を吐かない強い娘なんですが…」
「それは、どうして…」
先生の言葉にわたしも九葉君も困惑するしかない。
「『もっと仲良くなりたい、けれどなれない…。会いたい、でももう会えない…』、そう言うんです…」
沈痛な面持ちをしている先生。ユウキも、わたし達のことを思ってくれてる。
だけど、それ以上は踏み込めない何かがある。だから意を決して訊ねることにした。
「彼女も、彼女の仲間のみんなも、別れる前にそう言いました。なんで、会えないんですか…?」
「オレも、知りたいです…」
「……分かりました、お話ししましょう…」
そしてわたしと九葉君は、倉橋先生から話しを聞くことになった。
明日奈Side Out
To be continued……
後書きです。
ウチのキリトさんはただ待つなどということはせず、二手三手も手を打つような人ですw
彼の根回しによって原作よりもスムーズに明日奈は面会が行えました、勿論九葉も。
次回は原作未読のかたの為に、簡単ながら説明回となります。
それではまた・・・。
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第30剣になります。
明日奈がリアルのユウキの元へ向かいます。
どうぞ・・・。