練習後、調理部に向かうのがサッカー部の習慣になっていた。
部長が料理部部長と付き合っていて、帰りに彼女を迎えに行くのを周りがからかおうと押しかけたのが始まりらしい。
でも、今やそんな二人を羨ましがった部員が彼女を捕まえようと、やっきになっているのがわかる。
俺はただ、練習で空腹になった腹を満たすことができればいいと思ってついてきてみたんだけど。
――見つけてしまった。
彼女の笑顔を見た瞬間、まさに雷に打たれた、と思った。
ちょうど、彼女がクリームをシューにホイップするのを見て、さりげなく近づいてみる。
「シュークリーム?」
小さな背中に向かって、声をかけた。
「いいえ、エクレアです。ちょっと待ってくださいね」
彼女は表面をチョコレートに浸すと、どうぞ、とすぐにそれを差し出してきた。
ありがとう、と手に取る。
食べようとすると、彼女は明らかに20cmは下からの目線で俺を伺ってきて、たまらなくなった。
エクレアを、一気に口に押し込む。
「むぐっ!」
おかげで思い切りむせ返る。
しまった、おいしいって言って好感度上げたかったのに!
「大丈夫ですか!?」
すぐにお茶を持ってきてくれた彼女は、俺が落ち着き始めると思い切り笑い出した。
笑顔は嬉しくても、立つ瀬がない。
「あはは、ごめんなさい! ふふふ」
どうやら、笑い上戸のようだ。
「知ってますか? エクレアの名前の由来」
「…いや…」
頭をかきながら、俺は正直に答えた。
「元は雷の意味なんです。チョコレートをこぼさないように、雷が落ちるように一気に食べろっていう解釈もあるんですよ。知らずにそんな食べ方するなんて、すごい」
彼女はまた、ふふふと笑い始めた。
「あなたに食べてもらいたいな、と思ってエクレア作ったんです。来てくれてよかった」
彼女の言葉に、思わず耳を疑った。
なんで、俺!?
「ここからサッカー部の活動、よく見えるから。ボールに一番に向かっていく姿が雷みたいだって思ってたんです」
俺のことを見てくれていた?
「あの、さ。もう一個もらってもいいかな。あと、料理部のことも聞かせてほしいんだけど…」
「はい! もちろん!!」
今度はゆっくり、君の作ったエクレアを味わいたい。
そして、君のことももっと知りたいんだ。
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学生のほのぼの恋愛エクレア編です。