No.61177

しっとりシュークリーム

みぃさん

シュークリームにまつわる、淡い初恋物語です。

2009-03-02 14:35:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:854   閲覧ユーザー数:822

どうして膨らまないんだろう。

 

 

 

 

何度も何度も試みるんだけど。

オーブンからでてくるのは、無残にひしゃげた黄色の物質。

これは、私の未来の行く末なんだろうか。

 

 

 

 

 

こんなにも、想いは膨らんでいるのに。

 

 

 

 

 

「なんでシュークリームなの!?」

 

 

 

 

 

料理部の友達には、初心者で不器用な私には絶対無理だから、もっと簡単なものから始めろって言われた。

でもしょうがないじゃない。

作りたいんだもん。

 

 

 

 

小さくて、ふわっと軽くて、甘くって。

 

 

 

 

 

そんなシュークリームみたいな女の子になりたかった。

でも、私には作ることさえ叶わないみたい。

 

 

 

 

 

とぼとぼ一人で学校帰り。

ため息ばかり出てしまう。

 

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

 

 

ふと後ろから声をかけられて振り向くと、今一番会いたくないやつがそこにいた。

顔を見られたくなくて、すぐに前を向く。

 

 

 

 

 

「無視すんなよ。最近なんで野球やらないんだ?」

 

 

「別にいいでしょ。最近おかし作りにはまってるの」

 

 

「おかし?」

 

 

「なによ、似合わないって言いたいの!?」

 

 

「んなこと言ってないだろ。女子の間で流行ってるみたいだしな。さっきもこれもらったんだ。食う?」

 

 

スポーツバッグの中から出てきたのは、よりにもよってシュークリーム。すごくキレイに膨らんでる。

 

 

「…これくれたの、しーちゃん?」

 

 

「あぁ、うん。そう」

 

 

なんだ。また、先越されちゃったんだ。

 

 

 

 

 

例えば、空に浮かぶ雲のように。

縁日で売ってる綿菓子のように。

こいつが持ってるシュークリームのように。

 

 

 

 

 

やわらかいイメージのしーちゃん。

私がなりたかった理想の女の子。

 

 

 

 

 

いつもこいつにおかしをプレゼントしてる。

 

 

 

 

 

「ほら、やる」

 

 

 

 

 

差し出されたシュークリームは本当においしそう。

 

 

 

 

 

「もらったものあげちゃっていいの?」

 

 

「だってこんなにあるしさ」

 

 

「シュークリーム、好き?」

 

 

「まぁ、食い物はなんでもな。でも」

 

 

「でも?」

 

 

「食うのもいいけど、野球のボール投げてるほうがいいな。お前も、だろ?」

 

 

「…」

 

 

「…違うか。オレが、お前もそうであってほしいと思うんだ。だから」

 

 

「?」

 

 

「たまには野球、一緒にやろう。じゃあな!」

 

 

 

 

 

 

遠ざかっていく後姿を見ながら、もらったシュークリームにかぶりついた。

私には絶対こんなの作れない。

でも、野球だったら負けないんじゃないかな。

 

 

自分にしかないもので勝負するのもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

膨らまなかったシュークリームの代わりに、膨らんできた見えないボールを、小さくなった背中に向かって思い切り放り投げた。


 
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