No.611035

魔法少女リリカルなのはA's Another 第一話「それは、もう一つの運命の出会い、なの」

狭乃 狼さん

はいはい。

狼印のリリカルなss、その第一話です。

ヴォルケンズ登場と、九郎のちょっとした伏線張りw

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2013-08-21 21:49:19 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5389   閲覧ユーザー数:5014

 その本は彼女が生まれたその時から、いつでもその傍らにあった。

 しっかりとしたその装丁の本には、剣を十字にしたような装飾がされており、そしてなぜか、それは頑強な鎖で封印がなされていた。

 普通であれば、そう言った不可解な物は気味悪がり、遠ざけようとするのが常であろう。事実、当時まだ健在だった彼女の両親はそうだった。しかし、当の少女はその本を気味悪がるどころか、とても大切にし、成長し、自力で歩けるようになってからは、いつでも肌身離さず持ち歩いていた。

 

 その本が、今、少女、八神はやての目の前、宵闇の空を背景に浮かんでいた。

 

 いや、それだけではない。彼女自身もまた、地面よりはるか空中にて、三角形をしたなにやら魔方陣のようなものの上に、転がった車椅子とともに座り込んでいた。

 一体何がどうなっているのか。困惑するその彼女の脳裏には、つい先ほどまで、自らが体験していた光景が浮かび上がっていた。それは、定期検査のために訪れた病院の、その帰りの道程の光景だった。

 

 「……」

 

 海鳴病院という名の、この三年の間に通いなれたそこから、自宅に一番近いバス停までの道を走るバスの車内にて、はやては窓越しに流れる景色を見てぼーっとしていた。もう、見慣れた景色となったそれを、特に何か思うわけでもなく。

 

 「……はやて?」

 「ふぇ?あ、ごめん、九郎くん。なに?」

 「いや、大したことじゃあないんだけどさ。どうかした?なんか、心ここにあらずって感じだけど」

 

 そんなはやてに声をかけたのは、車椅子に座る彼女の前の席に座っていた少年、はやての幼馴染であり、無二の友人である真咲九郎だった。

 

 「ごめんな、気ぃ使わせて。なんでもないよ。ただ、この景色もずいぶん見慣れたなあ、て。そう思っていただけや」

 「そうか?……まあでも、たしかに見慣れたよな。あれからもう、三年も経ってるんだし」

 「三年、かあ。なんやあっという間やったなあ。……あらためて、いつもありがとうな、九郎くん。いつもいつも、わたしの検査に付き合うてくれて」

 「かあさんに夜食、届けに行きがてらってだけさ。そんなに気にしなくていいって。それに」

 「それに?」

 「俺たち友達、だろ?遠慮は無し無し。な?」

 

 そう言って笑う九郎に、はやては一瞬きょとんとした表情を浮かべるも、すぐさま彼女もまた笑顔を浮かべて笑い、彼らの乗るバスの車内は、乗客が二人しか居ないこともあってか、その朗らかな笑い声で満たされた。

 

 「……そうそう、今日はあとでかあさんも来るからさ。はやての九回目の誕生日、盛大に祝ってやるから覚悟しとけ?」

 「ほんまに?!よっしゃ!どんと来いやて!って、あ、もうすぐバス停に着くな」

 「お?」

 

 はやての言葉どおり、彼女らの降りるバス停の近くまで来たことを告げるアナウンスが車内に響く。しばらくして、バスはそのバス停へと停車し、九郎と、そして気を使ってくれたバスの運転手の手を借り、はやては車椅子から降りることなくバスを下車。

 そうして二人は降りたバスが道路の彼方へと走り去っていくのを見届けた後、九郎がはやての車椅子を押す形で二人は道を進みはじめる。

 

 「あ、そうだはやて」

 「ん?」

 「……ちょっとばかり時間が早いけど、かあさんの前だとその、ちょっと気恥ずかしいから、今のうちに渡しておくよ。ハッピーバースデー」

 

 そう言って、赤信号でその足を止めた九郎がはやてに渡したのは、リボンのあしらわれた小さな小箱。九郎が家の手伝いなどをしてためた小遣い、それでこの日のためにと買っておいた、はやてへの誕生日プレゼントであった。

 

 「わはっ!ありがとうな、九郎くん!めっちゃ大事にするよ!……今開けても?」

 「いや、できれば家について、一人のときに開けてほしいです」

 「ほうかー。だが断る♪「ちょ?!」なにかななにかな~……これ、ネックレス?」

 「……うん、まあ」

 

 有無を言わさず、慌てる九郎を尻目に、その場で箱を開けたはやてのその目に映ったのは、シルバー製のネックレスだった。

 

 「……綺麗やなあ……高かったんとちゃうん、これ?」

 「……まあ、一年ほど、しっかり小遣い貯めましたので。……お気に召していただけましたか、姫?」

 「うむ、くるしゅうない。……なんちって」

 

 あはははは、と。誰もいない、静かな交差点の信号の下、二人のそんな笑い声が響く。

 

 「あ、九郎くん、信号青に変わったで」

 「おっと。んじゃ、行きますか」

 「うん、れっつごー!や」

 

 二人以外、誰も通るもののない交差点の歩道を、彼らはゆっくりと進みだす。しかしその時、二人は気がついていなかった。交差点を進む自分たちに向かって、大型のトラックが猛スピードで走ってきていることに。

 そして、その運転手が、“居眠り運転”をしていることなど、予想だにすら出来るはずもなかった。

 

 「……え?」

 「はやてっ!」

 

 二人がそれに気づいたとき、彼らはすでに、トラックの放つライトの光に飲み込まれていたのだった。

 

 

 

 気がついたとき、九郎はそこに居た。

 いや、居た、という表現は微妙に違うかもしれない。何しろ、周囲360度、どこを見回しても、彼の目に映るのは一面の闇、そして、体の感覚は確かにあるものの、立っているというよりは浮かんでいる、といった感覚だったから。

 

 「……なんだ、これ?何がどうなって……?確か俺、はやてと一緒に……そうだ!はやて、はやては……っ!?」

 

 自分の置かれた状況を確認しようとして、九郎の脳裏に真っ先に回想されたのは、迫り来るトラックの巨体とライト、そして、自らが庇って道路の反対側へと、無我夢中で“車椅子ごと突き飛ばした”、はやての姿だった。

 

 「……お目覚めですか、主さま」

 「え?!だ、だれ?!」

 

 突然の声、だった。状況に困惑しながらも、友人の姿を慌てて探していた九郎に、どこからともなくその“少女”の声は聞こえてきた。

 

 「……ごめんなさい、今はまだ、私の姿をお見せすることは出来ないんです。今回は緊急事態ですから、やむなく主さまを助けるために一時的に出てきましたが、それも限られた時間の間だけなんです」

 「……え……っと。あー、なにがなんだか分かんないけど、その」

 「主さまはご一緒に居られた方とともに、巨大な物体に轢かれそうになりました。……覚えてますか?」

 「あ、ああ、うん。信号を無視して突っ込んできたトラックに……そうだはやては?!彼女は無事なのか?!」

 「……ご心配なく。あの方でしたら、“表側”の人たちが助けました」

 「そ、そっか。よかった……えと、その、なんて言ったらいいのか……とりあえず、ありがとう」

 

 その声の主であろう少女(?)の言葉に、ほっと胸をなでおろす九郎。そんな彼をよそに、声の主は淡々と言葉を続けていく。

 

 「……もう、時間が無いみたいです。主さま、私は、私にかけられた呪いを抑え込むため、まだしばらくは外に出れません。ですのでどうか、あの優しい表側の人たちを、そして、影であり欠片であるあの子達を、どうか、おねがいします」

 「ちょ、ちょっと待って?!そんなこと急に言われたって、いったい何が何やら……!?表側とか欠片とかいったい」

 「……どうか、どうか、あのこ……たち……わた……の……くびき……って……」

 「お、おい!?」

 

 九郎の必死の声にもかかわらず、声はだんだんと遠ざかっていく。そして最後に聞こえたのは。

 

 「……な……はと……しんの……た」

 

 そしてその一言の後、九郎の意識もまた、声とは反対側へと遠ざかっていくのであった。

 

 

 

 

 「あ……え……な、なに……?」

 

 はやてはやはり、いまだ混乱の中にいた。自らの正面に浮かんだその、幼いころからともにあったその一冊の本が、『封印解除』、『起動』、それらをドイツ語にも似た言語で発生させた。

 それとともに、一瞬の発光の後、はやてのその目の前に現れたのは、四人の男女。

 

 「……闇の書の起動を確認しました」

 「われら、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にてございます」

 「夜天の主の元に集いし雲」

 「……ヴォルケンリッター、なんなりとご命令を」

 

 それだけを恭しく言うと、四人はそのまま沈黙をする。しかし、そのうちの一人、赤い髪の少女が、なかなか反応の帰ってこないことを不審に思い、ちらりと、彼女らの目の前にいるはやてへと視線を送る。

 

 「……あれ?なあ、ちょっと」

 『ヴィータちゃん、しっ!静かにして』

 「けどさあ」

 『黙っていろ。主の前での無礼は』

 「……いや、無礼も何もさあ……こいつ、気絶してねえ?」

 『……え?』

 

 その少女の言葉に驚き、残る三人が向けたその先には。

 

 「……きゅ~」

 

 目を回し、気を失ったはやての姿があったのだった。

 

 それから少しして、気絶していたはやてを取り急ぎ休ませようということで、四人はそのまま、気を失ったままの彼女を連れ、その家に向かうことにした。場所については、失礼します、と、四人の中のショートカットの女性が一言つぶやいた後、はやての額に自らの手にはまった指輪をかざし、どういう手段なのか、その意識を少しばかり読み取って探り当てた。

 それとほぼ時同じく、はやての家へと必死になって走っている、黒髪の少年の姿があった。九郎である。

 あの、不思議な空間での邂逅より目の覚めた彼は、とりもなおさず、自分がトラックから庇ったはずの幼馴染のことを探した。しかし、周囲には誰一人としておらず、その彼女が乗っていた車椅子すらも見当たらなかった。

 

 「はやて……っ!どこいっちまったんだよ!?」

 

 彼ははやてのことを懸命に探した。そして、それを見つけたのはそれから十分もした頃。本当に、何気なく見上げた空を、四人の人影が“飛んで”いっている姿。そして、その内の一人、男性らしき影に背負われたその小さな影を、彼は見逃さなかった。

 言っておくが、九郎の視力はいたって通常である。両目ともに1・5という、本当に常人レベルである。それがなぜ、そんな、はるか上空をいく四人の姿を捉えられたのかについては、その理由はもう少し後になって判明するので、ここでは割愛させていただく。

 それはともかく、彼自身もそれについては不思議ではあったが、とにもかくにも、はやての姿を見つけ、しかも、なにあやら怪しげな四人組に連れられているのを、そのまま黙って見過ごすことなど出来ようはずも無く、彼はすぐさまその後を追って夜の町を走り出した。

 そうして辿り着いた場所は。

 

 「……どういうこと?」

 

 九郎自身もよく知る、何度も何度もその足を運んだ場所、八神はやての家、であった。はやてを運んでいた人影たちは、すでに家の庭から中に入っているようで、室内は電灯の灯りがすでに点いていた。

 

 「……警察呼ぶべきか?……って、そういや俺、ケータイまだ持ってなかったっけ……こんなことなら、もっとかあさんにねだっておくべきだった……。って、んなこと言ってもても埒が明かないか。こうなったらまずは」

 

 まずは様子見。そう結論付けた彼は、そっと庭へとまわり、室内の様子を覗き込む。そして彼が目にしたのは、四人の男女にかしずかれて首をひねっている、親友の姿であった。

 

 「……なにやってんだ、あれ?はやてがお姫様みたいな扱いを『がささっ』あ」

 「っ?!誰だ!?」

 

 その光景に気をとられ、思わず鳴らしてしまった草音。それに、中に居たうちの一人、赤毛の少女が気づき、勢いよく庭へと飛び出して来たかと思いきや、そのまま九郎に覆いかぶさる形で彼を捕らえた。

 

 「なにもんだてめー!?人の家に勝手に入り込みやがって!?さては管理局の回し者か?!」

 「な、なにもんだって……っ!それはこっちの台詞だ!お前こそなんなんだよ!?はやてをいったいどうする気だ!?それにかんりきょく、って、一体なに言って……?!」

 「うるせえ!誰だかしらねーが、人の家に無断で入るようなやつはあたしが、鉄槌の騎士ヴィータが成敗して」

 「ちょいまちヴィータ!……もしかして、九郎くん!?九郎くんなんか?!無事やったんやね?!」

 「主はやて……お知り合い、ですか?」

 

 今にも、マウントからの鉄拳を九郎に振り下ろさんとしていたその少女を、九郎に気づいたはやてが慌てて制止する。

 

 「うん、私の大事な大事なお友達や。ヴィータ、彼を放してあげて。悪い人やないから」

 「……はやてがそういうんなら」

 

 はやての言葉に、渋々九郎の上からどく、ヴィータと呼ばれたその少女。

 

 「……痛てて……何がどうなってんだ……はやて?」

 「えっとな。わたしも今聞いたばかりで、まだちょお、とまどっとるんやけど。……んー、簡単に言うんならこの子らは」

 「この子らは?」

 

 

 

 「……私の、新しい“家族”や♪」

 『……はい?』

 

 はやてのその発言に、九郎のみならず、家族と呼ばれたその四人もまた、呆気にとられた表情で固まるのであった。

 

 

 つづく

 

 

 という感じでの、はやてss…もとい、なのはss、その第一話です。

 

 闇の書の覚醒から、ヴォルケンズの登場、そして九郎とも初遭遇の回でございます。 

 

 ちなみに九郎のあのシーンに出てきたのは・・・まあ、わかる人はもう分かりますよね?WWW

 

 プロローグでも書きましたが、九郎、まだ魔法は使えません。それでもちらとだけ、その片鱗は見せてます。

 

 次回ははやてと九郎とヴォルケンズ、そのほんわか日常の始まり・・・かも(えw

 

 なのはたちの出番はもうちょっと後になりますので、それはご承知を。

 

 それではまたw


 
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