第20剣 アスナ、絶剣に挑む
アスナSide
1月7日の水曜日、午後2時半過ぎ。
【絶剣】に挑戦する為にみんなと集まって、この新生アインクラッド第24層にある決闘の場の小島に来ました。
いまは用事までまだ時間があるというキリトくんと一緒に、小島の南岸に並んで座っています。
彼の肩に頭を預けて、縁日のように賑わっているこの層の主街区の『パナレーゼ』を眺めている。
この層は、遥か上空にあるまだ解放されていない第61層湖上都市『セルムブルグ』に良く似ていると思う。
あそこも、かつてはわたしが住んでいた街だ。そこで思い出すのは、あの日の出来事…。
「キリトくんが初めてセルムブルグのわたしの部屋に来た時のこと、覚えてる…?」
「忘れるはずないよ。なんせ、初めて好きになった人の部屋に、初めて入ったんだからな」
「あ、そ、そっか…///」
自分で聞いておいて難だけど、彼の正直な言葉を聞いて照れてしまいました。
こういう恥ずかしいことを臆面も無く言ってしまうキリトくんが偶に恨めしい……嘘です、そういうところも大好きです///
「そういえばまた
60層解放のアップデートがある時にでもアスナの部屋があったところを買うか?」
「ん~、いいや。あの部屋で暮らしてた頃はあまりいい思い出ばかりじゃなかったし…」
キリトくんがそう言ってくれたのは嬉しい。だけど、戻りたいと思うほどの思い出があるわけでもないのも事実。
「そうか……俺としてはアスナとの初めての場でもあるから、いいかなとも思ったけど」
「は、初めてって…//////!」
あわわ、そうだった///
あの部屋のわたしの自室は、SAO時代のキリトくんとの初めての場所だったんだ//////
そんな風に考えて顔を紅くしたわたしを、彼はクスクスと笑いながら眺めています、もぉ~///
それでも、あの部屋は思い出と記憶の中に入れておくのが良いかなと、わたしは思います。
いまわたしが帰るべき家はちゃんとここの22層にあるからね。そして、現実世界にも…。
「お金はエギルさんのお店を出す時に協力してあげようよ」
「そうだな、それが一番か。結局、リズとハクヤ、ヴァルとシリカは自分達で金を貯めて家を買うって言ってたし、
クラインも自分達でなんとか出来るって言ってたからなぁ」
とりあえず、当面はそうする方向かな?
あ、そういえば、さっきからこの島の中央を目指して飛んで行っているや。
「そろそろ時間だから、行かなくちゃ」
「アスナ…」
キリトくんの温もりを惜しみながらも、離れようとしたところで、彼に真剣な声で名前を呼ばれました。
「【絶剣】と戦うなら、覚悟を決めておいた方がいい…」
「え…? それって、どういうこと…?」
「『
アイツは仮想世界…フルダイブ環境の申し子そのものといえる。そして、それを足らしめているアイツの理由にも…」
「………」
彼の瞳と表情、物言いは真剣そのもので、わたしは何か言葉にしないといけないと思いながらも、何も言えなかった。
「これ以上のことは、アスナが自分で感じ取るんだ…」
「う、うん…「まったく、少し眼を離すとすぐこれなんだから!」、え?」
キリトくんの言い聞かせるような言葉に頷いた直後、聞き慣れた親友の大声が聞こえた。
見れば、リズとシリカちゃん、リーファちゃんとユイちゃんが居た。
思わず、すぐに彼から離れようとしたけど、なんとそのまま抱き締められてしまいました、えぇ~///!?
「キ、キリトくん//////!?」
「なんだよ、リズ。折角のいいところだったのに…」
「はいはい。イチャつくのはいいけど、それは帰ってからにしなさいよ~」
まるで先程までの真剣さを誤魔化すかのように茶化したキリトくん、お陰でさっきまでの雰囲気はない。
彼は少しだけ肩を上げて、わたしを離し(ちょっと勿体無いと思った)たので、自分の装備を確認する。
装備は全て、現段階で手に入る最高級のスペックと能力がある。
これで負けても武装の差のせいにはできない。
優しい眼差しでわたしを見つめるキリトくんと視線を交えてから、一緒に向かうみんなにも視線を向けて、一言発する。
「さあ、行きましょう!」
そして飛び立ちました。再び真剣な表情になっているキリトくんに気付かず、見送られて…。
飛行して巨大な樹木の根元を目指して飛行して、近くに降り立った。
ギャラリーの輪の空いているスペースに入ってみると、誰かが墜落してきて土煙が上がる。
どうやら
デュエル終了のファンファーレに歓声と拍手が響く。
「これで合計66人抜きか!」
「誰か止める奴はいないのかよ…」
「一応だけど連勝はキリトが止めているぜ…」
賞賛、ぼやき、別の人への賞賛など、様々な声が上がっています。3人目の人、褒めてあげます。
それはそうとこれから戦うかもしれない相手なのだ、姿を確認しておかないと。
そしてわたしが見た【絶剣】と称されている人物の姿は……え?
「ねぇ、リズ…」
「あによ?」
「女の子じゃないの!」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてません!」
まったくもぅ……それにしても、女の子でキリトくん達に追随するほどの強さだなんて…。
「あれ? アスナさんにリズさんじゃん、それに…」
「シリカちゃんとリーファちゃんだ。やっほ~!」
「え…クーハ君、それにリンクちゃんも」
キリトくん達の同門で弟分と妹分である2人も見に来ていたらしい。
「2人も挑戦しにきたの?」
「まさか。僕はキリ兄達みたいに強くないし、見ての通り
「オレは強いヤツの戦い方を参考にする程度だよ。間違いなく、ギリギリで負けるからね」
どうやらリンクちゃんもクーハ君も挑戦じゃないようだ。
クーハ君が負けると言ったということは、やはり【絶剣】の実力は本物みたい。
「それはそうと俺達に“も”って言ったってことは、アスナさんは挑戦か?」
彼の問いかけに頷く。まぁ、勝つつもりで戦うとはいえ、本気で勝てるとは思っていない。
だって、キリトくん達が凄いって言うんだもん……それだけで勝機は既にない。
「えっと、次に挑戦する人、いませんか~?」
アバターに合った高く可愛らしい響きの声、口調には明るさと無邪気さが漂っている。
ランダムで生成される姿のはずなのに、あの姿は自然な姿に思える。
それはさておき、今の戦いを見てか挑戦を名乗り出るものはいない。
「よし、行ってくるね」
「頑張んなさいよ」
「「頑張ってくださいね」」
「ママ、ファイトです!」
自身に気合いを入れ、みんなの応援を背に、前へと踏み出す。ユイちゃん、ママ頑張るよ!
「あ、お姉さん、やる?」
「うん。やらせてもらうね」
【絶剣】さん、彼女が問いかけてきたのでわたしは頷きながら答える。
すると、わたしのことを知っているプレイヤー達が歓声を上げ始めた。
これでも毎月行われているデュエル大会で上位に成績を収めているのだから、まぁ知られていてもおかしくはない。
むしろ知られているのは男の子達の方かもしれないけど…。
「おっけー!」
彼女の返答、周囲の声が収まったところでルール条件を訊ねる。
ルールは魔法・アイテムが使用可能のありあり、地上戦のジャンプありで翅なしということになった。
ただ、彼女は自分は剣のみと公言した、自信の表れか、それともそうすることに意味があるのか…。
―――[Yuuki is challenging you]
デュエル申し込み窓が現れ、『全損決着モード』になっているところを一瞥して、OKを押す。
彼女の名前は『ユウキ』というらしい、わたしの名字とおんなじだ。
そんなことを思っているとデュエル窓が消滅した。
わたしはこの世界でリズに作ってもらったレイピアの愛剣『レインスティア』を右手で抜き放ち、
剣を持つ手を体側に引きつけてほぼ垂直に構える。
彼女は黒くて細い片手用両刃直剣を中段に構えて自然な体勢を取っている。
数えられていたカウントが0になり、[DUEL]の文字が閃光を発すると同時に……わたしは、全力で地を蹴った。
アスナSide Out
キリトSide
「ふぅ~…」
振るっていた純白と翡翠の剣にして愛剣である『イノセントホープ』を背中にある鞘に収め、息を吐く。
今頃、アスナはユウキと戦っているのだろうか?そう思うがやはり俺に出来ることは何もないので、それを振り払う。
なるようになる、例え彼女が選ばれたとしても、俺は彼女を支えるだけだ…。
「さて、と……ここら辺だと思いたいが…」
仲間も連れずに俺が1人でやってきたのは、その地を緑豊かな土地へと変えた地下世界『ヨツンヘイム』だ。
本来、東西南北の四方にはボス級邪神によって守られていたはずの場所があり、
そのボス級邪神を倒さねばこの地に来ることは出来なかった。
だが、どうやらそのボス達は皆が霜の巨人族だったようで、いまはこの地に自由に来ることも可能となった。
まぁ、闊歩しているのが全て丘の巨人族なので状況自体は差して変わらないが…。
そんなところを1人で歩いている俺もどうかしていると思われるかもしれないが、
偶の1人での行動くらいは大目に見てもらおう……使っているのも、ナーヴギアだしな…。
そんでもって、俺が何故このヨツンヘイムにいるかということだが、目的地があるのだ。
ずばり、『ウルズの泉』だ。かつて
そのウルズの泉に続いている根の上には街があり、未だそこを詳しく調べたプレイヤーはいない。
その街を調べる、というのも目的といえばそうかもしれないが、あくまでもメインの目的は泉のほうだ。
ちなみに俺が倒していたのはこの根の近くに存在している通常サイズのモンスターである。
どうやら新たに出現するようになっていたようなのだ。
とまぁ、時間を掛けて泉に着いた俺はその周りを歩き周り、
1ヶ所だけゲートのようになっているところから水のある場所へと向かった。
そして、辿り着いたその場所にいたのは…。
「やはりこの泉にいたか…。まぁ、本当にいるとは思っていなかったけどな、『ノルンの三女神』」
俺達に『聖剣エクスキャリバー』を与え、意味深な言葉を残した3人の女神達が、微笑を浮かべながら俺を迎えた。
キリトSide Out
アスナSide
はい、デュエルをした結果、負けてしまいました。まぁ負けるとは思っていたんですけどね?
途中までは良い勝負だったと自分でも思える。キリトくんやみんなの言っていた彼女の強さというのも凄く分かった。
キリトくん達みたいな反応速度、卓越した戦闘技術、自由自在に動くアバター、本当に凄かった。
特に、最後の5連撃だと思っていたスキルが例の11連撃の一端だと気付いて、
わたしも唯一習得することが出来た5連撃のOSSの《スターリィ・ティアー》で反撃を試みたけれど、
結局は報いること叶わず、最速の突きをわたしの目の前で止めて決着がついた……なんで止めたのかな?
「うん、すごくいいね~! お姉さんに決めたよ!」
「ほぇ? え、え? な、なにが?」
「こんだけ戦えればボクはもう満足!お姉さんはどう?」
訳も分からず、けれどデュエルに負けたのはあの時点で間違いないのでわたしも満足、なので頷いて応えた。
「ボクはずっとピピッと感じる人を探してたんだけど、ようやく見つけた! お姉さんはまだ時間大丈夫?」
「う、うん。平気だけど…」
「それじゃあ、ちょっとボクに付き合って!」
興奮冷めやらぬ彼女の言葉に頷き、剣を収めた彼女の右手を同じく剣を収めてから握ると、
翅を出現させたので、わたしもすぐに翅を出現させる。
そして2人して体を浮かせると、彼女はわたしの手を引いたままロケットのような速度を出してしまいました……て、えぇっ!?
「ちょ、アスナ! 何処行くのよ~!?」
「え、えぇ、えっと、あとで連絡するから~!!」
リズの甲高い問いかけになんとか答え、わたしはそのまま引っ張られながら空を駆けることになりました。
アスナSide Out
リンクSide
「ど、どうすんのよ…」
「さ、さぁ…?」
「お、お兄ちゃんになんて言おう…」
「パパ、荒れ狂わないですよね?」
「むしろ人間台風になって全部吹き飛ばしそうだね」
リズ姉、シリカちゃん、リーファちゃん、ユイちゃん、僕の順に喋っているんだ。
それに呆然としているのは僕達だけでなく、ここに集まったプレイヤー全員なんだけどね。
その呆然としていた人達も正気を取り戻すと、「今日はお開きみたいだな」と言って解散し始めた。
「ホントに、どうやってキリトに説明すんのよ……って、クーハのやつはどこよ?」
「あれ、そういえば見当たりませんね?」
リズ姉とシリカちゃんが九君の姿が見当たらないことに気付いて周囲を見回し、リーファちゃんとユイちゃんもそうしている。
あれ、気付いていなかったのかな?
「クー君だったら、アス姉と絶剣さんが飛んで行った時、すぐに追いかけていったよ」
「「「「い、いつの間に…」」」」
みんな驚いている。えっへん、これでも『神霆流』の末端に付かせてもらっているからね。
「ま、アス姉のことは大丈夫だよ。クー君に任せておいたらね……隠密や情報収集はクー君の得意分野だし」
そういうわけで、僕達はクー君に任せることにしました。
リンクSide Out
To be continued……
後書きです。
最初はキリトとアスナのイチャつきw、次にアスナがユウキへの挑戦、
その次にオリジナル展開としてキリトが『ウルズの泉』に訪問、そしてアスナが連れ去られるwという展開。
原作と違い、キリトは決闘を観戦せずに『ヨツンヘイム』へと向かいました。
なお、新たなヨツンヘイムの設定などはオリジナルですのであしからず・・・。
次回はスリーピング・ナイツの話になりますよ。
それでは・・・。
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第20剣になります。
先に言わせていただきます・・・戦闘描写はない!
どうぞ・・・。