第16剣 絶剣
キリトSide
京都の結城本家から帰ったのは今日、1月4日の日曜午後1時半頃。
明日奈はまだ用事があるとかで夜まではALOにダイブできないらしく、俺は先にスグと共にALOへとダイブした。
久しぶりのALOで俺を最初に出迎えてくれたのは小妖精姿の愛娘、ユイ。
すぐに子供の姿に戻ったので抱きかかえてあげれば喜んでくれた。そのあとホームにはみんなが集まった。
クライン達社会人メンバーも仕事は明日からということで、今日までは昼間でもダイブできたらしい。
リーファにはアスナが来てから婚約の話をすることを伝えているので、いまは内緒にしておいてもらう。
「しっかし、やっぱキリトがいるとしっくりくるな」
「どんなだよ、それは…」
シャインの訳の分からない言葉に俺は苦笑する。
けれどみんなの反応を見るに、どうやら全員似たような空気を感じていたようだ。
そういうもなのかな?
「……でだ。俺としては、そこで震えている6人はどうしたんだ?」
「ア、アレね、あははは…」
つい先程やってきたエギルは事情を知らずにそれを聞いてきた。
彼が指した6人、そのメンバーはクライン、シノン、リーファ、ハジメ、ルナリオ、そしてハクヤだ。
「いやなに、俺が少し特訓してやっただけさ(黒笑)」
「ハクヤさんはユイちゃんに余計なことを教えてしまったみたいで…。
他のみなさんはエクスキャリバー入手の時にキリトさんをからかい過ぎたらしいです」
「なるほどな…」
黒い笑いでそう言うと、ヴァルが苦笑しながら事情を話し、エギルも苦笑して納得した。
いや~、本当ならリーファはリアルの剣道で、ハジメとルナリオもリアルの方で試合をしようと思ったんだが、
手っ取り早くALOで一対一ずつ全員に指導することにしたんだ。
シノンとリーファは半泣き、クラインは微鬱状態、ハジメとルナリオとハクヤもさすがに顔色を悪くしていたが…。
「あ、そうだ。キリトさん、実はいま強いプレイヤーさんがいるんですよ」
「『ゼッケン』って呼ばれてるのよ。あ、字は絶対の絶に剣ね」
「【絶剣】か…。
「後者らしいわよ」
そこでシリカとリズが新たな話を持ち出し、俺は興味本位で聞くとカノンさんが応じた。
なんでも、そのプレイヤーはデュエルを専門とし、24層の主街区『パナレーゼ』の北部にある大きな樹木が生えた小島があり、
その樹の根元に毎日午後3時なると現れ、立ち合い希望のプレイヤー1人ずつと対戦するらしい。
さらに新顔ということらしく、最初は『MMOトゥモロー』の掲示板に対戦者を募集する書き込みを入れ、
それに「生意気だ」と感じた30人ほどのプレイヤー達が挑んだのだが、見事に30人全員が返り討ちに遭ったという。
さらにHPを3割削れた者は1人もいなかったそうだ、それだけでかなりの手練れだということがわかる。
「リズさんとリーファさんも、挑んだのですよ」
「ほぉ…で、勝敗は?」
「「うぐっ…」」
ティアさんが2人も挑んだことを明かし、どうなったのか聞いたが彼女らの反応で理解し、苦笑してしまう。
リーファ含む6人が復活している辺り、もう諦めがついてきたか。
「だが辻デュエルだと大会とは違い経験値の
よく挑戦者が減らないなぁ。なにかレアアイテムでも賭けているのか?」
「あ~、それなんだがよぉ…」
ふと気になって聞いてみるとクラインは何やら言い難そうにしており、他の面々も似たようなもの。
『神霆流』の面々に至っては少し不機嫌になっている。
「必殺技級のOSS(オリジナル・ソードスキル)を賭けているのよ…」
「見たところ、片手剣系汎用の11連撃なんですよ」
「それはまた…」
代表してシノンが答えて続きをシリカが紡ぎ、さすがに俺も驚いた。
俺達以外で、まさか10連撃以上のスキルを編み出せる人間がいたとはな…。
現在、俺達以外で最も多い連撃を繰り出すOSSを開発したのは、
サラマンダー領の将軍であるユージーンの8連撃スキル《ヴォルカニック・ブレイザー》であるが、それを超えたか…。
「…なるほど、そういうことか…。それなら確かに挑戦者は後を絶たないかもな。
しかし、通りでお前らの機嫌が悪くなるはずだな」
「さすがに俺達ではそういうところは分かってやれないからな…」
俺は2つのことを同時に理解した。
それほどの必殺技を賭けの対象にされれば、多くの人間が後を絶たずに挑戦するだろう。
そして、それほどの必殺技であるからこそ、決闘の賭けにされることを、武を学ぶハクヤ達が嫌悪感を露わにしても仕方がない。
俺とて、あまりいい気はしないからな…。
「ということは、ハクヤ達は【絶剣】には挑んでいないわけか…」
「まぁな…。別に賭け品無しで勝負するってのもあったんだけどさ、その、初日にな…」
「どういうことだ?」
言い淀んだハクヤの言い方、見ればクライン達は僅かな笑みを浮かべながら、
神霆流の面々は気まずそうにし、ハジメが話しだした。
「……『胸糞悪い…』、そう言ってしまったのだ…」
どうやらその【絶剣】が現れた初日、ソイツが必殺技級のOSSを賭けの対象にしたことに対し、
ハクヤが機嫌を悪くしてそう言いながらその場を去ったそうなのだ。
さらにハジメ達も同意しながら去ったという。
その言葉自体は観衆には聞き取られなかったそうなので、絶剣氏の耳にだけ残ったかもしれないそうだが…。
しかしそれならば対面し難いだろうな。
「ふむ……【絶剣】については分かったし、事情についても分かった。
取り敢えず、そうそう会うこともないだろうから、いまは現状維持でいいんじゃないのか?」
「そうするしかないっすよねぇ」
俺の言葉を聞いたルナリオはお手上げという感じ。
そこまでのOSSを賭けの対象にするのには良い思いはしないが、興味は出てきた。
「ま、折角だから俺は挑戦しにいく」
「お、真打ち登場ってやつか?」
クラインが楽しそうに反応しており、他の面々も「おぉ~」と言っている。
「目的は相手の考えを知ることだ。そんなOSSをどんな意図があって賭けの対象にするのかが気になる。
普通なら片っ端から強い奴のところに出向いてもいいはずだからな…」
「そういえば、そうですよね…」
俺の意見にヴァルが応じ、他の神霆流メンバーも頷いた。
「あ、リーファとかクラインはともかく、
「「「「「うっ…了解」」」」」
さて、向かうとするか…。
アインクラッド第24層主街区、『パナレーゼ』。
そこの小島にある大きな樹木の根元には俺達以外にも多くのプレイヤーが集まっていた。
俺の姿を確認すると、周囲のざわめきが大きくなった。
「キリトだ!」、「【漆黒の覇王】のお出ましか…」、「【絶剣】も終わりかもな」という声がちらほらと聞こえる。
ちなみにハクヤ達は少し離れたところの木陰に隠れている。
そして午後3時、渦中の人物がやってきた………って…。
「女の子、なのか…」
さすがに驚いた、うん…。種族は
髪は長く伸びたストレートで濡れ羽色ともいうべき艶のあるパープルブラック、
胸部分は黒曜石のアーマーで覆われ、その下にはチュニックを着用、ロングスカートは矢車草のような青紫、
腰には黒く細い鞘が据えられている。
「えっと、今日も集まってくれて、ありがとうございます!
早速ですが、対戦する人いませんか~?……………アレ?」
天真爛漫とも取れる彼女の言葉、しかし集まった者達からは手が上がらない。
というか皆さん、何故に俺の方を見ているのですか?
「多分だけど、みんなお兄ちゃんが来てるから遠慮してるんだと思うよ?」
「お、おいおい…」
自信があったり、彼女と戦いたいというのなら、遠慮なんかせずに挑戦すればいいものを。
「これはキリト君と絶剣の戦いを見たい、というのが正解かもしれないわね」
「それが一番ありえますね」
カノンさんとティアさんが言うことに一理、というかそれが間違いないっぽいな。
仕方がない、行かせてもらおう。俺が手を上げるとインプの少女が気付いた。
「それじゃあ、そこのお兄さん「「「「「おぉ~!」」」」」な、なに…?」
彼女が俺を示すと周囲から歓声と拍手と口笛が響き渡り、それに驚いた様子。
俺は苦笑しながら彼女の前に出る。
「ルール内容は?」
「魔法もアイテムもばんばん使っちゃっていいよ! ボクは
「なら俺も剣だけでいい」
ルールを聞くと少女はなんでもアリと答えてから、自身が使うのは剣だけだと言ったので、俺も剣のみを使うことにする。
すると彼女はキョトンとしてしまった。
「いいの、剣だけで…?」
「ああ。そういうキミこそ、剣だけでいいのかい?」
「ふふ、言うねぇ~…。あ、地上戦と空中戦、どっちがいい?」
「キミの好きな方で構わない」
「え?……そ、それじゃあ、地上戦のジャンプあり、翅なしでいいかな?」
「OK」
彼女は途中まで俺との問答を楽しんでいたようだが、
まさか相手が自身の得意なもので戦うように言うとは思いもしなかったのだろう。
少しばかり戸惑った様子を見せている。
「パパ。わたしはリーファさん達のところで観戦しますね」
「わかった。応援よろしく」
「勿論です♪」
俺の胸ポケットからひょこりと顔を出したユイは、飛び立ってからリーファの肩の上に座った。
そんな俺の様子を見ていたインプの少女はまた驚いた様子だ、初対面だと確かに驚くかもな。
最近ではユイのことも名物というか、有名になってきたのだが…。
そこで彼女を見据えていると、ギルドタグのアイコンがついており、
左右に白い翼を伸ばしたピンク色のハートというデザインの
少女が右手を振るってシステムウインドウを操作し、俺の前にデュエル申し込み窓が出現した。
―――[Yuuki is challenging you]
ユウキ、それが彼女の名前か…。
どこかで聞いた名前だと思い、頭の中に浮かんだのは愛しき女性の名字。
それから、何故かもう1人の名前も浮かんできた……っと、集中集中。
考えを振り切り、表示されたウインドウを見据える。
『初撃決着モード』、『半減決着モード』、『全損決着モード』、3つのオプションから選ばれるのは全損である。
SAOの時とは変わったな、こんなあっさりと選べるなんて…。
その考えを頭の奥に押し込め、OKボタンをタッチし、デュエル窓が消滅、10秒のカウントダウンが始まる。
俺は背中に背負いし漆黒と紫紺の片手用両刃直剣、『アビスディザイア』を右手で抜き放ち、自然な体勢を取る。
彼女、ユウキも左腰に据えていた黒曜石のような色合いである細めの片手用両刃直剣を抜き放ち、中段に構えた。
さて、【絶剣】と呼ばれるほどのキミの力、俺に見せてくれ!
「参る!」
『DUEL』の文字が一瞬の閃光を放ったと同時に、俺と彼女は約7mある距離を詰めるように駆け出した。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
というわけで今回からマザーズ・ロザリオ編、通称・マザロザ編、さらに通称・MR編になります。
原作沿いの内容ではありますが、オリキャラの存在やキリトのチート級な実力、様々な環境の変化、
オリジナルの物語の展開などがありますので、原作とは違ったMR編をお楽しみいただけると思います。
次回はキリトVSユウキ、その決闘後の2人の会話などをお送りします。
それではまた・・・。
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第16剣です。
マザーズ・ロザリオ編です。
前回の最後で和人が埼玉の自宅に帰宅した直後からになります。
どうぞ・・・。