No.605694

リリカルなのはSFIA

たかBさん

第三十七話 獅子は未だに目覚めない

2013-08-06 03:08:05 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3908   閲覧ユーザー数:3595

 第三十七話 獅子は未だに目覚めない

 

 

 

 チンク視点。

 

 

 

 「おのれ、おのれ、おのれぇええええええっ!!」

 

 「くそっ、くそっ、くそっ、くっそぉおおおおおおおおっ!!」

 

 私と妹のノーヴェは先程の作戦で失敗したことに気を荒くしていた。

 何もあのオレンジ頭の所為だ。

 アサキムが我々のアジトに聖王教会が大事にとっていた聖王と呼ばれた古代の王の遺品。

 それに付着していたDNAから作り出したクローン。ヴィヴィオをアジトに連れてくる。

 機動六課とゼクシスの施設の破壊。そして、彼等の持つD・エクストラクターの回収。

 

 ヴィヴィオの拉致。機動六課施設の破壊は完遂。

だが、ゼクシスのリーダー。プレシアと主戦力の『傷だらけの獅子』にダメージを与えたものの壊滅とまでのダメージを与えていた。これはアサキムが敢えてとどめを刺さなかったことにある。

 Dエクストラクターも使用者がいなかったため回収できなかった。

 それは全てアサキムの独断でそうした。

 

 『そんなにガジェットに八つ当たりしちゃ駄目よ。チンクちゃん。ノーヴェちゃん。…だから、八つ当たりしないで。これから迎撃出すんだから。あの聖王のクローンの調整も遅れているのに・・・』

 

 しかし自分はどうだ?

 自分達、戦闘機人のプロトタイプと言ってもいい機動六課のスバル・ナカジマ。ギンガ・ナカジマをサンプルとして拉致しようと思ったが、あのオレンジ頭。ティアナ。

 小さな竜使いと一緒にエリアサーチという魔法を使って、私達が破壊活動していた陳述会の地下駐車場内に一般人がいない事を確認したティアナは、

 

 

 『とりあえず怪しい所はその区域ごと潰しましょ。不意打ちを受けても仕方がないし…。大丈夫。責任を取れと攻められても、そこに転がっているガジェットがやりましたと言えばいいわよ』

 

 と、駐車場の天井部分を打ち砕いて私達が不意打ちをするために隠れていた駐車場一帯を大量の瓦礫で埋めた。

 なんでも彼女の師匠も相手の出方を見る為に駐車場の天井どころかビルを壊したことがあるそうだ。

 その所為で隠れていた私達は思わぬ攻撃を受けて、サンプルの拉致を達成することなく撤退を余儀なくされた。

 戦わずして負ける。

 それが私としては気に喰わない。勿論ノーヴェも…。

 戦闘能力では確実にこちらの方が上なのにティアナの結果としては良しともいえる破壊活動の所為で私達は自分の真価を見出すこともなく負けた。

 

 「…絶対だ。絶対あのオレンジ頭を叩き潰してやる」

 

 「待て、あれは姉が相手を務める。お前はサンプルの戦闘機人の相手をすると意気込んでいたではないか」

 

 ノーヴェは自信がつけている機械じみた手甲を睨みつけながら、その向こう側に拉致し損ねたスバルやギンガの面影を見ていた。

 自分と同じ格闘系の戦闘機人を倒したがっていた。

 

 「勿論するさ、チンク姉。だけど、あのオレンジ頭は別に私がたまたま偶然(・・・・・・)私の前に出てきたら潰してもいいだろ?それよりどうしてお前までそこにいるんだよ、アサキム」

 

 その目的と同レベルになるまでティアナを敵視していた。

 そして、同じくらいに画面の向こう側にいる男を敵視していた。

 

 『…白を染めるには確実にここをガードしておいた方がいい。それだけさ』

 

 クアットロのすぐ傍にアサキムが立っていた。

 クアットロもすぐ傍に立つアサキムを快く受け入れたわけではない。だが、受け入れなければクアットロが操作している施設。『聖王のゆりかご』を破壊される可能性がある。

 全長一キロメートルを超える空母にも似たその戦艦は、ミッドという魔法世界の空に浮かんでいる。

 進路を大気圏の向こう側。二つの月が浮かぶミッドの空を進んでいた。

 

 「…ち、ドクターが許していなかったら今すぐにでもそっちに向かって殴り倒していたのに」

 

 戻ってきたドゥーエからの連絡ですぐさま自分達の体を調べ直したチンク達は慌てて調整に入った。

 ジ・エーデルの手によって自分達が生まれる前から組み込まれたブロックワードを先程解除したばかりだった。

 アサキムからの情報提供や戦闘機人に関しての知識があったからジェイル・スカリエッティだったからこそすぐさま解除が出来たのだろう。

 

 その事もあってかドゥーエはチンクと共にいずれ出てくるだろう出撃に備えていた。

 だが、その前に仕掛けねばならないことがある。それは画面越しにいるクアットロの得意な情報戦だ。

 

 『それじゃあ、ドクターが仕掛けたらそこからすぐに管理局に攻撃を仕掛けてね』

 

 「…了解した」

 

 「りょーかい」

 

 チンクとノーヴェはクアットロの言う言葉を聞いてただ頷き、飛行が可能なⅢ型に乗ってクアットロの全域放送を待った。

 

 

 はやて視点。

 

 「…くっ。まさかここまでやられたなんて」

 

 私はテロの現場と化した会場での騒ぎもひと段落した後、機動六課施設が戻ってくるとそこに広がる惨状を見せつけられた。

 破壊されつくされた施設と傷つけられた人達。そして、

 

 『………………』

 

 何も見ていない。いや、見ようとしない高志君が運ばれていく光景だった。

 彼は今から意識を取り戻したプレシアさんはしばらくの間、すぐさま自分と高志君をアースラに乗せる事。そして、ゼクシスメンバーのみをアースラに移すように言ってきた。その行動を少しおかしいと思いながらもそれを了承した私はシャマルとザフィーラの様子を見に行くことにした。

 高志と入れ替わるように多くの患者が運び込まれる。命の危険を脱した後はアースラにある設備でも十分に間に合うから、任せてもいいだろう。

 緊急避難場所として聖王教会の病室を使わせてもらっているが、私達機動六課もすぐに出ないといけない。

 ジェイル・スカリエッティの作り出したガジェットは今もなお、あちこちに現れているのだから…。

 今のところ目立った動き。攻撃してくる管理局員や聖王教会の騎士達だけを狙って攻撃はするものの非戦闘員、一般人といった必要以上に攻撃を仕掛けてこない。

 それを不気味と感じ取っていたからプレシアさんは高志君達を自分達の基地に移動させたのだろうか?それとも…。

 

 『聞こえるかね?管理局と管理局の与えてきた偽りの平和に甘えてきた人達。まあ、それに気付けなかったという人達。襲撃という形で私の事を知った者には大変申し訳なく思っているよ。だが、これも私のような陰で科学者たちを虐げてきた管理局を恨んでほしい』

 

 私がプレシアさんの行動の思惑を考えていたら突如全域放送で流しているのだろう。

 ミッドの放送局全てがこのテロ事件についての事を放送している。

 よくもぬけぬけと。と、思っていた。次の瞬間に新たな映像が映し出された。

 それはガンレオンを纏った高志君やガナリーカーバーを持ったリインフォース。SPIGOTを周りに浮かべたリニス。そして、その三人と高速で空中戦を繰り広げているシュロウガ。アサキムの映像だった。

 

 『そして、力の独占をしてきた管理局を。特にこのスフィアリアクターの隠匿を』

 

 次の映像はマグナモード状態のガンレオンを拡大した物だった。

 

 『見ての通り、今映し出されている映像はスフィアという摩訶不思議なロストロギアを使用して爆発的な戦闘能力を生み出している。それだけではなく、この力は人では癒すことが出来ないと思われた傷や病気も癒すことも可能だ。これを独占してきた管理局をあなた達はどう思うだろうか』

 

 「はやてちゃんっ。この放送って」

 

 「はやて。母さんから伝言を預かって…。この放送は」

 

 廊下で立ち止まって放送を聴いていた私を見つけて駆け寄ってきたなのはちゃんとフェイトちゃんも映し出された映像を見て驚きの表情を見せる。

 

 『だが、本当に判断してほしいのはもっと先にある』

 

 …先?

 高志君の『傷だらけの獅子』の力は戦闘能力のブースト。治癒する人間のリンカーコアを破壊することになるが強力な治癒を施すことが出来る。それ以外に何が…。

 

 

 

 『それは死者蘇生。この者が持つスフィアというロストロギアは死者を蘇らせることが出来る』

 

 

 

 ・・・え?

 私は自分の耳に入ってきた言葉が聞き間違いじゃないかと思っていた。だが、放送は続く。

 

 『誰もが自分を愛した者が生き返ってくれればと思ったことはないかい?もう一度会いたいと思ったことはないかい?荒唐無稽とも思えるその夢を?馬鹿な話だと思うだろうが実在したのだよ。それを実現させた存在がある。それが…』

 

 そして、ガンレオンのすぐ隣にアリシアちゃんの映像が映し出された

 

 「お、お姉ちゃん…?」

 

 『アリシア・テスタロッサ。現在、民間協力団体ゼクシスのエース。彼女こそがスフィアの力で生き返った人物その人だ。彼女については管理局に問いただしてみるといい。現在執務官として働いている。フェイト・(テスタロッサ)・ハラオウンについて。そして、彼女を作り出したプレシア・テスタロッサについて』

 

 同時に聖王教会全体からざわめきが起こった。

 ついさっきまでアリシアちゃんも高志君のすぐ傍にいたからアリシアちゃんの姿を見た人が騒いでいるのだろう。その上、フェイトちゃんともよく似ているから勘違いした人もいる。その人達も誤解しているのだろう。

 

 『管理局員の諸君。君達は自分の同僚を、仲間を、恋人を目の前で失ったことはないかい?私の兵器が殺した人も多くいるだろう。だが、生き返らせることが出来る。出来るのだよ!あらゆる科学と魔法が頂点と考えていた死者蘇生を可能とする力が!』

 

 聖王教会内のざわつきが更に強くなる。

 それだけじゃない。他にも映し出された映像の中には今放送されたことを聞いて騒ぎ始める人達が映し出されていた。

 

 『それだけではない!管理局は!管理局はそのスフィアの力を使って私自身も知らず知らずに苦しめてきたのだよ!ブロックワードというものを使って私を操っていた!』

 

 ジェイル・スカリエッティは語る。

 自分は作られた存在だと。『枷』を二重に嵌められて行動を制限。いや、命令されていたというのだ。と、

 

 『…私は管理局を、スフィアを恨む!だからこそ私は彼に協力する!『黒の放浪者』!アサキムに!彼に全てのスフィアを狩ってもらう為に!だから、スフィアを求める者がいるのならはやく手に入れた方がいい。私達が狩り取る前に!』

 

 そうジェイル・スカリエッティが言って通信が切れた。

 同時にざわつきが最高潮に達した。

 自分達が信じていた正義が、管理局がそのような非道をしていたのかという情報に。

 スフィアというこの世。いや、全世界の宝とも思える存在に…。

 そして、その夢の体験者。アリシアちゃん。

 本人。いや、プレシアさんか高志君に問いたださないとわからない。

 それが本当かどうかを。

 ・・・確かめてどうなる?

 

 「おい、さっきの…」「あれはテスタロッサ執務官だろ?」「でも、もう一人いなかったか」「じゃあ、あの人が…」「さっき運ばれた奴。あの黄色い鎧の奴じゃ…」

 

 私が再び思考の海に沈もうとした瞬間に再び周りのざわめきが大きくなっていく。

 あかん!

 急いでこの情報を規制しないと!

 ミッド全域に拡散しているとはいえ、急いでこの情報を封鎖しないと私達は内部から総崩れになる!

 

 「あいつの力があればあれだけの力が手に入るのか…」「あいつの力があれば国の父さんや母さんの病気も?」「死んじまったダチを…」

 

 強大な力。治癒。そして、死者蘇生。

 管理局員なら少なからず死地に赴いたり、関係してくるので力を欲したくなる。

 『夜天の主』。ヴォルケンリッターという力を所持している私も管理局に入局した当時はそんな嫉妬や羨望の目で見られた。だが、今回はその比ではない。

 その力はもちろん。治癒の力。そして、死者蘇生の力に目がくらみそうになっていた。いや。もう遅いのかもしれない。だけど、これ以上ざわつかせるわけにはいかない!

 

 「皆、落ち着いて聞いてや!あれは敵側の情報操作や!私達を自分達から目を逸らすための嘘!方便や!鵜呑みにするんやない!」

 

 私はざわつきを消すほどの大声で一喝する。

 こうでもして一時的にもざわつきを消して自分に注目を集める。そして、反論を許す前に一気に決める。

 

 「だけど、スフィアの力は強大!それは事実や!この中にはそれを目にした奴もおるやろ!うちもそうや!そんな力をスカリエッティ何かに奪われたら!考えなくてもわかるやろ!うちらがやるべきことはスフィアリアクターの保護!それを引いてもスカリエッティ一味の拿捕!それが、管理局の正義!この世界を守ることになる!」

 

 「あの力…。本当に手をすることが出来るのなら…」「だ、だけど…。実際、死者蘇生が本当なら…」「そうだ。そんな力が本当にあるのなら…」

 

 ざわついた声の中にはまだ意見を言う者がいた。だけど、ここが落とし時や。

 

 「ほんなら自分達は自分達の信じてきた正義(・・)と街を破壊した犯罪者の言葉。…どっちを信じるんや?」

 

 その言葉に辺りはしんと静まり返った。

 私はあえて管理局を正義と言い換えて言いくるめた。

 正直、この言い方は好きじゃない。レジアス中将を始めに私やフェイトちゃんの事を犯罪者と陰で罵る輩が何人かいるのは知っている。

 まるでその人達の事を真似しているかのような自分の言い草に苦虫を潰した気分になる。

 だけど、今はこんないい方でもしないとここの人達は今すぐにでも高志君やプレシアさん達を追って捕縛にかかろうとするだろう。

 プレシアさんはこれを危惧したからこそ、あんなに急いでここを出たんだろう。

 それに…。きっと、これから私達管理局員達は街中に浮いているガジェットの掃討に、この放送を聴いて暴徒になった人達の鎮圧に出ないといけいだろう。

 一日でも早くスカリエッティ一味を捉えないといけないのに、私達機動六課もまともに身動きが取れない。

 今、スカリエッティ一味を追えるのは私が知っている部隊では一つだけ。

 

 民間協力部隊ゼクシス。

 

 「…お願いや。プレシアさん。アリシアちゃん。私達は貴方達に頼るしか出来ないんや」

 

 誰にも聞こえないように一人呟いた私はショックを受けているフェイトちゃんやなのはちゃんを連れてシャマルとザフィーラが運び込まれた部屋に入った。

 完全な個室じゃないけどそこで作戦を立てなければいけなくなった。

 ここからはスピード勝負。

 いかにはやく、ゼクシスに追いつけるか。

 正直問題は山積み。

 先程の情報での混乱した管理局をどう上が上層部。そして、私達の部隊をまとめるかだ。

 機動六課の局員への説明はこれまでゼクシスと接してきたから者もいるから懐柔は少し楽になるだろうが、管理局の本局への連絡はどうすべきか…。

 とにかく今すべきことはここにいる人間をまとめることだ。

 

 「…高志君」

 

 …高志君。今まで私達は君に守られてきた。ここで少しでも守らせてな。

 だけど…。だけど…。

 今まで頼ってきて。こんな事を思うのは凄く不謹慎だと思う。それでも願わずにはいられない。

 

 

 

 お願いや…。私達を助けて

 

 

 

 このまま戦えば、戦力的に私達は確実に負ける。

 それが分かるからこそ。願わずにはいられない。

 『傷だらけの獅子』が再び立ち上がってくれることを私は願わずにはいられなかった。

 

 


 
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