第10剣 聖剣エクスキャリバー
キリトSide
「ふぅ……むさ苦しいオッサン達だったな」
デカい筋肉隆々のオッサンが2体もいたんだ、さすがに疲れもする。
「っんなこたぁどうでもいい! それよりキリの字、オメェアレのこと知ってやがったな!?」
「アレって、あの人がトールだったってことか?
勿論、知っていたに決まっている。そうじゃなければ、檻から出さないさ」
「うわぁ、少しも悪びれてないっすよ…」
クラインが問い質してきたので、それにあっさりと答えるとルナリオがそう呟いた。
そのうえ、ハジメとシノンはジト目でこちらを睨み、アスナとユイは膨れっ面になっている…可愛いなぁ。
「そうは言うがな、思い出してもみてくれ。俺はトールが変装していた姿を、一度でも『フレイヤ』と呼んでいたか?」
「それは、一度くらいは「呼んでいません…」、え…?」
俺の言葉に拗ねたアスナが反論しようとしたが、ユイが途中でそれを遮った。
「パパは、あのフレイヤさんを模したトールさんと会ってから、一度も
ユイの言ったことにみんなが思考し、口を開き始めた。
「つまり、私達が冷静にキリトの様子を窺っていたら、少なくともフレイヤじゃないって気付けたってこと?」
「そういえば、お兄ちゃんにしては珍しく警戒しないで助けたもんね…」
シノンとリーファはそう言えばというように呟いた。
「でも、教えてくれても良かったのに~」
「ネタバレしたら詰まらないだろ? それに、あくまでもリアルにおける伝承の中の話だ。
どこが捻じ曲げられているか分からない以上、正確な情報とは言えないしな」
「……まぁ、そうだな」
アスナは頬を膨らませながら言ったが、俺の回答にハジメは同意する。
折角の緊迫した危機感のあるクエスト、完全正確とは言えない情報、
それならば楽しんだ方が良いに決まっている……何より…。
「みんな揃って俺をからかったじゃないか~」
「「「「「「「うっ…」」」」」」」
これに尽きる。いい笑顔を浮かべて言ったつもりだから、みんなの表情が良い感じに引き攣っているのが良く分かる。
ユイに至っては悪戯を見つかった子供のような反応で、アスナの髪の陰に隠れ、ソワソワしながらチラチラと俺を見ている。
まぁ、意趣返しも済んだことだし、この辺にしておこう。
「取り敢えず、この『雷鎚ミョルニル』はリズにでもやるか。それでいいか?」
「オレ達は別にいいけどよぉ、ルナリオはいいのか? お前ハンマー使うだろ?」
「ボクは構わないっすよ。シャルウルのこともあるっすから」
聞いてみればクラインが見渡してから言い、ルナリオに訊ねていたが、
ここに来る前にも話したように『壊鎚・シャルウル』の件もあるので問題無いとのこと。
その時、俺はリーファが腰元に下げていたメダリオンに眼がいき、少しだけ驚いた。
「メダリオンがまだ光っているということは、クエストが続いているのか。
そうか、このクエストの本分は『聖剣エクスキャリバー』を台座から引き抜くことだったな」
「そういえば、スリュムを倒すことじゃなくてキャリバーのゲットが本命だったね」
そう言うとアスナが思い出したかのように言った。そうそう、忘れてもらっては困るぞ。
「パパ、玉座の後ろに階段が生成されています。おそらく、その階段の先に…」
「ある、ってことだな…それじゃ、行くとするか」
「「「「「「「おぉ!」」」」」」」
ユイに階段の存在を教えられ、俺達は玉座の後ろにある階段を発見し、そのまま降りていくことにした。
時間は既に残り15分ほどになっており、俺達は急いで螺旋階段を駆け下りていく。
まだ15分とも言えるが、もう15分とも言える。故に急ぐことにしても問題などあるはずもない。
なんせ、この1分1秒が経つに連れ、トンキーの仲間達は命を奪われていっているのだから。
そんな時、後ろを走っていたリーファから声を掛けられた。
「お兄ちゃん。あたし、おぼろげにしか覚えていないんだけど、スリュムヘイムの城主は確か別の巨人のはずだよね?」
「え、そうなの?」
彼女のその言葉にシノンも少し驚いた反応を示したので、解説を加えて説明することにする。
「あぁ、北欧神話におけるスリュムヘイムの真の主の名は『スィアチ』。
黄金の林檎を狙っているのもソイツで、あとはアース神族の女神の1柱である女神『イズン』も狙っていたな」
「いま検索も掛けてみたのですが、どうやら今回プレイヤーに問題の
ヨツンヘイム最大の城に配置されているNPC『大公スィアチ』のようです」
「……後釜は最初から用意されていた、ということか…」
俺の説明に続き、ユイが外部ネット検索を行ったようでその成果を教えてくれた。
ハジメはその内容に僅かに不機嫌な様子を窺わせる。
巧妙な手口が気に食わないのだろう……システムとはいえ、カーディナルの腹の底が窺い知れないからな…。
「5秒後に出口です」
「了解」
ユイの言葉に即座に応え、みんなで速度を上げて階段を下りて進み、明るい光目掛けて飛び込んだ。
そこは所謂『玄室』、壁は薄く、ヨツンヘイムの大地を見渡せるほどである。
真円形のフロアの中央に50cmほどの立方体が鎮座しており、
その内部には世界樹イグドラシルのものと思われる細く柔らかそうな根があるのだが、
それは1本の鋭利な刃物により切断されている。
黄金を纏い垂直に伸びる長剣、精緻な形状のナックルガード、細い黒革を編み込んだ
間違いない、かつて幾度か見たことのある剣だ。
泥棒の王である愚者がたったの一言で生成したようなものとは違う、正真正銘の最強の剣。
「聖剣、エクスキャリバー…」
見たことはあるものの、手に持つのは今回が初めてか…。
そんな俺の心情を察してか、アスナとユイ、ルナリオとハジメは少し表情に翳りが出る。
「あまり気に掛けないでくれるとありがたいんだが…」
その言葉を言った後にハッとした表情をしたリーファとクライン、
2人も俺がキャリバーによって身体を刻まれたことを思い出したのだろう。
シノンだけは事情を知らないが、どうやら雰囲気を察してくれたようである。
俺は苦笑してから、キャリバーの柄に右手を掛け、柄を握りしめる。
「っ!」
息を吸い、力を込めて一気に引き抜こうとした……が、抜けなかった。
まるで城そのものと同化しているような感覚を覚えてしまう。
「くっ、ぬぅ…!」
さらに力を込めて引き抜こうとしたが、それでも抜けることはない。まさか筋力値が足りていないのだろうか?
SAOやGGOとは違い、ALOでは明確に筋力値などが数値化されてはいない。
しかし、実際はシステム上で数値化されているので所謂『隠しパラメータ』的な扱いなのである。
それを考えると俺よりも筋力値が高いのはこの場に1人、ルナリオがいる……が、その眼は俺に抜けと言っている。
そして俺はもう1つ思い出す。
聖剣エクスカリバーの伝説、幾つかの伝承の1つに石に刺さった剣を抜くものがあるが、
それを抜くことが出来るのは神に任命された『本当の王』たる者にしか抜けないというものだ。
なら、試してみるか?
「ふぅ………っ!」
「「「「「「「っ!」」」」」」」
一度深呼吸をし、それから『覇王』の覇気を解放する。
俺を見ていたみんなの息を呑む音が聞こえたが、いまは気にしている場合ではない。
それに、その沈黙は無言の応援だということが分かる。
――キリトくん、頑張って!
《接続》によって聞き取ることの出来たアスナの想い。
右手だけでなく左手も添え、両手に力を込め、一気に引き抜く!
すると、台座から強烈な光が迸り、俺の視界を金一色で染めあげた。
続いて何かが壊れる破砕音が発生し、手に持つ剣の重さが一気に伝わってきた。
思わず剣を放しそうになったが、なんとか両手で持つがかなりの重量である。
傍で見ていたみんなが歓喜の声を上げようとしたその時。
―――ドガァァァンッ!
突如として天井から世界樹の根が伸びてきた。
見れば目の前の台座に包まれていたはずの小さな根も急速に成長しており、上から伸びてきた根と絡まり結合した。
呆然とその様を見ていたが、さらに事態は加速し始めた。
―――ゴゴゴゴゴッ!
「きゃあっ!?」
「じ、地震かぁっ!?」
「……違う、これは…!」
今度は大きな揺れが奔り、バランスを崩したアスナが俺に凭れ掛かり、
クラインは片膝をつきながら驚き、ハジメは理由を悟ったようだ。
周囲の壁に亀裂が奔っている…しかも、その直後に壁の一部が剥がれおち、真下にある
「みなさん、スリュムヘイム全体が崩壊するようです! なんとか脱出しないと…!」
「や、やっぱり崩壊!?」
「だけど、階段はもう…!」
ユイの報告にリーファは顔を顰め、アスナは俺達が移動してきたはずの階段が既に崩壊していることを伝えてきた。
取り敢えず、罅1つ入っていない真円形の円盤の上にいるので、これが壊れることはないだろう。
だが心配なのはその周辺が砕けて落下し始めていることである。
「さて、どうするか…」
「……この下はグレートボイド、その先は果たしてニブルヘイムか
「どっちにしても死亡っすね」
「なんでテメェらは落ち着いてんだよ!?」
俺とハジメとルナリオの暢気な会話にクラインがツッコム。いや、だってな~?
「まぁまぁ。どうせヨツンヘイムじゃ飛べないんすから、どうしようもないっすよ」
「いや、少しは助かる方法考えてよ!?」
「……それに、おそらくはエクスキャリバーを引き抜いたことで城の崩壊が始まったのなら、それでいいではないか」
「確かにアルヴヘイムは助かるけど……って、いまはそういう問題じゃないわよ!?」
「だから少しは落ち着けって」
「キリトくん達はもう少し焦ろうよ!?」
「さすがはパパ達ですね~」
ルナリオに対してリーファが、ハジメに対してシノンが、俺に対してアスナがツッコミを入れ、ユイに至っては感心している。
リーファのメダリオンに視線を向けてみれば、点滅が止まっているから察するに、
スローター・クエスト自体が止まったと思われる。
「リーファ、口笛で呼んでくれ」
「え、なにを?」
「トンキーを」
「「「「「あっ…」」」」」
俺が妹にトンキーを呼んでくれと頼むと、どうやらハジメとルナリオを除く5人は気付いた様子を見せた。
まさにその手があったか、というふうに。
あちこちに穴が開いている為、恐らく響き渡るはずだろう。
リーファが勢いよく口笛を吹くと周囲に響いた。
そして口笛が鳴り終わった。あとは周囲の床が全て砕ける前にトンキーが来れば、
そう思っていた時、俺達が乗る円盤が落下を始めた…て、おいっ!?
「ね、ねぇ? だいじょうぶ、だよね?」
「トンキー、間に合うわよね?」
アスナとシノンはさすがに引き攣りながら心配そうにしているが、その直後、俺達の耳に聞き慣れた声が聞こえてきた。
―――くおぉぉぉぉぉんっ!
「トンキー!」
「ま、間に合ったか~」
トンキーの到着にリーファが喜び、クラインも安堵の声を漏らした。
周囲には氷塊が降り落ちているため、トンキーは身体を横付け出来はしないが、5mくらいの間隙を空けてホバリングしている。
「ありがと~、トンキー!」
「助かったわ」
「ナイスっすよ~!」
リーファ、シノン、ルナリオの順に飛び移っていく。
「ありがとな!」
「……礼を言うぞ」
「来てくれてありがとう」
「トンキーさん、ありがとうです!」
クラインとハジメ、アスナと彼女の肩に乗るユイも飛び移った。
さて、残るは俺1人なのだが……どうするかなぁ?
いくら俺でも、非常に重たいエクスキャリバーを抱えながら飛び移るのはギリギリかもしれない。
ならばここは…。
「ルナリオ!」
「は、はいっす!…って、まさか…」
俺は彼に呼びかけると剣を構えた……まさかも何も、その通りだ!
「受け取れぇぇぇっ!」
「へ、ちょ、ぎゃあぁぁぁっ、危なぁっ!? ていうか重いっす!」
俺の全力を込めた剣の投擲、ルナリオは叫びながらもなんとかキャッチ、
身体が軽くなったことで俺は簡単にトンキーに飛び移ることが出来た。
いや~、案外なんとかなるものだな。
「よく取れたな(笑)」
「殺す気っすか!?」
「むしろ避けると思いはしたけどな」
からかうように言えば思いきりツッコんできたが、さらに笑いながら返せば今度は肩をガックリと落とした。
ほんと、別に取らなくてもよかったんだけどな…。
そんな時だった、俺は俺達が乗るトンキーの背に大きな影が映ったのに気が付いた、まさか!?
そう思い、上を見上げてみるとそれなりの大きさの氷塊がここに向けて落ちてきたのだ。
「な、こんな時にっ!?」
「ふぅ、かくなるうえは…」
「ふぇ、キリトさん?」
アスナが焦りながら声を上げるが、俺は苦笑しながらルナリオが持つキャリバーを両手で持ち、
回転しながらブーメランを投げるように回転投擲をした。
―――ズバァンッ!
「わぁお~…」
「「「マジで(マジか)(マジっすか)?」」」
「「「「えぇ~………」」」」
俺が投げ捨てたキャリバーはものの見事に氷塊を真っ二つに斬り裂き、トンキーの左右に分かれて落下していった。
俺だけでなく、残りの男性3人と女性陣も呆然とした。
ま、エクスキャリバーはどうでもいいか。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
原作よりもパワーのあるキリトでも、さすがに片手で引き抜くのは無理でした。
なので覇気モードでの引っこ抜きを行い、見事引き抜くことに成功しました。
そしてキャリバーをルナリオに向けてパスするという荒技w
しかし、自分は思った・・・このままではシノンさんの見せ場が見れないと!
というわけで、キリトさんが投げ捨てたキャリバーは次回で・・・。
それではまた・・・。
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第10剣になります。
スリュムを倒した直後からになりますよ~。
どうぞ・・・。