第9剣 神の協力、打倒スリュム
キリトSide
スリュムの序盤攻撃パターンは、左右の拳によるパンチの撃ち下ろし、右足による3連続の
直線軌道の氷ブレス、氷の床から氷で出来たドワーフ兵を12体生成、以上の4つであった。
前者3つの攻撃に関してはタイミングを見切り、完全回避も可能とすることが出来た。
「ふっ!」
厄介かと思われたドワーフ兵に関しては、後方のシノンによる驚異の精密射撃により、一瞬の間に倒してくれた。
勿論、攻撃回避のタイミングは愛娘のユイの指示による賜物である。
しかし問題はまだあった、それは俺達の攻撃では大きなダメージを与えられないということだ。
ソードスキルなどを用いても、これといった効果は得られない……そんな中、
心強かったのは9人目(ユイが8人目)のブラウン・ゴールドの人物である。
その人の放つ電撃系攻撃魔法の威力は絶大で、スリュムのHPを大きく削っていった。
10分以上経過した頃、ようやく1本目のHPゲージを削り終えた。
「ぬおぉぉぉぉぉっ!」
「パターンの変化に注意!リーファ、時間の方はどうだ!?」
「45分ってところだと思うよ!」
奴は一際強烈な咆哮を轟かせ、俺は全員に注意を促し、妹に残り時間のほどを尋ねた。
よし、10分でこれなら、なんとか間に合わせることが出来る。
しかし、奴を倒すに当たって、《
15連撃以上を出せると言っても、大ダメージを期待できない。
ならびにOSSに設定している《二刀流》のスキル、その中でも《スーパー・ノヴァ》であればそれなりのダメージは期待できるが、
思考を熟しつつ、戦闘を続けていると、巨人の王が両胸を膨らませるかのように大きく息を吸い込もうとする。
これは広範囲の大技が来る!
「リーファ、風魔法で吸引を中和!」
「っ、はい!」
即座に指示を出し、彼女は風魔法のスペルワードを唱える。
それから少し遅れて始まった吸引、けれどリーファが風魔法での吸引力を中和し、
俺達は広範囲技に巻き込まれないように後方や左右に別れる。
そこに吸引を終えたスリュムが広範囲の氷のダイヤモンドダストを口から放つ。
「ん、ばあぁぁぁぁぁっ!」
「くっ、防御姿勢!」
詠唱を行っていたリーファが撤退から僅かに遅れるが、ルナリオが彼女を抱きかかえ、
自身が持つ両手ハンマーを水平のまま床に置くと、その影に2人で隠れた。
俺とハジメとクラインも完全に逃れることは出来ず、防御姿勢を取る。
その結果、5人それぞれの身体の一部が氷付くこととなった……が、完全に凍ったわけではない。
リーファは髪と背中が、ルナリオは両腕両脚が、俺達3人は下半身が凍りつく。次いで奴は行動に移った。
「ぬうぅんっ!」
雄叫びと共に大きく右脚を持ち上げ、一気にストンプを行い、
そこから衝撃波が発生し、動けなかった俺達をそのまま吹き飛ばした。
かなりのダメージ、6割は間違いなく削られた。
まともに凍りついて近場で受けていたら、ダメージはもっと大きかっただろうな…。
そこで俺達に水色の光が降り注いだ、アスナが高位全体回復スペルを使用してくれたようだ。
ダメージを先読みして使ったのだろう、相変わらずのセンスだ。
徐々に回復していくHP、けれど一瞬で全回復出来ないのはやはり不味いな、このままだとジリ貧になりかねない…。
―――ドガアァンッ!
「むぅっ!?」
その時、奴の顔の近くの髭の部分で爆発が起きた。
シノンが放った火矢、両手長弓系ソードスキルの《エクスプロード・アロー》は物理1割、火炎9割の攻撃を与える。
霜の巨人である奴に炎は弱点であり、立て続けに放つ火矢でHPを削る。
彼女は俺達の態勢が完全に整うまでの時間稼ぎの為に、ワザと大技でヘイトを稼ぎ、囮役になったのだ。
「ハジメ達はやらせない!」
「……シノン、30秒頼む!」
「任せなさい!」
どうやら乙女心を刺激されていたらしい、恋人に大ダメージを与えられてお冠のご様子。
その合間に俺達は赤い液体の入ったポーションを飲み、HPの回復速度を速める。
シノンはGGOでの経験を生かしてか、スリュムの攻撃を躱し続けている。
そこでHPがほぼ完全回復し、みんなに声を掛けようとする……そこで、背後に気配を感じ、振り向く。
そこには金褐色の瞳で俺を見つめる人物がいた。
「剣士様は可能な限り早く、お倒しになられたいはずです。
この部屋の何処かに埋もれている我が一族の財宝があれば、私の真の力も蘇り、スリュムを打ち倒すことが出来ます」
「そうだな、確かに早い方がいい。宝っていうのは、金槌だよな?」
「はい、その通りです」
やはり、俺の記憶にあるとおり、この
一方、シノンは必死で攻撃を回避しており、さすがに焦りも出てきているようだ。
「4人とも、先にシノンの援護に!」
「了解っす!」
俺がみんなを促すとルナリオが応え、シノンの元へと向かった。
ちなみにハジメは、全て言い終える前に既に向かっている……愛だな…。
さて、その金槌を探したいところだが、時間を掛けることは出来ないな。
「ユイ、何処にあるか分かるか?」
「いえ、どうやら駄目みたいです。部屋に入った時点でランダムに配置されたようです!」
「そうなると、手段は1つか…」
ユイに例の金槌の在り処を訊ねたが、さすがに無理な様子。
そこで俺はその金槌の特性である属性に連鎖的な攻撃を行うことで、発見することにした。
「ふっ、はっ!」
大きく振りかぶった右手の剣、思い切り床を蹴り、空中で前方宙返りし、逆手に持ち替えた右手の剣を床に向けて突き下ろす。
片手剣重範囲攻撃ソードスキル《ライトニング・フォール》、物理3割と雷撃7割。
この技によって周囲に雷鳴が轟き、剣を中心に青紫色のスパークが全方位に駆け抜け、俺は周囲の様子を一瞬で見る。
「そこかっ!」
雷に呼応したかのように、紫の雷光が小さく蠢いた。
そのポイントへと駆けより、スキルを発動する。
「ソードスキル《エンド・リボルバー》」
物理4割、風4割、闇2割の範囲攻撃で黄金類が一斉に吹き飛び、
たった1つだけいまの攻撃を受けても吹き飛ばなかった金槌を見つける。
持ってみると、かなりの重さなのが分かる。
気合いを込めて持ち上げ、それを求めていた人物へと思いきり投げ渡す。
「受け取れ……『トール』!」
その言葉を受け、頷いたブラウン・ゴールドの長髪の人物は頷き、それを軽々と手に持つ。
すると、自身の身体を小刻みに震わせ、変化が起こる。
「……ぎる、…なぎるぞ………みなぎるあぁぁぁぁぁっ!!!」
姿に反した太い雄叫びを上げ、直後に全身を雷光が纏い、ドレスを引きちぎって筋肉が盛り上がる。
さらにその姿はみるみると巨大化していき、顔の輪郭も変化してゴツゴツとした厚顔になり、長い髭まで生える。
俺が渡した金槌も巨大なサイズになっている。外見を見据えて言うのならば、40代のナイスミドルという感じだ。
「「オッサンじゃんっ!?」」
「「「「「(ポカーン)」」」」」
「ぷっ、くくくくくっ…!」
ルナリオとクラインがそう叫び、残りのアスナ、ハジメ、シノン、
リーファ、ユイは驚きのあまりに呆然としており、俺はみんなの様子に笑みが零れる。
『
「さて、征くとしますか…雷神殿!」
「うむ! 征くとしようぞ、賢く誇り高い妖精よ!」
俺の問いかけに、アースガルズに住まいしアース神族が誇る『雷神トール』が応じた。
『雷神トール』、この名を知らぬ者はゲーマーにおいてはそういないだろう。
北欧神話に名を連ね、最高神オーディンを父に持つ、最高位の神々の1体、雷神としても有名な存在だ。
その北欧神話において『スリュムの歌』というエピソード中、
トールは『ミョルニル』という金槌をスリュムに盗まれてしまい、
返還には女神フレイヤを花嫁にという条件を突きつけられる。
しかしトールは花嫁に変装し、見事ミョルニルを取り戻してスリュムを殴り殺したのである。
「卑劣な巨人よ! 我が宝であるミョルニルを盗んだ報い、贖ってもらおうぞ!」
「小汚い神めが、この儂を
―――ドォォォォォンッ!
トールは雷を纏う巨大なハンマー『ミョルニル』を振りかざして突き進み、
スリュムは氷の戦斧を造り出し、互いの武器をぶつけ合わせ、それにより衝撃が巻き起こる。
まるで城が揺れているみたいだな。
「トールがタゲを取っている間に、総攻撃を掛けるぞ! シノンも遠慮なく爆撃を頼む!
出来るだけ火炎属性のソードスキルを使うぞ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
俺の指示にみんなが思考を戻して動き出す。
「ユイは応援よろしく!」
「分かりました! パパ、ママ、みなさん、頑張ってください!」
愛娘の応援に俺とアスナのやる気はうなぎ上りだ。
アスナは自身のワンドである『ディアーズロッド』から、
細剣の『レインスティア』へと持ち替え、近接戦闘に移行している。
各自、火炎属性のソードスキルや威力の高いスキルを用いてダメージを重ねる。
脚部に与え続けた攻撃の結果、ついにスリュムが床に膝を着けた。
「いまだっ!」
そう叫び、一斉にみんなでソードスキルを叩き込む。
「オリジナル・ソードスキル《ジ・イクリプス》!」
物理2割、火炎8割である27連撃のスキルを叩き込み、俺の攻撃でスリュムのHPは0になった。
「地の底に還るがよい、巨人の王! ぬぅぅぅんっ!」
それと同時にトールが巨大なハンマーをボスの頭部に叩き込んだことで、
奴の王冠が砕け、一度立ち上がってから仰向けに倒れた。ふぅ、かなり面倒臭いボスだったな…。
「精々、いまは勝ち誇るがいい、小虫共よ…! だが、アース神族には、気を許すと痛い目を見るぞ…。彼奴らこそが、真の…!」
奴が全てを語る前にトールが強烈なストンプを放ち、スリュムの身体を砕いた。
最大規模のエンドフレイムが巻き起こり、霜の巨人の王スリュムは爆散した。
トールはまるで、あれ以上何かを聞かれないようにするかのように見えた……少なくとも、俺には…。
「礼を言うぞ、妖精の剣士達よ。余の宝を取り戻し、奴を打ち倒すことが出来た…。褒美にコレをやろう」
そう言ってトールはハンマーの柄に触れた。
窪みに嵌まっていた1つの宝石が離れ、光となって俺の前に寄ってくると、人間サイズのハンマーになった……まさか?
「『雷鎚ミョルニル』、正しき戦いに使うがよい。さらばだ!」
雷神殿は雷光を発生させ、俺達が反射的に眼を瞑っていた間に、姿を消していた。
受け取った『雷鎚ミョルニル』をストレージに収め、ボスがドロップしたアイテム群はパーティーの
これにて、スリュムとの戦闘は俺達の勝利で幕を下ろした。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
はい、ウチのキリトさんは最初から女神の正体がトールであることを見抜いていましたw
ちなみに前回の話からこの話に至るまで、キリトは一度も「フレイヤ」とは呼んでいませんよ。
「アンタ」や地の文では「フレイヤと名乗った人物」、「この人物」などでしか呼んでいません、気付いたかな~?
そして原作でスリュムのHPを0に止めを刺したのはトールでしたが、本作ではキリトがHPを0にしています。
あと《ジ・イクリプス》の属性ダメージはオリジナル設定です。
それでは次回で・・・。
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第9剣です。
スリュム、倒しちゃいますw
どうぞ・・・。