No.603965

恋姫†無双 関羽千里行 第3章 27話

Red-xさん

恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第3章、27話になります。
この作品は恋姫†無双の二次創作です。 設定としては無印の関羽ルートクリア後となっています。
冬だ、冬をよこせ!
それではよろしくお願い致します。

2013-08-01 23:38:27 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1851   閲覧ユーザー数:1627

第27話 -落鳳坡-

 

 祭の抱いた疑問に答えるには、今からしばらくの日を遡らねばなるまい。

 

夏侯淵「よろしかったのですか、華琳様。仮にも一国の使者、あれでは...」

 

荀彧「あんな下衆のいる国と、我らが気高い曹操様が話し合う必要なんてないわ。あの国の内部は既に腐っている。中にはまともなのもいるかもしれないけど、あの男はあの国を腐らせた一翼を担っているのよ。そんな男と華琳様が話すなんて、それだけで華琳様が汚れるわ。」

 

曹操「この子の言うとおり、あそこは潰すことはあっても、肩を並べることなんてありえないわ。でも、案外私達の出る幕はないかもしれないわね。」

 

 曹操軍による涼州制圧があと一歩で完了というところ、蜀の軍師張松は使者として曹操の元を訪れていた。その目的は名義上は蜀と曹操軍の間に同盟関係を結ぶこと、そしてその裏には使者として向かう張松自身の曹操に取り入ろうという目論見があった。

 

張松「(ええい、あの雌狐、いつか必ず私の足元に跪かせてやるっ!)」

 

 前線に設営された曹操軍仮の指揮本部から追い出された張松は、成都に戻る帰路で曹操の自分に対する扱いに憤慨していた。使者として曹操に面会を許された張松は、曹操と顔を合わせて開口一番、顔が気に入らないの一言で陣地を追い出されてしまったのだ。話もできないのでは、取り入ることなど到底できない。その上曹操が自分を見る目は、何もかもを見透かしているように冷ややかなものだった。それは自分を有能と信じて疑わない張松の自尊心を傷つけるには十分すぎた。

 

張松「(なまじ涼州制圧がうまく行っているからと言って調子に乗りおって...)」

 

 確かに、張松の調べたところによると、曹操軍による涼州攻略は、苦戦するとした張松の当初の読みとは異なり、曹操軍のかなりの優勢によって進められていた。その理由についても先に調べを進めていた張松は、その理由には納得がいったが、だからといって使者をこのように無碍にする曹操の態度には腹持ちがならなかった。どうやって曹操を潰そうかと頭を捻っていると、

 

兵士「張松様、ご報告が。」

 

張松「む?」

 

 

 

 

 張松は曹操のところから引き上げる帰路で、未だぐったりとしている馬超を発見したのだった。既に西涼は脱していた馬超に、張松は驚きはしたが同時に歓喜に震えた。曹操軍が優位に戦を進められた理由。その一つが馬超という旗印の戦線離脱だ。当初こそ、馬超は先陣をきって曹操軍にあたっていたらしいのだが、曹操軍にその優位が大きく傾いた頃、ぱったりと戦場から姿を消してしまったのである。一部では、逃げ出したのだと噂するものもいたが、馬超という武人がそんな人間ではないことは、相対した曹操軍自身も良く知っており、そのうち彼女は死亡したのではないかという噂が流れるようになった。そして馬超の武は、あの猛将として名高い夏侯惇をも苦戦させたということで、曹操軍の中でもかなり知れ渡っていた。諜報活動の中でそれらの情報を得ていた張松は、棚から牡丹餅とも言える状況にほくそ笑む。

 

 目の前の気に腰掛け疲れ果てて眠っている彼女を守るように三頭の馬が立ちはだかる様子に、その場にいた者は神々しいものすら感じたが、張松にはそんなことは関係なかった。半ば無理矢理に馬たちを馬超から引き剥がし、彼女に治療を施した。

 

張松「(こいつを手懐け私の配下とすれば、私の野望、天下に大いに近づくことができる。)」

 

 そう考えた張松は、馬超を保護し成都へと連れ帰った。そして、曹操軍に接触したことで得られた情報を馬超に与え、その復讐心を煽った。馬騰死去。そして、西涼連合の壊滅。実際には馬騰の死去は本当であったが、西涼連合の壊滅は馬超を西涼に戻らせないための嘘であったが。それは既に多くの仲間を失ったという事実に半ば心の折れかかっていた馬超の心に、さらに深い追い打ちを加えることとなった。そこへ付け入るように、張松は曹操への復讐を手伝う代わりに、自分に従うよう馬超に迫った。しかし、自分を案ずるように追いかけて来た愛馬たちの体に刻まれた荒縄の跡を見た馬超は憤り、その要求に答えることはなかった。

 

 

 

 

 街道をゆっくりと前進してくる北郷軍。それを馬上から見つめる将。

 

馬超「...」

 

 馬超にとって、北郷軍は反董卓連合に参加した敵の一つでもあるわけであるが、それと同時に思い起こされるのは北郷軍の将、張遼との心震える立ち合いの記憶だ。だが、その立ち合いに伴う熱い感情にその身を委ねることは、今の馬超には許されなかった。

 

兵士「馬超様!馬超隊は、先鋒として敵の掃討に当たれとの命令が来ています。」

 

馬超「そうか、わかった。」

 

 敵を見据えたまま、そう淡白に答える馬超。

 

兵士「それと、これは上の指示とは異なるのですが...」

 

 声を潜め、兵士はどこかから表情を隠すようにしてつぶやく。

 

兵士「張任様、劉循様より伝言が。監視されているのでくれぐれも気をつけるようにと。そして、馬超様のご武運を祈ると。」

 

馬超「...ありがとな、二人にも宜しく言っといてくれ。」

 

兵士「はっ。」

 

 自分を心から案じてくれている二人に少しだけその心に暖かさを灯すも、馬超は直ぐに目の前の敵に意識を向ける。今の彼女にとって、自分が味方から監視されていることなど、大した問題にはならなかった。彼女の頭にあるのは、今いる敵を倒すということだけだ。

 

馬超「行くぞ、先に仕掛ける。」

 

副官「仕掛けるのですか?!」

 

馬超「やつらも無策じゃない。だがどんな策があるにしろ、必ずあいつらの方から仕掛けてくる。なら先の先をとってあっちの頭を潰す。...弓隊に援護射撃をさせろ。」

 

副官「はっ!」

 

 それが正しい判断かはわからない。だが、敵を倒すことしか今は考えられない馬超に、防御に徹するという選択肢はなかった。

 

思春「(無事抜けられそうだな...)」

 

 時たま道に倒れた竹を退けたりしながら道を進む一行。初めは惑わせるように分かれ道もあったが、今は一本道を山向こうの成都に向かって進んでいる。この分なら何事も無く成都までつけそうである。今、思春は隊列の中腹にいるが、雛里は未だ最前列を進んでいるはずだ。

 

思春「脱落者はいないな。ここで時間を食っていては祭に示しがつかんからな。」

 

甘寧隊員A「任せてくださいって!ウチにそんなやわな奴いませんから!」

 

思春「やれやれ、お前らはこんな時でも変わらんな...」

 

甘寧隊員B「頭とこんだけ長くいりゃ、これくらい屁でもねえってもんですよ!」

 

甘寧隊員A「そういや、前にもこんな道進んだことがあったよなぁ。あん時はやばかったよな、色んな意味で。」

 

甘寧隊員C「やめてくれよぉ!あれ無茶苦茶寿命が縮んだんだぞ!」

 

 怖気づいたような隊員の様子を同僚たちががははと笑うのを、声が大きいとたしなめる。隊員たちが言っているのは昔まだ北郷一刀と出会う前、とある賊を狩りに出かけた時、それが事前にバレて今歩いているような竹林で待ち伏せされた時の話だ。その時は相手もへっぽこで、急に大声をあげて脅かしたまではよかったものの、突っ込んでくる途中で竹林に服は引っかかるは、足を取られて転んでそれに又後ろから来たものがつっかかるは、果ては放った矢は全部竹林に阻まれて無駄になったとか散々な相手だったのだ。

 

 一瞬、思春もまさか待ち伏せされていないだろうなと竹林の奥に目を凝らすが、竹が見えるばかりで人の気配はない。ふと、足に何か突っかかる感覚を覚えて、立ち止まりそれを拾い上げてみる。それは鏃だった。錆びた具合から察するに、かなり古いものだろうと思春は推察する。鏃を握った手に茶色い汚れが付着している。雛里曰く、前に成都からの部隊がここを通ったとのことだったので、その時に落ちたものかもしれない。そう思春は考えた。

 

 しかし少し進んだところで何気なく足元を見てみれば、鏃だけでなく、今度は刃物の欠片らしきものが落ちていた。ここで、思春はふと疑問に思う。今から攻めていこうという部隊が、そんな刃のボロボロになった剣を携えて戦に向かうだろうか。もしかしたら、その時成都の軍には物資が不足していて、まともな武器も与えられない兵士がいたのかもしれない。だが、先ほどの鏃、あれはどうだろうか。鏃だけあって、矢幹と羽根はどこにいってしまったのであろうか。もしかしたらとうに腐り風に飛ばされてしまったのかもしれない。戦が昔のことだというのならそう考えるのが当然だ。なら、その道脇に埋もれるようにして顔をのぞかせている髑髏はなんだ?

 

 ここまできて、思春は自分がとある可能性を無自覚に回避しようとしていることに気づく。それはまさしく、門外不出の秘密であるはずのこの場所で戦闘が行われたという可能性を...

 

兵士「後方より部隊接近!」

 

思春「なにぃ!?敵か!?」

 

兵士「見通しが悪く、分かりません!」

 

思春「チィッ!全体止まれ!方向を転換し抜刀しろ!」

 

 正体不明の部隊がくるのに備え、思春は後列に向かって駆け出す。なるほど、後ろから接近する部隊があるようだ。

 

思春「嫌な予感の正体はこれか?」

 

 剣を抜き、油断なく構える思春の眼の前に現れたのは、

 

星「思春っ!無事か!」

 

 敵ではなく、思春たちを追いかけて来た味方であった。緊張していた空気がさっと鎮まっていく。

 

思春「星か!どうやら伝言はうまく伝わったようだな。」

 

思春自身も、杞憂だったかとほっと胸を撫で下ろす。

 

星「ああ。霞は祭の方に向かった。今頃あちらも合流している頃だろう。」

 

思春「そうか。...もしや一刀様も来ているのか?」

 

星「ここまで来て、自分の処遇より主の方が気になるか...」

 

思春「ぬかせ。あのお方が天下に羽ばたく礎となれるなら、自らの行く末などどうなってもかまわん。」

 

星「ふふっ、大した忠臣だな。主もこちらに向かっているが、着くのはまだだろう。そっちは愛紗と華雄が付いてきているから心配はいらん。」

 

思春「そうか、ならいい。」

 

星「ところで...雛里の姿が見えないようだがどうした。」

 

 思春の後方を覗きこむように見据える。その表情には少しばかりの不安が見て取れた。

 

思春「雛里は前の方にいる。後方から来たのがお前だと教えてやらねばなるまい。」

 

 そう言って、伝令に兵士を呼び寄せようとするが、星は苦い顔をしてそれを押しとどめる。星と霞は出立前に言われていたのだ。今回の戦、理由は分からないが雛里が危ないかもしれないと。

 

星「いや、ならばことは急を要する。急いで我らは前衛のところまで行くぞ。」

 

思春「なんだというのだ?」

 

星「これだ。」

 

 星は自らの獲物を取り出すと、道の端の地面にその刃を突き立て、力を込めると横に薙ぎ払った。すると、削られた地面から竹を加工した何やら筒のようなものがでてきた。

 

思春「なんだこれは?」

 

星「私も来る途中たまたま地面からむき出しになっていたのを見かけてな。何かと思って掘り出してみれば、どうやらこれがずっとこの道の下を通っているらしい。」

 

思春「なんだと...」

 

星「見ろ、ここに小さな鈴のようなものが取り付けられている。おそらくこれは、見通しの悪いこの道に予定外の侵入者が来た時に、音で察知できるよう埋められたものだ。侵入者には気づかれぬよう巧妙に隠された、な。」

 

思春「ということは我らの侵入は敵に?!」

 

星「文字通り筒抜けというわけだ。軍師殿が危ないかもしれん、行くぞ!」

 

思春「ああ!」

 

 二人は隊列の前方へと駆け出した。

 

 その頃前方では、後方からの部隊接近を受けて全軍が一時停止していた。

 

雛里「音だけ判断する限りでは敵さんではないみたいですね...おそらく星さんか霞さん...」

 

 北郷軍でも足の早い部隊が真っ先に追いついてくるだろうと予想してた雛里は、後方に気を取られ緊張する兵士とは対極的に思いの外冷静だった。合流が速いのは僥倖だと考え、雛里の頭の中では、二人とも来た場合、片方だけが来た場合でどう動くべきかをシュミレートする。そうやって馬上にて思考の中にいる雛里は今、山陰から自分たちを見つめる目があることに、全く気づいていなかった。

 

 

 

 

 その少し前、張松は部隊を率いて劉璋の一族が代々受け継いできたという成都の土地を進んでいた。そこは劉家の縁者以外は立入禁止に指定されており、張松は勝手にそこに先祖代々の墓か、こやした私腹でも溜め込んでいるのかと思っていたが、その実情は劉家がこの地で獲得した、戦略拠点の入り口だった。そして畑や墓で偽装された地を進み続けた一行は、山と山の間に出現した小さな平地、そしてそこに設置された砦を目にする。砦は古ぼけてはいたが度々整備されていたようで、砦の内側には矢筒の多数収められた武器庫、険しい山の中腹に設置された監視所まで登るために設置された縄の道が配備されていた。

 

張松「(劉璋め、こんなものを隠していたか...)」

 

 張松は、北郷軍に何か策があると考え、劉璋に何か心あたりがあるのではないかと尋ねていた。劉璋は始め少し渋い顔をしたが、最終的には劉璋の家系に代々伝わる秘密を張松に打ち明けたのだった。実際のところは、先代の劉焉が元々この地に住み着いていた土着民から得たものを独占したものらしい。実際に使われたこともあるとのことだ。どうやってそれを知ったのかまではわからないが、北郷軍はその山道の存在を嗅ぎつけたに違いない。そしておそらく街道に向かった敵は囮だ、と判断した張松は、城に残していた子飼いの精鋭をこちらに連れてきていた。そして今、張松はこの砦の機能を使い、既に敵がこちらに向かってきていることを把握していた。

 

張松「(もっと早く、こんなものがあることを知っていれば、北郷軍にこれをネタにして取り入ることができのだがな...しかしこれを奴らも知るところとなっているのでは話は別だ。今は奴らを成都に入れるわけにはいかん。)」

 

 砦上部に設けられた弓兵用の櫓に、連れてきた兵達を配置する。劉璋は秘匿し打って出る時のために整備していたのだろうが、どうやら元々土着民たちがここを使っていた頃には、この侵入口は敵の知るところなったことがあるらしい。それは敵の接近を知るための設備からも推し量れる。

 

 又逆に、なにもなければ見通しの悪いこの山道は、敵の格好の侵入口になり得るかもしれない。いくら正面と同じように守りが有利な地形だからといって、いざとなれば脱出することも考えなければいけない以上、なるべくこの存在は隠しておきたいだろう。いざ使うとなった時には、敵がいれば山間に設置された監視所と、地下に埋められた鈴の緒とを頼りにそれを察知し、備蓄した弓矢によって高所から敵を排除し脱出しようということだ。自尊心の高い張松も、これほどの設備を考えだし揃えた土着民たちには感心せざるを得なかった。

 

 監視所に登った兵士からは、敵の接近を知らせる合図が送られてくる。北郷軍の奇襲部隊だ。その合図を確認し、もう一つの機能を使い敵が停止したことを知る。

張松「(止まっただと...もしや、こちらの存在に気づかれたか。)」

 

 残念ながら奇襲という優位と地の利がなければ、この程度の手勢で敵の侵攻を押しとどめることは難しい。その利の一つを失ったと考えた張松はもう一つの利を失う前に部下に命令する。

 

張松「矢を射かけよ!今なら敵を根絶やしにできる!敵に、ここが奴らの死地であると思い知らせてやれいっ!」

 

 足を止めた雛里たちの頭上に、矢の雨が降り注ぐ。

 

 

-あとがき-

 

 読んでくださった方は有難うございます。今回もギリギリになってしまい、四苦八苦のれっどです。

 

 前回のコメントでとても重要なご指摘を頂いたのでここで触れておきます。北郷軍の本拠地についてです。北郷軍の本拠地、京と呼ばれている街は上庸の南あたりにあります。どこにあるのかわからない方は、ネットなどで検索してみてくださいまし。そこから南西(であってる?)、永安などの方面に向かって勢力範囲が広がっています。荊州と益州の間くらいですね。どうしてここにしたかと申しますと、まず、曹操や孫策、袁紹といった恋姫武将の本拠地を消去法で排除して、その後残った場所から、話が転がしやすそうな場所を選びました。最初はあんまり深く考えてなくて、もっとざっくりしてたんですけども。一応、正史みたいに平原から流れてきて益州に...というのもありだったんですが、話が確実に長くなるので。そしたら長坂で霞さんに啖呵切ってもらってうんぬんというのは書面に起こさずに終わってしまいました。話が決着ついて余裕があったら、おまけ的に本拠地の場所が違ったらの場合をちょっと書いてみようかなってところです。このお話だと、しょっぱなから人数多めでしたしね。あんまし需要ないかもしれませんが;

 

 

 今回のお話については多分大体の方が予想していた通り、落鳳坡のお話と馬超さんのお話です。三國無双シリーズだと、最近昔より主要武将の死に際が丁寧に描かれている気がするのですが、龐統さんの死ぬシーンて最初の方からずっとありましたよね...たぶん。それと翠さんの話書いてたら、張松がどんどん悪者に...張松好きな方がいればほんとごめんなさいね;

 

 次回もできれば四日で更新します。まあ、暇があったら読んでくださいまし。それでは、次回もしょうがないな、付き合ってやるよという方はよろしくお願いします~。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
18
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択