No.606008

恋姫†無双 関羽千里行 第3章 28話

Red-xさん

恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第3章、27話になります。 この作品は恋姫†無双の二次創作です。 設定としては無印の関羽ルートクリア後となっています。
更新遅れて申し訳ない...
私事ですが、先日従姉妹の結婚式に参加して来ました。最近の結婚式って色んなコトしますよね...この作品でもいつかそういうの書きたいと思います。
それでは、よろしくお願いします。

2013-08-06 23:33:12 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1818   閲覧ユーザー数:1611

第28話 -落鳳坡・続-

 

何気なく視線を上げた雛里は目にする。

 

雛里「あっ...」

 

 或いは空に舞った砂埃。それは古くなったテレビのように、澄み切った青空に目障りな汚れを描いている。だが、汚れにすぎないそれは、これから自らの命を奪うであろう。

 

雛里「(逃げないと...兵士の皆さんにも指示を...)」

 

 そう思っても体は動かない。手綱を握る手ははじめから自分のものではなかったかのようにその意志には答えず、出すべき言葉もわかっているはずなのに口からは出てこない。その間にも、空を汚したそれは刻一刻とこちらに向かってきている。その一瞬が雛里には何倍にも感じられた。

 

 刺さるとやはりものすごく痛いのだろうか。それとも、心臓や頭に当たれば一瞬にして絶命し、痛みを感じる暇すらないのではないだろうか。もしここで自分が倒れたら、この先どうなってしまうのだろうか。いや、それについては予防策を張っておいたのだ。奇襲が失敗したところで成都攻略には多少の遅れこそ出るものの、負けることなどはないだろう。

 

 だが、今ここにいる皆はどうなってしまうだろうか?思春さん、ついてきた兵士の皆さん、そして援軍にやってきてくれた人たち。後方にいれば、被害は免れるかもしれない。後は指揮系統が生きていれば、撤退するか強行して突破するか、被害状況からうまく判断してくれるだろう。待ち伏せしている敵の数がわからない以上、撤退するのが吉ではある。しかし、山間にはそれ程兵は配置できないし、そもそもこの場所にまつわる事情から、配置された部隊も少ないのでは...

 

 死ぬと悟った雛里は始めとは打って変わり、いつの間にか自分がいなくなった時のことを考えていた。その他にも、あの政策はどう転ぶだろうかとか、今後の他国の動きはどうなるかなど、北郷一刀たちを待つ可能性がいくつも頭をよぎる。そのすべての可能性を鑑みてから、雛里は自分の死を受け入れた。

 

 自分が死んでも代わりがいる。おそらく、あのお方には、全てお見通しだったのだ。今思えば、成都攻略の進言をするたび、あのお方は表には出さないようにしながらもどこか悲しい瞳で自分を見つめていた気がする。そうであるなら、いくら自分が言葉を尽くしたとしても、彼が首を縦に振ることはなかっただろう。そう、あのお方なら...あのお方と...まだ、話したいことがたくさんある。これまでのこと、これからのこと。あのお方と過ごした時間はどれもかけがえの無いものだったけれど、まだ彼との時間はほんの少ししかない。

 

 自分が死んだらもう逢えない。自分がこれから過ごすはずだった彼とのたくさんの時間は、全て消え去ってしまう。今後の政策について話あったり...いや、それももちろん楽しいものになるだろうけれど、単純にもっとお話したい。顔を見ていたい。その手に触れてみたい。ずっと一緒にいたい。理性においてこの先の道程に自分が必要なかったと判断したとしても、自分が、自分の心がそれを許せない。私は死ぬ。死ぬけどもまだ死にたくない...!

 

 その生き汚さとも言える執着が、死の恐怖に体を委ねた脳をもう一度揺り動かす。握った手綱の感触がわかる。喉から先に言葉を紡ぎ出せる。後一歩で、自分を支配する圧倒的な状況から脱することができる...!

 

 だが、雛里がそこまで至った所で、今から動いても雛里の身体能力では、雛里の今出せる声では、目の前に差し迫った暴力から逃れることができないと、雛里は理解できてしまった。

 

 

 

「―!」

 

 目の前が真っ暗になる。その直後に自分を包む暖かな感覚。それは雛里の体内を流れる血が吹き出たことからくるものではなく、

 

思春「大丈夫か?!」

 

 自分を助けた、彼女の体温だった。呆然としていた彼女を抱えて、思春が竹藪の中に飛び込んだのであった。

 

雛里「は、はい...」

 

思春「そうか...おい、被害状況を確認しろっ!」

 

 思春はそれを確認し、一瞬暖かな笑みを作ると、すぐに顔を引きしめ向き直り、生きている者たちに向かって指示を飛ばす。自分が生きていたのだと気づいた所で、逃げ遅れた幾人かの悲鳴が聞こえてくる。しかし、その声は彼女が予想していたものよりはるかに少ない。自分を抱き抱える思春の肩越しに今まで自分の立っていたところを確認してみると、そこには先程まで自分が跨っていた馬の亡骸が横たわっていた。矢を受けた体の所々から流れ出る赤い血が、その綺麗な白い体毛を赤く染めていく。

 

雛里「(ごめんなさい...ここまで、守ってくれてありがとう。)」

 

 雛里のその視線に気づいた思春は、

 

思春「後で必ず供養してやろう。」

 

雛里「...はい。」

 

思春「しかし、敵も気づかれるとは思っていなかったらしいな...矢が道沿いに集中している。中々狙いは正確なようだ。しかしそのおかげで逆に被害が減ったな。」

 

 雛里をおろし、周囲を確認しつつそう状況を分析する思春。雛里もまだ腰が抜けて立てないが、状況確認と対策の立案を素早く行う。

 

雛里「ということはおそらく、高所から見張っている兵がいるはず...山間のこの場所で正確に射られたということは距離もそれほど遠くない...なら、その兵から次の攻撃座標が指定される前に、敵本隊を叩ければ...」

 

星「あい、わかった!皆の者、我が旗に続けっ!」

 

 その言葉を聞き漏らさず、後ろから駆け抜けていく一陣の風。その正体は援軍に駆けつけた星であった。生き残ったものたちが次々とその後に続いていく。思春も、一部隊に負傷者の手当を指示すると、

 

思春「行くぞっ!」

 

 腰の立たない雛里に手を伸ばす。雛里は迷わずその手を掴む。

 

雛里「はいっ!」

 

思春の助けを借りて、雛里は再び立ち上がった。

 

張松「やったか?」

 

 監視所からの合図を受けてきた兵士に張松は戦果を問う。しかし、その兵士の様子から察するに、思ったような成果は得られなかったのではないかと長松は推測する。

 

伝令「敵に打撃を与えるも、その被害は軽微とのこと!さらに、再び間道を上り、こちらに向かって突撃してきております!」

 

 その報告に張松の顔が苦々しい顔になる。

 

張松「(やはり気づかれていたか...音がしばらくざわついたかと思ったが、また一定になったのは敵の進軍か。)」

 

 すぐに切り替え控えていた別の兵士に次の指示を飛ばす。

 

張松「部隊に敵の迎撃に当たるよう伝えろ。さすがにあの藪の中を突っ込んでくるということはあるまい。敵はそのまま真っすぐ間道を進むはず。道は一本だ、間道に向かって弓が尽きるまで射尽くせい!」

 

伝令「はっ!」

 

 櫓に登った部隊が次々と矢を射掛ける。しかし、敵の位置を常時把握できるのは監視所にいる兵士。その情報には若干のラグが発生する。張松はその兵士の報告から敵の位置を割り出し、見当をつけて射撃を指示していく。

 

張松「(速い...突撃してきているとはいえ、こちらの突撃兵よりも遥かに足が速いぞ...)」

 

 監視所にいる兵士からは、位置情報とともに、敵の被害報告が送られてくる。しかし、そのどれもが芳しくない結果を告げるだけであった。張松の顔にもみるみるうちに焦りが出始めた。元々、弓兵だけで事足りると考えた張松の元には、護衛の者以外にはほとんど歩兵がいないのだ。いくら砦があるとはいえ、それはしっかりと石を積み上げて作られたようなものではなく、木製の門は時間を稼ぐことくらいしかできない。もし突破されてしまえば、近接戦闘に特化したものがいない張松たちが一方的に駆逐されるのは間違いない。

 

 戦況をもっと正確に把握するため自身も櫓に登り、敵の先鋒を視界の先に捉えた張松は激昂する。

 

張松「ええい、何をやっている!あそこだ、もっと奴らに射掛けるのだっ!将だ、あの一番前にいる将を倒せば敵の気勢はくじける!」

 

 その指示を受け、兵士たちは敵の最前衛に向けて、その矢の雨の層を厚くする。しかし、その矢の先の終着点を見据えた張松は驚愕する。そこには指揮官を失い、恐怖に足のすくむ兵の姿は確認できない。あるのは、

 

張松「な、なんだ!?あ、あれはなんだっ!」

 

 すっかり動揺した張松はその心情を口にしてしまう。彼に見えたのは、接近したため直接まっすぐに打ち込まれてくる矢を、槍をプロペラのように振り回しはたき落としながら突撃してくる女傑の姿だった。弾かれた矢はその勢いをそがれ地面に転がるのみだ。

 

星「はあああああああっ!」

 

 何本の矢が同時に射掛けられても、星の数歩手前でそれはただの棒きれと化していく。なまじ腕がある分、弓兵たちにとってそれが全く通用しないという事実は、弓兵たちのさらなる動揺を誘う結果となる。

 

弓兵「な、なんだぁっ!?あ、あいつびくともしねえ!」

 

 指揮官の動揺が弓兵にも伝播し、弓兵たちのその射撃の正確さにも、星の接近に比例して陰りが見え始める。もはや受ける価値なしとでも言いたげにその槍の回転を止めた星は、僅かな動きだけで軌道を見切りそれを避け、時々後方の兵に向かっていくものだけを正確に無効化していく。

 

張松「落ち着け!奴も人間だ!もっとしっかり狙うのだっ!」

 

 しかし、一度傾いた動揺の流れは戻ることなく、敵の接近を許してしまう。対して、本郷軍の方はというと、先程までの動揺は既になくなり、むしろそれをバネにした星の勇猛ぶりにどんどんと指揮が上がっていく。

 

星「敵兵恐るるに足らず!我ら北郷が天兵に刃を向けたこと、後悔させてやれいっ!」

 

兵士たち「うおおおおおおっ!」

 

 その轟きと光景は、櫓に上がった弓兵たちに、多大な恐怖を植えつけた。

 

張松「(くっ...兵の動揺が大きい。このままでは犬死だ!)」

 

 なんとか平静を装うとする張松は混乱が起きぬよう、兵士たちに冷静に指示を出す。成都まで交代すれば、街道に布陣した兵とハサミ打ちにすることも可能だ。ならばここは諦め、早急に撤退せねばならない。

 

張松「撤退し、成都にて迎え撃つ!扉に閂をかけよ!護衛部隊は殿だ、絶対に敵を近づけさせるな!」

 

 張松たちが撤退して間もなく、星は砦までたどり着く。砦がそれほど頑丈にできていないことを即座に見抜き、数人の兵とともに扉に何度も体当たりをかけ、ついにその門をこじ開ける。

 

星「まだ、敵が潜んでいるかもしれん、伏兵に気をつけろ!」

 

 手早く近辺を制圧し、敵が撤退したことを確認したところで、思春と雛里が追いつく。

 

星「敵は撤退した。ひとまず、ここから矢を射かけられることはもうあるまい。」

 

思春「もぬけの殻か...敵はまだそう遠くへ入っていないはずだが、すぐに成都に逃げ込むだろうな。」

 

雛里「直ぐに追撃をかけてくださいっ!成都内に勢力が増えるのは、この先の戦況に不利に働きます。何より、ここが突破されたことが敵本営に知られれば、祭さんのところにいる敵兵が流れてきます!」

 

星「了解した、それと、敵の残していった弓矢が大量に残されている。こいつはもらっていこう。」

 

 背中越しに武器庫を親指で指指し、不敵に笑う星。本来ならば、万が一敵の手に渡った時のために火の通りやすく作られた武器庫だったが、張松は動揺しておりそのことをすっかり忘れていた。

 

雛里「そうですね...追撃しつつ、この高台を利用して敵に矢を射かけていきましょう。私の隊は、斉射を行った後、そちらを追いかけます。」

 

 すっかり調子を戻した雛里は、的確に状況を分析し、現状の戦力でできる最大の成果を探っていく。

 

 すぐに砦を放棄したというのは、敵に接近戦をする能力がないということ。本来ならば砦に寄って時間を稼ぎ、その間に伝令を本営に飛ばせばいいわけだが、そうしなかったのは砦がそれに耐えられないと判断したからだけではなく、破られても歩兵がおらず持久戦ができず、伝令を飛ばすのと自分たちが撤退するのとでさほど違いがないと判断したからだ。

 

 ならば、敵は射かけてきた弓兵を中心に構成されている。撤退しながら反撃に弓矢を放つのには、集中力が必要とされる。星の部隊の損傷がさほどないことから、敵は有利な陣地から攻撃を仕掛けながら大した戦果をあげられなかったことになる。それは敵に動揺を与えているはずだ。今ならば、反撃に飛んでくる弓矢もそれほど脅威にはならない。むしろ、撤退しながらも頭上から降ってくる矢に対して高低差によって何も対処できないのは、さらなる混乱を敵に与えるはずだ。

 

思春「ふっ。あいつらにも、頭上から矢の雨が降り注ぐ恐怖を教えこんでやるか。」

 

 こちらも一瞬不敵に笑った思春は、直ぐに指示を飛ばし、

 

思春「追撃をかけるぞ!甘寧隊、敵の首は我らで貰い受けるぞ!」

 

甘寧隊「応っ!!」

 

 今までのお返しとばかりに勇んで出撃していく甘寧隊。それに続くように趙雲隊も星の指揮のもと、再び武器を握り直す。

 

星「趙雲隊も遅れを取るなよ!甘寧隊より多くの成果をあげるのだ!」

 

趙雲隊「応っ!!」

 

雛里「敵に斉射をかけます。皆さん、甘寧隊と趙雲隊の方たちが追撃がしやすいよう、なるべく敵の殿を狙ってください!」

 

 高所に陣取った弓兵ほど怖いものはない。長松たちは身を持ってそれを知ることとなる。

 

 一方、街道に陣取った祭は敵の猛攻にさらされていた。祭の指揮のもと、見かけは敵と互角に立ち回っているようにも見えるが、実際には戦力において差が大きい上、大勢として互角とは言いがたい。

 

祭「やれやれ、勝手に食いついてくれたのはいいが、これはちと面倒じゃなっとっ!」

 

 前方に向けて射撃を行う。予想に反して、敵は守りに入るのではなく、馬超を先鋒に攻勢を仕掛けてきた。最も、敵の中に見える旗は馬超以外には二つほどで、他はどうやら静観するつもりらしい。軍として統率がとれていないのはどうなのかとも思うが、そもそもこの狭い道に大軍が通せないのでは攻撃部隊が少ないのも無理は無い。そもそもそれも込みでここで戦っているわけではあるが、祭は苦戦している演技をする余裕などなかった。

 

祭「演技も何も、これだけ勢いがあると相手するので本当に手一杯じゃ!」

 

 近づく兵士に続けざまに二発打ち込み、その後方からくる兵の脳天に一発。祭の目の先では騎乗した馬超が味方をその剛力によって跳ね飛ばしていた。  

 

祭「だいたい、騎馬兵がこんな閉所で戦えていることがおかしいんじゃ...やはり、あやつを叩かねば勝機はないか。」

 

 そう呟いて件の将に弓を引こうとするも、またもその軌道には味方の背中があった。

 

祭「ちっ!ええい、鬱陶しい!」

 

 仕方なく、その横の兵士にめがけて矢を放つ。矢は命中するが祭の顔は悔しさに滲んでいた。祭は常に視界の端で馬超を捉え、自らの周囲をいなしつつ射抜く好機を見計らっていたが、馬超にもそれは伝わっているようで、常に祭と味方を挟んで立ち回っていた。それ故馬超を射ようとしても味方がいて射る事ができない。そして、馬超が次々と倒していくので敵の戦意も衰えることはない。

 

祭「騎馬に挑むにも儂の獲物はこの弓と直剣一本。弓が使えない以上圧倒的に間合いで分が悪い...」

 

??「だったら、その役目はウチが引き受けたるっ!」

 

-あとがき-

 

 こんばんは。いつもながら読んでくださった方は有難うございます。そして一応更新情報?に書きましたが、更新が遅れて申し訳ない。

 

 見返してみれば...矢射ってるだけじゃん!とか思いつつ。この頃の戦って射った矢って後で回収したりするのかなぁ?エラいたくさんいるでしょうし、多分したんでしょうけど...自分は無知なので知りませんが、なんか戦場跡で武器とか矢とかを回収して売る隙間産業かなんかがあったかもしれませんね。拾ってるとこを軍とか見つかると殺されちゃうので隠れて拾うみたいな裏稼業かなぁ...昔見たレッドクリフだと、敵に撃たせた矢集めて使ってましたが。

 

 それでは、次回もお付き合いいただける方はよろしくお願いします。

 


 
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