No.603142

リリカル幽汽 -響き渡りし亡者の汽笛-

竜神丸さん

第7話

2013-07-30 16:48:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1518   閲覧ユーザー数:1479

「皆、お疲れ様」

 

そこは機動六課、訓練場。まるで本物の街であるかのように、本格的な作りだ。

 

ここではなのはによる指導の下に、訓練を受けている者達がいた。青髪の少女はスバル・ナカジマ、オレンジ髪の少女はティアナ・ランスター、赤髪の少年はエリオ・モンディアル、桃色髪の少女はキャロ・ル・ルシエだ。ちなみにキャロの肩に乗っている小さな竜はフリードリヒ、通称フリード。

 

この四人こそ、機動六課の新部隊“前線フォワード部隊”のメンバーである。

 

「今日の朝練はこれでお終い。朝ごはん食べたら、皆でシャーリーの所まで行こうか」

 

「「「「はい!」」」」

 

ちょうど朝の訓練も終わったらしく、一同はその場で休憩に入ってから朝食に向かうようである。

 

が、ここで彼女達はある事に気付く。

 

「ん? 何か焦げ臭いような…」

 

「あ、スバル!! あんたのローラーブーツ!!」

 

「え…あぁぁぁぁっ!?」

 

よく見ると、スバルの履いていたローラーブーツからは煙が出ていた。おまけに見た目だけでも既にボロボロの状態である。

 

「あっちゃ~イカれちゃったか…」

 

「そっか。二人のデバイスは自前だったんだっけ。ティアナもそろそろまずいんじゃない?」

 

「はい。私のアンカーガンも、騙し騙しです…」

 

ティアナの使用している銃型デバイスも、そろそろ限界が近いようだ。

 

「じゃあ先に行った方が良いかな。シャーリーの所まで行くのは、皆に新しいデバイスを渡したいからなんだ」

 

「え、新しいデバイスを…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ…!!」

 

クラナガンのとある住宅街。

 

その狭い路地を、ただ必死に走り続けている女性がいた。ずっと走っているからか綺麗だった髪型も若干崩れてしまっているが、今はそんな事を気にしていられる状況ではなかった。

 

「もう嫌……何よ、何なのよアイツ…!!」

 

そう、彼女は命を狙われているのだ。

 

先程自身の目の前に現れた“奴”は、自身に向かって突如襲い掛かって来た。最初は何が何だか訳が分からなかった彼女だが、自分の身に危険が迫っている事だけは明確に分かっている。

 

「ハァ、ハァ……ッ!?」

 

走り続けていた彼女だったが、彼女はミスを犯してしまった。

 

「う、嘘、行き止まり…!?」

 

何も考えずにただひたすら逃げ続けていた所為で、自分から袋小路に追い込まれてしまったのだ。

 

(やばい、やばい、やばい……このままじゃ…!?)

 

女性は恐る恐る後ろを振り向いた…………が。

 

「あ、あれ…?」

 

気付けば、後ろには誰もいなかった。誰かが来る気配も無い。

 

「も、もしかして……振り切った…?」

 

身構えてみるも、誰かが走ったりする音も無い。これに一安心した女性はその場にへたり込み、フゥと息を吐く。

 

「た、助かった…」

 

 

 

 

 

 

 

「とでも思ったか?」

 

 

 

 

 

 

 

-ドスドスドスゥッ!!-

 

「―――ッ!!?」

 

一瞬だった。

 

声がしたと思えば、女性の身体中に複数の矢が次々と突き刺さった。女性は悲鳴すら上げる事も出来ないまま絶命し、その場に倒れ伏した。

 

『ケタケタケタケタ…』

 

『クカカカカカ…』

 

動かなくなった女性の周りに、複数の“異形”が降り立つ。

 

頭部に巻いている布や穿いているズボンに、構えている黒い弓やカトラス剣が特徴の骸骨。まるで、骸骨が海賊の船員をやっているかのような姿。そしてどの個体も、身体の何処かに一枚は必ず御札が貼られている。

 

複数の異形―――スケルトンイマジン達は、ターゲットが死亡しているのを見て不気味な笑い声を上げながら喜ぶ。

 

「よしよし。よくやった、お前等」

 

喜んでいるスケルトン達の下に、幽汽が姿を現す。

 

「これでまた一人、ターゲットを仕留めたって訳か。実にスムーズだ」

 

女性の遺体を剣先で突きながら、幽汽は機嫌良さそうに呟く。

 

「おっ」

 

遺体となった女性の口元から、青白い人魂のような物が噴き出ていた。幽汽は一体のスケルトンに指示を出す。

 

「ちゃっちゃと回収しとけよ。回収したら、早めに霊界へ送っとけ」

 

『クカカッ』

 

幽汽の指示を受けたスケルトンは何処かからランタンを取り出し、人魂をその中へと回収する。すると女性の遺体が、みるみるミイラのように茶色くなり干乾びていく。

 

「さぁて、次のターゲットは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――上手くやったようだぞ」

 

「そのようですね」

 

そんな幽汽達の様子を、遠くのビルからシアンとダリルの二人が眺めていた。ダリルが双眼鏡を使って確認し、シアンは始めから分かっていたような様子で、右掌の上に独楽を回している。

 

「あなたのおかげで、この世界での仕事も順調にこなせそうです。ご協力感謝しますよ」

 

「俺は報酬の為にやっているだけだ」

 

「えぇ、それは分かっています。だから私に雇われてくれたのでしょう?」

 

「ふん…」

 

ダリルは再び双眼鏡で幽汽達を捉える。ちょうど幽汽達も、その場から退散する所だった。

 

「死期を過ぎてもなお生きている人間の魂を刈り取り、霊界へと送り届ける“運び屋”の亡霊……俺からすれば、にわかには信じ難いような話だ」

 

「信じられずとも、私が今ここにいる。誰かに信じられる必要性は無いのですよ。唯一困る事があるとすれば…」

 

「仕事の内容を聞いた上で、仕事を妨害してくる輩が現れる事……だろう?」

 

「えぇその通り。よくお分かりで」

 

シアンは掌の上で回している独楽を真上へと放る。すると独楽が旋風に包まれ…

 

『クカカカカカカカッ』

 

旋風の中から、一体のスケルトンイマジンが出現し、スタッとシアンの前に着地する。

 

「生きた人間には、必ず死期というものがあります。人が死す時、その魂は霊界まで送られ、輪廻のサイクルへと還る…」

 

シアンがスケルトンの頭部に貼られている御札を剥がす。

 

「その輪廻によって魂は決められた転生を迎え、新たなる世界へと導かれる……その繰り返しによって、並行世界は機能し成り立っているのです」

 

御札を剥がされたスケルトンは砂となり、風に吹かれて消えていく。

 

「しかしたまに、死期が過ぎたにも関わらず長生きしている人間がいる……だったか」

 

「そう……人は死期を過ぎた上で生き続ける事は許されない。輪廻のサイクルは常に廻っている。これを乱すような事態は、あってはならない」

 

そしてスケルトンから剥がれた御札が、青白い炎に包まれ消滅する。

 

「もし俺の死期が過ぎていれば、俺もターゲットにされていたのか?」

 

「安心して下さいダリル殿。あなたの死期はまだ見えてませんから」

 

「…そうかよ」

 

シアンがダリルの肩に手を置き、耳元で呟く。

 

「ではこれからも、情報伝達よろしくお願いしますね。ダリル殿」

 

「…あぁ、分かってるよ」

 

その返答を聞いて満足したシアンがその場から立ち去っていく際も、ダリルは彼に対して振り向かずその場に留まっていた。

 

(俺の死期はまだ見えない、か…)

 

「まぁ、今は死なないのならまだ良いが」

 

ダリルは手すりに寄り掛かり、空を見上げる。

 

「…俺は本当に、目的を果たせるのか?」

 

空を見上げたまま、彼は一人ボソリと呟く。

 

彼のその疑問に、答える者はいない。

 

「…む?」

 

そんな彼の遥か真上を、一機のヘリが飛び去っていく。

 

「今のヘリは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ皆! ぶっつけ本番になっちゃったけど、練習通りにやれば大丈夫だからね!」

 

「「「「はい!」」」」

 

なのはとフェイトはフォワードメンバーの四人を連れてヘリに乗り、緊急出動していた。山岳地帯を疾走するリニアレールをガジェットが制御を奪い暴走させている為、急いで現場に向かっているところであった。その為、この出撃はフォワードメンバーにとっては初陣という事になる。

 

「ヴァイス君、私とフェイトちゃんで空を抑えるから」

 

「ウッス、頼みますよなのはさん!」

 

ヘリの操縦士であるヴァイス・グランセニックが、ヘリのハッチを開ける。

 

「それじゃ私達は先にちょっと出てくるけど、皆も頑張って、ズバッとやっつけちゃおう!」

 

「「「はい!」」」

 

「は、はい…!」

 

そんな中、キャロは初めての実戦に緊張していた。

 

しかしその緊張は、敵の危険性からの恐怖によるものではない。自身が持っている竜召還の力、かつてその力を制御出来ずにいた頃の自分だった。

 

「大丈夫だよ」

 

「え…?」

 

そんな様子のキャロを、なのはが両手で彼女の顔に触れて落ち着かせる。

 

「離れていても、私達は通信で繋がってる。ピンチの時は皆で助け合えるし、キャロの魔法だって皆を守ってあげられる。優しくて、強い力なんだから……ね?」

 

「ッ…はい!」

 

先程よりかは落ち着いたのか、キャロが力強く返事を返す。なのはもそれを見て笑顔になり、開いたハッチに向かっていく。

 

「スターズ1……高町なのは、行きます!!」

 

そして、局員の制服姿のままでハッチから飛び降りる。

 

「レイジングハート!!」

 

なのはは落ちながらも、空中でバリアジャケットを展開し、海岸沿いを飛ぶ。

 

(本当に、何事も無ければ良いんだけど…)

 

この時、実はなのはも内心では不安があった。

 

先日、突如姿を現した謎の異形達と仮面の戦士。そしてあの現場から取り逃がしてしまった次元犯罪者ダリル・ロッズ。彼等の存在は、なのはにも若干の不安を感じさせていた。

 

(いや、大丈夫…!! フェイトちゃんやリインだっている……私達で、スバル達の事を引っ張ってあげなきゃ…!!)

 

不安を拭いつつ、なのはは空に飛んでいるガジェットの編隊に向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ…?」

 

空を飛ぶヘリから遠く離れた場所にある建物。

 

その建物の屋上で、幽汽はヘリの存在に気付いていた。

 

「…あぁ、管理局のヘリか」

 

幽汽は仮面の下で笑みを浮かべる。そんな幽汽の後ろでは、スケルトン達もヘリを見てケタケタと不気味な笑い声を上げている。

 

「いつだろうなぁ…」

 

風が吹き、幽汽の巻いている銀色のマフラーが靡く。

 

「次にまた、アイツ等と戦うのは」

 

首をゴキゴキと捻りつつ、幽汽は次になのは達と戦う時が来るのを楽しみに待つのだった。

 

 

 

 

 

 

再戦の時は、そう遠くない。

 

 


 
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