episode」196 取り返しのつかない事
それから二日後の夜、IS学園の地下特別区画。
――――――――――――――――――――
特別区画の奥で隼人とユニコーン、バンシィの三人が居た。
ユニコーンとバンシィはアルタートゥムのシステム状態を確認し、隼人は両手でケースを抱えていた。、
「どうだ?」
「準備は出来ているよ。いつでもいける」
「システムに問題ない。製造に支障はないよ」
「そうか」
隼人はその区画に設置されているアルタートゥムを見る。
アルタートゥムは基本ユニコーンが管理し、今回使用する為にユニコーンが所持している量子変換装置より展開している。
隼人はアルタートゥムに近づくと、両手に抱えているケースの中より光り輝く立体菱形のある物を出す。
それは束より預かった白式のコアであり、それをアルタートゥムの中央に置く。
「・・・・」
ケースを近くに置き、パネルが変形して手を置く場所が現れると隼人はそこに右手を広げて置くと目を瞑ってイメージを浮かべる。
するとパネルから光が回線を通じて製造マシーンに伝わって起動し、筒状のパーツが広い間隔で広がって白式のコアを覆い、エネルギーが発生する。
(元々白式の再建は計画されていたけど・・・なんだか今は複雑だね)
(うん。以前なら良かったけど、今の隼人はただ戦う力を増やしているだけにしか思えない)
二人は製造過程を見ながら念話でこっそりと話していた。
(こんなに・・・変わってしまうのかな)
(変わったと言うより・・・昔の隼人になっているように思えるかな)
(昔?)
(少し前の隼人も・・・こんな感じだったかな。私は最初から見たわけじゃないけど・・・)
(・・・・)
しばらくしてアルタートゥムは停止すると、筒状のユニットより余熱が排出されると、上へと上がっていく。
「・・・・」
隼人が目を細める先には、煙の中より白き輝きを放つ装甲を持つ鎧が現れる。
「外見はうまく行ったな」
「そうだね」
「・・・・」
三人の視線の先には、白い輝きを放つ白式が鎮座していた。
ユニコーンはすぐにモニターに表示されるデータを確認する。
「システムと機体各所に異常なし。コアと機体の同調率は98%・・・コアも機体を受け入れているみたい」
「だろうな。第一から第三までの白式のデータを基にし、俺の記憶にある白式の構造と癖を基に作り上げたあの時と同じであっても、全く新しい白式だ」
「全く新たな白式、か」
「・・・・」
「名前は・・・そうだな」
隼人は腕を組んで新たな白式を見る。
以前の様に白き輝きを持っているが、白銀とも言える輝きであった。
「『白式・雪風』だ」
「白式・・・」
「雪風・・・」
ユニコーンからバンシィに続いて言葉を漏らす。
「希望の運命となりうる白き刃・・・と言った所だろう」
「・・・・」
「これならあいつも満足だろうな」
と、口角を上げるも、明らかに善意の表情とは言い難い。
「・・・・」
「調整は任せるぞ。俺は上の方で就寝時間まで調整をしてくる」
そう言って隼人は区画より出る。
「・・・人任せにするかな、普通」
「どうかな」
隼人が去った後二人は呟く。
「以前なら最後までやっていたのに・・・」
「・・・・」
「本当にこんなに変わってしまうものなのかな・・・」
「あれで演技だって言いたいの?」
「さぁね。そもそも演技をしたところで何も得られないけどね」
「・・・・」
「出来るなら、そうであって欲しいけどね」
―――――――――――――――――――
隼人は上に上がると、既に辺りは暗くなっていた。
すぐに格納庫に向かおうとするも―――――
『隼人』
と、途中の道で呼びかけられる。
「・・・・」
隼人は声がした前の方を見ると、そこにはリインフォースが立っていた。
「リインフォースか・・・」
全く興味が無いように隼人は言葉を漏らす。
『どちらへ・・・行かれるのですか』
「決まっているだろ。格納庫に行くんだよ」
『・・・・』
「まだ機体の調整が終わっていないからな。すぐに終わらせる」
『・・・・』
と、隼人は歩き出すも、リインフォースは両腕を広げる。
「・・・そこを退け」
『お断りします』
「・・・・」
少し苛立ったのか、隼人はリインフォースを睨みつける。
『・・・ここずっと・・・そればかりでほとんど寝ていないじゃないですか』
「・・・・」
『そんな無理ばかりしていると、隼人の身体にどれだけの負担が強いられるか』
「・・・・」
『隼人のお気持は分かりますが・・・もし隼人のお身体に何かあったら――――』
「関係ないだろ」
と、素っ気無く答える。
『関係・・・無い?』
リインフォースは少し驚く。
『何を言って・・・いるのですか?自分の身体なのに、関係無いって?』
まさかの衝撃発言にリインフォースは声を震わせる。
「今やるべき事をやっているんだ。それに、無理をしないで何が得られる?」
『・・・・』
「あの時だって、力を制約しなかったら、ヴィヴィオだって救えたんだ。誘拐される事なんか無かったんだ」
『無理をしても、あの状況ではどの道結果は変わりません。それは隼人にだって分かっているはずです』
「なら、何でお前はあの時ヴィヴィオを助けようとしなかった!!あの場に居たのなら誘拐を未然に防げたはずだ!!」
『あの天候とデストロイを五体も目の前にされたら私だけではなく他の者でも対応は困難です!
仮に対応できても、視界も最悪でしたのでほとんど遠くが見えなくてヴィヴィオの視認は出来ません!』
「それでも、何とかできたはずだろ!!」
『・・・・っ』
リインフォースは少しばかり怒りを覚え、左の眉をピクッと動かす。
『隼人ならあの時の状況は分かっていたはずです!なのになぜそこまで言うのですか!』
「だからなんだ!!俺はあの時何も出来なかったお前に怒っているんだよ!!」
『何もしなかったわけではありません!さっきも言った通り何もできない状況だったのです!』
「お前なら何とかできたはずだ!!」
『っ!私は何でも出来る道具ではありません!』
「一々口答えするな!!人形がっ!!」
『っ・・・!?』
リインフォースは胸に杭が打たれたかのような痛みが走り、目を見開いて数歩後ろに下がる。
「・・・・」
隼人は一瞬表情に焦りの色が表れるも、俯くと何も言わずそのまま早歩きでその場を後にする。
『・・・・』
リインフォースはその場で立ち尽くし、俯くと奥歯を噛み締め、震える。
『・・・なぜ・・・・・なぜそんな非道な事を・・・簡単に・・・。あなたはどうしてしまったのですか・・・』
豹変してしまった隼人にリインフォースは怒りが抑えれなかった。
同時に悲しみも抑えられずに目頭に涙が溢れ、頬を伝って涙の粒が地面に落ちる。
『分からない。もう・・・隼人の事が・・・何も分からない』
いつもなら分かるはずの隼人の心も、今はもう何も分からなくなってしまった。
『私は・・・どうしたらいいんだ・・・』
その場で膝を着くとそのまま座り込んでしまい、両手で顔を覆って静かに泣き出す。
――――――――――――――――――――
「・・・・」
ラウラは誰かを探しているようで、周囲を見渡していた。
(ここ最近格納庫に居る事が多かったのに、今日はどこに・・・)
先ほど格納庫に行ったものも、隼人の姿はなく、次に部屋に訪れても居なかった。
(しかし、ヴィヴィオが誘拐されてから、師匠は変わってしまった)
ヴィヴィオが誘拐されてからといい、この間の戦いといい、隼人は大きく変貌した。
「・・・・」
すると、学園の建物の角の向こうより隼人が走って通ってきた。
「師匠!ちょっとお話しが―――――」
しかし、その後をラウラは言えなかった。
隼人は一瞬ラウラを見るとすぐに前の方を見る。
・・・が、その一瞬の間に物凄い殺気が放たれてラウラは金縛りにあったかのように身体が硬直し、口が動かせなかった。
「師、匠・・・?」
ラウラはただその場で立ち尽くし、口が陸の上げられた魚の様にパクパクと動かすだけだった。
――――――――――――――――――――
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
隼人は肩で息をしながら建物の壁に手を当てる。
(何だ・・・何が起きたんだ・・・)
頭の中で様々な思考が飛び交っていた。
(俺は・・・何を言ってしまったんだ・・・)
自分でも、分からないのだ。何を言ってしまったのか。
「・・・・」
「兄さん・・・!」
と、後ろから颯がやってくる。
「リインフォースさんがさっき道の真ん中で泣いていたけど・・・」
「・・・・」
「それと、ラウラさんが・・・」
「・・・・」
「・・・兄さん?」
肩で息をして振り向かない隼人に颯は首を傾げる。
「大丈夫なの?」
颯は隼人に近付く。
うるさい・・・
「きついの?話を聞いていたけど、やっぱり休まないから」
うるさい・・・
「ほら、部屋に戻ってゆっくり休んで―――――」
「うるさい!!!」
隼人は勢いよく振り返り、颯を殴り飛ばす。
「・・・・!?」
少しして隼人は我に帰り、ハッとする。
気付けば目の前には地面に倒れて居る颯の姿があった。
「・・・・」
震えながらまだ感覚が残っている右手を見ると、僅かに血が付着していた。
「あ・・・あぁ・・・」
それを見て頭の仲が真っ白になり、右目の瞳の色が元に戻ると同時に、光が失われる。
(な、何を・・・やっているんだ・・・俺は・・・)
自分でも何をしてしまったのかが、自分でも覚えていない。と言うより、何もかもが分からない。
しかし、ハッキリと言える事は・・・・・・何もしていないはずの颯を殴ってしまった。それと同時にさっきまでの事が鮮明に思い出される。
自分の事を心配してくれたリインフォースに・・・酷い事を言って傷つけてしまった。
そしてさっきもラウラに本気で殺すかぐらいの殺気を向けてしまった。
そして今までの事全て・・・思い出す。
もはや何も考えられないほどに頭の中が真っ白になってしまう。
「・・・ぅ・・・ぁ」
少しして颯は両手を地面に着けてゆっくりと半身を起き上げ、ふらつきながらも立ち上がる。
右頬は赤く腫れ上がり、口から血が流れていた。
「・・・兄・・・さん」
軽く頭の中が激しく揺さぶられてか、軽い脳震盪に近い状態になっていた。
「・・・・」
ぼやける視界で周囲を探るも、そこにはもう隼人の姿は無かった。
しかし唯一分かる事は―――――
―――――隼人が居た場所に推進剤の跡があった事ぐらいであった。
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トラックに轢かれそうになった女の子を助けて俺はお陀仏になった・・・。・・・って!それが本来の死じゃなくて、神様のミスで!?呆れている俺に、その神様がお詫びとして他の世界に転生させてくれると言うことらしい・・・。そして俺は『インフィニットストラトス』の世界に転生し、黒獅子と呼ばれるISと共にその世界で戦うぜ!