episode195 受け継ぐ者
「・・・・」
周囲が暗くなっても、隼人は黙々と格納庫で作業をしていた。
黙々と作業する先には、ある機体達がハンガーに固定されている。
(束さんもよくこんなものを作って置いたものだな)
一旦データを打ち込んでいる手の動きを止めて目の前のハンガー四基に固定されている四体を見る。
四体ともアストレイシリーズの形状と同じであったが、それぞれ色と一部の形状が異なっている。
一体目は以前では白い部分が黒く、フレーム部がグレーに施され、角と顔の一部、手の甲や背面ユニットの一部に赤が施されたカラーリングで、背中には一対のユニットにレールキャノンと対艦刀をそれぞれ一基ずつ、フライト機能を搭載した一対のユニットを持つバックパックを装備していた。
機体名は『アストレイ・シュヴァルツ』。様々な距離に対応できる機体である。
二体目は一体目同様の部分が濃い緑で、一体目同様の箇所に少し薄い緑が施され、角と顔の一部、手の甲にオレンジが施されたカラーリングで、背中には機体の背丈ほどはある砲身を持つ巨大なランチャー『アグニ』を背中のバックパックの左側に接続されているアームで繋がっている。その反対側にはバルカンとガンランチャーが一体化したユニットを装備していた。
機体名は『アストレイ・グリューン』。遠距離戦に特化した機体である。
三体目も一体目同様の部分が青で、同様の箇所に濃い水色が施され、角と顔の一部、手の甲に濃い青が施されたカラーリングで、背中にはセカンドフレームリバイが装備している『タクティクスアームズ』とほぼ同型のユニットを背負っている。
機体名は『アストレイ・ブラウ』。特殊機構を有するタクティクス・アームズを持つ機体である。
四体目も一体目同様の部分が血の様な紅で、同様の箇所に赤が施され、角と顔の一部、手の甲が黒で施されたカラーリングで、背中にはバックパックの右側に機体の丈ほどはある刀身を持つ対艦刀を搭載し、両腕にアームと取っ手部を搭載したユニットを装備していた。
機体名は『アストレイ・ロート』。格闘戦に特化した機体である。
(以前のアストレイシリーズに試作機構とシステムを搭載したテスト機体。
有人仕様のまま無人機テストを行って、データを取った後予備戦力で置いておくって言ったけど)
隼人は指の骨を鳴らすと、背伸びをする。
(試作機故のピーキーな機体を操れる乗り手がいないのに置いている意味が無い)
呆れ半分で息を吐くと、再びデータの調整を始める。
『隼人さん!』
と、格納庫にツヴァイが入ってきた。
「・・・ツヴァイか。何の用だ」
隼人は振り向きもせずに返事をする。
『先ほど颯さんが目を覚ましたようです』
「・・・・・・そうか」
しかし隼人は作業の手をやめなかった。
『あ、あの・・・』
「・・・・」
ツヴァイは恐る恐る聞く。
『お見舞いに行かないんですか?』
「今は手が離せない。終わったら行く」
『で、でも・・・』
「・・・手が離せないと言ったはずだが?」
振り向きもしないが、隼人の声には少し殺気が含まれていた。
『・・・は、はいです』
ツヴァイは少し怯え、格納庫を後にする。
「・・・・」
隼人はため息を付くと、作業を一旦中断して格納庫を出る。
――――――――――――――――――――
「しかし、あれで我々の事を信じてくれたのでしょうか?」
「分からんな。出来ればそうであって欲しいが―――――」
「状況が状況だった故に、あの様子では半信半疑に近い」
「・・・・」
その頃、ノアとグリッター、ハルファス、フェニックスは南極にあるGシステム78に訪れていた。
「しかし、あの人間の説得がなければ、恐らく協力関係は持てなかったでしょうね」
「あぁ」
「下手をすればあのまま戦闘に入っていたかもしれません。しかし黒獅子があそこまで敵意を向けるとは・・・」
ハルファスはあの時の隼人の様子を思い出す。
「仕方が無い。黒獅子があそこまで変貌したのも」
「・・・・」
「しかし、ノア様。なぜ今Gシステム78に訪れたのですか?立ち寄る理由になる物は残ってないはずでは・・・?」
事実ここに残されていたGシステムアルタートゥム、マテリアル以外は特にこれと言った物は残っていない。
「バインドから見れば、もうここには残って居ない」
「・・・・?」
「だが、まだ残っているのだ」
「我々の最後の切り札がな」
「最後の・・・切り札?」
「ノア様とグリッター様の切り札って・・・」
ハルファスとフェニックスは信じ難い様子だった。
「恐らく必要になる。あの者に対抗する為にはな」
「あの者と・・・」
「だが、その切り札は・・・・・・我々の命と引き換えにして使用するものだ」
「「っ!?」」
二体は驚愕して立ち止まる。
「そんな!?二人の命と引き換えにするって!」
「あまりにも無茶苦茶です!!」
「あくまでもしもの事だ。出来るのなら我々だって使いたくは無い」
「だが、状況が状況である以上、その力を使うかもしれんのだ」
「それは・・・そうですが・・・。ですが、もし二人が消滅する事になってしまったら、この世界を誰が見守るのですか!」
「・・・・」
「監視者が居なくなれば、どうなるか分からないのですよ!」
「・・・その時は・・・お前達に任せる」
「え?」
「わ、私達が・・・ですか?」
ノアの言葉に二体は唖然とする。
「そうだ」
「お前達以外に、適任は居ない」
グリッターはゆっくりと頷く。
「お前達は我々が役目を終えても、ちゃんと役目を受け継げれると確信している」
「し、しかし、私達はまだ・・・」
「未熟である。確かにそういう点はまだあるかもしれん」
「だったら―――――」
「だが、それでもお前達は―――――
―――――我々の遺志を継ぐ妹達なのだからな」
「・・・・」
「・・・・」
「もし我々が消える事になったら、その時は頼むぞ、我が妹・・・ハルファス」
ノアは身に纏うボロ布を退かしてハルファスの右肩に左手を置く。
「お前もだ、我が妹・・・フェニックス」
グリッターも身に纏うボロ布を退かしてフェニックスの左肩に右手を置く。
「・・・・」
「・・・・」
二体は迷いが収まらないまま、ノアとグリッターと共にGシステム78の奥へと進んでいく。
――――――――――――――――――――
「・・・・」
その頃、束はネェル・アーガマの秘密ドッグにあるラボでいつもの様子からは考えられないほどの真剣な表情で作業をしていた。
その為か、額や顔中に汗が浮き出ていた。
(これだけ緻密で複雑な作業は初めてだよ。さすがの私でもこれはきつい・・・)
ため息を付いて背もたれにもたれつくと、目を覆っているゴーグルを上に上げ、目の周りに付いた汗をタオルで拭い取る。
頭脳だけではなく、身体能力がオーバースペックな束でも、顔に疲れの色が浮かんでいる。
(それに、あのデータも応用を利かせれば別な物でもそれに近い物が作れるのが分かっても、作るのに一睡もせずに一週間も掛かっちゃったのが結構響いているみたい、だね・・・)
目の前にある物の近くには、金色の輝きを放つ正方形のキューブが筒状のケースに入れられている。
それはかつて親友が使っていたとある機体のコアで、それに無限動力機関と紅椿の単一能力『絢爛舞踏』の理論と構造の一部を取り入れる事で現在では製造不可能な無限動力機関を擬似的に再現した物を作り上げた。
(まぁ、これ自体ISを超えた存在だからね。これをちーちゃんが使いこなせれるか)
しかし、超ピーキーな機体以前のも重大な問題もある。
(・・・それ以前に・・・ちーちゃんがこの機体を使ってくれるかどうか)
周囲の薄暗さの様に少し表情に暗い色が浮かぶ。
(さすがにちーちゃん怒るかな・・・)
事実、この機体はある意味千冬にとっても深い関わりがある機体。
「・・・・」
ため息を付くも、ゴーグルを下ろし、作業に戻る。
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トラックに轢かれそうになった女の子を助けて俺はお陀仏になった・・・。・・・って!それが本来の死じゃなくて、神様のミスで!?呆れている俺に、その神様がお詫びとして他の世界に転生させてくれると言うことらしい・・・。そして俺は『インフィニットストラトス』の世界に転生し、黒獅子と呼ばれるISと共にその世界で戦うぜ!