No.601215

リリカルなのはSFIA

たかBさん

第三十三話 白から黒へ

2013-07-24 22:17:31 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3472   閲覧ユーザー数:3195

 第三十三話 白から黒へ

 

 

 

 はやて視点。

 

 機動六課にアサキムが現れた同時刻。

 講演陳述会会場でレジアス中将の後の人の講演が始まろうとした瞬間にそれは起こった。

 警報が鳴ると同時に周囲を警戒していたヴィータの念話が届いた。

 

 (はやて!ガジェットがわんさと出てきやがった!この間と同じ召還じ)

 

 そこで念話を交わすとノイズが奔った。

 そして、会場の出入り口に隔壁が下りる。

 ライトも消えて、代わりに非常灯がつく。

 

 「…はやて。これは」

 

 聖王教会の代表者としてやって来たカリムも、私の隣で不安そうな顔をして話しかけてくる。

 自らが予言した時が来た。と、

 

 「カリムっ。騎士はやてっ。ご無事ですか?」

 

 カリムの護衛として周囲を警戒していたシャッハもやって来た。

 その表情は決して嬉しいものではない。

 ガジェットに対してのレーダーの警戒はしていた。だけど、召喚術に対しては別だ。

 転送されてくるまでそれを探知することは出来ない。だから、補助魔法のエキスパートのシャマルも警戒していたのに…。

 まるで、魔法と科学の二重召喚。

 魔力と科学。それぞれの穴をついて襲撃してきた正体は…。

 

 

 リインフォース視点。

 

 「バーレイ・サイス!」

 

 赤紫の稲穂。シグナムの連結刃よりも柔軟性を見せる魔力の刃。

 私はそれを振り回しながら私は襲い掛かってくる女性と相対する。

 フェイトの様に高速移動してくる短髪の女性。

 彼女の両腕から生えている光の刃を受け流す。

 

 「ちぃっ!こいつのデータはこちらには無いぞ!」

 

 「クア姉のアホォオオオオ!トーレ姉ぇええええっ、援護お願いするッすぅううう!」

 

 「見ればわかるだろう。こちらも手一杯だ!」

 

 「行って!ティアーズ!」

 

 「いにゃああああああっ!凍る?!焼ける!?」

 

 機械的なサーフィンボードに乗って空を飛ぶ別の女性がすずかの『スノーホワイト』が作り出した。六つの赤い宝石。

 まるで意志を持ったその宝石はサーフィン少女を追い、その宝石自体から打ち出される熱線。それにあたるとまるで液体窒素を浴びせられたかのように氷ついていく。

 

 「なんなすかっ、この赤い宝石はぁ!?AMFが効きまくっているこの宙域でぇえええ!」

 

 涙目になりながらも必死に躱していくサーフィン少女は何とか躱していく。

 だけど、このままだとマズイ。

 今、この施設。アインヘリアルを襲撃しているのがこの二人だけならよかった。だけど、実際は違う。

 

 『すずか!リインフォース!はやくこっちに来てガジェットの掃討を手伝って!』

 

 アリサから通信で現状を告げる。

 彼女はこの施設にいた非戦闘員の非難の援護に回っている。

 数百を超えるガジェットの襲撃でこの施設は既に崩壊寸前。主力であろうこの二人を私とすずかで押さえている。この施設にも何人かの武装局員も何人かいたがガジェットの数が多すぎる。

 物量的に圧倒的差がある防衛線。しかも、広域の攻撃魔法を放つことが出来なければ制圧されるのは時間の問題だった。

 

 「ちぃっ!それがそちらのDエクストラクターとスフィアリアクターか!」

 

 「…そちら、だと。貴様等の方もまさかっ」

 

 「ふんっ。釈然としないがこのまま私の相手をしてもらうっ。伊達にあのアサキムと模擬戦を繰り広げたわけでは無い!」

 

 せっかく『悲しみの乙女』のスフィアを解放したのに…。それを振るうことが出来ない。

 ガナリーカーバーの形から砲撃型とみたのか、アリサが避難誘導している区域を背に私と戦う目の前の人物に苛立ちを感じる。

 …この施設が落ちるのも時間の問題。

 そのような考えが思い浮かんだ瞬間。

 

 

 

                ――――――――ッ!!!!!!

 

 

 

 ここよりはるか遠方からの無音の爆音。衝撃の爆発を感じ取った。

 それは私だけではなく、すずかやアリサの方も感じ取ったのか思わず体が強張る。

 これは…。機動六課の方からか?!

 私と戦闘を繰り広げている人物も今の衝撃を感じ取ったのか目を大きく見開き、信じられないことを言った。

 

 「…っ。なるほど。了解した。貴様、『悲しみの乙女』のリアクター。リインフォースだな?」

 

 「…それがなんだ」

 

 「機動六課は壊滅。頼みの『傷だらけの獅子』もアサキムの倒れ伏したよ」

 

 嘘だ!

 そう叫びたかった。

 …だが、同じリアクターだからわかる。

 先程の爆発の感触。あれは高志の物だった。彼の魔力。そして、スフィアの力だった。

 信じたくない。嘘だと思いたかった。だけど、機動六課からの連絡が来ない。あの無音の爆発からプツリと連絡が切れたのだ。

 …信じたくなかった。信じられるわけがない!

 

 「…お前は。いや、お前の力は『悲しみ』なんだろう?」

 

 「…言うな」

 

 「そして、その『悲しみ』。お前の親しい者達が不幸な目に会うとお前は『悲しむ』んだろう?」

 

 私は自分でも分かる程にその言葉に惑わされていた。

 それが相手にもわかっていたんだろう。その表情はまるで以前アサキムと相対した時と同じ。

 アサキムに私の存在が主はやて。そして私が好いている男性を苦しめ、それを楽しんでいる表情と重なる。

 

 「言うな」

 

 「今回の『悲しみ』で…」

 

 「言うなっ」

 

 「貴女のスフィアはどれだけ成熟したんだろうな?」

 

 ゴウッ!

 

 私の力の象徴。青い砲身、ガナリーカーバーから今までにないくらいの力が噴き出していた。

 その力は辺り一帯を吹き飛ばさんばかりの風圧を生み出し、この宙域を飛行していたガジェットの軍勢を吹き飛ばしていた。

 そして、その風圧を生み出したガナリーカーバーの砲口を女性に向け、私は感情のままその引き金を引いた。

 

 「言うなぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 私の叫び声とともに生まれた赤紫の光を放つ光の砲撃と生ぬるい。

 アリシアやなのはの砲撃を柱として例えるのなら、その時放たれた砲撃は塔。光のタワー。

 

 その砲撃が上空に向いて放たれたものがせめてもの救いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達の援護も空しく多数の死者を出しながらアインヘリアルは壊され、私達が応戦していた戦闘機人達も私が我を忘れて放ったガナリーカーバーの砲撃の閃光と爆風の際に目がくらみ、索敵の魔法やレーダーから逃げられた。

 私はなまじスフィアに目覚めた所為か分かる。『傷だらけの獅子』が『悲しみ』に押しつぶされる感覚が私を襲った。

 これまでにないほどの『悲しみ』。そして、後ろ暗い絶望。

 今まで何があっても、どんなにボロボロになっても立ち上がって来た。彼が伏してしまったと。

 あの戦闘機人が行っていた事が真実なんだ。と、

 

 そして、それを証明するかのように。

 一時的に撤退を余儀なくした機動六課とゼクシスのメンバーと合流した時に見て、泣き崩れてしまった。

 

 「…あ。ああ、うあああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 

 

 変わり果てた。何もかもを壊されたかのような『傷だらけの獅子』の姿を…。

 

 

 ジェイル視点

 

 私は時空管理局本部。アインヘリアル。そして、機動六課で破壊行動をしている自分の娘達とアサキムの行動をモニターで注視していた。

 どこの部隊でも順調に見えたが、アインヘリアルの方では一進一退が繰り広げられている。どうやら、この世界。『白歴史』へと誘おうとする存在。ゼクシスがそこにいた局員と連携して迎撃に出ているのが原因のようだ。

 

 「…クアットロ。悪いがアインヘリアルの攻略に手を貸してくれないかい?ゼクシスの方が思った以上にやる様でね」

 

 『え~、ドクター。こちらの方もぉ、手いっぱいなんですけどぉ』

 

 やけに間延びした言葉遣い。長い髪を左右にハネさせ、嗜虐心を隠せないでいる戦闘機人、ナンバー3のクアットロは、自分の手元に浮かび上がったコンソールをいじりながらも、今まさに己のIS。シルバーカーテン。

 ある一定区域内に現実と虚構を入れ混ざる能力を発動させようとした瞬間だった。

 

 

 

                ――――――――ッ!!!!!!

 

 

 

 音も風も衝撃も無い。ただ、何か(・・)が爆発した。

 魔力に関係する者なら誰でも知覚できる衝撃の強さ。

 だが、それが何なのか分からない。それほどの弱さ。

 相反する性質を持つ衝撃に私とクアットロは思わず手を止めた。

 

 『な、なにが…?』

 

 「今の衝撃は…。機動六課の方からか?オットー!ディード!」

 

 私はアサキムと共に機動六課制圧に向かっていた二人に声をかける。

 もしや、あの二人に何かあったのではと連絡を取る。と、すぐに連絡はついていた。

 

 『あ、ああ、ええとアサキム様が目標Gと接触後、妙な結界を張ってそこでしばらく殴り合いや斬りつけ合いのような音がした後、アサキム様が特攻を起こして小さな結界の中に自分とGを閉じ込めましたっ』

 

 『…なに。あれ?気持ち悪い。気持ち悪く顔を歪めたお婆さんや叔父さん達がこっちに向かって何か言っている映像?』

 

 オットーとディードと呼ばれた少女達は目の前で様々映像映し出す結界を見ながらも警戒していた。

 二人の言葉を聞いて私はモニター操作を行い、あちこちで活動している映像を映し出す幾つものモニターから、機動六課の現状を一番大きく表示した。

 そこに映し出されていたのは、肩の部分に細長い鉄杭を打ち込まれた状態のシュロウガ。あまり損傷の見られないガンレオン。

 だが、その二対の鎧から明らかな差が見える。

 邪悪なシュロウガから躍動感が感じ取ることが出来るが、頑強なガンレオンはまるで電池が切れたかのように微動だにしない。

 

 いや、違う。動いてはいる。ただ、動いていないと思わせる程微弱に、だ。

 ガンレオンの瞳や関節部分からは緑色に光る魔力の影すら見えない。

 まるで魂が抜けたかのように…。ただ、生きてはいるようで『傷だらけの獅子』は微妙に肩で呼吸をしていた。

 だが、それは本当に微弱。まるで寝たきりの重病人の様だ。

 

 『…ちょ、何やっているのアサキム!まだ、『傷だらけの獅子』は戦える状態よ!早くトドメをさしなさい!』

 

 確かにクアットロの言うように『傷だらけの獅子』はまだ動け、戦える。

 その上、体力的にも魔力的にも。そして、スフィアの力も残していながらもアサキムはゆったりとした対応しかしていない。

 

 「…アサキム。クアットロの言う通りだ。君が彼に気をかけているのはわかるがここは早々にかたをつけた方がいい」

 

 せかす私とクアットロにアサキムは冷静に答えた。

 

 『気にしないでいいよ。ジェイル。もう彼は動けない。彼を支えるもの。彼を象っていたもの。もう既に砕かれた』

 

 アサキムが言うように『傷だらけの獅子』。重厚な装甲を纏った獅子の鎧は全く動かない。

 アサキムが軽く剣で『傷だらけの獅子』を小突くとゆっくりと後ろに倒れた。

 まさか、アサキムが生み出した空間取り込んだ際にすでに殺したという事か?

 いや、相手側の反応は生きており、戦闘可能である。

 倒れた際にガンレオンの鎧が解除された。そして、その中にいた人間の顔。それは…。

 いかなる時でも諦めず、立ち上がって来た男ではなかった。

 

 

 

 己の『選択』で『悲しみ』、血の涙に濡らした心を完全に砕かれた人間の顔だった。

 

 

 

 あまりにも情報と違いすぎる。数分前までは強大な力を持つアサキムに立ち向かっていった人間の顔ではない。

 

 「…アサキム。君はいったい何をしたんだい?私でもこんな短時間で心は壊せないよ。彼があの(・・)『傷だらけの獅子』ならなおさらだ」

 

 何よりも自分を犠牲にして、自分の親しい人間を守る人間のはず。

 そのはずなのに…。

 

 『簡単さ。彼は何もかも犠牲にして戦ってきたように見える。無欲な人間に見える。だけど、それは違う(・・)。見返りを彼は常に求めていた。いや、誇りともいうべきかな?だけど、それ自体(・・・・)に彼が否定されたら、簡単に砕けるということさ』

 

 何を言っているか分からない。だが、彼のしたことは『傷だらけの獅子』の心を砕くに十分だったらしい。

 

 『…高志。君の心は目の前の事(・・・)に対しては強かった。だけど、後の事(・・・)には弱かった』

 

 アサキムは憐れむように、それでいながら嬉しそうに高志に話しかける。

 

 『君は優し過ぎた。君は心が強く、そして弱すぎた転生者。思うが儘に、そして我がままに生きればよかった。いや、だからこそ選ばれたのかもしれない『傷だらけの獅子』にね。先代の方々を見習えばよかったんだ。…そうだろ』

 

 そして、アサキムは自分が持つ剣を振り上げながら私の聞きなれない言葉を発した。

 

 

 

 『転生者』。と、

 


 
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