No.601065

リリカル幽汽 -響き渡りし亡者の汽笛-

竜神丸さん

第2話

2013-07-24 15:20:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1786   閲覧ユーザー数:1755

時空管理局、古代遺物管理部・機動六課。

 

「「噂話?」」

 

その六課本部の部隊長室にて、三人の少女が向き合っていた。

 

機動六課部隊長、八神はやて二等陸佐。戦技教導官、高町なのは一等空尉。管理局本部執務官、フェイト・T・ハラオウン執務官。

 

彼女達が話しているのは、とある一件についてだ。

 

「二人も聞いた事はあるやろ? 夜中、聞こえる筈の無い場所で列車の汽笛が聞こえてくるって話」

 

「それって、最近噂になってる“黒い列車”の事?」

 

「そや。この六課でも広まっとるみたいでな、その噂話で持ち切りなんや」

 

「その話は私達も知ってるけど……でも、何で急にそんな話を?」

 

六課内でも噂となっている“黒い列車”については、なのはとフェイトもいくらか知っていた。しかし二人からすれば、何故そのような話を突然してくるのかが疑問だった。

 

「その噂話なんやけどな」

 

はやての表情が真剣なものに変わる。

 

「数日前、このクラナガンで殺人事件が起こったのは知っとるよな? その件なんやけど……目撃者の中に一人、その黒い列車を見たって人がおるんや」

 

「「…!」」

 

殺人事件に、黒い列車が関連している。それを聞かされたなのはとフェイトも真剣な表情になる。

 

「実際は幻覚を見ただけなんじゃないかって意見もある。けどこの件を機に、噂の信憑性が段々上がっておってな。もしかしたらって可能性も捨て切れない部分があるんや」

 

「黒い列車、か…」

 

「もし本当だったとしたら、何の為に殺人なんて…」

 

「まぁ信憑性が高くなってると言っても、所詮はただの噂話や、アテには出来へん。あくまで一つの可能性として、割り切った方が良ぇやろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~…つまらねぇ」

 

幽霊列車がこのミッドチルダに到着してから数ヶ月。

 

「どいつもこいつも……結局は雑魚ばっかりじゃねぇか!!」

 

とある森林の中で停車している幽霊列車の車両にて、ゴーストは苛立ちを抑えきれないでいた。

 

イマジン三人はこの世界に来てからも“仕事”をしている。しかしターゲットとなる人間がなかなか見つからない、見つかったとしても張り合いの無い人間ばかりなのが積み重なって、苛立ちが今まで以上に大きくなっているのである。

 

「落ち着けよ。ここで暴れたってどうにもなんねぇだろ」

 

「そうそう、つまんねぇのはこっちだって一緒だ」

 

「チッ……分かってんだよ、んな事は…!!」

 

シャドウとファントムが宥めるが、それでも苛立ちの収まらないゴーストは席にドカッと行儀悪く座る。

 

「そんなに苛立ってんなら、またトランプでも…」

 

「今そんな気分じゃねぇ!!」

 

シャドウが持ちかけたトランプにも、ゴーストは怒鳴って却下してしまう。そんなゴーストを他所に、シャドウとファントムはひそひそと話し始める。

 

(…なぁ)

 

(あぁ。あいつ、今まで以上にストレス溜まってやがんぞ)

 

(あいつは俺達の中じゃ、特に気が荒い方だしな…)

 

(まぁでも、つまんねぇのは俺達も一緒なんだけど…)

 

「「…ハァ」」

 

シャドウとファントムも同時に溜め息をつく。

 

 

 

「ご機嫌斜めのようですね」

 

 

 

「「「!」」」

 

そんなイマジン三人の下に、シアンが姿を現す。

 

「…まぁた仕事か?」

 

ゴーストは「いい加減飽きてきた」とでも言いたげな口調で問いかける。

 

「はい。ただ、今回の仕事は少し違います」

 

「何?」

 

 

 

 

 

「魔導師の力量を測って来いって?」

 

ゴーストがそう言って、シアンは「はい」と肯定する。

 

仕事の内容を話すとこうだ。

 

今いるミッドチルダには時空管理局という組織がいて、その管理局に所属している魔導師が多く存在している。もちろん、イマジン三人もそれくらいの事は知っている。

 

しかしその魔導師達は、こちらの事情を知らない。それ故、シアン達が行っている仕事を妨害してくる可能性があるのだ。その事も考えて、今のうちに魔導師の実力がどれ程のものなのか、ある程度は知っておく必要があるのだ。

 

そこでシアンは、退屈が原因でストレスが溜まりに溜まっているであろう彼等に、こうして仕事を与えようという訳である。

 

「内容は以上です。次に仕事をした際に攻撃を仕掛けて来た場合、その時にお願いします」

 

「…なるほどな」

 

ゴーストはニヤリと笑みを浮かべる。シャドウとファントムも同じ反応だ。

 

「クハハハハ……ハッハハハハハハハハ!! そうだ、そういうのを待っていたんだ!!」

 

先程までご機嫌斜めだったのが嘘のように、ゴーストは楽しそうに高笑いする。

 

この時を待っていた。退屈だった状況から、ようやく解放される。そう思うと、彼は込み上がって来る笑いを抑えずにはいられなかった。

 

「良いぜ、引き受けてやる。俺達もやっと、本格的に暴れられるって訳だ!!」

 

「盛り上がろうぜ? 最高の祭りだ!!」

 

「ヘッヘッヘッヘッ…!!」

 

そうと決まれば話は早い。イマジン三人は早速自分の武器を持って、車両から出ようとする。

 

「…あ、そうだ」

 

ゴーストが立ち止まる。

 

「おいシアン、提案なんだけどよ」

 

「?」

 

「俺達もいつもこんな格好じゃいい加減怪しまれるだろうからよぉ。せっかくだから」

 

ゴーストが指差した先に、未だ眠り続ける銀髪の女性。

 

「その女の身体、ちょっと借りてくぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ首都クラナガン、時間帯は夜。

 

そのクラナガンから少し離れた距離にある工場跡地の建物にて…

 

「後はつけられてないだろうね?」

 

「あぁ、問題無いぜ」

 

この場にいるのは、灰色のスーツを着た男が二人と、黒スーツの男が数人。灰色のスーツを着た二人の男の内、片方は右頬に傷跡があるスキンヘッドの男。もう片方は眼鏡をかけた、いかにも胡散臭そうな金髪の男で、彼の後ろにいる黒スーツの部下達は全員がサングラスをかけている。

 

「ではロッズ殿、例のブツを」

 

「あぁ」

 

スキンヘッドの男―――ダリル・ロッズは手に持っているスーツケースを開け、中身を金髪の男に見せる。中には紅い輝きを見せる水晶だった。

 

「約束していたレリックだ、封印処理も既に施してある。これで満足だろう?」

 

「これは素晴らしい……感謝するよ、ロッズ殿」

 

「先に連絡した通り、報酬はこの場で寄越して貰うぞ、ギャリッジ」

 

「あぁ、もちろんだとも……君」

 

「はっ」

 

眼鏡をかけた金髪の男―――パトリック・ギャリッジは指を鳴らす。後ろに待機している部下の一人がスーツケースを持ってダリルの前に立ち、スーツケースを開けて中身を見せる。その中には、札束がぎっしりと詰められていた。

 

「ではロッズ殿。これからも引き続き、ロストロギアの回収をお願いするよ?」

 

「…あぁ、分かってる」

 

ダリルとギャリッジはお互いのスーツケースを交換する。ギャリッジはニコニコと怪しげな笑みを浮かべており、ダリルはそんな彼に対してあまり好印象ではないのか、イマイチ嫌悪感が拭えない。

 

「さて。いつまでもここにいては管理局に勘付かれるでしょうし、私はこれで…」

 

ギャリッジが部下を連れ、その場を退散しようと―――

 

「「「「「ッ…!?」」」」」

 

―――したその時、突然謎の寒気がその場にいた全員を襲った。

 

更に…

 

-ポォォォォォォォォ…-

 

何処からか、列車の汽笛まで聞こえてきた。近くには列車が通るような線路は無いので、本来ならこんな汽笛は聞こえる筈は無い。

 

「い、今のは一体…?」

 

(…例の“黒い列車”か?)

 

ギャリッジや部下達が戸惑っている中、ダリルは薄々汽笛の正体に勘付いているのか、あまり慌てた様子は見せない。

 

「ッ!? 何か来ます!!」

 

一人の部下が指差した方向。

 

その先から…

 

-ポォォォォォォォォォォォォッ!!-

 

煙突から煙を噴き出しながら、幽霊列車が一同に向かって突っ込んで来た。

 

「ぬ、ぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」

 

「ぐ、ぅ…!!」

 

幽霊列車がすり抜けていく際、強風が彼等を襲う。しかしそれも長くは続かず、やがて幽霊列車は何処かへ走り去って行った。

 

「…消えた?」

 

「今のは一体……ッ!!」

 

何かの気配を感じたダリルが、最初に幽霊列車が走って来た方向に振り返る。

 

「クククククク…!!」

 

「ヘッヘッヘッヘッ…!!」

 

不気味な笑い声が建物内に響き渡り、ギャリッジや部下達も振り向く。振り向いた先にいたのは、両刃の鎌を持ったシャドウと、S字型の形状をした太い鞭のような武器を持ったファントムの姿があった。

 

「おいおい、物騒な連中がいるなぁ~…」

 

「怖~い大人が一杯だぜぇ~?」

 

シャドウとファントムが一同を見てケタケタ笑う……この二人も充分物騒で怖いのはここだけの話だ。

 

「な、何だね君達は!?」

 

「お逃げ下さい、ギャリッジ様!!」

 

「…!!」

 

ギャリッジは二人のイマジンを見て狼狽し、部下達が彼を守るように前に出て銃を構える。ダリルも無言ではあるが警戒はしているようで、自身のブレード型デバイスを展開して右手に持つ。

 

「おぅおぅ、やっぱ警戒されちまうか」

 

「当たり前だろうよ……ん? ギャリッジ?」

 

何かに気付いたファントムは何処からか一枚のメモを取り出す。

 

「えぇっと………間違い無ぇ。あのギャリッジって奴、ターゲットの一人だ」

 

「マジかよ、そりゃ良いな。魔導師とも戦えて、ターゲットも仕留められて、一石二鳥じゃねぇか」

 

シャドウは楽しそうに、右手に持った両刃の鎌をクルクル回転させる。

 

「くっ!? ロッズ殿、頼む!! 私を守ってくれたまえ!!」

 

「…あぁ、分かった」

 

(チッ、命令する事しか出来ない奴が吠えやがって…!!)

 

ダリルはギャリッジの命令に従うが、内心では彼に対して毒づいている。

 

「おいおい、まさか俺達二人だけだと思っちゃいねぇだろうな?」

 

「俺達だけじゃねぇぜ? あと……もう一人いる」

 

「何…!?」

 

シャドウとファントムがそれぞれ左右に動く。その先に…

 

「…女?」

 

一人の女性が、暗闇の中からこちらへ向かって歩いて来ていた。

 

金色の長髪に緑のメッシュが入った、スタイルの良い黒服の女性。暗いからか目元は見えないが、その口元は小さく笑みを浮かべている。

 

そんな彼女の左手に、一本のベルトが出現する。女性はそれを自身の腰に巻きつけ、右手に黒いパスケースらしき物を持つ。

 

そして…

 

 

 

 

「変身」

 

 

 

 

パスケースが、ベルトのバックル部分へと翳される。

 

≪Skull Form≫

 

音声が鳴り、女性の身体が一瞬だけ光に包まれる。

 

その姿は白と黒が合わさり、下半身にコートの付いたスーツへと変わる。彼女の周りを複数の黒いアーマーが回転してからスーツの上半身に装着される。両肩にはシャチの口のような形状をした肩当てが装着されて、首元には線路のような銀色のマフラーが巻かれる。そして頭部には、海賊帽子を被った髑髏のようなパーツが出現。複雑に変形し、髑髏と二本の骨が突き出た仮面として完成。変身が完了される。

 

「な、何者だね君は!?」

 

ギャリッジ達は彼女の姿を見て、驚きを隠せないでいる。シャドウとファントムはそんな彼等の反応を愉快そうに見る。

 

「俺が何者かだって?」

 

変身した彼女は、長剣を右手に持つ。

 

「テメェの命を刈り取りに来た…」

 

長剣をクルリと回転させ、肩に乗せる。

 

 

 

 

 

 

「魂の、運び屋ってところだ」

 

 

 

 

 

 

変身した女性―――“仮面ライダー幽汽”は、そう答えるのだった。

 


 
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