No.600893

そらのおとしもの 新ショートストーリー 中学生はBBA

超がつくほど久しぶりのそらおと更新。
第3期アニメの続報がなくてエネルギーが枯渇状態。
けれど、少しずつでもアップしていこうとごく短い作品をば。

2013-07-23 23:53:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1276   閲覧ユーザー数:1252

そらのおとしもの 新ショートストーリー 中学生はBBA

 

「俺は……俺は遂に世の中の真理に辿り着いてしまったんだぁ~~っ!!」

 7月後半のとある日曜日の桜井家の居間。録画した深夜アニメを視聴終えて智樹は大声で叫び上げた。

「……マスターどうなさったんですか?」

「ちょっとうるさいわよ。アイスが楽しめないじゃないのよ」

「お腹が空きました。何か食べさせてください」

「智ちゃん、ご近所迷惑だよ」

 イカロス、ニンフ、アストレア、そはらが居間へと集結してくる。面倒くさいことがまた起きていると表情に書きながら。

「で、智樹は一体どんな真理に辿り着いたと言うのよ?」

 代表してニンフが質問する。智樹がおかしなことを口走った時に備えてそはらがチョップを、アストレアが剣を構える用意周到ぶりを見せながら。

「ロウきゅーぶ!SSとプリズム☆イリヤとドキドキ!プリキュアのレジーナとキュアエース変身前を見ていて気が付いてしまったんだよっ!」

 ニンフは目で合図をする。そはらとアストレアが頷くと共に手に力が篭る。イカロスは後ろで仏壇を整えて智樹の写真をそっと加えた。

「時代は小学生っ! まったく小学生は最高だぜってなっ!」

 智樹は熱く吠えた。ニンフたちの目が一段と細まった。

「気付いちまったんだ。今まで俺はボンキュッボンのグラマーなお姉さんこそが女性として魅力的なんだと思ってた。でも、それは俺の目が曇っていただけのことだったんだっ!!」

 智樹は頭を激しく掻きむしって過去の自分を否定する。

「ペッタンコボディーこそが最高だったんだよっ! 第二次性徴なんか不要だったんだよっ!!」

 ニンフは右手を挙げた。感情を消してキリング・マシーンと化したそはらとアストレアが攻撃開始の時を待つ。

 そして智樹は自ら死地へと飛び込んでいった。

「分かっちまったんだよっ! 中学生はBBAなんだってなッ!!」

 智樹は中学2年生とは思えないグラマラスなボディーを誇るそはらを指差しながら暴言を吐き捨てた。

「……やっておしまい」

 ニンフが右手を振り下ろすと当時にイカロスがリンを鳴らした。殺戮開始の合図だった。

 そはらとアストレアが智樹の息の根を止めるべく一斉に襲いかかる。

 だが──

 

「よくぞこの世の真実に辿り着いたな、アインツベルンの雇われ魔術師よ。今回は特別に貴様に力を貸そう。スーパー幼女スカルプッ!!」

 七色に光る水銀が防壁となってアストレアの剣とそはらのチョップが智樹に届かず弾かれる。

「ペドネスッ!!」

 智樹は救世主の名を叫ぶ。

「フッ。ペドネスではない」

 青いカソック姿の金髪男はニンフたちの前に堂々と姿を現して自己紹介を始めた。

「魔術の名門アーチボルト家⑨代目頭首、幼女たちの守護者ケイネス・エルメロイとはこの私のことだっ!」

 ケイネスは幼女たちの守護者という部分を特に強調しながら語った。

「アンタのことならもうよく知ってるっての、このペドネスッ!」

「そうだそうだ! 幼女しか興味がない変態魔術師~。ベロベロべ~」

「どうして警察はこんな変態を野放しにしているのかしら?」

「……存在そのものが悪」

ニンフたちは嫌悪感丸出しの表情を天才魔術師へと向ける。だが、そんな乙女たちの視線をケイネスは一蹴する。

「ランドセルを脱いだBBAどもがよく吠える」

 ペドネスはイカロスたちを見ながら鼻で笑った。

「そこのツインテールの娘だけは幼女の資格を持つようだがな」

「誰が幼女よっ!」

 ニンフがあっかんべーしてケイネスに反論する。

 だが、ケイネスの一言は智樹に大きな影響を与えることになった。

 

「ニンフッ!」

 智樹は衝動に駆られるまま叫んでいた。

「何よ?」

 ぶっきらぼうに少女は返す。だが、そんな冷たい返事が智樹をますます興奮させた。

「そはらが昔使っていたこの赤いランドセルを今すぐ背負ってくれないか?」

 智樹は今まで見たことがないぐらい真剣な表情で懇願した。その手にランドセルを持ちながら。

「ちょっ? アンタ一体、何を訳分からないことを言ってんのよ!?」

 ニンフは智樹のお願いの意味が分からずに混乱している。

「「「はっ!!」」」

一方でイカロスたちは智樹の意図にいち早く気が付いた。

「……マスターっ! そのランドセルは私が背負いますッ!!」

 イカロスが智樹の手からランドセルをひったくる。そして自らの背中へと──

「……きゃぁあああああああああああああぁっ!?!?」

 イカロスはランドセルを背負おうとした所で、不思議な力に弾き飛ばされてしまった。

「何だか分からないけれど、イカロス先輩が失敗したのならこの私がっ!」

 続いてランドセルを手にしたアストレアが背中にそれを背負おうと肩紐に腕を通す。

「これで桜井智樹は私のもので……きゃぁあああああああああああぁっ!!」

 背負う直前にアストレアもイカロス同様に不思議な力で吹き飛ばされてしまった。

「何か特殊な力が働いて、ランドセルが背負われるのを拒んでいる?」

 そはらは状況を分析しながらそう結論を下さざるを得ない。

「でも、これはわたしのランドセル。わたしなら背負えるはずっ!」

 既に2人の少女が吹き飛ばされているというのにそはらは怯まなかった。

 ランドセルを手に持ち、肩紐の部分に両手を差し入れる。

 そして──

「なっ、何、この光っ!?」

 ランドセルは眩い光を放ちながら空中へと浮かび上がり始める。

「どうして? このランドセルの持ち主はわたしなのよ。どうしてランドセルがわたしを拒むのっ!?」

 ランドセルはそはらの手から離れてしまった。

「やはりランドセルは幼女のものだということだ」

 ペドネスが科学では説明できない不思議な現象に対して解説を入れる。

「そはら……お前はランドセルを背負うには育ちすぎたんだ」

 智樹が悲しそうに首を横に振った。

「さあ、ランドセルよ。真なる持ち主の元へと向かうがいい」

 ケイネスが両手を大きく横に広げる。すると、それを合図にしたかのようにしてランドセルが空中を舞っていく。

「えっ? 私?」

 ランドセルはニンフの元へと飛んでいき、やがてその背中へと収まった。

 

「ニンフ……そのランドセル姿、よく似合ってるぜ」

 智樹は朗らかな顔をして爽やかに微笑みながらニンフを褒める。

「それって、私が幼女扱いされているみたいであんまり嬉しくないんだけど」

 対するニンフは複雑な表情を見せている。だが、彼女の不機嫌も次の言葉で全て吹き飛ぶことになった。

「好きだよ……ニンフ。俺と結婚してくれ」

 智樹のプロポーズを聞いてニンフの顔が爆発した。

「ふっ、不束者ですが……よろしくお願いします」

 ニンフは真っ赤になって小さく頭を下げながらプロポーズを受け入れた。

「フッ。幼女との結婚。私とアインツベルンの雇われ魔術師は敵同士の間柄だが、これだけは祝わずにはいられまい。ランドセルがよく似合う幼女妻と幸せに暮らすがいい。さらばだ」

 結果的に愛のキューピット役となったケイネスは静かに桜井家を去っていった。

 

 

 

 それから8年が過ぎた春。

「ほらっ、智樹パパ。早く支度しないと、ニ智と智ンの小学校の入学式に遅れちゃうわよ」

「待ってくれニンフママ。ネクタイがどこに行ったのか見つからないんだ」

「ネクタイなら洗面所で見かけたわよ」

 桜井家の朝は今日も忙しい。中でも今日は特に騒がしかった。

 何しろ今日は智樹とニンフの双子の息子の小学校入学式なのだから。

「まったく、これじゃあどっちが子供か分からないわね。ニ智たちはもう玄関で待ってるわよ」

 ニンフは文句を述べながら智樹の首にネクタイをてきぱきと巻いていく。

「うるせぇ。ニンフだって小学生ですって言えば通じそうな体型しているくせに」

「あんまり子供みたいなことをごねてると、首が締まるわよ」

 ニンフはネクタイの紐を思いきり手前に向けて引っ張った。

「ぎゃぁああああぁっ! ごめんなさい、ごめんなさい」

 智樹が泣き顔を見せながら謝る。

「バカなことをやってないで、さっさと出かけるわよ」

「おっ、おう」

 ニンフたちは小走りに玄関へと向かう。

 そこには既に真新しいランドセルを背負った2人の子供たちが立っていた。

 母親似の子供たちがランドセルを背負っている姿を見ながら智樹は感慨深く首を縦に頷いてみせた。

「まったく、小学生は最高だぜっ!」

 智樹は愛する妻の手をそっと握り締めたのだった。

 

 

 了

 

 

 

 


 
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