No.596437

覇王と御使いで七日間の駆け落ち 一日目

TAPEtさん

この作品は『人類には早すぎた御使いが恋姫入り』の番外編です。

まずは手探り。
この番外編で注目して読んで欲しい所は、一刀の天界(もとい、現代)での姿を見て華琳がどんな一刀を見る目がどんな風に変わるかその点でしょうかね。

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2013-07-10 21:55:45 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3274   閲覧ユーザー数:2720

一日目:新天地

 

華琳SIDE

 

「華琳…華琳…」

「…ん…んぅ?」

 

肩を揺らされ、私が目を覚ました。

 

「一刀…?ここは…?」

「途中で酔った気を失ったみたいだ。まぁ、最初は俺も途中で操作を放棄して倒れてたから無理もないが」

 

彼の訳の分からない話を聞き流しながら周りを見た。

まだ夜なのか周りは真っ暗だった。

 

「どこなの?」

「着陸地点をどこにするか悩んだが…取り敢えず俺の家の物置にした」

「物置…?」

「今から扉を開ける」

 

彼がそう言った途端、突然光が入ってきて眩しかった私は目を閉じた。

少し光が慣れてきてから目を開けると、

 

「ここは…」

 

最初にたいむましぃんに乗ったところとは別の場所だった。

 

「立てるか?」

 

既にたいむましぃんから降りた一刀が私に手を伸ばした。

その手をとって降りてきた私を一刀は暗い倉庫から引き出し外の風景を見せた。

 

「俺の世界にある普通の…まあ、上流層ではあるが一般的な住居地だ」

 

黒い舗装された道の両側にどこまでも続く家の並び。

その家は今まで見てきた一般的な人々が住む家とは確かに違った。

 

「あなたは本当に私を天の世界に連れてきたみたいね」

「感想は?」

「…何か変な匂いしない?」

「…アスファルトの匂いだ。あの舗装された道のことだ」

 

あまりいい匂いとは言いがたいわね。

 

「慣れてもらうしかないな。ともあれ、今は中に入ろう」

 

一刀は倉庫の隣にあある家に向かった。他の家よりも豪華そうなその家の前に立って、

 

「あぁ……」

 

ふと自分の体を漁った。

 

「どうしたの?」

「鍵…失くしたみたいだ…そんな目で見るな。3年も入らない家の鍵がどこにあるか気遣うと思うか」

 

私が冷たい目で彼を見ると帰ってくるのは見苦しい言い訳だけだった。

 

「ならどうするのよ。入れないの?」

「……」

 

そう言うと彼は少し考えては、門の上のでっぱりに置いてある植木鉢を退かしてそこから鍵を持ちだした。

 

「…鍵掛ける意味あるの?」

「知ってるか、華琳?入ろうとする奴は鍵なんて無くても入れるんだ。鍵が必要なのは窓を割りたくない奴だけだ」

 

彼はそう言って植木鉢の下から出した隠し(?)鍵で門を開けた。

 

「After you(お先にどうぞ)」

 

彼が中に入らず門を掴んで私に先に入れと言うような仕草をすると私はその中に入った。

中は思ったより広くはなかった。

暖かそうな印象を与える内装に飾りはそれほど置いてなかった。

 

「ここに居る間使う家だから取り敢えず色々教えよう」

 

一刀にあっちは厨房だの居間だの紹介された後、最後に二階の奥の私が使う部屋を案内された。

 

「客なんてなかなか来ないが…礼儀上作っておいたものがあって幸いだったな」

 

部屋は寝床がひとつと簡単な家具が置いてあるだけの索漠とした。

私はそっと部屋を閉じた。

 

「…?」

「他の部屋はないの?」

「何故だ。使わない部屋ではあるが、掃除などを怠ったことはない」

「家の他のところと落差が酷すぎてなんか嫌」

「……」

「他の部屋にするわ。ここは何?」

「そこは…」

 

私が一番奥にあったその部屋の一個手前にある部屋の門を開くと、その中はさっきよりももっと索漠とした部屋が繰り広げてあった。

索漠としたのはともかく、使った紙や服などが散らばっていて汚い部屋だった。

 

「ここは貴方の部屋のようね」

 

一目で判るほど彼らしい部屋だった。

私がそっと部屋の門を閉じると彼は不機嫌そうな顔で私を見た。

 

「判ってるわよ。勝手に開けて悪かったわ」

「…今ここは朝8時、お前たちが使う時間で言うと辰の刻だ。眠たければ一度寝ると良い」

「部屋は、あそこで決定なのね」

 

勝手に開けたせいで機嫌を損ねたせいでこれ以上文句を言えそうにもないわ。

私の気を楽にさせるための休み計画じゃなかったのかしら。

 

「あの部屋は何?」

 

私はまだ開けていない最後の部屋。

彼の部屋の門の反対側にある部屋の門を差しながら言った。

 

「…彼女の部屋だ」

「…あ」

 

彼女、というのは言うまでもない。

この天の世界で事故で死んだという彼が愛した女。

 

どんな人だっただろうか。

気にならないわけでもないけれど、彼に問い詰めたくはない。

そっとしておこう。

 

「あの部屋は俺の部屋よりも散らばっている。見るか」

「へ、ちょっ」

 

気を使ってそれ以上言わないでおこうと思った途端、彼は私の心を読んだ上でその部屋を開けた。

 

 

家の中で一番日差しが良い場所に窓を開けた部屋は、窓以外の全ての場所に綺麗な絵が飾ってあった。

様々の絵が壁に、床に散らばっていた。

 

彩る色彩の絵たちが満載した部屋に更に朝日が差して、整頓できてなくても汚いどころかそれだけで綺麗な一つの絵に見えてきた。

 

「彼女は絵描きが好きだった。普段はこの部屋でいつも絵を描いていた」

 

門から入らず寝床の方を見ると、寝床の横にまだ描く途中らしき絵がひとつ見えた。線画だったけど、部屋が明るいせいでどんな絵なのかは良くみえなかった。

「使うか?」

「……へ?」

「この部屋を使うか?」

 

私は絵に集中していたせいで答えが遅れた。

くびを横に振ると、一刀はその部屋の門を閉じた。

 

「奥にある客室の鍵だ。一週間、七日間はあの部屋を使えばいい。鍵は渡すが、あまり閉めてはいないで欲しい」

 

そう言って彼はさっきの彼自身の部屋の門を開けた。

 

「ちょっとどこに行くのよ」

「眠い。寝る」

 

彼は私だけを二階の廊下に残して部屋を閉じてしまった。

 

本当に眠いだけなのだろうか。

無理して強気に出たけど感情が抑えられなかったのだろうか。

 

って、ここで彼の心配なんてしていても無駄よ。

私は休みに来たのであって新しい悩みを増やそうと来たわけじゃないから。

私も彼が起きるまで寝てしまおうと思って、決められた自分の部屋に入って寝床に横になると、思った以上にふわふわとした感じが眠気を誘って直ぐに睡魔に落ちてしまった。

 

 

部屋にあるものの中で寝床と簡単な家具以外に、壁にかかってる丸い時計らしきものがあった。

時計らしきというのは、さっき彼が8時と言った後部屋で見た時、針のうち一つが『8』にむかっていてそうなのだろうかと推定しただけだった。

 

目を覚ますと短い針と長い針『12』に重なっていた。

つまり12時だった。

 

起き上がろうとするも体が言うことを聞かない。なんでだろう。

この寝床はすごくふかふかしていてとてもじゃないけど起き上がれそうにない。このまま七日この中で生活しても良いじゃないかと思えるぐらいの心地よさだった。

ここに来てまだ一日も経っていないというのに、私はもう駄目になってきていた。

 

コンコン

 

一刀?

 

「ご飯だ」

「…」

 

門を開けて入ってくる彼の姿を見て私は息を呑んだ。

 

「どうしたのよ…そのカッコ」

 

寝るに入る前の一刀の姿は、いつもの汚い外見だったのがクマもなく綺麗になり、長く病状だったせいで蒼白だった顔色も良くなっていて、ボロボロになっていた服も白い上衣(シャツというらしい)と下には青色の袴(ブルージーンズ)に着替えていて、髪は体を洗ったのか湿ってあった。

顔もいつものような無表情ではなく、普通の人間が、ごく普通の時に見せる表情に変わっていた。それだけでも彼にとっては大の変わり様だった。

 

そして、まっすぐに背を伸ばした彼の両手には角盆の上に食べ物らしきものが並んであった。

 

「別にいつもどおりだ」

 

いつも通り?

あなたのその格好がいつも通りだったら今まで私たちが見てきたあなたは一体どこの誰なのよ。

 

「そんなことより、ほら」

 

彼は私が寝ている布団の上にお盆を置いた。

 

「何なのよこれは…」

「この世界でのごく一般的な朝食だ。時間はもうお昼だが、気にするな。先ずは慣れが肝心だ。それは手で取ってそのまま食べれば良い」

 

そういう彼の話を聞くと、本当に小腹が空いていたので、黙って皿の上にあった食べ物を一つ手にとった。

四角くて白いもの二つ重ねて、中には卵や野菜などを挟んである簡単そうな食べ物だった。

ふと布団の上で食べるというのが行儀悪いと思ったが、取り敢えず手にとったそれを両手でつかみ一口食べた。

 

「…悪くはないわね。これはなんという料理なの?」

「サンドイッチ」

「さんどいっち?」

「その白いものは『パン』と言って、…お前たちで言う羅馬を始めとする西洋の国では一般的に食べる食品だ。小麦を使って作ったものだ」

「へー、小麦でこんなものをね…」

 

ちぎってみると簡単にちぎれて柔らかい、花卷とは違う感じだった。

帰ったら作ってみようかしら。

 

「あなたは食べないの?」

「俺はもう食べた。風呂に入りたければ言ってくれ。ここは向こうとは違っていつでもお湯は使えるからな」

「なんですって」

 

いつでもお湯が使えるって。

彼はそんな贅沢な暮らしをしていたの。

 

「それじゃ、俺は出る。何かあったら一階に居るから呼んでくれ」

 

彼はそう言って部屋を出た。

彼の世界だからなのかしら。彼が心強く思えた。

この世界にきてまだそんなに経ってないけれど、自分が生きた世界ではない、その事実だけでも何がなんだか頭の中が混乱していた。

例えそれが自分で選んだ道だとしても、判らないことや、今まで見たことも考えたこともないものなどがこの世界では平然と存在する。それが素晴らしいと思う一方、やっぱり不安にもなる。

 

残ったさんどいっちを口にしながら横にある黄色い飲み物が入った透明な杯を見た。

色としては…蜜柑かしら?果実酒?

飲んでみると、少し酸っぱいながら甘かった。

蜜柑に似ていたけど酸っぱさが少し強かった。

食欲を誘う味で、悪くはなかった。

 

 

彼が持ってきた食事を食べ終えて、他にすることがなかったのでお盆を持って階段を降りて一階に来た。

厨房にお盆を置いて彼がどこに居るか探すと、居間の方に彼の姿が居た。

呼ぼうと思ったら彼は何やら集中していた。

彼が集中して見ていたものは居間にあった黒い画面しか見せていなかった四角い装置だった。

さっきは何も移さないただの飾り物だと思ったそこから人々が現れて色んな話をしていた。

 

『今週の中国株式市場状況は…』

『日本の低円政策によった影響で…』

『朝3時、町を騒がせたコンビニ強盗事件の容疑者が検挙され…』

『州知事は今回の事件について深く反省していると頭を下げ…』

『先日起こったテロ事件に置いて自分たちの素行であるとアルカー…』

『この泥棒猫!』

 

6つの画面に分けられたところか皆別の話をしているにも関わらず、一刀はその画面を見ながら微動だにしなかった。

まるで全て別々に聞き分けているみたいだった。

 

「かず…」

 

私が名前を呼ぼうとしたら彼は振り向かず腕を上げて私を止めて、横に座れと自分が座っている、これまたふかふかしそうな長椅子を叩いた。

 

少し気分が悪かったけれど、文句を言わずに彼の隣に座ってやると彼は画面に集中している目を私に逸らした。

 

「西暦2013年」

「は?」

「この時代では西暦という暦を使う。一年は365日。羅馬にいたある聖人の生まれた年を紀元として今年が2013年。そして、その計算法でするとお前と俺が今まで居た時間は西暦200年辺り」

「それじゃ…」

「約1800年後、ここは天の世界などではない。ただ遠い遠い未来。そして俺は、そんな未来を生きるごく一般的な市民の一人だ」

 

なんでだろう。最後の言葉だけは絶対ウソだと叫びたくなる。

 

「アレは何をしているの?」

「世界の情報をより早く伝えるための『ニュース』という奴だ。向こうの時代での瓦版と然程変わりはない」

「中で人が喋ってるのだけど」

「人自体は別の場所にいる。アレはただその画像を特殊な方法でこちらに飛ばしているだけだ。必要な装置を揃えば、いつどこに居てもこのこの映像を見ることが出来る」

「へー、便利なものね。まあ時間を移動する機械を乗ってきた時点でもう驚くこともないわよ」

「……」

「アレもこの世界では普通の機械なの?他の世界に行ったり来たりするもの」

「…いや、アレはこの世界で一つしかないものだ。俺が作ったものだから…いや、正確には…俺は『造った』だけだがな」

「……?」

 

どういう意味なのか私が判らない顔をすると、彼はこれだけは覚えておけと言いながら話を続けた。

 

「この世界でも自分の利のために生きる集団は幾らでもある。例えば国だってそうだ。特にこの時代でも戦争というものは終わることがないからな。アレの存在が知らされればどういうことが起きるだろうかは言うまでもないだろう」

「その時はあなたと、おまけに私まで危険に晒されるわね」

「だからアレに関しては誰にも言ってはならない。誰も知ってはならない。というわけで、お前にはこの世界に居る間、この時代の人間のように振舞ってもらわなければならない。ある程度は俺が助けられるが、最悪の状況があったら一人でなんとかする処世術が必要だ」

「判ったわ。にしてもアレ、うるさいのだけど消せないの?」

 

私はまだ画面で6重奏を奏でている機械を差しながら言った。

 

「…華琳」

「何よ」

「アレが全部聞こえるか?」

「聞こえてるわよ。だからうるさいって言ってるんでしょう」

「いや、あの映像で話しているのが言葉として理解出来るか聞いているのだ」

「??」

 

そう言った一刀が手に持っていたものをいじると、6つの画面のうち5つが消えて一つだけが残った

 

『建築業の状況は著しくなく各会社の株価は下落する傾向を見せ…』

 

「なんと言ってるのか聞こえるか?」

「…建築がどうのこうの言っているけど、『かぶ』とか『かいしゃ』とかは何か判らないわね」

「ではこれは?」

 

彼は今度は外の画面だけをつけながら言った。

 

画面の中では中年の女性一人が若い女一人の頬を叩く映像を写していた。

 

「聞こえるわよ。一体どうしたのよ」

「…華琳、今見せた映像、そして今話してる俺まで、各々別の言葉を使っている」

「…へ?」

 

別の言葉?

 

「最初に見せたのは中国の映像、次のものは韓国、今俺が話しているのは英語、全て違う国で使う違う言語だ」

「…私は全部私が使う言葉聞こえるわよ」

「…興味深いな」

「待って、じゃあ今あなたも、私が使っているのと違う言葉で話してるってこと?」

「そうだ。さっきから英語、フランス語、スペイン語、エスペラント、ロシア語、全て違う言語で話していたがお前は全部普通に聞いて返事していた」

「あなたは私が言っている言葉がどんな風に聞こえてるのよ」

「……そこが際どいところだが…」

「何?」

「…別にどれで聞こえるという感覚じゃない」

「どういうこと?」

「普通普段使わない言葉を聞き入れるとしたらそれを聞いて自分が使う言語で脳内で入れ替えて受け入れるが、お前が話す言葉は…声自体で判別する以前に頭で理解できてしまってな。英語だと思って聞いたら英語に聞こえて、日本語だと思って聞いたら日本語で聞こえる」

「何それ…わけがわからないわ」

「……まぁ、要はこの世界の誰であってもお前はそいつと言葉通じ合えるってわけだ。便利なものだろう。この世界では他の国の言葉を勉強するために高額の金を支払う奴らだってあるんだ。良い事だと思え」

 

彼は暢気にそう言ったけど、私はなんとなく厭わしかった。

 

「原因が何かは判らないの?」

「原因…そうだな。未来とか過去とか言っていたが、お前はこの世界での歴史で残された曹孟徳という存在とは明らかに違っている。お前と俺が他の世界の住民だという言葉はあながち間違いではないというわけだ」

「だから?」

「だから………言ってもわからない」

 

説明を放棄した彼の顔に私は横にあった枕のようなものを投げつけた。

 

 

 

 

一刀SIDE

 

華琳にシャワーの使い方を教えた俺は『彼女』の部屋を尋ねた。

絵、絵、絵。

彼女の部屋は何時も絵の具に占領されていた。

それほど彼女は絵を描くことが好きだった。

 

俺はイーゼルの上に乗っている、まだ完成されていない絵を見つめた。

その絵は彼女が死ぬ日に描く途中で辞めた絵だった。

この絵が完成された姿を見ることがもう出来ない。

 

でも、今で判ることは、

彼女が俺が思った以上に不思議な女性だったことだ。

 

『絵に下書きだけされているその人物画は、髪を両側にクルクルと回しているとてもプライドの高そうな女の子の姿だった』

 

 

 

「一刀、着替える服が欲しいのだけれど、あるかしら」

 

シャワー室から聞こえる華琳の声を聞いて、俺は部屋の彼女のタンスを開いた。

寸法は…恐らく合っているだろう。

 

 


 
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