No.593098

覇王と御使いで七日間の駆け落ち

TAPEtさん

忘れられない苦しい過去がありますか?
対面したくない悲しい現実が待ち受けてますか?
振り向くこともなく、逃げることもなく、
前の道に進むことだけを考えたあなた達に

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2013-07-01 00:00:18 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4096   閲覧ユーザー数:3310

一刀SIDE

 

・・・

 

・・

 

 

「Mr.北郷!」

「…ドクターか」

 

ドクターが部屋に入ってきた時、俺はついにタイムトラベルに必要な式を完成していた。

 

「大変だ、Mr.北郷、君の…」

「それよりも見給え、ドクター…お前たちが無理だと言った『アレ』が、ついに完成する。歴史は今までの科学を偽りだったと記録するだろう。昔の呪術や錬金術がそうされたかのようにな…」

「君のワイフ(嫁)が今病院に居るらしい!」

 

……

俺は持っていたチョークを落とした。

 

「I don't have wife」

「し、しかし…」

「誰が…一体誰が死んだというのだ、ドクター」

「だから…」

「言え、ドクター!」

 

俺はドクターの胸倉を掴んだ。

ドクターは苦しそうにしながら言った。

 

「君の…ところの…彼女だ……………が…交通事故に会って」

 

俺はドクターを下ろした。

そしてそこにあった白衣を着て、一週間ぶりにその部屋を出た。

 

病院に向かって迷いなくある部屋の門を開けると、彼女が居た。

彼女が誰か知っていれば、病院は彼女をその病院にある唯一で一番良い部屋を渡していた。

 

「誰ですか、あなたは、ここは…」

「失せろ」

「……!」

「今直ぐ俺の目から消え失せろ」

 

部屋に居た看護師は狂気が篭った俺の声を聞いてそのまま逃げるように部屋を去った。

部屋にはヴァイタルを示す機械のピーピーと鳴く音だけが残った。

 

「……」

 

俺は彼女が眠っているベッドを見下ろした。

 

彼女の体はボロボロで口には呼吸器をつなげていた。

チャートを見る。

 

両脚、右手の重度骨折、内臓破裂、

 

彼女は10時間に渡った大手術を受けた後だった。

 

俺には敵が多かった。

俺はもちろん、彼女も常に事故を仮装したテラーや暗殺、拉致の危険に迫られていた。

だからいつも一人で出かけないように言ったものを…浅はかだった。

 

「Kaz……」

「!」

 

俺は持っていたチャートを落として彼女の元へ行った。

目を覚ました彼女は俺を見つめた。

 

「You'll be fine(大丈夫だ)」

「…hurt(痛いよ…)」

 

その一言が俺に千の槍になって刺さるようだった。

俺がそこに居なかった。

それだけの理由でも俺の彼女を自分の手で殺したも同然な罪を背負っていた。

 

「Kaz……hurt…」

「…You'll be fine」

「…Stop…(止めて…)」

「……」

「Hurt……Stop…(痛いの…止めて)」

 

彼女の一言はいつも多くの意味を持っていた。

誰でもそうだ。一言だけが真実が篭る。

嘘であるほど言葉が増え、長文になり、人を騙す。

 

「I can stop it(止められる)」

「…Stop…」

「But then you can't see me anymore(でもそしたら二度と俺と会えなくなる)」

 

俺がそう言うと彼女は黙り込んだ。

彼女のチャートは彼女が会った事故が如何に酷いものなのかを示した。

今の彼女は安定した後でも、二度と脚を使えなくなるかもしれない。

それはまだ大丈夫だった。

だが神経系の損傷が彼女に止まることのない痛みを与え続ける。

人間にほんの少しの痛みでもそれを与え続けることでその人間がどうやって狂い、変わってしまうかは既に多くの非人道的な実験で確認済みだった。

そして何よりも彼女の右手。

彼女は絵を描くことが好きだった。

手が治るとしても、恐らく以前のように絵を描くことは出来ない。

 

「Kaz…」

「……」

「Kiss…」

 

俺はそう言われて彼女呼吸器に手を付けた。

呼吸器を外した後、彼女と唇を合わせた後、彼女の顔を見ると、彼女は今まで俺が見た中で一番愛おしい顔で私を見てくれていた。

 

「…Bye…」

「don't…」

「……Bye…」

 

俺は悟った。

彼女は絶望していたことを…。

自分を犯そうとする男から救われた後でも笑顔を忘れなかった彼女が生きる甲斐を失って絶望していた。

俺にとっては彼女こそが全てだったというのに、

彼女には他に大切な何かがあった。

 

判っていた。

判っていたから……俺は彼女を…。

 

「Bye」

 

 

・・

 

・・・

 

「……」

 

目を覚めると、そこは暗い天井と心地悪い寝床の上。

死んで墓にでも埋められたのかと思うぐらい最悪の気分になりながら体を動かしてみた。

…満足はできないが、それでもそれなりに動いてくれる。これなら良い。

 

横を見ると、流琉の姿が居た。

俺の看病をしている途中寝てしまったのだろう。

 

寝床から出て歩いてみる。

杖がなくともそれなりに動けそうだ。

 

外の空気は寒かった。

外に立っていた衛兵が俺を見て騒ごうとしていたので適当に気絶させておいた。

 

周りを見回す限り洛陽ではない。

恐らく陳留に戻ったのだろう。

 

そんなことより今は空腹だ。

何か食べよう。

 

 

華琳SIDE

 

真夜中に目が覚めることはあまり気分が良いものではない。

その安眠できない原因が判っている時なんて最悪だった。

 

明日には軍が陳留に着く。

それなのに私はまだ秋蘭に対してどう対応するべきなのか決められなかった。

 

彼女の罪は一刀を怪我させたことからくるものではなく、私の覇道を侮辱したということからくるのが大きな原因。

だけど私自身が一刀を助けるためにそれを否定してしまった。

それを秋蘭はおろか他の娘たちは誰も知らないものの、だからといって覇王を装った判決を下してしまっては私が後ろめたくて仕方がない。

 

「…はぁ…」

 

結局頭の中でそういう考えが出口もみつからず空回りするだけだった。

 

横で寝ていた春蘭が気づかないように私は天幕を出た。

誰かさんと一緒なわけではないけど、腹に何か入れたら頭が回るだろうかと思いながら厨房で何か作って食べるつもりだった。

 

ところが…

 

「…!」

 

向かう途中で厨房の方に明かりが付いていた。

そして道中にある兵糧を置く倉の番人が倒れていた。

 

…この潔いかつ大胆な真似をする奴を一人覚えていた。

 

「一刀…」

 

目覚めたのだろうか。

違う可能性もある。

 

『絶』を構えて厨房の方に近づいて中身をちらっと見ると、中には想像した通り、一刀が鍋をひっくり返しながら炒飯を作っていた。

 

自分を生かせようと何十日も苦労した私たちの事を気にはしているのかも判らないほどいつもどおりの顔で彼はそこに立っていた。

その姿には洛陽で最後に出会った彼のか弱い姿はなく、初めて会った頃と何の変わりもしないようにさえ思えた。

 

何故だろう。

彼の無事を安心する以前に怒りを覚える。

先に私のところに来るとか、他の娘にでも知らせるなんてことは出来ないのかしら。

 

そう思っていたら、彼は鍋を動かしている腕の動きを止めた。

そして出来立ての炒飯を二つの皿に移した。

 

…『二つ』?

 

彼は皿二つに炒飯を載せ、厨房に用意されてある長方形の卓に、一つは自分が座ろうとする手前に、もう一つはその反対側の席に置いた。

そして前の席に付いては、炒飯を食べることなく頬杖をついて片手で卓をトントンと叩きはじめた。

誰かを待っている?

 

……

 

ふと後ろを振り向いてみる。

周囲には誰も見当たらない。

 

じゃあ、私がすることはひとつしかなかった。

 

「…よぅ」

「斬っていい?」

 

中に入ると、一刀が暢気な声で手を上げながらそう言った。

一瞬腹が立ってつい『絶』を投げそうになった。

 

「何暢気に炒飯作って何時来るかも知れない人を待ってるのよ。私が来なかったらどうするつもりなのよ」

「周りの地理に覚えがあったのでな。陳留が近いことがわかった。ならお前が悩みながら夜寝ることもろくにできず居るだろうと思った。一応外に出れば嫌でも気づくだろう」

「はぁ…何時から目覚めたのよ」

「ついさっきだ。まあ、座れ」

 

口喧嘩も疲れるから座ってやるとそれからはこっちのことはまったく気にせず炒飯を食べ始めた。

何十日も薄いお粥と湯薬しか受け入れてない胃袋に詰め込むように炒飯を入れ続けた。

私は自分の前にある炒飯を食べる気を失せてしまって彼が食べる様子を見続けた。

そして彼の皿があっという間に空になると、私の皿を彼の前に押し出した。

 

「食べておきなさい。私より貴方の方が食べておいた方が良さそうよ」

「……」

 

彼は私と私が差し出した皿を交互に見て、少し考えては皿を受け取り飲み込むように炒飯を食べ続けた。

 

「そんなに食べなくても誰も奪わないわよ」

 

季衣でもこんな食べ方はしないだろうと思えるぐらい下品な食べ方をしていた一刀はやがて二皿分の炒飯を食べ終えると長い溜息をついた。

そしては私を見つめながら言った。

 

「妙才、どうする気だ?」

 

いきなりこれだ。

自分が長い間気を失っていたとかそんなことどうでも良いかのように他の話題を振ってくる。

彼の言い分は判る。

『何はともあれ俺はこうして無事だから何の問題になることはない』とでも言ってるつもりでしょう。

そして怒って言い返したくても出来ないのは、何故敢えて人が一番悩んでいるだろう話題をこの場面で振ってくるのかその訳が知りたかったからだ。

何故判ったかとかそういう馬鹿な質問はするだけ無駄ね。

 

「判らないわよ。まだ決めてないわ」

「明日には陳留に着くだろう。妙才が謀反を起こすことはないにしても、罰の内容が曖昧だった場合、お前の立場も揺れる」

 

秋蘭への罰は虎牢関での時以来保留状態。

遠征の途中で外して帰らせただけでも相当の罰だけれど、あくまでも本人が受ける罰は戻ってきっちりと決めなければならない。

 

重罪として処罰する。例えば真名を返上させて追い出す。でも彼女に怒った一番の理由が今は無意味に感じた。それでも罰を与えるというのは私自ら権力に酔いしれた愚かな君主であると認めるも同然だった。

 

だからと言って無罪放免?そしたら今後とも一刀とずっと葛藤が続くだろう。秋蘭以外の彼を恨む奴らに対しても示しがつかない。

 

ではいったいどのような罰を与えるか。

一罰百戒するような罰を与えることは秋蘭にも過酷で春蘭に面目立たない上に私自身が度が過ぎると感じる。

形式だけの罰は罰を与えないも同然。それでは一刀を軍に受け入れることが難しくなる。

 

本当に厄介なのこの上なかった。

 

「判らないわ」

「……」

「…わからない」

 

陳留に来るまで一刀の看病をする時間と他の娘たちの相手をしている以外の時間は秋蘭のことを考えながら過ごした。

だけど考えれば考えるほど答えとは程遠くなっている気がして考えたくなくなってきた。

今まではこんな時一体どんな風に対応していたか思い出せない。

だって相手は秋蘭だった。一番信頼していた部下の一人だった。

一刀を得るために秋蘭を失わなければいけないというのなら…頭の中がどうにかなってしまいそうだった。

 

また頭が痛くなってくる。

 

「俺を見てくれ、華琳」

 

一刀がそう言った時、いつの間にか額を両手で支えながら何もない食卓を見下ろしていた。

顔を上げて前を見ると、彼はこう言った。

 

「お前に必要なのが何か判った」

「…何?」

「Vacation」

「……」

 

は?

 

 

「ここに置いておいたわ」

 

彼が案内してくれと言った場所は彼が作ったというかの機械、『たいむましぃん』を置いたところだった。

天のモノだということで、厳重に管理させながら持ってきていた。

真桜が一番興味津々で放っておくと解剖しようとしそうだったので、昼には凪に番をさせていたが、夜には周りに誰も居なかった。

 

「それ、あれ以来全く動かなかったのだけれど、壊れたんじゃないの?」

「この機械は指定された人間の声と手でだけ動かすことが出来る。つまり俺にしか反応しないようになっている」

 

彼が球体状に手をつけると、蓮の華のように開いて中が見えてきた。

 

「充電状態は…充分だな。隠しながら持ってきたか」

「当たり前でしょう。そんなもの晒しながら持って行っていいことなんてないし」

 

隠すといっても、周りに毛布を覆っておいただけだけれど…。

 

彼は中で何か操作してるように動いていた。

 

「……よし、これなら行けるだろう」

 

やがてそう一人で呟いて私の方を向いた。

 

「準備出来た。乗れ」

「…何?今からそこに乗れっていうの?」

 

確かそれって時を流れる船…とか言ってたわね。

 

「それに乗ってどこに行く気よ」

「休暇と思え。まあ、何であれ命を救ってもらった借りがある。借りは長くつけて置かない主義だ」

「どこに連れて行くつもりかって聞いてるでしょう?」

「…お前が行きたいところどこでも」

 

どこでも…?

 

「どの時間のどの場所でも良い…世界で一番美しいところから一番醜い場所まで、一番平和だった時期から一番激しい戦争が繰り広げられている時代まで。例えば…」

「例えば……あなたと初めて別れた時にも行けるわけ?」

「……」

 

黄巾党の本城を叩き戦果を上げたあの時、私は彼を失った。

そして連合軍などという長い戦いをくぐり抜けてやっとまた出会った。

もしあの時あんなことになってなければ、こんなに離れていることなく過ごせたかもしれない。

 

「行ける。だがおすすめではない。自分の過去に関わることは控えた方が良い」

「どうして?」

「過去の事件を変えて未来に影響が響く可能性がある。お前が望む以外のところでもな」

「……」

「人生をやり直すことなんてこの世で一番くだらないことの一つだ。お前が言ったはずだ。振り向いてはいけないと。自分で言った言葉も忘れるほど疲れてるのか」

 

そう。

私は確かにそう言った。

過去を振り向いている暇なんてないほどこれから忙しくなる。

あの時ああすればよかったとか…こうしていたら今こんな風にはならなかったとか…

だけど、それは考えるだけ無駄だから言える話。

もしそれを変えられる術があるとすれば……

 

「…俺が思った以上に荒んでるみたいだな」

「何よ…人に期待させたくせに…」

「それに関しては謝ろう……。ならこうしよう。今から俺は『里帰り』をする」

「…里帰り?」

「行ってみたくないか?お前たちが言った『天の世界』というところ」

 

天の世界……。

 

「お前の考えがまとまるまで、十日、一ヶ月、一年でも良い。お前の心が決まればまたコレに乗って帰ってきたら、この世界では半刻も過ぎてない間行ってくることが出来る」

「私に逃げろっていうの?」

「……」

「今私が貴方の提案を飲んでしまったら、いつまでもこの悩ましい状態から逃げることが出来るわ。そんな飴だけの条件を示して私にどうしろというの?」

 

 

私は一刀の顔を見た。

一刀も私の顔を見つめた。

 

「ならこうしよう。七日だ。最小限も七日は機械の充電のために必要だからな。天の世界で七日だけ過ごして帰ってくるんだ。どうだ」

「……」

「逃げるのだと思うのならそれで構わないが、今のお前には休憩が必要だ。俺からのお礼だと思って受け取るといい」

 

彼は機械の中から私に手を伸ばしながら言った。

 

ふと彼が必死だと思った。

彼は謂わば、今私に『駆け落ち』の提案をしていた。

彼の言う通り、天の世界、彼が生きた世界に行って、そのまま帰ってこないことだって出来る。

七日だけの逃走にたるとは限れないものだった。

 

だけど、

 

たった七日、七日だけなら、

今終わることのないこの悩みを忘れたいと思う。

 

彼の手を掴みながら私は自分に言い訳してみた。

私は疲れていた。

今まで休むことなく走ってきた。

振り向きはしない。

しかしちょっとだけの寄り道なら…

 

それでも罪になるのかしら。

 

 

 

 

 

 

「Wecome to the Brand New World, my lady」

 

 

人類には早すぎた御使いが恋姫入り

 

番外編

 

覇王と御使いで七日間の駆け落ち

 

COMING SOON

 


 
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