ひとひらの色褪せた葉を拾い、父は言った。これはまるで人生みたいじゃないか、と。
木の幹は地球だ。人生は葉の根元から始まり、葉脈はその沢山の分岐点だ。どれを辿っても最後は葉の先に着く。誰にも等しく訪れる終着点だ。人生を終えたら地面に落ち、分解されて元の木に戻る。大地に還るんだ。悪人も善人も等しく浄化されて、地球に還るんだ。
以来、男は緑茂る森に囲まれる度、誕生と浄化が繰り返されているのだ、と思った。
今、男の車の前には焼け焦げた残骸が散らばっている。大規模な森林火災の鎮火から、まだ一月しか経っていない。
皆が男を気遣う。火災現場から発見された木炭の内の一つが、恐らくは男の妻だから。皆は、身元をはっきりさせる物は無いのだからと、形ばかりに慰めた。彼女は確かに森に入ったかもしれない。森へ行く姿を見た人がいる。だが、まだ決まったわけじゃない、と。
男はダッシュボードを開けた。プラチナの小さなリングが転がり出た。
森は全てを浄化する。汚い女も汚い男も、新しい芽吹きとして浄化するのだ。だから、まとめて大地に返してやったのだ。
男はプラチナのリングを見つめた。窓から投げ捨てようと、腕を上げる。そして止めた。
ダッシュボードを探り、ライターを出す。カチリと火を灯した。
ゆらりとくねる炎の中に、終着点が見えた。
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友人からのバトンで「森」をお題に書いたもの。