No.593961

蓮華の苦悩、一刀の想い(後編) 【真・恋姫†無双】

南無さんさん

こちらは真・恋姫†無双の二次創作となります。
前回、拝読、コメント、支援、お気に入り
してくださった皆様。
誠にありがとうございます。
今回は後編。蓮華、一刀視点になります。

続きを表示

2013-07-03 18:37:12 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7993   閲覧ユーザー数:6636

大広間には皆が集まっていた。将たちは一様に話をしている。

 

話題はもちろん一刀の事。私に対して辛辣が過ぎるなどと、

 

いった言葉が空を飛んでいた。

 

 

 

 

「…一刀さまは、どう、なされたのでしょうか。

 

 あのような事を仰るなんて、正直、信じられないのです」

 

 

「私も信じられないよ明命。…忘れろだなんて。あそこまで言う必要が

 

 あったのかな。…思春さまはどう思われますか?」

 

 

「……奴は蓮華様を侮辱し、雪蓮様の死を冒涜した。…あの様な男

 

 最初から私は信用していない。あれが奴の本性だ」

 

 

「やれやれ。まだまだ尻が青いのぉ。お主等。北郷の本心が判らぬとはな。

 

 ……穏。お主は判っておるのじゃろう?」

 

 

「はい~。これでも孫呉の軍師ですよ~。先程の蓮華様への物言いで

 

 私は一刀さんの事がますます、好きになりました~。

 

 あれだけの事が言えるなんて、孫呉に必要な人物だと

 

 改めて思いましたよ~」

 

 

「うむ。そうじゃな。権殿に対して、あれだけの事が言えるのじゃ。

 

 豪胆な者といえるじゃろう」

 

 

「えっ?えっ?一体どういう事なの。祭?穏?」

 

 

 

「皆、揃っているか」

 

 

 

 

冥琳が口を開く。先程の空気を一変させ冥琳を主導とした

 

場に変わっていく。……只、一人を除いては。

 

 

 

 

「話はだいたい、思春から聞いておる。それで冥琳。一体何の用じゃ」

 

 

 

「…まずは、皆に北郷の事を問いたい。率直に、あ奴の事を

 

 どう思っている?」

 

 

「シャオは正直わからないな。雪蓮姉様の事を簡単に忘れろだなんて

 

 一刀でも許せないよ。………けど、何かが引っ掛かるんだよね」

 

 

「………うむ。…他の皆はどうだ?」

 

 

「儂と穏は北郷の本心に気付いておる。明命と亞莎は疑念を抱いておる。

 

 思春は……いつも通りじゃ」

 

 

「…………いつも通りとはどういう事ですか。…祭様」

 

 

「ハッハッハッ!いつも通りと言ったらいつも通りじゃよ。思春」

 

 

「…………………くっ!」

 

 

「あの、冥琳様。私と亞莎は、一刀さまが雪蓮様を簡単に忘れてしまっている事に

 

 怒っているのです。冥琳様と同じくらい、一刀さまを信頼していた

 

 雪蓮様が不憫でならないのです!」

 

 

「…つまり、お前達は北郷が雪蓮に対して薄情な物言いと

 

 忘却している事に憤怒しているのだな」

 

 

「はい。蓮華様を思って、仰っている事はわかります。

 

 ですが、忘却しろという点については、納得がいきません。

 

 本当にそこまで言う必要が、あったのでしょうか。

 

 少なからず私は、そこまで仰る理由が見当もつきません」

 

 

 

「そうか。…蓮華様。貴女も明命達と同じ気持ちなのですね」

 

 

 

 

「………ええ、そうよ。一刀が叱咤激励してくれたのは、わかるわ。

 

 けど、やっぱり姉様の事だけは……許せないわ」

 

 

 

「…左様でございますか。………おい、其処のお前」

 

 

 

「ハッ!!何でしょうか!!!」

 

 

 

「私達は、ニ刻ほど国を開ける。済まないが、張昭殿と張紘殿に暫くの間

 

 国を任せたいと言伝を頼む」

 

 

「ハッ!!了解致しました!!!」

 

 

「うむ。よろしく頼むぞ。……それでは蓮華様。皆の者

 

 私について来てくれ」

 

 

「……どこに行こうというの?冥琳」

 

 

「行けばわかります。

 

 ……そして、北郷の事もわかると思います」

 

 

「……………わかったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかりと日が暮れて、空には満天の星空と下弦の月が顔を出している。

 

私達は冥琳に連れられて歩を進めていたが、いよいよ終わりが近づいていた。

 

……この場所。私は、いや私達はこの道を知っている。英霊達が眠る場所へと

 

続く道。

 

 

 

孫呉の礎を築いた私の母、孫文台が眠る地。

 

そして

 

孫呉の天下と民の安寧を望んだ私の姉、孫伯符が眠る地。

 

 

 

冥琳は何を考えているのだろう?姉様に報告したいことがある?

 

こんな時間に?などと思っていたら前方から声が聴こえてきた。

 

 

 

 

「…………が…華…雪…の……………って…言……よ」

 

 

 

 

……一刀の声が聴こえる。冥琳は和解でもさせようと、言うのかしら。

 

正直、会いたいとは思わない。彼と話したくない。

 

冥琳なら私の気持ちくらい、わかるでしょう。

 

……本当、なにがしたいのよ……

 

 

 

「蓮華様、皆、こっちだ」

 

 

 

冥琳は、生い茂った草木の間に座る様、指示した。……盗み聞きでもしろと言うの?

 

…趣味が悪いわね冥琳。えっ?本当にやるの?…わかったわよ。こうなったら

 

最後まで付き合うわよ。私は、しぶしぶ、一刀の言葉に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓮華が大広間から飛び出した後、俺は自室で休憩をし、冥琳から課題を出された、

 

軍学の勉強をしていた。辺りが暗くなるまで、しっかりと頭に知識を入れ、

 

軍師の道へと邁進するよう、努めていた。

 

もう、こんな時間かと思い、今日もあの場所へ行こうと準備に入る。

 

…そう。……あの場所。雪蓮が眠っている所へと。

 

 

 

 

「…やあ。雪蓮。今日も来たよ」

 

 

 

 

俺は俯きながら、墓に向かって話しかける。当然、返答など来る筈がない。

 

けど、構わず話しかける。

 

 

 

雪蓮に届くように。

 

雪蓮に想いを伝えるように。

 

 

 

 

できるだけ、優しい口調の声で語りかける。

 

 

 

 

 

「雪蓮の好きな、お酒を持ってきたよ。このお酒よく飲んでいたからね。

 

 そっちでも飲みすぎないでくれよ」

 

 

 

 

…軽口を開く。わかっている。ここ最近の俺はらしくないと

 

雪蓮は感じているだろう?勘が良かったからね、君は。

 

けど、勘弁してくれよ。

 

…………こうしていないと辛いからさ――――

 

 

 

 

「今日、蓮華と盛大な喧嘩をしてしまってね。参ったよ。

 

 怒るとは思っていたけど、まさか、あそこまで

 

 激昂するとは思わなかったよ」

 

 

『へー。一刀。そんなに蓮華を怒らせたんだ。蓮華、怒ると怖いしね』

 

 

「ああ。正直、無茶苦茶怖か…………………雪蓮!?」

 

 

 

 

…辺り一面から懐かしい芳香が漂ってきた。この香水を愛用していた人物を、

 

俺は知っている。けど、その人はもう現世には存在しない。しかし、

 

二週間振りに聴く声。俺は思わず顔を上げていた。

 

 

 

 

「雪蓮!?生きて……『生きてないわよ』」

 

 

『残念だけどね。よく見てみなさい、透けているでしょ。…私の身体が。

 

 今こうして一刀に認識されれている事が、奇跡だわ。

 

 けど、こうして会話ができるのは運がいいわよね。

 

 この機会をくれた人に感謝しなくちゃね♪一刀♪…って人なのかな?

 

 う~ん。あっ!そうだ神様!きっと、神様がしてくれた事なんだよ♪』

 

 

 

 

 

はは。何だよ神様って。奇跡って。

 

全く、雪蓮は死んでも規格外だな。すっかり腰が抜けちゃったよ。

 

 

 

 

 

『ぶ~ぶ~。なに座り込んで笑ってるのよ。一刀。……まぁ、いいわ。

 

 それで、どうして蓮華と喧嘩したのよ』

 

 

「………俺が蓮華に雪蓮の事を忘れろって…言ったよ」

 

 

『ふ~ん。全く失礼しちゃうわね一刀。一騎当千にして才色兼備の、

 

 この私を忘れさせるなんて、ひどいわね~♪………冗談はこれくらいにして、

 

 一刀の事だから、何か理由があるのでしょう』

 

 

「…うん。もちろん理由はある。蓮華が自分の『道』を歩かなくなってしまう事に

 

 俺は危惧したんだ。当たり前のことを言うけど蓮華と雪蓮は違う。性格はもちろん、

 

 生き方も、目指すべき『道』も。あのまま、王となる決意を固めたとしよう。

 

 蓮華の事だ。雪蓮が描いた『道』へと歩いてしまう。それでは駄目なんだ。

 

 何れ、蓮華は雪蓮の幻影に執着してしまうかも知れない。そうなると、

 

 蓮華は暴君となり、孫呉は破滅の道を辿ってしまう可能性がある。

 

 遺志を継ぐのは構わない。だが、模倣しては己を殺すことになる。

 

 俺が忘れろといった本当の意味は、雪蓮の生き方、王としての在り方を、

 

 真似するのではなく、自分で考え、自分の『道』を創ること。蓮華は、

 

 時勢を読む力、物事を深く考える能力が、誰よりも長けている。

 

 王としての資質は雪蓮より、蓮華の方が優れていると思う。

 

 だから、俺は忘れろと言ったんだ」

 

 

『ふふふ。そういう理由だったんだ。相変わらず蓮華には甘いわねぇ。

 

 普通は自分で乗り越えて貰わないといけないのに。

 

 全く、蓮華ったら、まだまだ半人前ね。けど羨ましい関係だわ。

 

 ………少し妬けるわよ』

 

 

「…………けどさ。雪蓮。俺も駄目な奴だよ。

 

 蓮華に君を忘れろっていったのにさ。誰よりも雪蓮の事が忘れられないんだよ。

 

 ………………雪蓮。君にしか頼めない事があるんだけど、お願いしていいかな」

 

 

『……今の私に出来る事なら、喜んで協力するわよ』

 

 

「……ありがとう。雪蓮。少しだけ、少しだけでいいんだ。

 

 ………泣いても…いいかな……泣いたら…また………頑張れる…から…」

 

 

『………いいわ。思いっきり泣きなさい。

 

 私が抱きしめてあげるわ』

 

 

 

 

……もう、限界だった。雪蓮が死んでから、泣かないと決めたのに、

 

孫呉を支えると誓ったのに、とめどなく涙が溢れてくる。

 

 

 

 

「…ううううわわわああああああああああああぁぁぁぁぁ!!

 

 雪蓮!!雪蓮!!!!!!!!―――――――」

 

 

「…………一刀…………」

 

 

「雪蓮!!!!俺!!俺!!! 君を助けられたんだ!!! 助けられた筈なんだ!!!!!!!

 

 俺が油断していたばかりに!!!!一騎当千の武を持つ君が暗殺される事はないとおもってしまった!!

 

 俺は!!おれは!!!君を救えたんだよ雪蓮!!!!!!!」

 

 

『………ありがとう。一刀。私の事をここまで想っていてくれて。でもね、

 

 人は、いずれ死んでしまうわ。私の場合………他の人より早かっただけ。

 

 だから、一刀。貴方が気にする事はないのよ。私には天命がなかった。

 

 只、それだけの事なの』

 

 

「雪蓮!!!雪…蓮!!!!!

 

 うわああああああああああぁぁぁぁぁぁ

 

 ぁぁぁぁぁぁぁ―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀の慟哭が響きわたる。嗚咽を漏らしながら

 

何度も何度も…姉様に謝っていた。

 

 

 

 

………私は後悔していた。自分の行いに、愚かな物言いに。一刀は私の為に、

 

悲しみをこらえ振舞っていたのだ。私は、なんて浅はかなのだろう。

 

 

 

……ごめんなさい。ごめんなさい、一刀!―――

 

 

 

「北郷の本心を…お分かりいただけましたか。

 

 蓮華様 小蓮様 思春 明命 亞莎」

 

 

「……私は一刀の事を、何も知らなかったのね。

 

 これじゃあ妻、失格よね……」

 

 

「………………………………」

 

 

「わたしもなのです。…一刀さまの事を信じて、あげられなかったのです。

 

 私はどうして、信頼できなかったのでしょうか。

 

 私は………とても無力なのです」

 

 

「私は一刀様の真意に気付けなかった。あの言葉の裏に、此れほどまでの、

 

 意味があったなんて、……私は軍師失格です。もう、一刀様に、

 

 合わせる顔が……ありません」

 

 

「………冥琳。あなた一刀がここに居る事を知っていたの」

 

 

「はい。存じておりました。一刀は…雪蓮が亡くなった日から、

 

 毎日ここに来ております。例え雨が降っていようと毎日、必ず」

 

 

「……そう………だったの」

 

 

 

 

知らなかった。一刀が毎日、姉様に会いにきていたなんて。

 

それに比べて私は、自室に篭り姉様の事を考えては

 

枕を泪で濡らしていた。

 

……ただ一言、一刀に謝りたい。許してもらえるかわからないけど。

 

面と向かって彼に謝りたい。そう思った私は一刀の元へ、歩を進めようとしたが、

 

祭に腕を掴まれ話しかけられた。

 

 

 

 

「何処へ行くおつもりか?権殿。まさか、北郷の下へ向かうのか?

 

 ……おやめなされ。男が泣いているのです。

 

 今は一人にさせてやるべきじゃ」

 

 

「そうですよ~。蓮華様~。一刀さんも、やっと悲しみを吐露したのです~。

 

 今は、何も言わずに立ち去るのが最上の事かと思いますよ~」

 

 

「うむ。穏の言う通りだ。蓮華様、城に戻りましょう。

 

 約束の刻限も近づいております」

 

 

「そうと決まれば退散するかのう。儂と穏は、ひよっこ共を連れて帰るとするわ。

 

 冥琳。権殿を頼むぞ」

 

 

「ええ。わかりました」

 

 

「ほれ!穏も行くぞ!」

 

 

「あ~ん。待ってくださいよ~。祭様ぁ~」

 

 

「それでは蓮華様。私達も参りましょう。……………北郷の事を気になさるのは、

 

 わかります。ですが祭殿が申した通り、今はそっとしておくべきです。

 

 あ奴はこの二週間、孫呉の為に尽力してくれました。心を鬼にして、

 

 貴女を叱責してくださいました。蓮華様は北郷の期待に応える義務が、

 

 ございます。ですから今は、その想いを心にしまって下さい。そして、

 

 明日、北郷に謝るのです。王として、貴女を想ってくれている、

 

 …一人の女性として」

 

 

 

 

………私は泣いていた。これでもかと言う位、泣いて、泣いて、泣き続けた。

 

冥琳の言葉が胸に突き刺さる。一刀がこんなにも私を想ってくれた事に、

 

気付けなかった事に、後悔していた。

 

 

 

 

何故、感情の赴くまま、彼を咎めてしまったのだと。

 

思慮深く考えればわかった事なのに、

 

………ごめんなさい。一刀。…私は……貴方に誓うわ。

 

皆に誇れる名君と為る事を。

 

この涙は、弱かった自分への別離の証。

 

……だけどね。一刀。

 

 

 

 

 

 

もう少し。

 

 

 

 

もう少しだけでいいの。

 

 

 

 

私も泣いていいかな………。

 

 

 

 

……一刀………………かず…とぉ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、私達は一刀に陳謝した。気にする事はない。もう少し巧く説得できたと、

 

彼は逆に頭を下げたわ。全く悪いのは私なのに。

 

 

 

 

 

…ねぇ。一刀。貴方に伝えたい事があるの。

 

でも、今は言わない。

 

一刀が君主として、私を認めてくれた時に、この想いを伝えるわ。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――貴方が好きだってね――――――――――

 

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
34
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択