悠然と聳え立つ虎牢関。その……攻め難く守り易い関所の扉が開かれようしていた。
「打って出てきたか……雪蓮! 分かってるわね?」
「はっ!」
燃え盛る炎のような怒りを心の内に秘めた虎は動き始める。家族を守るために……。
「まずは一当て……か。まさに稟の予想通りになったわね……」
「華琳様……」
己が覇を唱えんとする者は静かに、されど最善なる手を打つ。己の芯を信じて……。
「はわわ……桃香様」
「うん、分かってる。私達も行かなきゃね」
伏してとし龍は徳のもとに集い、まさに羽ばたかんと羽を広げる。飛び立つ先に未来を渇望して……。
董卓軍前曲。先頭に立つ女性が二人。
「ホンマ、ぎょーさんおるなあ。なんやウチ、震えてきたわ」
「……霞、怖い?」
「そんなわけあるかい! こんなかに必ずウチと一騎討ちを挑んでくる猛者がおるって考えるとな? どうしてもこう……体が疼くんや」
「? ……恋には分からない。……向かってくる敵は討つだけ」
「……そか、恋はそれでええか」
そうして二人は前を向く。
眼前には整然と立ち並ぶ曹操の部隊。
開始の合図はない。ただどちらともなく戦端は開かれたのだ。
董卓軍右翼。孫堅軍と接敵するのは深の率いる部隊だ。
深は自ら先頭に立ちながら指揮を取っていた。
「周泰の旗はあった……だとしたらこの違和感はなんだ?」
俺が感じている違和感……それは孫堅の部隊だけ、異様に士気が高いことだ。
汜水関で直接孫堅達に攻撃を加えたわけではないにせよ、兵力の大部分を担っていた袁家を部隊を半数以上叩いた。それにより、連合軍の士気は下がることはあっても上がることはないと踏んでいた。だが実際に、孫堅軍の士気は忍び込んだときよりも下がってはいなく、むしろ高くなっているとさえ感じる。
そこへ、孫堅軍から矢が放たれた。多少の違和感を感じながらも即座に兵達に盾を上空に構えるように指示を飛ばした。
常時であれば、下がりながら盾を構えさせるところではあったが、周泰への指示が孫権に伝わっているはずなら、鏃が潰されている矢が放たれたはずだ。だからこそ、部隊は下げずに盾を構えさせるだけにとどめた。多少の被害を演出しなければ、孫堅達が董卓軍と繋がっているのかと、いらぬ疑いを掛けられるのを防ぐためでもある。
だが、運悪く構えた盾を潜り抜けた矢が兵の足に突き刺さるところを見たとき、一瞬で頭に血が上った。
「!! 盾を構えたまま下がれ! 今すぐにだ!」
命令を怒号のように飛ばし、即座に兵を下げる。それを追撃するようにして、孫の牙門旗を翻しながら孫堅軍が突撃してきた。先頭には孫堅が抜刀しながら駆けてくる。それを確認した俺は、伝令に負傷した兵を後方へと向かわせ、かつ部隊全体を少しずつ下げるよう指示し、陣の最前線へと向かった。
前曲は呂布の初撃によって曹操軍の精兵は十数人をまとめて吹き飛ばされ、その後は一部隊を当てては下がり、また別の部隊を当てては下がる、という戦法を繰り返していた。
そのおかげか、霞のところにはそれほど兵が押し寄せることもなく、全体を確認する余裕さえあった。
「なんや……深達のほうが騒がしくなっとんな。フリ……じゃないんか? ……恋! ウチらはちと深の様子見てくるわ! ここは頼むで!」
「……(コク)」
「張遼隊! ここは恋に任せて深のもとへ向かうで!」
「応っ!」
頼もしい兵達の返事を聞くと同時に駆け出す霞率いる騎馬隊。神速の名の通りその進撃速度は曹操軍を置き去りにし、誰一人欠けることなく右翼へと到達した。
「蓮根! これはどういうことだ!」
周泰の伝言は聞いていないのか。約束を守ると言ったのは偽りだったのか。
そう問い詰めるように吠える。お前の信は何処へいったのかと。
蓮根は進撃の手を止め、俺のほうを向き相対する。
「……深。私達にも事情がある、だからこそ刃引きはせずに……こうして攻めているのよ」
「事情……事情だと? それはなんだ?」
「それは言えないわ、少なくともここでは……。もう良いでしょう、そこを退いて頂戴。あなたとは剣を交えたくないの」
言えない事情が発生した? それも汜水関で俺が忍び込んでからここに来るまでの間に。
そして退いてと言った時、蓮根が一瞬浮かべた苦悶の表情。それで沸騰していた頭が冷やされた。
忍び込んだときには事情など一言も言っていなかった。周泰が汜水関に来た時も同様だ。素直な彼女が嘘を言うことはないだろう……言わなかったということもなくはないが。
そして、こうして孫堅は前に出てきているのに袁術は後ろに下がったままだということ。孫堅の兵も最初からそれほど多いとは言えない。だとしたら袁術の部隊と一緒に組む、もしくは同時に攻めなければ被害が大きくなるだけだろう。
虎牢関の城壁から見たときも、袁紹・袁術は後ろに下がっていた。……袁家が何かしたのか? いや、まだ決め付けるのは早計か。
なら……。
「……一つ聞きたい」
「……何かしら」
「袁術は今どうしている?」
その一言で蓮根ははっと顔を上げ、俺の目を見つめてきた。それで俺が何を聞いているのか理解したのか、少し考えた上で答えた。
「……首輪のついた虎を従えて休憩中、といったところかしら」
蓮根の放った言葉を頭の中で整理する。
虎……これは孫堅軍のことを表しているのだろう。
それに首輪がついているということは……操る? いや、縛るということか? だとしたら孫堅軍の誰かを縛っている? 従えるのだから連れて来ているはず……人質を取った?
そこまで思い立ったとき、蓮根の顔を見た。
蓮根は俺がどういう結論に至ったのか表情で分かったのか、小さく頷いた。
「……そうか、分かった」
そう言いながらも、心中は穏やかじゃなかった。
客将の部隊から人質を取り、脅して攻めさせる。……ありえない。
怒りに震える拳を握り締めたところで霞が隣にやってきた。
「深! 大丈夫かいな?」
「……霞か。俺は大丈夫だが、少し問題が発生した」
おそらく予定とは違い、孫堅軍と接敵したのを見て救援に来てくれたのだろう。そんな霞の気遣いに感謝しつつも、どう動くべきかを考えていく。
情報……今必要なのはこれだ。周泰が去ってからの連合軍の情報が足りない……このまま蓮根とぶつかれば、双方の被害は避けられないだろう。ましてこちらの部隊は刃引きを行ってあるのだ。右翼以外の部隊は刃引きをしていないため、霞の騎馬隊はきちんとした武装ではあるが。
ただでさえ少ない兵を間諜として放つわけにもいかない……。
「霞……悪いがここを頼めるか? 仕事が増えたみたいだ」
「それは構わへんけど……仕事って、なにするつもりや?」
その質問は純粋な疑問からのものだろう。
だからこそ俺は迷わず告げる。
「……虫の駆除だな」
自分でも驚くほどの低い声だった。それを間近で聞いた霞が驚くのも無理はない。
鋭く細められた霞の眼は、俺の言葉の真意を問うようにこちらを見つめていたが、やがて納得したのか視線を戻した。
「そか、分かったわ。気ぃつけてな」
「ああ」
短い言葉。今はそれがありがたい。
霞になるべく被害を与えないようにして欲しいと頼んでから、俺の部隊は反転。虎牢関へと退却していった。まずは兵達の武器を整えなければいけない。
副官に剣を預け、懐の短刀をしっかりと確認してから外套を被った。
まだ世界は赤くない……。
【 拠 点 最 終 結 果 】
遅くなりましたが、全投票の集計が終了しました!
後半勢いを増し、かなりの接戦になったのでは!?
↓ではでは、気になる結果はこちら!↓
★ 1位 ★ ④ 華雄 6票
⑧ 周泰(明命)
☆ 2位 ☆ ⑥ 陳宮(音々音) 5票
3位 ① 黒纏(影華) 4票
4位 ② 徐庶(茜) 3票
⑦ 孫堅(蓮根)
5位 ⑨ ??? 2票
6位 ③ 張遼(霞) 1票
びり ⑤ 呂布(恋) 0票
前回1位だった音々を押さえ、華雄・明命のダブルフィニッシュ!
後半の猛チャージが効きましたね……。
そして最下位はまさかの恋……馬鹿なありえない(震え声)
そんなこんなで、1位の2人は拠点を書きましょう!
時間があれば音々も書こうかな(せっかくネタ提供してもらってますs……)
華雄と明命の拠点パートに関して、こういうのを書いて欲しいでふ!
みたいなネタ提供があれば、反董卓連合編が終わるまでにお願いします。
(※終わってから拠点を書き始めるため)
作者から一言
『恋を選んでくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお』
【あとがき】
約1週間ぶりですね。九条です。
またまた難産……遅くなってしまい申し訳ないです。
そして繋ぎのような短さ……。
も、盛り上げるためなんだからね!(バンッ
拠点で大好きな恋ちゃんの投票が入らず、しょんぼりしながら執筆していました。
恋ちゃんかわいいよ恋ちゃん、うん。
艦これ楽しいです。
でも今は新規登録停止中という……気になる方は動画を見るか来月まで待ちましょう。
関係ない話はこれぐらいにしてry
霞の口調が以外と難しいです。いつも悩みます……これで合ってるのかなあ。
袁家も悩みます。あと蓮根さんも……。
普通に丁寧語を喋ったりする人が一番気が楽ですね。いつも通りに書けば良いので。
徐々にですが一人称--主人公視点で書いてみています。
でもそればかりに注視しすぎてる感も否めない……難しいですね、小説って。
真恋姫を再プレイしてて気付いたこと
・蜀の最終絵、集合絵で白蓮が見当たらない。
史実で三国に属していなかったからなのかな? とか思ったけどシャオもいなかった。
つまりは戦闘要員ではないというry
そういえば22日でTINAMI登録から1ヶ月が経ちました。早い……。
注目のルーキーから消え去り、少し寂しい気も。
あまりランキングは気にせず、自分の書きたいように書いていきます。
とか言いながらも、新しく追加されたランキング通知入れてみたり(苦笑)
それでも、良い点・悪い点などありましたら遠慮なく言ってください。励みになります。
こんなてきとー人ですが、次回も楽しみにして頂けたらと思います。
では次回まで、あでぃおす!
Tweet |
|
|
13
|
2
|
追加するフォルダを選択
左翼ェ……