「数学でⅰは虚数を表すんだよ、瑞樹くん。」
秋穂がそんなことを言う。
「どうしたの?」
一瞬、こいつ頭でも打ったのかと疑った。いつものへろへろぶりを見る限り、秋穂は槍が降っても勉強の話なんてしない。
「だから、愛は虚だから気をつけろって話だよ。」
秋穂は胸を張って言う。ちなみに秋穂の胸は私も気の毒になるくらいのトリプルエーだ。
「それで?」
あきれて言った。だからなんだというのだ。
「だから愛は虚だって」
「わかってるよ、愛とⅰをかけてるんでしょ。」
「そーだよ、すごいでしょ。えっへん。」
「べつに、それで?」
「…」
どうやら見切り発車で、すごいでしょ的なことを言いたかったらしい。
「ごめんごめん。すごいよ、すごい。」
私は言ってやった。あまりこの子をいじめるのはよくない。
「でもね、Iは英語では自分のことだよ。数学では虚数だけど。」
「そうか。」
「数学で虚数でも、愛は日本語ではやっぱり愛なんだよ。愛というものはよくはわからないけれども、やっぱり愛なんじゃないかな。」
「そうか。」
「ごめん、言ってることよくわからなくて。」
私は謝る。自分でも言ってることがわからなくなることがたまにあるのだ。
「わかった。ありがとうっ!!」
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言わばエゴとエゴの…(ミスチル)
五分小説です。
読みやすいように書いてます。
読んでくださったらうれしいです。
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