No.590618

臭荀

nebokoさん

@バンチ8月号の後の話です。郭嘉が荀彧について独白してるだけ。ちょっとだけ荀攸登場。かなりオリジナル色強いのでご注意ください。

2013-06-23 23:26:08 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1168   閲覧ユーザー数:1165

荀彧 文若。

名前は知っていた。

潁川で彼の名を知らぬものはいないだろう。

荀家は潁川では、敬意と侮蔑とが向けられる豪族である。

優秀な士大夫を排出する家柄。宦官や外戚に屈することなく正道を貫いたとも。

だが党錮の禁の際に宦官に屈した「臭荀」としての方がここ最近の評価として強い。

 

「彼は気の毒な男さ。本人の意志とは無関係なところで周囲がわめきたてたからね」

同じ荀家の一族たる荀攸は少しだけ眉をひそめてそう呟いた。

夜の明かりに照らしだされた彼の顔は、どこか泣きそうですらあった。

「もしあのままオレの祖父上や大伯父上のように意地を張っていたら、確実に荀家は滅ぼされていただろう。ある意味、彼は荀家が存続するための命綱となってくれたのさ」

荀攸の祖父荀曇やその兄荀昱は厳しく宦官や宦官に組する官僚を取り締まったため、彼等が実験を握った際に報復に合い、荀昱は殺され、荀曇は生涯幽閉の身となった。

荀彧の叔父荀爽も、宦官に睨まれ党錮の禁を受けた一人だ。

荀家もここまでかと思われたときに、荀彧の父荀コンが宦官の唐衡の傘下に下り、荀彧と唐衡の娘との縁談が決まった。これは後に荀彧が軍師としての才に目覚めたとき破談となるが、その後も荀家と唐家との繋がりは切れることはなかった。

「何があったのかは知らない。けれどあれで荀家は存続したし、オレも生き延びることができた。有力者のことごとくを失った荀一族が生き延びれたのは、荀コン殿の援助あってだからね。そういう意味ではオレも臭荀の一人なのさ」

「公達……」

「まぁ、その点を気にしないならこれを持っていくといい」

荀攸はそういうと二つに折りたたんだ竹簡を郭嘉に差し出した。

開けばそこには簡単な挨拶と近況、そして郭嘉について触れられていた。

宛先は「荀彧」。

「袁紹のところへ行くんだろう?」

「うん。親族の一人が袁紹の元にいるらしくて、なんとか仕官の口をきいてもらおうと思うんだ」

「実は荀一族も冀州に逃げているから、たぶん袁紹に仕えていると思う。もし親族のツテが難しかったらこれを使ってくれ。彼なら悪いようにはしないと思う」

「……荀彧が一族を率いているのか?」

郭嘉は驚いたように目を見開く。

荀彧は郭嘉と6,7歳しか変わらないと聞いている。

そんな年若な、ましてや軍師として身なりの幼い男が一族を率いているのかと驚いたのだ。

それほどに荀家は落ちぶれたのか、と。

だが荀攸は少し困ったように苦笑すると、

「まぁ、もしかすると袁紹に見切り付けてどっか別のところにいるかもしれないけど、誰かしら袁紹のところにはいるはずだから」

「公達……ありがとう」

「お前の無事を祈ってるよ」

寂しくなるとポツリとつぶやいた友人は、それでも郭嘉の身を案じる言葉で見送ってくれた。

 

 

郭嘉は荀攸から預かっていた竹簡を文箱から取り出す。結局この竹簡は使うことはなかった。

カパリと開けばそこには彼独特の流麗な文字。

「荀彧、か」

あのとき、酒場で初めて会った。

言いたいことをズケズケと言う男だった。

だがその言葉は正論で、己の未熟な点を突いていたことも確かだ。

そして、あの術。

「曹操の戦の戦術や戦略を立てたのは彼なんだろうか?」

そうなればいずれ彼と戦うことになるだろう。

曹操に感じたあの胸の高鳴りはない。

どちらかといえば、どこか悲哀すら感じる。

それはおそらく公達が浮かべたあの悲しそうな顔が脳裏をよぎるからだ。

そして同じ潁川士大夫でありながら、天子を未だ信じていることに。

自分だけではない、郭図ですら天子なんぞに意味を見出してはいない。

あの惨劇を目の当たりにしておきながら、共感できないことにどこか寂しさすら感じていた。

彼は、あれを見て何も思わなかったのだろうか。

「ま、いっか」

彼には彼の考えがあるのだろう。

郭嘉には郭嘉の思想があるように。

いずれ戦場でまみえることになるだろう。

そのとき、機会あったら聞いてみればいいことだ。

郭嘉は思いきるように竹簡をパタンと閉じ、大事そうに文箱にしまうのだった。

すみません、かなりオリジナル色強くなってしまいました。

荀彧が「天子を受け入れること=天子が唯一無二であると信じている」というのは郭嘉が勝手にそう思ってるだけで、実際荀彧がそう思っているかどうかは不明なのです。というか漫画だと絶対そうは思ってないよな、アレw 怒りを覚えるというより不思議そうな顔してたから「なんだ、お前わかってるのか」みたいな雰囲気だったし。

荀攸が荀彧や一族の行方を知らないって、あんまり考えられないのですが、ここでは知らないことにしました。きっと長安に閉じ込められてて情報入ってこなかったんだよ!(ぇ

 

ところで、郭嘉が「天子は助けてくれなかった」と言ってるけど、その頃すでに荀攸は何進に招かれてるはずですし、場合によっては郭図も荀彧も潁川郡に仕えてる可能性がゼロではないので、彼の言葉は潁川士大夫の心をぐさぐさをえぐっていたかと思われますwww ああ、あと曹操もかw

 


 
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