No.585654

真・恋姫†無双~家族のために~#21黄巾と黒夜叉

九条さん

遅くなりましたが、ご覧下さい。

2013-06-09 23:31:22 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2276   閲覧ユーザー数:2064

 孫堅--蓮根と別れた次の日、深と影華は洛陽に仕官した。

 深はその知識を生かし、洛陽の警備体制を変えるべく動いた。

 最初は聞き届けてもらえなかったが、幾たびにもよる説得、重要性及びそれに伴われる益について、それらを何度も何度も言い続けた。それに引かれたのか、物は試しということで、警備全般を任された。

 

 街には兵の詰め所が点々と置いてあったが、それよりも簡易的な詰め所を二十丈毎に設置した。

 そこには常に兵士が三人ほど配置され、これにより犯罪件数は激減、有事の際に兵士が駆けつける速度が格段に上昇した。これに伴い洛陽は「警備体制が万全で、安心して商売が出来る」と商人の中で噂が広がり、物の流通も以前とは比べ物にならないほど発展した。

 帝はこの功績を称え、深--黒繞を洛陽県長に任命し、また洛陽県尉も兼任させた。同時に、影華--黒纏はその補佐である県丞に任命。

 就任後、私兵を持つことを許されたが、数はせいぜい二百程度であった。深はその全てを警備兵として配置し、時に自ら警邏を行うことで、兵士及び街の住人から信を得ることとなる。

 

 そうしていくうちに八年もの月日が経過し、同時に世の腐敗もすでに修復不可能なところまできていた。その矢先に起きた、世を揺るがす不可避の動乱は、漢の失墜をさらに決定付けるものとなる。

 

 

 『蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし』

 

 

 黄巾党の台頭である。

 彼らはどこからともなく現れ、邑を襲い、食料や金銭を奪っては焼き払うという、暴虐の限りを繰り返していた。

 漢王朝はそれを止めるべく、各地の有力諸侯に対し、黄巾党討伐の命令を下す。

 その命令もまた、漢王朝の力が衰えているということを如実に表していた……。

 

 

 

 ここ数日は賊討伐、戦果報告のまとめの繰り返しだった。

 今日は珍しく書簡を片付けるだけになっているのだが、如何せん量が多い。

 

 「ん~、そろそろ休憩するか」

 

 「そうですね。そうしましょうか」

 

 深は机の上に置いてある竹簡を片付け、そこへ影華がお茶を置く。その動きは全く無駄がなく、彼らが長年共に過ごしてきたことが伺える。

 

 「……ふぅ」

 

 漸く書類仕事から解放されるか……そう思ったのも束の間、誰かがここに走ってくる足音が聞こえた。

 

 「失礼します!」

 

 「どうした」

 

 「はっ。門前にて黒繞様に会わせろという人物が来ているのですが……」

 

 「俺に? どんな人?」

 

 「司馬徽の使いだという女だそうです」

 

 「それって……」

 

 ふと、影華の方を振り向く。

 

 「茜……ですね」

 

 「だよなぁ」

 

 深は一度苦笑し、報告してきた兵士に向き直る。

 

 「いいよ、ここまで連れて来て」

 

 「はっ」

 

 兵士は来た時と同様に駆け足で去っていく。

 

 「薄々いつかは来ると思ってたけど……」

 

 「まさか、こんな時期に来るとは思いませんでしたね」

 

 「ほんと、よく諳が許したよな」

 

 かつて家族だった虎が助けた少女。二人は最後の会ったときのことを思い出しながら待っていた。

 

 

 「徐元直、命を助けて戴いた大恩に報いるため、馳せ参じました!」

 

 そこには、碧の髪をした溌溂な少女が立っていた。

 

 「相変わらず元気だな、茜」

 

 「お久しぶりです」

 

 「深様、影華様、お久しぶりです~!」

 

 そして勢いよく深に飛び込んだ。

 

 「ぐっ……なかなか良い……頭突きじゃないか……」

 

 「深!? 大丈夫ですか? 茜! 勢いというものを考えなさい!」

 

 「はっ! ……申し訳ありません。久しぶりに会えたのでつい……」

 

 「いやいや、俺なら大丈夫だよ茜。影華も久しぶりなんだから怒らないでやれよ」

 

 うん、結構痛かった。でも男なら耐えてこそ……だよな?

 

 「ごめんなさい」

 

 「深がそう言うのでしたら」

 

 深は少し気落ちしている茜の頭を撫でながら、影華に視線を向ける。

 それだけで影華は何かを察し、その準備をするべく少し離れる。

 

 

 「さて、茜。君がここに来たということは、仕官しにきた……そう捉えても構わないんだね?」

 

 「はい! 深様のお役に立てるなら!」

 

 その瞳は昔と変わらず真っ直ぐを見つめており、相応の覚悟が見られた。

 

 「……なら、俺達は歓迎するよ」

 

 「っ! ありがとうございます!」

 

 そしてまた突っ込んだ。

 

 「ぐふっ……だから……頭突きは……やめようか……」

 

 「あ! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 

 こうして徐庶--茜は深の陣営へと加わることとなる。

 深は茜を警備隊隊長へ任命し、兵の動かし方、命令系統などを細かく教えていく。

 いつ戦闘が起きても問題ないよう、出来るだけ万全を期していた……。

 

 

 徐庶が仕官してから十日ほど経った日、その知らせは届いた。

 

 

 『曹操、張角を討つ』

 

 

 これにより、黄巾党は霧散し残党を残すのみとなった。

 そして今、その残党が洛陽に迫りつつある。

 黄巾残党の総兵数はざっと見て一万ほど。残党を集めながら進軍しているようで、その数は日に日に増している。

 対する洛陽の総兵数はせいぜい二千、無理をすれば四千に届くか……というところだった。

 

 

 「さて、すでに分かっていると思うが、黄巾党の残党がここ洛陽に迫っている。こちらの総兵数は二千。敵の総兵数は五倍はいるものと思え」

 

 その兵力差を聞き、三人の間にわずかな緊張が走る。

 

 「しかし、六日凌げば黄巾党を倒した報奨を受け取るため、周辺諸侯が凱旋するはずだ。そうすれば残党を挟み撃ちに持ち込むことが出来る」

 

 「六日……ですか」

 

 五倍の兵力差を六日も凌げるのか……その策は……。深と影華はすでに防衛することを考え始めていた時、

 

 「……に……ない」

 

 微かに茜の声が聞こえた。

 

 「茜? どうした?」

 

 「そんなにいらない」

 

 「どういうことだ?」

 

 「私に策があります。一日で残党を滅ぼしてみせます」

 

 「!! それは二千の兵でも可能なのですか?」

 

 「はい。全て私の言う通りに動かしてもらえるのならば……」

 

 それは自らの策に絶対の自信を持った、揺るがない瞳。深と影華はそれに賭けてみることにした。

 

 「……よし。それならば次の戦、軍の全権を徐庶に任せる。我らはその命を忠実に遂行する兵士となろう」

 

 「……(コク)」

 

 「はっ。必ずや勝利をもたらします」

 

 

 

 

 

 

 

 二日後、そこには山となった黄巾の残党とその傍に立ち尽くす一人の青年、周囲で勝ち鬨を上げる兵士達の姿があった。

 

 

 

 

 茜の策はこういうものだった。

 まず、先陣を切ってくる敵兵にありったけの矢を掃射。動きが鈍っている間に用意していた丸太を敵に転がす。歩兵隊は丸太の後ろを追随し、丸太の速度が緩んだら左右に鋒矢の陣を展開。その勢いで左右を食い破る。

 混乱に陥った本隊へ向け、深を一人で吶喊させる。

 大将が一人で敵陣の真っ只中で戦うのだ。当然敵は中央に集中する。それを鋒矢の陣により突き抜けていた左翼・右翼を包囲するように展開させ、あっという間に二千の兵数で一万の敵を包囲した。

 包囲が狭まれるにつれ、敵は思うように武器を振り回せなくなり、降伏勧告をすると半数以上が降伏した。その間も深は一人で戦っていたが、敵に怪我を負わせることに集中。その目論見は成功し、深の周りには怪我で動けなくなった者達で溢れ、それがまた敵に恐怖を植え付けた。あいつが来るまでは……。

 

 

 「俺様は程遠志だ! お前がここの大将か?」

 

 「貴様……程遠志と言ったか」

 

 

 こいつが……母さんを殺した。

 

 

 「程遠志様だ! 様が抜けておるわ!」

 

 「……」

 

 

 コイツガ……母さんヲコロシタ。

 

 

 「まぁ大将だろうがそうじゃなかろうがどうでもいい。お前は俺に殺されるんだからな!」

 

 

 

 「オマエガ……カアサンヲコロシタ!!」

 

 

 

 「っ!…………」

 

 刹那だった。深の眼が真っ赤に染まった瞬間、程遠志の首は飛んでいた。

 そこからは殺戮としか表現できないものであった。

 

 深が槍を振るうと、その間合いにいる全ての敵兵が吹き飛んだ。

 

 深が剣を振るうと、間合いに飛び込まれた敵兵の首が飛んだ。

 

 それまで負傷させることを狙っていた深の斬撃は、命を刈り取るものへと変貌していた。

 それは地に横たわるものも例外ではない。

 深は自身の周囲を、悉く血で染めていた……。

 

 

 気が付けば戦は終わり、兵達は皆勝ち鬨を上げていた。

 深はただ、それを眺めていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 夜になり、洛陽では宴が開かれていた。

 主催は茜。まだ入ったばっかだというのに、もう結果を残している。

 これにより、まだ半信半疑だった兵達も彼女の実力を認めるだろう。

 

 俺は宴に対し多少の居心地悪さを感じ、早々に抜け出した。

 

 

 ふらふらと歩いていたら城壁の上にまで来てしまったようだ。

 まぁいいか。少し龍笛を吹こう……。

 

 漂う微かな風を肌に感じながら、無心に吹き続ける。

 

 

 「ここにいたのですね」

 

 影華はそう言うと、隣に腰を落とした。

 しばらく穏やかな時が流れる。

 

 「諳が言っていたことはこれだったんだな……」

 

 「黒夜叉ですか?」

 

 「ああ」

 

 以前、黒い夜叉が見えたと言われたことがあった。

 千寿も何か知っているみたいだったけど、硬く口を閉ざしていて詳細は分からなかった。

 

 「以前……前にも今日のような深を見たことがあります……」

 

 「それは……空の時か?」

 

 「……はい」

 

 「そうか」

 

 

 再度訪れる沈黙……。それを打ち破ったのは深だった。

 

 

 「なぁ影華」

 

 「……なんですか?」

 

 「……少し、弱気なことを言っても良いか?」

 

 「もちろん、いつでも言って構いませんよ、深」

 

 そう言い、影華は正面から深を抱きしめた。

 その胸の中で深は「ありがとう」と呟くと、初めて自身の心の内を吐露した。

 

 

 『怖い』

 

 

 「いつまた、今日のような状態になるか分からない……。もしかしたその時に見境なく味方を襲ってしまうかもしれない……。それが……途轍もなく怖い……」

 

 深は静かに泣いた。

 感情の赴くまま、影華に縋りつきながら……。

 

 そんな深を、影華は子をあやす母のように抱きしめ続けていた。

 

 

 

 どれぐらい経っただろうか。そろそろ宴も終わった頃だろうか……。

 深はすでに泣き止んでおり、再び向き合うような体勢に戻っていた。

 

 

 「……ありがとう、影華」

 

 「いえ……。私はあなたと共に在るのです。決してあなたを一人にさせません。だから……私にだけでも、弱いところを見せても構わないのですよ」

 

 本当に感謝してもしきれないな……。

 俺は心の中でもう一度ありがとうと呟いた。

 

 

 「なぁ……」

 

 「……はい」

 

 「俺さ……ああならないように、強くなるよ」

 

 「……はい」

 

 「力だけじゃなく、心も。二度と自分を失わないように……」

 

 「私も……共に強くなります……。もしもまた、あなたが己を見失ったとき、必ず私が止められるように……」

 

 「ああ……共に強くなろう……」

 

 

 

 『誰よりも強く』

 

 

 

 

 

 影華は一人城壁を降りていった。

 階段を降りきるとそこにいたのは茜。

 

 「影華様」

 

 「茜……」

 

 「私も……強くなります!」

 

 「……」

 

 「どれだけお二人の役に立てるか分かりませんが……」

 

 「茜……私達は家族よ。それを胆に銘じておきなさい」

 

 「あ……はい!」

 

 

 茜もまた誓う。命の恩人に……家族と言ってくれた人に。共に未来を歩くために……。

 

 

 

 

【あとがき】

 

九条です。

遅くなりました! 申し訳ない。

 

今回は難産でした……。

いやー、続きが思いつかない思いつかない。ほんと焦りました。

 

いくつかの伏線は、これで回収できたかなと。

徐々にタイトルに沿って進められてきた感じですかね~。

 

 

会話の時に、心象を書く回数を減らしてみました。

けど……あんまり変わった様に見えないorz

今後も試行錯誤しながらやってまいります。

 

 

明日は今まで出したオリキャラの復習(?)に当てたいと思います。

作者が忘れないようにする為と、ちょっとした裏話も書く予定。

いつもよりネタ多めかも?

 

 

 

▼重要なご報告▼

 

明日以降、真恋姫をプレイし直しながら書いていきますので、執筆する時間がちょっと減ると予測されます。

その為、毎日更新が出来なくなる可能性がありますので、予めご理解の程をお願い致します。

 

 

 

 

そんなこんなで次回もお楽しみに~


 
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