No.579709

真・恋姫†無双~家族のために~#4旅立ちの刻

九条さん

2時間ほど掛かりましたが・・・しかも今までよりも長くなりましたが
第四話です。

ひとまず大きな区切りの一つですね。

2013-05-24 18:42:14 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2915   閲覧ユーザー数:2632

 耐えた。

 

 

 耐えた。

 

 

 僕はひたすら耐えた。

 

 

 母様の叫び声が聞こえた……耐えた。

 

 

 友達の女の子の泣き声が聞こえた……耐えた。

 

 

 昼間に別れた男の子の助けを呼ぶ声が聞こえた。……耐えた。

 

 

 何かと何かがぶつかる金属音が聞こえた。罵声が聞こえたが直後に絶叫になった……耐えた。

 

 

 目を閉じ、耳を塞ぎ、蹲って、僕は耐えた。

 

 

 でも……最後にあの男の……あいつの声が聞こえた途端、僕は壊れてしまったんだと思う。

 

 

 

 頭の中で声が聞こえる。あいつだ、母様に何かしたあいつの声だ。

 

 『こいつ女の癖に、この程遠志(ていえんし)様に刃向かいやがって。つい斬っちまったじゃねぇか、もったいねぇ』

 

 あいつは確かに程遠志と名乗った。

 その後にも部下らしき人物との話し声が聞こえてきたから、あいつが首領なんだろう。

 

 

 

 許さない。今日襲ってきた賊は全て許さない。

 

 許せない。助けに行く勇気も、助けられる力もない己が許せない。

 

 

 僕は邑から音が聞こえなくなるまで、ずっと耐えていた……。

 

 

 

 

 やがて辺りから音が聞こえなくなったことを確認すると、僕はそっと外に抜け出した。

 

 最初に見つけたのは母様だった。

 家の出入り口でうつ伏せに倒れていた。手にはあいつに振るったのであろう抜き身の短刀が握られていて、地面には母様から流れたのであろう夥しい量の血が飛び散っていた。短刀の鞘は母様の血で真っ赤に染まっている。

 僕は構わず母様に駆け寄り肩を揺すった。

 

 「母様! 母様! 」

 

 僕は頭の中に浮かび上がる『死』という文字を追いやって、再度肩を揺すった。

 

 「母様! かか……さま! 」

 

 僕の瞳からは涙が流れ、それでも母様に話しかける。

 

 

 

 どれぐらいそうしていたのか。辺りはすでに暗闇に支配され、次第に雨も降り始めたようだった。

 

 結局、僕がどれだけ声を掛けても母様は起きなかった。

 そうして、ようやく母様の死を心が受け入れたとき、僕は声を出してひたすら泣いたのだ。

 

 降りしきる雨にも負けない勢いで、ただ母様のために泣いた。

 

 

 

 

 気付いたときには朝日が昇っていた。

 どうやら泣きつかれて寝てしまったらしい。

 

 起きたときに母様の姿を見てしまって嘔吐しかけたが耐えた。

 今僕にできることは耐えることと受け入れることだと分かったから。

 

 

 まずは母様から短刀を拝借した。外に出るのに丸腰では怖かったからだ。鞘に付いた血は乾いてしまっていたので、真っ赤に染まったままだ。

 

 家を出て改めて昨日の凄惨さを思い知った。

 見渡せる範囲で無傷の家がない。そして朝日が昇っている時間なのに、動くものがなにもない。

 

 それでも今は動くしかない。そう思い父様が向かったであろう邑の入り口に向かった。

 

 

 入り口はそれまでの道中とは比較にならないほど惨たらしかった。

 

 そこには兵士だったものと賊だったものが積み上げられ、血溜まりが出来上がっていた。

 ある者は腕が無く、またある者は槍に貫かれていた。酷い者だと首が無い。

 

 ふと、視界の隅で動くものを捉えた。震える手で短刀を握り締めそちらを見ると、それは人だった。僕にとっては特に大事な……

 

 

 「父様!! 」

 

 父様……生きていたんだ。溢れる涙を拭うこともせず父様に駆け寄った。

 

 そして気付いたんだ。父様の両腕が無いことを。

 

 「おぉ……深か……お前は生き残れ……たんだな」

 

 父様は時折苦しそうにしながらも笑顔を見せてくれた。

 

 「父様……う、腕が……」

 

 「あーこれか……はっはっは……ごほごほっ! ごめんな、深の頭を撫でられなくなっちまった」

 

 咳き込んだ時かなりの量の血がでたが、父様はそんなことに構うことなく

 

 「なぁ深。お守り……無くしてないか? 」

 

 「うん……うん。無くしてないよ? ほら」

 

 そして服から取り出し父様に見せる。父様は差し出した方向を見ずに

 

 「偉いな。さすがは俺と……母さんの子だ」

 

 と言った。父様は目も、もう……。

 涙はもう止められそうにない。

 

 

 

 

 「そうだ深。俺の……上着の右側に、長細い袋が付いてるんだ……が、その中に入ってるものをお前にやるよ」

 

 涙を拭って父様の上着を探る。そうして袋を取り出した。中に入っていたのは何かの楽器だった。

 

 「それはな、龍笛と言ってなぁ……父さんの似合わない趣味だ」

 

 父様が言うには、これは横笛の一種らしい。何でこんな物を持っているのかと聞いたら

 

 「昔なぁ。母さんに買わされてな……武以外も何か取柄を持てってよ」

 

 言いながら笑う父様。

 

 「でも、なんで僕に?」

 

 「いやー……お前の方が吹けそうだしな。それに……吹いているところを……聞いてみたくてな」

 

 喋るのも辛いはずなのに、父様は龍笛の吹き方を簡単にだが教えてくれる。

 

 「どうだ?」

 

 「……難しいです」

 

 「はっはっ……そりゃ最初から……吹けるわけないだろう」

 

 父様はこんなに笑ってくれているんだ。僕はちゃんと笑えているかな。

 

 「時間ならある……ちょっと練習してみろ」

 

 僕は母様によく歌ってもらっていた歌を思い出しながら、一生懸命に練習した。

 

 

 

 そろそろ昼になる頃になって

 

 「よし……じゃあ……最初から……吹いてみろ」

 

 息も絶え絶えになりながら、練習の成果を促してくる。僕は頷き、最初から吹き始めた。

 

 ところどころつっかえながらも、記憶を頼りに吹いていく。吹き加減を間違えて変な音が出ても、父様は笑わずに聞いてくれていた。

 

 曲も終盤に差し掛かったところで、父様がこっちを向いた(・・・)

 

 「最後にお前が来てくれて……良かった……本当に……生きていてくれて……よかっ……た……」

 

 

 止め処なく溢れる涙はそのままに、僕は最後まで吹き続けた。

 

 「……おやすみなさい。父様、母様……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --翌日

 

 「父様、母様。それと邑のみんな。またいつか会いましょう……行ってきます」

 

 

 賊に襲われた邑から、旅立つ少年が一人。

 持っているものは……父親から貰った『印』と『龍笛』。母親から拝借した『短刀』。そして、家に隠されていた僅かなお金のみ。

 

 

 ようやくこの世界の日常を目の当たりにした少年は……。

 

 

 「とにかくお腹空いた……よくよく考えれば二日間何も食べてないし……」

 

 お腹を空かせていた。


 
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