12話 騎士
「ふざけないでください……離れろよ!!!」
「ああ、良いねそういう反応。俺ってのは人に感謝されるの嫌いなんで」
明るく笑うが、男は眼が全く笑っていない。恭は剣を握り直し、男に突っ込んだ。彼は再び両手を重ねる。
「『邪撃』(クラッド)!!!!!」
「ぐっ……なっ、ぐあぁあっ!!!!!」
確かに回避したが、黒い球体は恭の近くまで来ると彼を引きずり込んだ。吸収こそされなかったが、膨大な圧力に叩き潰され吹き飛ぶ恭の肉体。壁に叩きつけられ、吐き気を催す。恭はその吐き気を強引に押し戻した。
「擬似的な重力を圧縮したもんだと思ってくれればいい。結構効くだろ」
「うるせぇ……鳴から離れろ!!!!!」
「だったら……力ずくで取りに来いや!!!!」
男は『邪撃』を連射してくる。しかも互いに干渉しあうのか直線距離を飛んで来ない。近づけば引き込まれる。恭は距離を取って回避するしか無かった。無駄に体力を消耗する。
先程の火の玉のように斬れないか試してみたが、重力球は強烈な引力で肉体を引き込み打撃を与える。斬り裂いてもそれは変わらなかった。
数発を受けただけで(それでも半分以上回避している)恭はボロボロだった。悔しいが右ひざをつき、憎々しげに彼の方を見上げる。
男は鳴のソウルジェムを取り出し品定めをするように見ていた。
「んだよ、真っ黒じゃないの。さっきのグリーフシードは使うべきじゃなかったかねぇ」
「離れろって……言ってんだろうが!!!!!」
恭は立ち上がり男に斬りかかる。彼は溜息を一つつくと、斬撃に合わせて右拳を突き出した。
恐るべき拳閃。恭は容易く弾き飛ばされた。拳圧が竜巻のように荒れ狂い途端に全身の装甲がズタズタにされる。全く傷を受けていないのは愛染くらいだった。
男は鳴の首を掴み上げ、顔を自分の顔に近付けさせた。少女の顔を眼前に、男はにやりと笑う。
「あーそうそう。せっかく相棒の居る魔法少女を奪うんだ。寝取るってんだっけ、こう言うのさ……」
「やめろぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
パリン……何かが割れるような音が恭の中でした。そして、彼から凄まじい破壊衝動が湧きあがってくる。
『愛染 13th-Force Limit-Break』
「愛染、終の刃!!!!! 『暁』(あかつき)、フォーム『暗黒剣』(ドゥンケルハイト)!!!!!!!!!」
恭を覆う銀色の装束が深い闇に塗りたくられていく。剣もそれと同時に黒く塗られていき、より鋭く人を殺す事に特化した形状へ変化していく。それは最早殺戮のみに特化した姿だった。
夜の闇のように、黒く濃く。深い、そして不快だ。闇の色に染まり病みきった彼の心は鋭く研ぎ澄まされ、突き動かす怒りのままに猛り狂う。
「へぇ、面白……っ!!!!?」
「触るな……鳴から離れろぉおおおおっ!!!!!!!」
剣に触れようとして両手を焼け爛れさせた彼は明らかに眼の色を変えた。この男は制圧できない、ようやく自分と同じステージに上がってきた事を感じた。その興奮に男は胸を高鳴らせ、高らかに笑う。
「ははははははははっ!!!!!!! これだ、これだよ!!!! つまらねェもんな、女の子一人連れてくるなんて任務はよォ!!!!! そうだよ、女なんてのは略奪してナンボだ、悔しかったら取り返してみせろよ、少年!!!!!!!!」
『邪撃』
男は再び黒い球を放つ。その数はゆうに10を超える。その全てを恭は斬り裂く。引きずり込んだのは、今度は恭の剣の方だった。斬り裂いた球が恭の剣に飲み込まれていく。
「喰らえ……『邪撃』!!!!!!!」
「ンだと……くっ、馬鹿なっ!!!!?」
恭は剣を一閃し、斬撃の軌跡から生まれる暗黒の球を無数に放った。形は歪(いびつ)であるが、紛れも無く男が放った技と同じ物だ。本能のままに戦う恭はその事実も別段意に介さず、暗黒球を放ち続ける。
「ちっ……借り物の能力じゃこれが限界か……」
「終わらせる……此処から消えろぉおおぉおおおおっ!!!!!!」
恭は暁を水平に立て、腹を男に向ける。収束した闇の奔流が、巨大な球体を作り出す。あまりの強大な重力場に、周囲の塵やガレキが吸い寄せられそして潰される。
「いけぇぇえええええっ!!!!!!!」
「……待ってたぜ。その攻撃を、てめェが足を止める瞬間をよォ!!!!!」
迎え撃つ男は手で印を結ぶ。闇の力が一点に集中した。さっきまで男が放っていた、そして恭が放つ技とは起点が同じでも明らかに質が違う。
『邪衝』(レヴァイド)
暗黒の矢、いや槍がそこから放たれ、恭の放つ邪撃を全て貫通した。恭は先程のように邪衝も飲みこもうとするが、反応が遅れた事とエネルギーの大きさから完全に飲み込めない。
「ぐあぁあぁあああっ!!!!!!!」
「面白ェ……騎士ってのは皆そうなのかよ!? だったら……もっと楽しませてくれよ、少年!!!!!」
男は背中に担いだ物を取り出す。それはギターなどではなかった。握り拳10個分程の長さの剣、恭の剣と比べてもリーチの違いは無い。
「神器『天羽々斬(あめのはばきり)』……特性は『神獣殺し』(セイクリッドスレイヤー)。来いよ……少年よォオオ!!!!!!!!!」
「はぁあぁあああああああっ!!!!!!!!!」
剣と剣がぶつかり合い、凄まじいエネルギーが周囲へ飛び散る。周囲の壁に亀裂が入る。魔女が死んだ今、この結界を修復できる存在は居ない。結界が自然消滅する前に二人の戦いで壊れてしまいそうだった。
何度も何度も刃は触れあいその度に衝撃が走る。そして、その状況を先に危惧したのは青年の方だった。
魔女を倒して救おうとした彼女が、このままでは衝撃で致命傷を負ってしまう。彼は恭の斬撃を受け流し、後方へ引いた。此処まで引けば、恭は追うより先に鳴を護る位置に立つと踏んだのだ。
そして、あれほど闘争心を剥き出しにしていた恭は鳴の前に、彼女を護るように立った。
「ちっ……良い所だったのに。気にいらねぇなお前ら、大嫌いだよ」
「離れろ……鳴を連れて行くな……」
「あーもうわーったよ。そいつ死なせたら俺が大目玉だ。だから……またいつか会おうぜ」
男は一枚のカードを恭に渡す。既に神器は手に持っておらず、背中に仕舞っている。カードは紫色をしており何も文字などの情報がついてるわけでもない。
「受け取ったら破棄しろ。恋人の敵の物なんて持ってたくないだろ?」
「……俺は真田恭。お前の名前は……?」
「本名は勘弁してくれよ、色々あるんでな……まあ、スサノオって呼んでくれ」
スサノオと呼ばれた、いや呼ばせた青年は、邪撃を作り出すとその中に入り込んで消えた。彼の気配が完全に消えると、恭は気が抜けたのか変身を強制解除されてしまう。
結界が徐々に色を失い消えて行く。まずい、このままだと何が起こるか分からない。恭は二人の元に駆け寄り、とりあえず九兵衛を起こした。
「ん……きょう、ちゃん……?」
「魔女は倒した、どうしたらいい!?」
「グリーフシードは……?」
「……ごめん、色々あって」
「分かった……とりあえず、安全な所へ……」
彼女が結んだ転移ゲートに三人は導かれ、魔女の結界を脱出した。
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私の趣味嗜好をぶっこみました。と言う事で、キリ良く次で最終話です。