「覚悟しろよ、お前ら・・・」
俺は、そんなことをつぶやき、目の前の敵に走っていった。
考えることなんて何もなかった。 ただ、頭の中に、
華琳が、彼女の俺の名前を呼んでくれたその声が、消えることなく
響いていた。
「うぉおおおおおお」
だから、こそ・・・俺は、体中にはしる毒の痛みにたえながら、
いや、それを消すかのような叫び声をあげ、
敵に突っ込んだ。
「ひぃぃ!!!本物の天の御使いだ!!」
「にげろーーー殺されるぞ!!」
「天は、天は、 本物の天はあいつなんだーーー!!」
もう、どうだっていい・・・
逃げるやつらはにげろ・・・
立ち向かってくるやつは・・・絶対に俺がここから先へといかせたりはしない。
俺は、そんな思いとともに、敵と剣を交わしていた。
おそらく、何刻かは・・・もっただろうか・・・
俺の天の御使いという名に恐れ、敵がひるんでいたせいもある。
敵の剣には俺を殺す覚悟が感じられなかった。
「貴様ら!一人相手に何をやっているのだ!!」
「司馬懿様!!」
「恐れるな!!敵はたかが一人だぞ!」
「しかし、敵は天の御使いです!!」
「違う! 敵はいたずらに天を掲げる、偽者だ!
私たちの道こそが天が示したものである!
逆賊を天の捌きによって葬るのだ!!」
「そうだ、俺たちが、天なんだ。 司馬懿様!万歳!!」
「そうだそうだ!!俺たちこそが天なんだ!!」
しかし、時間が経過するとともに、
司馬懿の言葉によって、一時は俺の存在に戸惑っていた敵に、
だんだんと戸惑いの表情がなくなっていくのが見受けられた。
「矢を放て!!! 狙い撃ちにするのだ!!」
そんな声が聞こえた途端、敵から数え切れないほどの矢が降り注ぐ。
くそっ! もう、剣だけでは、防ぎきれない
俺は、自分の体の中にある毒を押さえ込んでいた気を開放し、
敵の矢から自分の体を守る。
「はぁはぁ・・・くそっ!」
矢は、防ぎきれたが、体がもう・・・
前に進もうとしても足が言うことをきかない。
頭がくらくらする・・・
目の前の敵がだんだんとぼやけてきている・・・・
正直、剣で体を支えてたっていることが精一杯なんだ。
もう・・・華琳たちは、無事に撤退しているであろうか?
今は、どのへんにいるであろうか?
もう・・・十分な時間は稼げただろうか?
たぶん・・大丈夫・・・だよな・・・・
はぁ・・・俺は、そんなため息とともに頭の上に広がる空を眺める。
その空は確かに、まだ青く、輝いて見えた。
逃げる・・・そんな考えも浮かんだが、ここから逃げ切れる自身はない。
ここから動ける力がもうほとんどないんだ。
だったら・・・・俺は・・・
俺はそんな思いとともに、体にあるほとんどすべての気を剣にこめる。
「もう一度だ!もう一度!矢を放て!!!」
再び、敵のそんな声とともに、俺に幾千もの矢が降り注ぐ。
「うぉぉおおおおおお」
俺は、その剣にこめた気を敵のほうに向かって吹き飛ばす。
その気の斬撃は、敵の矢を吹き飛ばし、そして何万という前方の敵を吹き飛ばした。
もう・・・ここまで、か・・・
俺の体には正直、力が入らなかった。 気の使いすぎと、毒が体中に回っていて、
たってもいられなかった。
俺は、青空に顔を向ける状態で、ただ、空を眺めていた。
「よくも、ひとりでここまで、やってくれましたね。」
しばらくすると、一人の男が俺の元に近づいてきて、
その足が俺の顔に乗っけられた。
そんな俺は、それを振り払う力もなく、横をむかさざるおえなくなった。
「司馬懿・・・」
やつは、俺にとどめをさしにきたのか、その手には剣が握られていた。
「北郷・・・、あなたは本物でしたか・・」
俺の顔を以前見たことがあるのか、そう彼はつぶやいた。
「お前は、何のために、こんなことを」
「それは、きまっているじゃないですか。天を手に入れるためですよ。」
「天・・・か。」
「なんですか、その目は。 くだらない理由とでもいいたげですね。」
「ああ、そうだな。」
そんなことをいった瞬間、彼の俺を踏む力が強くなった。
「ぐっ・・・」
「無様ですね。北郷、 いや天の御使い」
彼のその顔には何かを制圧したかのような達成感とともに現れる笑みがあった。
「お前・・」
「ずっと、私はこの世を、この天下を手にしたかった。そのために、私は
いろいろと捨て、時期をうかがいましたよ。
そして、私は見つけました。私が、仕えることができ、さらに天を統一できる
力を持つものを。
そのものに、仕え、天をとってもらい、私が入れ替わる。
曹操孟徳、彼女こそ、天をとる人物だと私はわかっていた。」
「なかなか、頭が回るんだな。」
「しかし、そんなときだった。 私の予想が外れたのは。
あなた、ですよ。 突然現れて、曹操の隣に立つようになった。
私は、あなたについて、書物を読みあさった。あなたがどこで生まれたのか、
どこから来たのか。
私は、天の御使いなど、しんでも信じたくはなかった。」
「そうか、俺はそのときに、お前を華琳から遠ざけることができたんだな」
「私は、あなたの正体を暴くことなど、簡単だと思っていた。
しかし、あなたに関する事柄などどこにもかかれていなかった。
だから、認めるしかなかった。 あなたが天の御使いであると。
私の計画はそれで、もう終わったと思った。
絶望の日々に明け暮れましたよ。 天の御使い、未来をしるものが
私の名を聞いたら、何かに気づいてしまうかもしれないという疑問が
頭から離れなかった。
しかし、そんな私にも好機が再び訪れた。」
「二年・・前、か。」
「そうです。 あなたが消えたと聞いたときは、私にも、天が何かをささやいているのでは
ないかと思えましたよ。
そして、私は計画を練った。 私の王国を創るために。
私の計画は完璧だった。
それがっ・・・それがっ!!!!」
俺の横腹に彼のけりがはいる。
「ぐっ」
「また、貴様のせいで!!! なんなのだ!何がしたいんだ!」
「それは、司馬懿。お前にききたいことだ。 この平和な世を乱して、お前は何がしたいんだ」
「はっ、そんなの簡単じゃないですか。 人類には無駄が多い。
使えない何もしないくずを生かそうとする。
そのために、知能を持ったやつが働き、苦労をしなければいけない。
私は、そんな世界がにくい。
使えないものはごみだ。いや、ごみ以下だ。
この世界は、知能あるものだけが、いきるべきなのだ。
だから、私は私の王国を築こうと思った。 能力あるものだけが生きる世界を。」
「司馬懿、お前は、わかっていないよ。」
「なにがだっ! なぜ、あなたたちはごみのような存在を生かそうとするのだ!」
「違うよ。司馬懿。 この世に、ごみのような存在なんていない。
だれかが、必ず誰かを必要としているんだ。心のどこかで。
それは、普段は気づかなかったり、ましてや言葉に出したりしてはいえない
ことかもしれないけど。
この世に必要とされない人間なんていないんだ。」
「黙れ。 そんなのはただの理想にすぎない。 正直、おもっているのだろう。
何もしない民は死んでしまえばいいのにと。」
「思っていないさ。 彼らは、俺に笑顔をくれた。ここにきて、困っていた俺に
日常を与えてくれた。」
「力なき兵は、戦場でもやくにたたないただの食料食らいだろうが。」
「違うよ。皆がいて、俺らは戦えるんだ。 皆が、お互いを守るために戦うからこそ、
強くなれるんだ。」
「そんなのは、ただのお前の主観にすぎないだろう。」
「そうだな。 でも、俺は知っているよ。
誰かが、誰かを必要にすることでこの世界は成り立っているって。
この世に、ごみといえる人間は存在しない。
たとえ、お前がそんな世界をつくろうとしても、
その世界に住むのは誰だ。
その世界に住むのは人間じゃないよ。 心無き、化け物だけだ。
そんな世界が成り立つわけがない。
理想のための犠牲なんてあっていいはずがないんだ。
そんな犠牲の上になりたついい世界なんて存在するわけがない」
「いい世界?そんなもの私は望んではいない。
私は、私のための、世界をつくるまでだ。」
「それは、無理だよ。」
「無理・・・だと。 お前に何がわかる。」
「なぜなら、その世界を望まないやつがこの世界にはたくさんいるから」
「そんなのは、私の知ったことじゃない。 そんな存在は私の世界から排除すればいい」
「それは、わるかったな。 もう、お前には無理だよ。
もう、いまからでは華琳、曹操たちに追いつけるわけがない。
それに、関羽をころそうとしたのはお前かもしれないが、彼女は死んでいない。
そして蜀に向かうはずだった軍も、もう壊滅しているだろう。
呉も、同様だ。孫策はしんでいない。ましてや、彼女たちが反乱軍に負けるはずがない。」
「なん・・・だと・・」
「すまんな。司馬懿、 お前の負けだ。 このまま、曹操を追っても、彼女たちは態勢を立て直してい るだろう。」
「くそっ、 あなたですかっ!あなたなのですよね・・・どこまで私を馬鹿にすれば気が済むのですか!」
「馬鹿だな、お前。 俺が曹操や皆を、お前なんかに殺させるわけがないだろう。」
「ああ・・・・そうですね。 私にもわかりますよ。 もう、私には未来がない。」
「王手だよ、司馬懿」
「いえ。 まだ、ひとつ私にはやるべきことが残っていますよ。」
そう彼は、いいながら、手に持っていた剣に力をいれ、俺の前でそれを振り上げる。
「そうか・・・」
ごめん・・・ごめんな・・・華琳、
俺は、君との約束を守れそうにないや。 もう・・・体が、動きそうにない。
そう思うと、視界がだんだんと暗闇に包まれていくのを感じる。
ああ・・・死ぬってこういうことなのか・・・
全身に今まで感じたことがない寒気を感じる。
覚悟は・・・していた。
こうなるんじゃないかって、わかってはいた。
けれど、やっぱり怖いな・・・
死ぬのって。
俺は頬に自分の涙が伝わるのを感じる。
華琳・・・みんな、
俺は、もっと、もっと、みんなといたかった。ずっと一緒に。
生きたい。 生きたい。
やっぱり、死にたくないな・・・・
華琳・・・・・
「北郷ーー!死ねえええええ!!」
"グサッ”
そんな声とともに、そんな鈍い音が聞こえた。
なんだ・・・さされたのか。
不思議なことに痛みを感じない。
いや・・・それどころか、暖かい光を感じる・・・
ここは、天国なのか・・
「遅くなりました、一刀。」
なんだ、誰かが俺の名前を、呼んでいる・・・
そうか・・・天使、か。
そんなものが存在するんだな。 俺を迎えに着たのか・・・
そんな風に思いながら俺は目を開ける。
「はあああぁぁぁああああ!!」
そんな叫び声とともに、俺を囲んでいた敵が一気に吹き飛んでいくのが見えた。
これは・・・・夢・・・なのか・・・・
「一刀、あなたは一人じゃないから。 私がいるから。」
そう声のするほうには、二本の刀を構えている女性が立っていた。
いつも読んでくださっている皆様、そして応援の声をかけてくださる皆様、
いつもありがとうございます。
この小説を書き始めてから長い時間がたちました。
にじファンのときからを考えると、読者様には大変長い時間
お待ちくださってくれたことにお詫びと感謝の気持ちでいっぱいです。
この小説も次回で終わりを向かえます。
今まで応援してくださった方々、どうか最後までよんでいただければうれしいです。
(華琳)
見ないと許さないんだからっ!!
再見!!
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一刀は敵へ向かっていった。 その身はもうほどんど戦えないことをしりながら・・・