自分は全く、ただの一人も、理解されたことがなかった。
自分に与えられたのは、憎しみと、侮蔑と、恐怖と、拒絶だけだった。
なぜ、と思うこともあった。
自分はただ、認められたかった。
助けになりたかった。
自分に騎馬する人に、戦場で思う存分、戦功を上げて欲しかった。
それだけだったのに。
それだけだったのに!
それだけだったのに!!
それだけだったのに!!!
『おい、知ってるか?
あの的盧って馬、自分に騎馬した人達を全員事故死させているらしいぜ』
『ああ。戦死じゃなくて、奴の呪いのせいでな』
『とんでもない馬だな。いなくなって、せいせいした』
違う!
違う!!!
違う違う違う!!!!!!
あの人達が死んだのは、自分の、せいなんかじゃ……。
『死ね』
やめろ。
『くたばれ』
やめてくれ。
『何で、お前なんかが、生まれたんだ』
やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
殺す!
殺し尽くす!!
殺して、ころして、コロシテ、
殺してやる!!!
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!
この、何かの因果で、自分の目の前に現れた。
自分の腕の一振りで、今にも息絶えそうな、脆弱な若者を、
叩き殺すすもりで、腕を叩き落とし、殴り上げる。
もうすぐ殺せるだろう。
一回目に腕が入ったときは、運良く身体を捻り逃れたようだが、二度目はない。
もう一撃当てれば、恐らく死ぬ。
だが。
自分は。
ここにきて、自分は、斧を持ち自分に挑む愚かな人間の少年の、ある変化に気付く。
それは。
傷つき、ボロボロになり、骨の何本かは折れているだろうこの少年は。
むしろ、その状態こそが普通なのだと、言わんばかりに。
動きが洗練されて、いることに。
「……高順……?」
「へぇ……」
「まさか、これほどまでとは……」
「凄い……」
「……」
「嘘だろ?」
恋が驚いている。
霞や、華雄や、月も。
不機嫌そうにだが、詠も。
そして、もちろん俺も。
皆の驚きは当然だと思う。
どうしてかは分からないが、明らかに高順の動きが良くなってきてる。
前半のような、焦りが消えたというのか。
よくわからないけど、とにかく凄い。
それしか言えない自分が嫌になるが、凄い。
凄すぎて、怖い。
高順、お前は一体?
「……高順……」
彼の名前を口にする。
恋を、救ってくれた少年。
恋に、恋でいていいということを教えてくれた少年。
そんな少年が今、血だらけになりながら、『的盧』と相対している。
止めるべきだったと、後悔する。
でも。
それは、意味のない後悔だ。
始まりはどうあれ、彼が自分で決めたことに、他人である自分が、口を出す権利はないのだから。
他人?
「……他人なだけなんて、嫌……」
そう。
それだけの関係なんて、嫌。
いざとなったら、自分が助ける。
そして、彼にも教えてあげなくては。
恋を救ってくれた恩返しじゃなく、純粋な好意として。
貴方は貴方でいて、いいのだと。
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第三十話です。