魏の市場
「このカゴちょうだい」
「………毎度ありがとうございます…」
「…これ貰おうかしら」
「…ありがとうございます」
布の上に座りながら一人でカゴを売っている凪
「これで4個目か…長期休暇で村に帰ったらカゴを売ってきてくれと頼まれて…」
「買おうかな…どうしようかな…」
「お客様…お買い上げですか?」
「あ…いや…し、失礼…」
「はぁ~…売るのはいいけど私の売り方じゃこの程度…真桜か沙和が居てくれたらな…」
「あのーすみません?」
「次は二人のうちのどっちかと休みを合わせよう…」
「あのー聞こえてますかー?」
「え…あ…すみませんお客様…って七乃さん!?」
店の前に立っている七乃
「考え事をしていられるなんてよっぽど暇なんですねー」
「はい…午前中から売っているんですがさっぱりです」
「カゴ売りをしているという事は本業がクビになったんですか?」
「急に何を言い出すんですか‼クビになってませんよ‼」
「そうですか?まぁどっちでもいいんですけど」
「えっと…そういえば…美羽様の姿が見当たりませんね」
「お嬢様はお部屋で寝ています」
「具合でも悪いんですか?」
「いえ、そういうのじゃないんですよーちょっと昨日は夜通しでしたので」
「あ…そういう事ですか…」
「夜通しで「孫策がくるぞー孫策がくるぞー」とお嬢様の耳元で私が囁いていましたので睡眠がちゃんととれていないんですよー」
「何をしているんですか!?可哀想じゃないですか‼」
「そういう時の寝顔も可愛いんですよねー♪」
「か…かわいい…んですか?」
「おねしょも久しぶりにしてましたしねー♪やっぱりダメなお嬢様は最高ですよ♪」
「あの…七乃さん」
「それで今朝なんて…ってどうかしましたか?」
「そういう話はまた今度にしていただけますか?お客が店に寄り付かないので…」
「本当ですねー通行人が避けていきますねーやっぱり駄目なお店ですねー」
「七乃さんの話のせいですよ!」
「でも元々売れていないんですから関係ありませんね♪」
「……」
「ちょっと言い過ぎちゃいましたか?じゃあお詫びにここにある商品をすべて売り尽くしてあげましょう♪」
「売り尽くすってそんな事無理ですよ!」
「売る方法を選ばなければ簡単ですよ♪どうします?」
「…じゃあ七乃さんが売ってくれますか?」
「いいですよーではちょっと失礼ー」
カゴをまたいで店に入る七乃
「それでどうやってこんなたくさんのカゴを売るんですか?」
「とりあえず店先に置けるだけのカゴを置きますねー」
「はぁ…」
前が見えなくなるほどカゴを店先に置く七乃
「ちょっと!?積み過ぎですよ‼通路側に倒れたら大変なことになりますよ‼」
「少しだけですから大丈夫ですよーほらあれ、お客様が来ましたよー」
「お客様って…風様と稟様じゃないですか!?」
「稟ちゃんーあの店をどう思いますかー?」
「えっと…あのカゴ屋の事でしょうか?」
「はいー」
「路上に倒れてきたら危ないですから注意しに行きましょう」
「はいはいー」
凪の店の前に立つ風と稟
「ちょっとカゴを積み過ぎですよ…って七乃殿!?」
「凪ちゃんもいますねーなんとも変わった組み合わせなのです」
「これはすみませんーついつい積み過ぎちゃいましたねー」
「ほら怒られちゃったじゃないですか!七乃さん‼」
「いいんですよー…これで…」
「何がいいんですか‼注意されているんですよ‼」
「とにかく…この場は私に任せてください♪」
「七乃殿‼凪と喋っていないで早く片づけてください‼」
「はい、只今ー…あ…そういえば稟ちゃん?」
「何ですか?」
「ちょっとお耳を拝借…ボソボソ…」
「ちょ…ちょっと七乃殿!?街中で何を急に華琳様の…うっ…ブハッ‼」
鼻血を吹きだし倒れる稟
「稟ちゃんートントンしましょうねートントンー」
「ふが…ふが…」
「七乃さん‼何をやってるんですか‼稟様大丈夫ですか!?」
「だ…大丈夫…急に華琳様の話を聞いたのでつい…」
「つい鼻血を出しちゃってあんなに商品を駄目にしちゃったんですよねー」
七乃が指差した先には血の付いたカゴが大量にあった
「ふぇ!?」
「どうしよう…これじゃあ商品として売れない…」
「稟ちゃん?凪ちゃんが困ってますよー当然血の付いた分のカゴは買い取ってくれるんですよね♪」
「うぅ…風…足りない分のお金貸してくれる?」
「給料日になったらすぐに返してくださいねー」
「これが本当の出血大奉仕ですね♪後でお城に送っておきます♪」
「七乃さん…それは違うのでは…」
「これで半分になりましたねー」
「こんな売り方でいいのでしょうか…稟様ががっくりと肩を落として帰っていきましたし…」
「きっと鼻血のせいですよ」
「それは絶対違いますよ‼」
「そんな事より次は誰に買ってもらいましょうか」
「…あの出来れば弁償じゃなくて普通に売っていただけませんか?」
「弁償じゃなくてですか?分かりました」
「しばらく稟様の顔が見れません…はぁ」
「落ち込んでる場合じゃないですよー次のカモが来ましたよ」
「お客様をカモって…えっと…あれは…桂花様!?」
「あら?凪がいるわね…帰省してるって聞いていたけどなんでカゴなんか売ってるのかしら?」
凪に気付く桂花
「こっちへ来ますねー♪」
「そ…そうですね…七乃さん…お願いですからさっきみたいな売り方はしないでくださいね…」
「分かってますよ」
「凪じゃない、何でカゴなんて売ってるのよ?」
「あ、桂花様…あの…村の人達に売ってきてくれと頼まれまして」
「ふーん…それで売れてるの?」
「稟ちゃんが先ほど店の商品の半分を買っていきましたよ」
「っ!?七乃もいるの!?なんかすごい組み合わせね…」
「はい…色々とありまして…」
「それで稟が店の半分の商品を買ったって言ってたけどどういう事?」
「あの…買ったと言いますか…何と言いますか…」
「ちょっと凪ちゃんは黙っててくださいねー」
「むぐっ!?」
「実はですねー「カゴが全然売れていないんです」と言ったらいきなり私が店の半分を買うって言い出したんですよ」
「稟ってそんな性格だったかしら?」
「隣にいた風ちゃんにお金を借りてまで買ってくれたんです」
「にわかに信じ難いわね…というよりもその話は嘘でしょ?」
「本当ですよ、ほらこの書類見てくださいよ「足りなかった分は後で払います」って稟ちゃんの字で書いてありますよね」
「確かに…稟の字ね…でも何かところどころ滲んでるわね…」
「それで桂花ちゃんも買っていきませんか?」
「私?カゴなんていらないわよ」
「そうですか…この話をすれば残りの半分買っていただけるのかなと思ったのですけど…」
「アンタの考え、馬鹿じゃないの!?稟が買ったからって私も!ってなるわけないじゃない!しかも残り半分って‼」
「普通はこういう反応ですよね…」
「そうよ!当然でしょ‼」
「と、いう事は…稟ちゃんって相当懐も心も大きいんですね」
「え?」
「桂花ちゃんみたいに文句言って買わないんじゃないんですもんねー」
「私からしたら稟の行動は馬鹿よ‼」
「桂花ちゃんからしたら馬鹿に見えるかもしれませんが私にとっては凄い人に見えますね」
「…だからって買わないわよ」
「あ、大丈夫ですよ、無理して買わなくてもこれは私の個人的な意見ですから」
「…そう」
「今度華琳さんに会ったら稟ちゃんをべた褒めしちゃうんでしょうねー」
「か…華琳様!?ちょ…ちょっと待ちなさいよ‼」
「どうしました?」
「ア、アンタ!何か変なこと言うつもり‼」
「変な事って…どういう事ですか♪」
「…アンタ分かっていってるでしょう…」
「さぁどうでしょう♪」
「分かったわよ‼残り全部買うわよ‼」
「2倍の値段で買っていただきますと…今ならべた褒めも付いてきますけどどうします?」
「…分かったわよ‼」
「毎度ありがとうございます♪後でお城に送っておきます♪」
「…これは売ったと言えるのでしょうか…」
「売ったでいいんじゃないですか?それよりも…」
「それよりも?何ですか?」
「全部売ったんですから報酬としてお金をいただけませんか?」
「あ…はい…えっといくらぐらい渡せばいいですか?」
「蜂蜜が一瓶買える程度でいいですよ」
「そんなに安くていいんですか!?こんなに売り上げがあるのに!?」
「美羽様にお土産を買っていける程度あれば十分ですから」
「そうですか…ではこれを…」
「ありがとうございます♪それでは」
店から立ち去る七乃
「不思議な人だな…七乃さんって」
その夜
美羽の部屋
「七乃~♪お金がないから今日から蜂蜜水抜きと言っておったがあるではないか~♪」
蜂蜜水を飲む美羽
「はい~お嬢様が昼間ぐうたら寝ていたおかげでその間にお金を稼いでこれたんですよ~」
「では毎日ぐうたら寝ておかねばいかんの♪」
「さすが美羽様♪馬鹿にされても気づかないなんて素敵すぎます~♪」
「もっと褒めてたも~♪」
その頃
魏の城門
「なんで桂花もそんなにカゴを買ったんですか?」
「アンタのせいよ‼」
城に届いたカゴを仕分ける稟と桂花
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久しぶりの休みが…