No.565848

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 五十二話

TAPEtさん

お前は話終わらせる気あるのかと。
早う勧めろと。
何また新しい催し起こしてるのかと

2013年4月10日、正式な公認会計士一次試験合格者の発表がありました。

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2013-04-13 23:21:38 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3396   閲覧ユーザー数:2733

桃香SIDE

 

「こんな行き当たりばったりな雨乞い祭りが通用するのか?」

「正直判りません。だけど、そんな状況だとそれ以外には、ただ都が燃えつかれるのを見ているしかありません。それこそ何日燃え続けるか」

「今は出来ることならなんでもしなきゃ駄目だよ。少なくとも見ているだけってわけには行かないよ」

 

典韋ちゃんを連れて自陣に戻った私はすぐに城門前で華琳さんと袁紹さんとであったことを皆に話しました。

直ぐに軍を進めて洛陽の近くまで来ました。

 

「取り敢えず洛陽城の4門に祭殿を仮設して祈祷をします。出来れば袁紹軍に行って手伝ってくれるよう願いましょう」

 

朱里ちゃんが言った時、地面が揺れそうような巨大な音を出しながら都の宮殿の一部が崩れて行きました。

 

「雨乞いか…桃香さま、我々であの火を消すに入るというのはどうでしょう。」

「消すと言っても、どうやって消すというのだ。アレは油と火薬で付けた火だぞ。半端な量の水はかけても勢いを増すばかりだ」

「では天に任せるばかりで我々は手ぶらで空から雨が降るまで待っていろというのか!」

「あわわ、愛紗さん、おちちゅいてください。星さんの言う通り、これはもう人力でなんとかできる範囲を越えています」

「……っ!なんてことをしてくれたのだ、アイツは。そもそも中に居た人たちは皆無事なのだろうな」

 

愛紗ちゃんが歯を食いしばりながら悔しそうにつぶやきました。

 

「恐らく大丈夫だと思うが…問題は皇帝陛下がどこに居るかだな」

「鈴々もだ。まさか北郷と一緒に居るわけではないだろうな」

 

でももしそうだとしたら、本当に何もせずにただ見てるだけというわけには行かない。

 

「とにかく、朱里ちゃんはできるだけ祭殿を造って祈りの準備を。愛紗ちゃんも星ちゃんも今は朱里ちゃんを手伝うことに集中して」

「「判りました」」

 

皆が手足を忙しくしている間、私はそこから一歩引いて典韋ちゃんが乗ってきた変な機械に近づきました。

さっきは何がなんだか分からなくてちゃんと見れなかったけど、今はもっとちゃんと見ることができます。

 

典韋ちゃんが座っていた椅子の前にはいろんな色の『何か』が光っていました。

下手に触ったら大変なことが起こりそうです。

 

「…あれ?これは……」

 

また中をキョロキョロみていた私の目に入ったのはある木の枠の中に嵌めてある絵だでした。

絵の中に居るのはとても見慣れた人の顔、だけどその人がしている表情は現実で見たことがないものでした。

 

私はその絵を手に取ってじっと見つめました。

 

「桃香さま、どうしたんですか」

「雛里ちゃん、これ見て」

 

雛里ちゃんはその絵を見ると、さっきの私がそうだったようにとても不思議そうな顔をしました。

 

絵の中の『一刀さん』は、口を開いて笑っていました。

とても幸せそうに、今まで私たちに見せたことのない笑顔をしていました。

 

「一刀さん、昔はこんな表情もしていたのかな」

「……」

 

私と雛里ちゃんは今まで見たことのない絵の中の一刀さんの顔を見ながら、しばらく何も言えずに居ました。

 

 

華琳SIDE

 

「無様ね」

「……」

 

壊れた人形のようにただ壁に背中を任せて、手足は動かす力もないように地面に落としている彼を見て、私は悲しみを覚えつつもわざわざ冷たい言葉を選んだ。

彼は同情が嫌いだから。

 

「流琉を見たわ。何故あなたは一緒に居なかったの。彼女をあの変な機械に入れてこっちへ送ったのはあなたの仕業でしょう?脱出装置があるなら使って来ればいいじゃない。何故わざわざ私にここに来させたのよ」

 

そう言っているうちに遠く地上から響く音があった。

恐らく上で宮殿が本格的に崩れ始めているに違いないわ。

もうここから出るのは不可能でしょうね。

 

「丁度良いわ。あの娘たちが全力で後処理をするとしても私たちを助けることに何日がかかるか判らない。その間じっくりとあなたの話を聞いてあげようじゃない」

 

私は彼の隣で壁に身をまかせてするりと座り込んだ。

 

「…袁紹はどうなった」

「袁紹軍は降伏したわ。私と劉備にね」

「……」

「あれだけ巨大だった袁家の軍勢がたった数ヶ月で瓦解したわ。麗羽はもう立ち直れないでしょうね」

「……」

「あの馬鹿の話はもう良いわ。私はこっちのバカの話でももう頭いっぱいなのよ。なんで流琉と一緒に来なかったの」

「…流琉には見せたくなかった」

「今のあなたの姿を?」

「痛みは耐えられた。だけどこれは…結構きつい」

 

彼は私に自分の手を伸ばした。

彼の手は血と痣でまみれていた。

拳を握って壁を殴り続けたのか手の甲は赤黒くなって、手のひらは爪が深く入ったせいで血を流した痕があった。

 

「今でも痛いの?」

「痛みは引いてきた。というより今は意識がほぼ朦朧で判らない」

 

彼は息を切らしていた。

私は彼の腕を下ろして彼の額に手をつけた。

 

「…!」

 

彼の体はとても熱かった。

これではまともに喋ることもできない。

 

「あなた、このままだと冗談じゃなく死ぬわよ」

「だろうな。否定はしない」

「否定はしない、じゃないわよ。私をどれだけ怒らせたら気が済むのよ」

 

話どころか今直ぐでも連れ出して医官に診せないと命すら危うい。

それなのに彼は脱出できる手段があったにもかかわらずそれを使わなかった。ただ自分の弱くなっているところを他に見せたくないという理由で。

 

「そんなこというぐらいなら何故私はここに来させたの。死ぬ気なら独りで冷たい床の上でくたばりなさいよ!何で私にはこんな姿見せてくるのよ!私にどうしろというのよ!同情されたくないんじゃなかったの!」

「俺は死ぬ…逃げることも出来たかもしれないが、これが俺の選択だ」

「何と何からよ」

「俺が生きたい様に生きて死にたい様に死ぬか、それともこの命を保つために薄暗い世界の片隅で震えながら生きるかだ」

「……わけがわからないわ」

 

彼はいつも興味のために生きた。

そのためなら人の心配はおろか自分の体のことにも目を振り向けなかった。

だけどそれなら一人で死ねば良い。

それこそ誰にも己が死んだことに気づかれずに逝けば良い。

誰にも判らないまま死を迎える。まさに彼らしい死に方ではないか。場所も完璧に用意されてあった。

だけど彼は私をここに呼んだ。

 

「…死にたくないのね」

「……」

「自分の死を飾るために完璧な環境を作って置いて私を呼んだ。つまりそういうことよ。あなたは自分が死ぬだろうと思い込んでいる。だけど死にたくはない。だから私がここに居るのよ」

「…お前に何が出来る。お前の言う通り俺が無意識に生きることを望んだのだとしても何故お前を呼ぶ。俺の側には流琉も劉備軍の張飛も居た。お前より彼女らの方が余程頼りになるだろうと思うが」

「身体だけならそうかもしれないわね。だけど今のあなたはそういう問題ではない。あなたは今精神的に死んでいるのよ。謂わば『燃え尽きた』というべきかしら」

「……」

「だからあなたは私を必要としなのよ。私ならあなたの胸にまた火をつけることが出来る。また興味を湧かせることが出来る」

「本当にそう思うのなら言ってみろ、華琳。お前は何を以って俺に興味を持たせるつもりだ」

 

ここからが重要よ。

時間がたっぷりとある。

一刀をまた私の元に取り戻すためにも、この場で彼を失わないためにも

 

後はあなたのやり次第よ、華琳。

 

 

凪SIDE

 

「……んん」

 

一刀…様……

 

私は…

 

 

「一刀様!」

 

目を覚ますと、そこは私が居た董卓軍陣地の一刀様の部屋ではありませんでした。

 

「楽進さま」

 

外から曹操軍の武装をした兵士が入って来ました。

 

ここは曹操軍です。

何故私はここに…。

 

「何故私がここにいる!一刀様はどこに居る!」

「楽進さま…」

「言え!」

 

私は立ち上がってその兵士に迫ろうとしました。

だけど、背筋を伸ばした途端、背中から慣れぬ痛みを感じました。

 

「っっ!」

「楽進さま!もらった傷が深いです!軍師さまは安定なさるようにと命じました」

 

そう。

確か気を失う前に、私は背中を斬られる感覚を受けた。

死ぬだろうと思っていた。

一刀様に手を出した天罰なのだと、そう思った。

 

だけど、私は生きている。そして一刀様はここに居られない。

 

「…華琳さまに会わなければ」

 

一刀様の状況を説明しなければならない。

このままだと永遠にあの方を失ってしまう。

 

「曹操さまは今この陣に居られません。曹操さまは軍師さまに軍を任せました」

「なら桂花さまに会いに行く。私が行くと伝えろ」

「バカ言ってんじゃないわよ」

「!」

 

私がその声を聞いて驚いて兵士の後ろを見ると、天幕の入り口に桂花さまが立っている。

 

「桂花さま…!」

「騒がしくて来てみれば、大怪我して帰ってきた割には元気そうじゃない。孫策軍の武将に運ばれてきたわよ」

「………」

 

私がこの軍に帰ってきたのは汜水関以来。

桂花さまに会ったのも相当前のことだ。

しかし、ひさしぶりにまた会った桂花さまの顔には私への警戒心などは見つからなかった。

 

「とは言え、あなたの傷は軽いものとは言えないわ。興奮を抑えなさい。でないと傷口がまた開くわよ」

「そんなことより一刀様です。私が董卓軍に居られるのを見ました!」

「……」

「あの方は自分が死ぬだろうとおっしゃってました。一刀様はこの戦いで自分が死ぬことすら恐れぬほどの何かを起こそうとしているに違いありません。それを止めないと一刀様は…」

「重要じゃないわ」

「なっ!」

 

重要じゃない…だと?

誰でもない一刀様のことだ。

重要じゃないはずがない。

増してや桂花さまの口から…!

 

「桂花さま!私は判っています!あなたも実は連合軍が最初始まった時、流琉や私のように一刀様に会いたかったことを…」

「……」

「他の誰からそんな言葉が出るなら私はかまいません。だけど桂花さまが一刀様に関してのことを重要ではないと思うはずがありません」

「私はあなたと違うわよ」

「はい?」

「私はあなたや流琉とは違うのよ。判る?あなたや流琉はアイツを選んだ。そして私は華琳さまを選んだ。だから私は今アイツのことを重要とは思わない」

「…判りません」

「私はアイツのことを考える以前に華琳さまのために動かなければならない。アイツも私が自分の心配なんかしてくれるより華琳さまのために働くことを望むはずよ。だけどそれは彼がそう思ってるからではなく私の意志でそうしていること。あなたが今ここで洛陽に居るだろうアイツのことを真っ先に心配しているのと同じにね。アイツを守るのがはあなたの仕事であるように私や春蘭がすべきこともあるというわけよ」

 

役割が違う。

適材適所。

一刀様が私に言った言葉と同じです。

 

「それなら…今の私は一刀様に邪魔だったからここへ来させられたのでしょうか」

「そうね。今のあなただったら彼を守るという役名は果たせそうにないしね」

「…それどころではありません。私は一刀様を殺しかけていました」

「…アイツなら許してあげるはずよ」

「そうでしょうか」

「あなたのその傷跡がその証拠よ」

「傷跡?」

「かなり厄介に斬られたのに、綺麗に縫われてるわ。恐らく流琉の手技でしょうね。それでも流琉は武人だし状況が緊迫だったら普通は焼いて処理しようとしたでしょうに、そんな治療方法使おうとするのはアイツしかないわ。袁紹軍が間近な状況であなたにそんな手術を施すために彼がどれだけ苦労しただろうか大体見当がつくわ」

「…一刀様」

 

しかし、これで私にはもう出来ることがなくなってしまいました。

 

「できることがない、と思ってるみたいだけど、悪いけどこっちはあなたに休んでもらってる暇はないわ」

「…どういうことですか?」

「ちょっとこっちが大変なのよ。もしかしたら戦になるかもしれないわ」

「!何故ですか。ここには連合軍のみのはずでは…!」

「袁紹が置いていった軍勢の動きが怪しいのよ。春蘭の話だと不穏が空気が駄々漏れのようだし、残ったのも何か目的があるかもしれないわ」

「こちらに攻めてくるというのですか?」

「さあ、君主から離れた兵だし、軍律の乱れている。いつ暴動化してもおかしくないわ。何かあったら対応する準備はしなければね」

「……私も準備を手伝います」

「そうさせてもらうわよ。実はあなたと一緒に劉備軍の張飛という娘も居て、もう手伝ってくれてるわよ」

「張飛が…?何故ここに」

「劉備軍がここに残ってるだろうと思ったのでしょう。真桜と沙和も劉備軍に付いて洛陽に行っちゃったし、居るのは私と春蘭と季衣だけで手が回らないわ。だからあなたも手伝いなさい」

「……夏侯淵将軍は…?」

 

私はわざわざ真名を呼ばずに名前を呼びながら尋ねました。

虎牢関での出来事を忘れているわけではありません。

 

「……アイツは今陳留に居るわ」

「…!」

「詳しい話は言えないわ。とにかく今は華琳さまが帰ってこられるまで軍を守るのよ。華琳さまはアイツを連れて帰ってくると仰ったわ。華琳さまが無事に帰ってくる時が、アイツが帰ってくる時よ」

「……」

 

もし本当に華琳さまが一刀様を連れて帰ってくるとしたら、

 

また昔のように戻れるかもしれません。

 

 

 

華琳SIDE

 

「秋蘭を陳留に帰らせたわ」

 

私は先ずその事を彼に伝えた。

 

「……」

「虎牢関であなたに矢を放ったわね」

「…そしてお前の手紙もすり替えた」

「多分ね」

 

あなたへのあの娘の不信は昔から少しずつ重なったものだったわ。

 

一体いつからなのだろう。

 

もしかしたら初めてから…?

春蘭が彼に対して表面的に不満を持っていたことと裏腹に彼のことをある程度認めていたに比べ、秋蘭はそうでなかったのかもしれない。

しかし、そんなことよりも彼女が許されないのは

 

「あの娘は私の覇道に傷をつけたわ」

「お前の覇道…か」

「ええ、私には欲しい者が居た。だけど彼女は自分勝手な解釈で私の覇道を曲解した。私に得になるもの、損になるものを勝手に分けた。そしてそれを自分の忠義だと装った。だけどそれは忠義ではない。それはただ自分が私が歩むべき正しい道を知っている、いいえ、自分が導く道こそ私に正しい道だと言う生意気な考えでしかなかったわ」

「それで、お前は妙才をどうするつもりだ?」

「…あなたが帰ってくるというのなら、彼女の罪を問って斬ることも出来るわ」

「……」

 

秋蘭と一刀を同じ場所に置くことはもう危険でしかない。

不可能とまでは言わないけど。

どの道秋蘭をもう私の近くに置く気はなかった。

 

「お前の覇道というのはそれほど大したものか?」

「…なんですって?」

「袁紹が何故ここまで堕ちたか判るか?」

 

何故アイツの名が出てくるの?

 

「そんなの決まってるでしょう。アイツが愚かな君主、いえ、君主というにも足りない愚の骨頂だったからよ」

「確かに袁紹は愚かだった。だが桃香、劉備玄徳もまた愚かだった。それでも彼女は生き残った」

「それはあなたが居たからではなくて?あなたが居なければ劉備はこの戦をも凌ぎかねたはずよ」

「かもしれない。だが大事なのは、桃香も袁紹も愚かだったにも関わらず、俺が桃香と一緒に居たことだ」

「……」

「連合軍が起きる前に、一度袁紹と話し合う機会があった。そこで俺は袁紹が興味を持つに足りない奴だとわかった。むしろ、俺の興味の催しのために、早く潰れて欲しかった」

「…まさか、あなたは連合軍が始まる前から麗羽を潰すつもりで居たというの?それも劉備軍でいながら?」

「どこに居るかは重要ではない。お前も見たはずだ、華琳。一つの凡愚に自分の立場を思い知らせるには『軍』の力が必要ない。その場に居てふさわしくない奴を引き下ろすには『たった一人の力』で十分だ」

 

袁紹軍は何故堕ちたのかを上げたらキリがない。

だけど、麗羽が誰によって落とされたのか。

 

彼女を落とすには彼女に歯向かう『連合軍』が必要なかった。

そもそも力と策が乱立する戦をするための『軍隊』が必要なかった。

彼女を落とすには、たった『一人の人間』の力さえあれば十分だったのだ。

 

その一人が『誰』なのかもまた重要な問題だったけれど。

 

「袁紹が生き残る道はたくさんあった」

「『あなた』という人間に引っかかった時点でもうおしまいだと思うけどね」

「……だが逃れる機会が来る度に袁紹はそれを蹴った。袁家の当主という名ばかりの栄誉とアイツの傲慢さがアイツの首を締めた」

「それが麗羽と劉備の差だというの?」

「袁紹は頑固で人の話を聞かない人間だった。比べて劉備は自分の意思はあまい代わりに人の考えを良く受け入れた。どちらが発展の目論見があるかは一目瞭然だった」

「……」

 

 

「だけど俺が本当に袁紹に興味がなかった理由は他にある」

「それは何?」

「理想だ」

 

理想?

 

「袁紹の場合、『妄想』という言葉がより相応しいが」

「あなたが見た麗羽の『理想』は何だったの?」

「お前に聞いてみよう。袁紹の理想はなんだったのか」

 

麗羽の理想。

 

麗羽は都を欲しがっていた。

正確には自分が董卓という誰かもしれない人間が自分が得られない地位に居ることに腹がたって引き起こした戦争だったけど、結局は袁紹が欲しかったのは洛陽。そして皇帝を自分の手駒にして天下を自分の思うようにするという………

 

……ちょっと待ちなさい。

 

「一刀」

「どうした、『華琳』」

「何が言いたいの?」

「お前が思っている『袁紹の理想』を言う。そしたら俺はそれを『くだらない』というつもりだった」

「くだらない…?」

 

つまり、あなたはこう言いたいのね。

 

「『天下なんてくだらない』と」

「くだらない」

 

彼の顔には少しの迷いもなかった。

彼は本当にそう思っていた。

 

天下なんてくだらない、と。

 

「天下を得ることが、大した業績だと思うか?くだらない。そもそも天下を得たことをどうやって証明する?都を得れば天下を得るのか?皇帝を操れば天下も操れるのか?『天下の全ての地に己の軍の旗が靡けば天下を得たのか?』」

 

彼は麗羽を咎めようとしているのではなかった。

そもそも麗羽なんて彼の眼中にもなかったから、咎める価値さえもなかった。

 

そう。

彼が責めているのは、攻撃しているのは

 

『私の覇道』

 

そもそも彼が私の側に居た理由。

彼に興味を湧かせた全ての始まり。

 

「『覇道』とはなんだ、華琳。天下を自分の手に入れることが『覇道』か。それこそ袁紹が望んだものと何の代わりもない。この戦で、俺はその気になれば洛陽を手に入れ、皇帝の夫になることも出来た。それで皇帝を傀儡にしてお前たちを鎮めれば、それで乱世は終わり『天下は俺のもの』になっていたかもしれない」

 

 

 

…今とても聞き流せないことを言った気がしたけど。

 

「だが俺はそうしなかった。理由は簡単だ。天下なんて俺は興味ない。そんなもの明日食べるスイーツの名前ほどの興味もない。そもそも俺に明日があるかも判らないがな。

 

怒っているか、華琳?

悔しいか、華琳?

お前の覇道を侮辱する俺を殺したいか、華琳?

 

その前に答えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『覇道』とはなんだ?」

 

 

 

 

 


 
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