No.56451

真・恋姫✝無双 魏アフター・弐~忠義のカタチ、憎悪のカケラ~

時間があったので二話目をば。
前回でも書きましたが、オリキャラが結構頑張る話です。これは、新たな人との触れ合いで一刀を成長させたいという意図と、原作に未登場のあのキャラとか出したいなぁという作者の超個人的願望によるものです(歴史的に存在しない人物に関しては含むものありです)。とはいえ、そういうものが嫌いという方はお読みにならないことをお勧めします。
なお、今回いささか原作にケチをつけるような記述がありますが、こちらにそのような意図はありません。むしろ、涙腺緩ませながら魏ルートを終えたくらいですので、悪しからずご了承くださいませ。


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2009-02-06 23:10:07 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:16107   閲覧ユーザー数:12381

 

真・恋姫✝無双 魏アフター・弐~忠義のカタチ、憎悪のカケラ~

 

 

「曹操殿に……謀反を起こそうと思っている」

龍志の口から発せられた言葉に、一刀は一瞬彼が何を言っているのか解らなかった。

(え…と……確か今、謀反って言ったよな……)

「龍志さん?」

「ああ」

「えっと…それって俺が考えている謀反でいいのかな?」

「察するに、それでかまわないと思う」

ニコリともせず、いつもの優しげな眼を猛禽のそれのように鋭くして龍志は答えた。

それすなわち、彼が冗談を言っているのではないということだ。

「えっと…その……あの…」

一刀は何を言っていいかわからない。

彼にとっては、目の前の友人と謀反がどう繋がるのかすら解らなかった。

「その……何で?」

ようやく口から出たのはただそれだけ。

「……とりあえず、驚かせておいて何だが、落ち着いてくれ」

そう言って龍志は一刀が知らぬ間に強く握りしめていた湯呑に、お茶を注いだ。

「あ、ああ……」

おもむろにそれを一刀は一口飲む。

知らぬ間に、彼の口の中はカラカラに乾いていた。

 

 

 

「まず…この大陸の情勢から教えねばなるまい」

言葉を選ぶように時折視線をさまよわせながらも、しっかりとした口調で龍志は語り始める。

「魏と蜀呉連合軍の決戦後、曹操殿は劉備を蜀王に孫策を呉王に任じ、三国同盟を結んだ……ここまでは知っているな?」

「ああ、そこまでは俺の帰る直前の話だ」

「うむ、それにより天下太平という同じ志を持つ三国の国交は必然的に強まり、数か月に一度は三国いずれかの国で祭事が行われるほどの平和を築くことに成功した」

「それは…素晴らしいことじゃないのか?」

三国が手を取り合い、助け合いながら平和へと向かっている。

そのどこに不満があり、龍志は謀反を起こすというのだろうか?

「確かに…実にすばらしい。それだけなら俺も毎日祝杯をあげたいくらいだ」

「え?」

「光があれば影があるのが事の常だ。三国の首脳陣はそれでいい、問題は末端だ」

「末端?天下が平和になったんだ、どうしてそれにわざわざ不満を……」

「……北郷殿、決戦の後には勲労彰功が行われるだろう?」

「ん?ああ……あ!?」

はっと気付いたような顔をした一刀に、龍志は肩をすくめながら。

「そういうことだ。戦には勝ったが、領地も財宝もほとんど手に入らなかった。必然的に功労者への報償に弊害が生じるだろう」

戦に勝つ、そのためには多くの将兵の労力と犠牲が必要だ。

それらを払いながら天下を統一して、もしも報酬が無かったなら……。

「そのことで一時期魏は荒れてな、まあ戦死者の領地を分割したり国有地を割いたりしてうまいこと片づけたんだが、やはり不満が残った」

深々と龍志は溜息をつく。

「おかげで俺も大した報償はもらえなかったよ。頑張って後方支援をしたんだがなぁ」

「じゃあ龍志さんは…そのことが不満で謀反を?」

「そう思うか?」

「いや、思わない」

はっきりと言った一刀に、龍志は少しだけ眉を動かした。

「龍志さんは手柄とか報酬とかそういうことにこだわる人じゃなかったはずだ。もしそう言う人なら、華琳に仕官したときにあんなことをするはずがない」

「ふ…買いかぶりすぎだ」

それはさておき。と龍志は話を進める。

「次に問題だったのは信念の問題さ、目標や生き方と置き換えてもいいな」

「信念?」

「北郷殿、曹操殿は稀代の英雄だ。少なくとも俺はそう思っている」

「ああ、それは俺も同感だ」

「そう…その英雄の器に魅せられて多くの人材が彼女のもとへ集まった。彼女に天下統一の夢を見てね……」

そう言った時、龍志の唇が皮肉気に歪む。

「彼らの多くが望んだ、曹操殿による天下、曹操殿が作る太平の世、そしてそのために各々が死力を尽くした、そしてその果てに曹操殿が得たものが……」

「魏という……三分された天下の一つか」

一刀にも、龍志が何を言いたいのか解って来た。

「そう、曹操殿による天下統一を夢見ていた者たちにとって、それを目前にして天下を三つに分けられた曹操殿に失望……いや、失意と言ったほうがいいかな。それを抱いたものは決して少なくなかった。彼らにしてみれば、最後の最後で裏切られたようなものだ。彼らのすべてが劉備や孫策を認めているわけではない。そしてそれは蜀や呉にも言えたことだ、それぞれの国の臣はそれぞれの国の王による天下統一を夢見……その果てが突然の三国同盟」

「……やりきれなかったろうな」

「ああ。それでも今まで自分が頂いてきた主。今更捨てることもできず、かといって今の天下に納得もできずにいる者が各国に少なからず存在している」

加えて。と龍志は言葉をつなげる。

「三国間に生まれた憎悪はそう簡単に消えることはない……今の天下を快く思わないものは少なくないんだ」

深く深く…龍志は溜息を吐いた。

この生真面目な友人は、自分が消えてからきっと長い間今の天下を憂いて来たのだろう。

そう思うと、一刀の心の中になんだかやるせない思いが浮かんでくる。

 

だが。

 

「それでも、それが龍志さんが謀反をする理由には思えないんだけど」

 

 

 

「俺の記憶が正しければ龍志さんは、劉備や孫策のことを認めていたはずだ。それに、華琳の天下統一よりもむしろ華琳の生き方そのものに興味を抱いていた」

「………」

「そんな龍志さんが、今言ったような理由で謀反を起こすなんて俺には思えない」

じっと一刀は龍志の瞳を見る。

深緑という言葉の似合う、その深い深い海を。

「………」

龍志もまた、静かに一刀の瞳を見返した。

「………」

「………」

「………ふふ」

どれほどそうしていただろう。

不意に一刀の口から笑みが漏れた。

「…はは」

つられて龍志も笑みをこぼす。

「ははは、何やってんだろうね俺。腹なんて探らなくても教えてもらえるのに」

「おや、真実を言うとは一言も言っていないが?」

「今さらだよ……それくらいは解る」

微かに笑みを浮かべたままこちらを見る一刀を、龍志はしげしげと眺め。

「ふむ…どうやら男女問わず口説き文句が染みついているようだな」

「はいぃ!?」

「だが残念ながら俺にはそっちの趣味はないぞ」

「俺もだよ!!」

ムキになって否定する一刀に、カラカラと龍志は笑い。

「ははは、いやすまなかったな。では、改めて話の続きと行こうか」

表情を改め居住まいを正した。

一刀も顔を真剣なものに改める。

「先程言ったことは本当だ。しかし、それらはまだまだ看過できる程度のものだったんだ、半年前までは」

「半年前?」

「ああ、その頃を境にそういう不満を煽っている奴がいるようでな、少しずつだが確実に各国で不満が増してきている」

「いったい誰が?」

「判らない…各国で犯人を捜しているようだが足取りすら掴めず今に至っている」

「優秀な人材を抱える三国が尻尾も掴めないなんて……」

「そんなこんなで、今や三国はどこも火種を抱えている状態だ。かといって確たる証拠もなしに不満を持っているからというだけで誰かを裁こうものなら、その火種は一気に爆発する……把握されていない火種も少なくないしな」

「つまり…何時内乱がおこってもおかしくない?」

「そういうことだ。俺は年内にも動きがあると見ている。それはどこも同じみたいで、表面上は平穏だが、裏ではかなりの警戒態勢が引かれているようだ」

龍志は一口お茶を啜る。

ぬるかったのか眉をしかめていたが。

「やっと三国が足並みを揃えていこうって矢先に内乱なんてのは、どこも願い下げだ。加えてもし内乱がおこればそれは芋蔓式に広がるだろう。鎮圧されるのは確実だろうが、その間に間違いなく国は荒れ、罪なき民が死ぬことになる……そうなる前に、そうなる前に俺は動く」

「………!!」

龍志の双眸が強い光を放った気がして、不覚にも一刀は怯んでしまった。

「俺が動けば、各国の不平分子に必ず動きがある。動きがあれば各国政府が片っぱしからそれを処理することができる」

「でも、そうなったら内乱が拡大するだけなんじゃ?」

「あと数カ月もしたらな。だが現状ではまだ内乱を起こすだけの準備を整えている奴はいないはずだ。下手に動く物騒な奴が捕まり、慎重な奴等は動きを自粛して様子を見るだろう。それに、俺という三国共通の敵ができれば、三国の連携は今以上深まり不平分子も当面の敵である俺に当たらざるを得なくなる」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

思わず一刀は叫んでいた。

「そ、それじゃあ龍志さんは小規模な内乱の群発を防いで三国に調和をもたらすために……あえて一つの大乱を起こそうっていうのか!!」

「つまりはそういうことだ。有象無象による小規模な内乱が多発するより、俺の主導で大乱を起こしたほうが民の被害も少ない……いや、少なくしてみせる!!」

「で、でも…それでも……」

「…勿論、被害は出るさ、だが命を個数で考えるのが正しいとは思わないが、それでも俺は少しでも命が助かる方法を……」

「そうじゃない!!それじゃあ龍志さん一人が悪者になるってことじゃないか!!」

たまらず大声をあげた一刀に、龍志は目を丸くする。

「間違ってる…間違ってるよそんなの……確かに理想だけで国は動かない。でも、龍志さんが、誰よりも民を思える龍志さんが悪者に………」

理不尽さに声を震わせる一刀。

そんな一刀に、龍志は穏やかに笑いながら。

「………一刀」

北郷ではなく、一刀と言った

「俺はな、曹操殿に出会わなければあのままひっそりと一生を終えていただろう。それはそれで面白かったかも知れないが、少なくともこうして世に出たおかげで随分楽しい思いができた……その恩義を果たす時が今だと思うんだ」

「恩義を……」

「そう…不義という名の忠義でね」

そう言って笑う龍志に、一刀は何も言えなかった。

 

 

 

思えば、一刀が華琳のために乱世を駆け抜けたのも元は一宿一飯の恩義に報いるためであった。

それがいつの間にか恋や愛と言ったものに変わっていたが。

しかし愛と義という点で形は違えど、自分はこれほど華琳を思っていただろうか。

もし同じ状況になったとき、自分は龍志のように自ら悪名を背負う道を選べるだろうか。

勿論、自分と龍志は違うということは解る。

解るが、胸に抱いた疑念は一刀の心にじっとりとのしかかる。

いつもの一刀なら迷うことなくできると言っただろう。

だが、龍志の姿を見ていると自分の決意になぜか自信が持てなかった。

きっとこれは……。

 

「それで…だ」

「あ…うん」

龍志の声にはっと我に帰る。

「乱を起こすのは決まっていたんだが、正直旗印が俺と言うのは心もとないんだ。魏ではともかく蜀呉ではさして有名ではなくてな。単なる幽州刺史の反乱……いや間違ってはいないが、その程度の認識しか与えない可能性もある。乱の成功はともかくとしても最低大陸に風を起こす程度の衝撃が必要なんだ」

「それで……俺を旗印にか」

「……俺としてはしたくないが」

それくらい一刀にも解る。少なくとも彼の知る龍志は軽々と友人を謀反に巻き込むような男ではなかった。

「本当に必要なんだな……俺が」

「………ああ」

静かに頷く龍志。

それを深淵のような眼で見た後、一刀は一言。

「少し…考えさせてくれ」

とだけ言った。

 

 

 

 

 

 

 

龍志が出て行った後の部屋で、一刀は寝台に寝転がりぼんやりと天井を眺めていた。

頭の中で、先ほどの龍志の話を反芻する。

「不義という忠義……か」

ごろりと一刀は寝返りを打つ。

先ほどからこうして寝返りを打ってはまた天井を見るのを繰り返している。

その度に頭をよぎるのは、愛しい少女の姿。

どうしてこんなにも悩むのだろうか。

手を伸ばせば華琳に届く。ただ龍志の申し出を断れば彼のことだ、一刀の口を封じることもなく彼を華琳のもとに送り届けるだろう。

そう、自分が今まずするべきは華琳のもとへ帰ることじゃないのか?

華琳のもとへ行って、一緒に内乱について考えればいい。

そうすれば龍志が謀反を起こす必要など無いのかもしれない。

いや、謀反は起こるだろう。自分では間に合わない。

そう、華琳を取れば龍志を失い、龍志を取れば華琳を失う。

どちらを取るか……。

迷うまでもない、華琳を取ればいいのだ。

確かに龍志は友人だ、それも親友と言ってもいい。

だが、自分が身も心も捧げると誓ったのはただ一人、華琳のはずだ。

はずなのに……。

「…何を迷う」

華琳を選べばいい、そちらを選べば愛しい人とまた会える、約束も果たせる。

約束……。

 

「果たしてないじゃないか俺」

 

『ずっとそばにいる』

そう誓っておきながら、自分はあの消滅の時を受け入れていた。

どうしようもないのだと諦めていた。

そうそれは、まぎれもない華琳への裏切り。

忠義故に裏切らんとする龍志とは真逆の、しょうがないということを理由にした……。

解っていた。

先ほどからこの胸を締め付けているのが罪悪感であるということも。

「俺はまた華琳に会う資格があるのかな?」

その呟きは誰の耳に届くこともなく、シンとした部屋の空気に混ざって、消えた。

 

 

「……悪人だな」

一刀との話を終えた後、私室の椅子に座りながら龍志はそう呟いた。

「我ながら何とも……最低だ」

「されど、そうしなければならない。ならばそうするまでの話です」

龍志の呟きに、彼の向かいに台を挟んで座っていた男が言う。

その男の隣には、妙齢の美女が同じように座っていた。

「そう…それは解っている。だが……」

「残酷な運命を超えて再び巡り合った二人を分かつ。確かにいい気持ちはしません。ですが、彼を洛陽に戻したら間違いなく彼は殺され、この外史は破綻する」

その言葉に、龍志はピクリと身を震わせる。

「消えるはずのない彼が一度消え、再び戻ってきた。これはこの外史がまだ閉じられてはいないということにほかなりません」

「蒼亀……」

蒼亀と呼ばれた男は、じっと龍志を見ている。

「……そうだな。この外史の終幕を防がんがためにも、あいつを俺達の保護下から離すわけにはいかない」

「…幸い、彼のおかげで謀反の計画も進むわ。これはもう天命がこの外史の存続を願っているとしか思えないじゃない」

今まで黙っていた美女が口を開いた。

艶然とした、そして絡み付くような声が響く。

「仲達……天命という言葉を軽々しく口にするな」

「あらあら…はぁい」

龍志の咎めるような口調にも、忠達は舌を出して笑っただけだった。

「言われるまでもない……この好機、無為にはしない。そして、この一刀とこの外史は必ず守ってみせる」

決然と言う龍志に、頷いた二人は台の上に置かれた物を見る。

一刀を連れ帰った際に、美琉こと張儁艾が交戦した白装束の集団から持ち帰った白い頭巾がそこに置かれていた。

 

 

 

 

                    ~続く~


 
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