No.56311

真・恋姫✝無双 魏アフター~再来し天の御遣いと若き龍~

魏ルートのアフターを書いてみようと思いましたが、ただ一刀が普通に戻ったんじゃ面白くないかなぁと思って、オリキャラを交えつつちょっとしたアフター戦記を。ひねくれた作者が書くので、不快になられる方もいらっしゃるかと思いますが、その時は削除しますのでお伝えください。

2009-02-06 01:06:11 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:25295   閲覧ユーザー数:18208

 

改めて、オリキャラ多発注意報

 

 

 

魏ルートアフター~帰還せし天の御遣いと若き龍~

 

 

天の御遣い・北郷一刀そして乱世の奸雄・曹孟徳こと華琳の紡ぎし物語は、曹孟徳による三国鼎立により幕を閉じた。

そして、北郷一刀はその役目を終えて何処へと旅立った。

………かに見えた。

だが、外史の気まぐれかつ理不尽な業はいまだ一刀をとらえて離すことなくむしろその身を弄ぶかのように、彼を再び乱世へと送り込む。

そう、来るはずのなかった乱世へと。

 

「う…ん……」

閉じた瞼の上に降り注ぐ光と、穏やかなる爽風に一刀は未だ重い瞼をうっすらと開いた。

(?布団の中…ここは…どこだ?)

自分の今の状況を確かめんがために瞼を開こうとするも、眩しさにかなわず断念する。

仕方がないので、とりあえず記憶の海をあさってみることにした。

(そう…昨日は、蜀呉の連合軍に勝って、三国で手を取り合って大陸を治めることが決まって……そう、そしてその後、華琳に別れを告げて…)

『華琳』

その言葉が、一刀の胸の奥をチクリと痛めつける。

「華琳……」

思わず漏らしていた。

右も左もわからない世界に迷い込んだ自分を助けてくれた王。そして、乱世を共にくぐり抜けた最愛の女(ひと)。

(怒ってるだろうなぁ……)

怒っていないはずがないと苦笑する。

誰よりも強く気高く…寂しがり屋の女の子。そんな華琳をどれだけ自分は苦しめたのだろう。

彼女を苦しめた事に罪悪感を感じながらも、苦しんでいてほしいとも心のどこかで思ってしまう。

だって、彼女が苦しければ苦しいほど自分を思ってくれていたということなのだから。

自分がそうであるように。

 

(……とりあえず、目も慣れてきたし起きるか)

目を開け先は、懐かしき元の世界なのか、それともまたあの日のような青空なのだろうか。

(とりあえず、布団の中にいるみたいだから屋外ってことはないかな)

そんなことを思いながら、一刀が瞼をゆっくりと上げてみると。

 

……天井があった。

 

いや、屋内なのだから天井はあるだろう。

だがその天井はあの男子寮のものではなく、むしろ慣れ親しんだ洛陽の自室のそれに近い。

(また別の世界に飛ばされた?いや、ひょっとしてあの世界に残れた……?)

一刀の心に淡い期待が灯る。

その時。

 

「おや、やっと目を覚ましたか」

 

扉の開く音に続き、どこかで聞いたような声がした。

重い頭を動かして、そちらを見る。

「……龍志…さん?」

一刀の呟きに、龍志と呼ばれた男はふっと微笑み。

「ああ、いかにも。久しいな一刀殿」

束ねた長い髪を風に揺らしながらそう答えた。

龍志。字を瑚翔。

魏国において幽州刺史を務める知勇兼備の若き将である。

「龍志さんがいるってことは…俺はこの世界に残れたのか!?」

「ふむ、察するに君の言うとおりだろな。ここは君が現れ、曹操様と共に戦った世界だ。最も、君がいなくなって一年程経っているがな」

思わず飛び起きた一刀をドウドウとなだめながら、龍志は言葉を紡ぐ。

「あなたが北平の郊外で見つかった時は驚いたぞ。怪しい光を見たなんて報告があったから、美琉(みりゅう)を出してみたらあなたを連れて帰ってきたんだ」

言いながら、龍志は慣れた手つきでお茶を煎れていく。

一刀は寝台に腰かけてそれを聞いていた。

「あなたが昔この世界に来た時も光とともに来たというが…どうやら今回も同じみたいだな。どうだった?一年間の里帰りは」

「いや…実は華琳と別れたあと、気が付いたらここにいたんだ」

「おや、本当か?」

本当である。

おかげさまで、さっき一年程経っていると言われて目を丸くしてしまった。

「そうかそうか、まったくあなたも忙しい奴だな……まあ、なにはともあれまたこうして会えて嬉しいよ一刀殿」

微笑みながらお茶を差し出す龍志。

一刀も笑みを返しながらそれを受け取ると、一口飲んだ。

途端に広がる香ばしく爽やかな茶葉の香り。

「う~ん。フレーバー」

「『香り高い』って意味だったかな?ふふ、あなたのおかげですっかり天界の言葉にも慣れてしまった」

そしてまた二人で笑いあう。

 

 

一刀と龍志。この二人はそれなりに、いや深く友好を結んだ仲だ。

二人が会ったのは、官渡の決戦で袁紹を破った後だった。

あの決戦以降、袁紹は行方をくらまし旧袁紹領は後継者を巡る争いで分断された。

この時、曹操陣営は二つの意見に分かれた。

このまま勢いに乗り、一気に袁紹領を併呑しようという意見と、どうせ自滅の見えている敵など放っておいて一端洛陽に戻り他勢力に備えるべきだという意見。

河北を抑えたとはいえ、曹操領はまだ敵多くの敵に隣接する状態であった。

そんな折、降将・張郃が推薦したのが龍志だった。

龍志は袁紹の性格を嫌い、度重なる求めにも応じず出仕することなく野に埋もれていた。

しかし、その名は河北に轟き優秀な食客を抱えることで一目置かれる存在であり、河北の平定のみならず華琳が天下に覇を唱えるには必要な人物であると張郃は言ったのである。

そんなこんなで、龍志を招聘する使者に選ばれたのが一刀であった。

天の御遣いと呼ばれる一刀ならば、相手も無碍には扱うまいというのが華琳の考えだったのだが、正直見通しが甘かったといえる。

確かに龍志は一刀を丁重にもてなしたが、それは天の御遣いとしても曹操の使者としてでもなくただの客としてであった。

おまけに、あろうことか華琳宛てに一刀へとんでもない伝言を託したのだ。

曰く「曹孟徳、袁本初となんら変わることなし」と。

一刀はこの言葉を伝えた時のことを未だに鮮明に覚えている。

静かに、凍りついた笑みを浮かべた華琳。一刀に斬りかかった春蘭。

よく生きていたものだと思う。

とはいえ、一刀も僅かではあったが龍志と話してみて彼の人となりが何となく理解はしていた。

おそらく、龍志は華琳を試しているのだと。

そのことを華琳に言ってみると(途中でまた春蘭が「華琳様を試すとは何事だー!!」と暴れたが)華琳も興味が湧いたらしく、何と直々に龍志の屋敷へ押しかけたのだった。

英雄の突然の訪問に龍志は驚くこともせず、丁重に、されど遜ることなく華琳をもてなした。

その時の様子をセリフのみで簡潔に示すなら。

龍「わざわざお越しいただきありがとうございます」

華「構わないわ。それで?」

龍「はい?」

華「私を試したんでしょう?私はあなたのお眼鏡にかなったのかしら?」

龍「お気づきでしたか……ご無礼を承知で、試させていただきました」

華「構わないと言っているわ。問題は私があなたの眼鏡にかなうのかと、あなたが私の眼鏡にかなうのか」

龍「ふむ。少なくとも私はあなたを主君と認めてもよいと思っていますが」

華「あら、随分とあっさりなのね」

龍「真に私の力を必要となさっているかは、こうしてここにあなたが居ることが示しています。私は私の名だけを聞いて配下にしようとする者に仕えるなど願い下げです。私は私の力を使う意思のある者にしか仕えたくありません」

華「そう…そしてそれにそぐわなかったのが袁紹だったと?」

龍「いかにも……」

華「なるほど。確かに、真の賢者を図々しくも呼びつけようなんて私が浅慮だったわ。私の非礼を許して頂戴。そして改めて言うわ、あなたの力を私に貸してほしいの」

龍「このような青書生に礼を尽くしていただいたのです。どうして断れましょうか。曹孟徳殿。僅かばかりの我が才、我が命とともにあなたにお預けいたします」

とまあ、こんな具合だった。

それ以降、龍志は華琳の名代として張郃とともに河北を平定するという大役を見事にこなし、のみならず遼東の公孫康を屈服させ、鮮卑族など北方の異民族からも信頼を得、南征の際も後方から絶えることのない物資の輸送を行うなどまさに三面六臂の活躍であった。

功績をあげても奢ることなく、暮らしは常に質素で民に優しく人情に富み、部下の信頼も厚い。

「龍志さんはなんていうか万能超人だな」

一度、一刀がそう言ったことがある。その時龍志は思いのほか真剣なまなざしで。

「あなたもそう変わらないさ」

「そうか?俺なんて武芸はできないし仕事は遅いし、政治とかも……」

「謙遜するな、あなたの武芸は群を抜いているわけではないが決して弱くはないし、仕事も確実にこなしている、そして君の出す案はこの国に大いに役立っている。何より、部下のみならず上司にも愛されている、十分に万能じゃないか」

「はは、最後ののおかげで『魏の種馬』なんて呼ばれてるけどな」

「それは……日ごろの行いだな」

「うわ、酷っ!」

「だが事実だろう?」

そうして二人で大笑いした。

 

思えば、身分の貴賎を問わず皆が一刀を『天の御遣い』ととらえる中で、始めからそんな肩書など気にせずに接してくれたのが龍志だった。そして龍志にしても、一刀が華琳に諫言したおかげで今の自分があると思っているので恩義を感じていた。そんなこんなで、二人は徐々に仲良くなっていったのである。

 

「しかし一年か…俺がいない間にいろいろあったんじゃないか?」

「ああ、なによりいきなりの三国鼎立に国中が飛び上がったよ。今まで刃を交えていたもの同士がいきなり手を取り合って共に歩んで行こうっていうんだから、俺自身最初は我が耳を疑ったよ」

「ははは、だろうなぁ。俺も驚いたし」

「だろう?おまけにあなたまでいなくなるんだ、魏国首脳部が麻痺するんじゃないかって冷や冷やしたぞ」

「あ~それに関しては何とも言えない」

ポリポリと一刀は頭をかきながら苦笑した。

「夏候両将軍は覇気がないし、荀彧殿は憎まれ口を叩きながらも寂しげ、近衛隊の娘二人なんて思い出したように涙を流す、警備隊の三羽烏は新しい隊長の選定を拒否するわ、程昱、郭嘉両軍師は一見何ということもないがやはり時折寂しげな顔をされているよ。張遼将軍など会うたびに妬け酒の相手をさせられているさ」

龍志もまた笑いながら言う。

「そっか……」

「そうだ、しかし何よりも困ったのは曹操殿だ」

「え、華琳が?」

「おや、食い付きがいいな。流石は最愛の人といったところか」

「ちゃ、茶化さないでくれよ」

顔を真っ赤にして照れる一刀に、龍志はニヤニヤと笑い。

「茶化してなんかないさ。あなたがいなくなって以来、あなたとの夢を叶えんとするかのように政事に取り組まれてな、お体を崩されたことも一度や二度ではない」

「そうか…華琳が」

一刀は一度消えた時、最後に見た華琳の後姿を思い出す。

顔を見ることはできなかったが、その背中はとても小さく見えた。

大陸を治めた王の背とは思えないほどに、その背は小さかった。

「……早く戻って、慰めてやらないとな。あ、それより先に怒られそうだなぁ。流石にいきなり首を刎ねろなんてことはないだろうけど、二三発は殴られる覚悟しとかないと。それだけのことをしたんだし」

おどけながらも、本当に心の底から楽しげにそう言う一刀。

無理もない、もう二度と会えないと思っていた相手に再び会えるのだ。

そん人の為に、この世界に来たのだと。

そう思わせるほどの人物に再び会えるのだ。

無理もない、その気持ちは龍志にも痛いほど解る。

解るからこそ……。

 

「……一刀殿」

 

彼は言わねばならない。

 

「実は…長らく迷っていたのだが、あなたが再びこうして現れたことで踏ん切りがついた」

「え?」

「驚くだろうが……聞いて欲しい」

 

 

 

 

 

 

「………私は魏国に対して謀反を起こすつもりだ。できることならばあなたを王として」

 

 

 

 

 

 

どこかで、遠雷が聞こえた。

 

 

 

 

                                ~続く~

 

 
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