No.562009

同居人・最終話

きなこさん

これで終わりです

2013-04-02 21:52:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:382   閲覧ユーザー数:374

最終話 「別離・運命・真紅」

 

深夜、尿意で目が覚める

J 「あれ?」

隣で俺の安眠を妨害していた水銀燈の姿がない

J 「あいつもトイレか?」

そう考えながら一階へ下りると水銀燈が玄関の鏡の前に立っていた

水銀燈 「それじゃあ、nのフィールドから真紅の夢に行くわよ」

なにやらメイ姉さん方と何かしゃべってるよ

と、次の瞬間

 

---ふわぁぁぁ----

 

鏡が光った途端、水銀燈はその中へ消えていった

 

しばらくして俺は目を擦る

J 「そうだトイレ行かなきゃ・・・」

昔の人は言いました

安全に生きる一番の方法は無関心だと

今の俺は傍観者でいいよ、うん

 

 

翌日

 

無言で朝食をとる俺と水銀燈

J 「・・・」

水銀燈 「・・・」

なんていうか朝から水銀燈の様子がおかしい

なにかを考えてるような表情

そのせいでしゃべりかけ辛い

そして妙な雰囲気のまま食事は終わってしまう

 

水銀燈 「ふぅ・・・」

食後の皿洗いのときも時々ため息を漏らしてる

たまに難しいことを考えてることはあったが

ここまでひどいのは始めてだ

水銀燈 「はぁ・・・」

それを見て俺は意を決する

J 「あ、あのさ」

水銀燈 「なぁにぃ?」

J 「・・・せ、洗剤取ってくれる?」

その言葉に無言で洗剤を手渡す水銀燈

俺の馬鹿、根性なし

 

J 「それじゃ、いってくる」

水銀燈 「・・・いってらっしゃい」

玄関を出る俺に水銀燈は元気のない声で見送る

 

 

『水銀燈の様子がおかしい』

学校へ行くまで俺はそればかりを考えていた

そして学校へついてもそれは変わらない

 

秀吉 「おはっ」

岡田 「おっす」

としあき 「おはよう」

J 「ああ、おはよ・・・」

教室について三人に声をかけられても

気のない返事で返す

水銀燈の鬱が俺にも移ったかな

元気のない俺に三人は顔を見合わせる

 

岡田 「どうした?元気ないぞ」

秀吉 「拾い食いでもしたか?」

としあき 「ほらほら、大悪司の『さっちゃん』だよー」

心配して両脇に立つ二人と

俺の前でランチャーを振り回す馬鹿一人

J 「ちょっと悩み事」

すると秀吉が俺の背中をバシバシ叩く

秀吉 「おいおい、そういう時は俺達に相談しろよ

     わかった!女だな?」

当たってるところがむかつく

岡田 「どうした、柏葉にフラれたか?」

いきなり的外れな質問をありがとう

J 「どうしてそこで柏葉の名前が出てくんだ?」

岡田 「だってお前ら付き合ってんだろ?」

としあき 「なっ!?」

 

---がんっ----

 

俺は盛大に頭を机にめり込ませた

J 「いきなりなに言い出すんだよ

  脱力して頭ぶつけちまったじゃねぇか」

岡田 「だっていつも夕飯お前の家に運んでるんだろ?

    だから俺はてっきり気があるのかと、違うのか?」

J 「ああ、むしろ嫌われてるんじゃないかって思ってるんだぞ

  それに夕飯に関しては特別な事情からだ」

すると岡田は少しつまらなさそうに

岡田 「そうか」

 

秀吉 「それじゃ悩みって何だ?」

岡田 「俺達に解決できるとは思えないが

     話せば少しは楽になるかもしれないぞ」

としあき 「うむ、懺悔ならいくらでも聞いてやるぞ」

ありがとみんな、あととしあきはなにか勘違いしてないか?

 

とりあえず俺は話すことにした。

もちろん水銀燈のことを近所の野良猫に置き換えて

 

岡田 「つまりその猫が昨晩出て行って

    帰ってきたら元気がなかったと」

J 「ああ、ちょっと心配でな」

秀吉 「まさかお前が動物の事で悩むなんてな」

J 「いいだろ別に」

としあき 「実はその猫、違う人物に置き換えて話してないよね?」

J 「も、もちろんだとも」

なんてカンのいい奴

 

岡田 「様子がおかしいんだったら病院に連れてけば

    いいんじゃないか?」

J 「だけど野良猫だからな、保険入ってないし」

はっきり言ってそれだけの金はない

岡田 「確かにな、入ってないと結構とられるみたいだしな」

それ以前に人形が病院行っても医者が混乱するだけだろうしな

秀吉 「それじゃさ、なんか栄養のあるもん食わせれば?」

J 「栄養のあるものか」

いつもは乳酸菌取ってれば元気なんだけどね

その時、としあきが急に立ち上がる

としあき 「わかった!その猫の悩んでる理由

      猫同士の戦いがあってその猫はちょくちょくそれに出かけてたんだ

      そして今夜でその決着がつく

      だから緊張して元気がなかった、そうに違いない!」

J 「わかったから病院へ行け、そして頭の方を見てもらえ」

まったく、急に何を言い出すんだこいつは

 

そんなわけでたいして参考にならないアドバイスを貰い

俺はますます悩んだ

 

 

そして放課後

 

いつもより重い足どりで家にたどり着く

J 「ただいま・・・」

一日中悩んでたせいか頭痛がする

 

水銀燈 「おかえりぃ・・・」

リビングへ行くと水銀燈が窓の外を眺めながらしゃべる

朝と同じく元気がない

何か言おうと思ったんだが何も思いつかない

自分の家なのにこんなに居心地が悪いのは

母親が他の男を家に連れ込んで来た日以来だ

そう思った瞬間

J 「うぇっ」

急にすごい吐き気が襲ってきた

俺は急ぎトイレに駆け込む

気分は最悪、体がだるい、胃の中がぐちゃぐちゃになったみたいだ・・・

・・・頭使いすぎたかな?

 

トイレに十数分篭城していると突然呼び鈴がなった

J 「はぁい・・・」

ふらつきながら玄関に出て行くとそこには

巴 「夕飯・・・大丈夫?」

心配そうにこちらを見る巴の姿

J 「うん・・・なんでもないよ・・・」

今、鏡で顔見たら自分でも驚くような顔してるんだろうな

そんなことを考えながら巴から夕飯を受け取る

J 「いつもありがとな」

巴 「別に、嫌いじゃないから」

J 「え?」

巴の思いもよらない一言に思わず間抜けな声が出た

巴 「ごめん、今日話してるのたまたま聞こえちゃって」

その言葉に俺は今日のあいつらとの会話を思い出す

あのときか・・・

J 「いや、俺の方こそ・・・ごめん」

巴 「あの、私ね、その・・・」

何故か巴の顔が赤くなってるような気がする

おそらく夕日のせいだろう

巴 「あのね私・・・」

・・・・・・・・・

J 「ごめん、やっぱり気分悪いみたいだ・・・」

ふらつきながら言う俺に巴は「そう」とだけつぶやくと

そのまま駆けて家に帰ってしまった

なんでだ?巴が何か言おうとした一瞬、水銀燈の顔が浮かんだ

J 「くそっ、一体なんだってんだよ・・・」

 

 

水銀燈 「夕飯?」

台所で準備する俺に水銀燈が顔を覗かせる

J 「ああ」

水銀燈 「手伝うわぁ」

そう言うと皿を並べ始める水銀燈

 

銀・J 「「いただきます」」

朝と同様ほとんど会話のない食事だ

J 「な、なぁ」

俺は何とか気力を振り絞って水銀燈にしゃべりかける

水銀燈 「なに・・・?」

J 「えっと、その何だ、夕飯うまいな」

水銀燈 「そうね・・・」

って、言いたいことはこんなんじゃねぇんだよ!

俺が心の中で身悶えていると水銀燈がこちらを見る

水銀燈 「ねぇ人間」

J 「は、はい!?」

いきなりだったので声が少し高めだ

水銀燈 「今、テスト勉強って言うのやってるのよねぇ」

J 「そ、そうだけど」

水銀燈 「それって嫌じゃないの?最近いつも机に向って

      難しい顔してるじゃない」

質問の意図がわからん

J 「確かに嫌だけどやらなきゃいけないことだからな、仕方ないさ」

水銀燈 「仕方ない・・・」

そうつぶやくと水銀燈は再び黙ってしまった

畜生、何だ?この悶々とした気持ちは、欲情か?

いや違う、なんかむかつくんだよ、くそー・・・

だー、もうめんどい!!

 

J 「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

---ごんっ!!----

 

叫び声と同時に壁に向って俺は頭突きをかました

さすがにこれは驚いたのか眼を丸くする水銀燈

水銀燈 「に、人間?」

 

ふーっ、本日二度目の脳への衝撃でようやくすっきりした

なんか視界が赤いのは気のせいだろう

J 「水銀燈、あのさ、俺テスト終わったら夏休みになるんだよね」

水銀燈は無言でカクカクうなずく

J 「それでさ、もし水銀燈も予定がなかったら一緒に旅行に行かないか?」

水銀燈 「い、いきなりなに言ってるのよぉ」

J 「ごめん、俺馬鹿だから家族が悩んでるときなんていえばいいかわかんなかったんだ

  でもな、昔俺が悩んでたとき父親が旅行に連れて行ってくれたことを思い出したんだ。

  最初で最後だったけど・・・・・・

  その時すげー嬉しくて悩みなんか吹っ飛んだんだ

  だから水銀燈も旅行に行って嫌なこと忘れろ、な?」

自分でもわかるくらい馬鹿な提案だと思う。けど仕方ないじゃん

それしか思い浮かばなかったんだもん

水銀燈 「この後の予定・・・つまり明日以降の?」

J 「ああ、明日以降って言うかこれからの予定がなかったら、かな?」

すると水銀燈は顔を下に向けてしまう。そしてしばらくの沈黙

息をするのを忘れるくらいの沈黙の後、水銀燈はゆっくり顔を上げた

その時の彼女はとても優しい笑顔だった

水銀燈 「ええ、いいわ。行きましょう」

だが、同時に何故かどこか悲しみに満ちた顔でもあった

水銀燈 「これから先があるのならあなたと一緒に・・・」

 

 

 

深夜

珍しく水銀燈はカバンで眠った

 

夢を見た

俺の近くに誰かいて、影が動いてる

その直後、俺の頬に柔らかい感触がした

そして影は俺の耳元でこうつぶやいた

『それじゃ、いってくるわね』

それを聞いた途端、俺の意識は闇に落ちた

 

 

眼が覚めた時、水銀燈の姿はなく、カバンもなくなっていた

周りを見渡すと急に心に穴があいた感覚になった

J 「何だこれ?」

俺は涙が止まらなくなり、わけがわからなくなる

 

 

 

 

枕元はに黒い羽が一本残されていた

 

 

 

おわり

 

 


 
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