No.561479

真・恋姫無双 四月馬鹿 華琳編

y-skさん

桂花の話のつもりが何故か膨らみすぎて華琳様になってしまいました。
元々華琳様はちょろっとしか出ないはずだったし、短くてもいいよね。
久しぶり過ぎて口調がおかしくなってないか心配ですが、どうぞ宜しくお願いします。

桂花も書けたら書くよ!

2013-04-01 06:40:20 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2392   閲覧ユーザー数:2156

「エイプリルフール?」

 

怪訝そうに、彼女――華琳は呟く。

白い、磁器のように透き通った指先で、くるくると巻かれた、金砂の如き輝きを放つ髪を弄びながら、先を促すようにこちらへと目線を向けた。

 

「そう。四月馬鹿、なんて呼び方もあったかな? その日の午前中は嘘をついてもいい、っていう日なんだ。」

 

「それがどうかしたの?」

 

貴方のことだから、大体の検討は付くけどね、といかにも呆れきった風情で、華琳は言葉を続けた。

ご丁寧なことに、聞こえる程の大きな溜息も忘れずに。

 

「まぁ、多分、君が思った通りのことなんだけどね。」

 

阿呆なことを言っているといった自覚があるだけに、彼女の冷えた態度には、こちらとしても乾いた笑い声を上げる他にない。

 

「……そう。」

 

一言だけを零すと、華琳はもう一つ、これ見よがしに溜息をついた。

美しい髪へと伸びていた指先は目頭に当てられ、嗚呼この莫迦は、といった具合に軽く揉んでいるようである。

 

「一応、聞いといてあげるけど、何でそんなことを言い出したのよ。」

 

「なんでって、言われてもなぁ……。今日は四月一日かぁ。そういえば今日は――って感じで。」

 

「聞くだけ無駄だったわ。くだらない。四月馬鹿って、一刀、貴方みたいな考えなしのことじゃないの?」

 

「春の陽気にあてられて、という意味では間違ってないかもね。」

 

「何言ってるのよ……。開いた口が塞がらないとは正にこのことだわ。

 嘘でも建前でも、もうちょっとまともな理由を用意しておきなさいよ。」

 

「いや、面目ない。」

 

意図せぬ内に、頰を辺りを軽く掻きながら笑ってしまう。

失敗をした時、笑みを浮かべるのは日本人特有の仕草であると、耳にしたのは果たしていつであったか。

 

「まぁ、いいわ。そんな莫迦なことを臆面もなく言い出せたのも、世が治まった証でもあるのでしょう。少し位なら多めに見るわよ。」

 

「助かるよ。」

 

「……それに、故郷を――いえ、何でもないわ。嘘をつく日だって言うけれど、それに一体何の意味があるのかしら。」

 

「さぁ?」

 

「さぁ、って貴方……。」

 

「そう言われても、俺だって詳しく知らないんだよ。そういう日だってだけで。そうだな、強いて言うのなら――」

 

「強いて言うのなら?」

 

「楽しいから、かな?」

 

「私に聞かないでよ……。」

 

 

 

「ねぇ、一刀。」

 

華琳は、今までとは一つ、トーンを落として問いかけた。

その変化に、背筋を正して応じる。

何か、大切な話があると、そう思ったのである。

椅子から立ち上がった彼女は、窓辺へと寄った。視線は、そのまま外へと注がれているようである。

自然と、こちらに背を向ける形となった。

 

「この国は、この世界は、貴方にとって良い所かしら?」

 

彼女の表情を窺い知ることは出来ない。ただ、その言葉には、どこか物憂げな響きが感じられた。

 

「ああ。良い所だと、俺は思っているよ。」

 

――本当に?

 

小さく口にした彼女の背は、微かに震えているように見える。

それは、乱世の奸雄でも、誇り高き魏王でも、ましてや三国の覇王でもなく、寂しがり屋の女の子の姿であった。

 

「勿論、本当だ。間違いない。」

 

発した言葉の後には、沈黙が流れる。

 

「貴方の、貴方の居た国と比べても? 今日のことだって、莫迦な話と言ったけれど……。」

 

 故郷を、懐かしんでのことじゃないの?

 

華琳の声は、聞いた人間でさえ胸を痛めてしまうほどに怯えていた。

 

「確かに、そういった気持ちがなかったかと聞かれれば、そうだとは言い切れない。」

 

彼女は、こちらに背を向けたまま黙って聞いている。その背中は、より一層、小さく思えて仕方がない。

 

「向こうに戻ってさ。最初は、良かったんだ。家族に会えた。友人にも会えた。」

 

でもね、と幼子に諭すように、優しく続ける。

 

「駄目なんだ。向こうはさ、寂しいんだ。静か過ぎて。」

 

ゆっくりと彼女へと近づく。怯えさせないように、怖がらせないように。

 

「そして、何よりも。あの川辺の、あの月の下の、あの別離の時。気丈に振舞っていた君を、放っては置けなかった。」

 

そして、優しく後ろから抱きしめた。

ぴくりと、彼女は小さく肩を震わせる。

はじめ、強張っていた体からは、徐々に力が抜けていく。長い長い時間を掛けて、ゆっくりと彼女は身を委ねてきた。

華琳の体温が、ようやく熱く感じられてきた所で口を開く。

 

「例え、世界を敵にまわしても、君を守るって、言い回しがあるんだ。」

 

「ええ。」

 

「それってさ、お伽噺の中だけのことだと思ってたんだ。だけど、違う。違うんだ。現実にもあるんだって、分かった。」

 

「ええ。」

 

「君のためなら、君たちのためなら、世界を敵にまわしても良いって、心の底から思ったんだ。」

 

「……そこで、私のためだけに、と言ってくれない所が、一刀の駄目な所で、良い所なのでしょうね。」

 

「済まない。」

 

「いいのよ。分かり切ったことだもの。」

 

 

「ねぇ、一刀。ずっと、側にいてくれる?」

 

「約束する。」

 

「嘘じゃない?」

 

「本当だよ。」

 

 

「四月馬鹿。」

彼女は、悪戯っぽく言う。

 

「華琳が望むのなら、明日だって言うさ。」

笑いながら、強く強く抱きしめた。

 

 

 


 
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