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魔法幽霊ソウルフル田中 ~魔法少年? 初めから死んでます。~ 異次元さん「次元連結システムのちょっとし(ry」な番外編その2

はい、更新停止したんじゃねぇのってぐらい遅れてしまいました。
待っていた皆様、本当に申し訳ございません。ますます更新速度遅くなりそうですけど書き続けさせていただきます。

「完結させる」と宣言したからには必ず書き終えるつもりですので、よろしくお願いします。

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2013-03-22 23:39:24 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1143   閲覧ユーザー数:1059

田中達の決戦から時は遡り、3日程前。

海鳴市のとある場所にて『もう一つの決戦』が行われようとしていた。

 

老若男女、様々な人間が集まるその場所、ある一角のとある時間、その『戦場』は姿を表す。

 

一分、一秒とその時が近づく度に此度の決戦へ赴く戦士達が増えてゆく。

そしてそれに呼応するかの如く、辺りの人間は『戦場』となる場所から遠ざかり、雰囲気は異様なものとなっていった。

 

『決戦』まであと1分を切れば、もうそこは百戦錬磨の猛者達の独壇場。

 

 

--ある戦士は『速さ』を、誰よりも速く獲物の前へ辿り着き、全てを手にいれようと。

 

--ある戦士は『力』を、あらゆる障害を跳ね除け、悠然と獲物を捉えようと。

 

--ある戦士は『高さ』を、誰にも届かぬ空から、思うがままに獲物を蹂躙しようと。

 

十人十色の個性と武器を手にする戦士達、彼女らが求める『決戦』まであと数秒。

 

ここから先は情けも、恥も、外分も、全ては無意味。自然界の食物連鎖すら生温く感じる『決戦』の名前は----

 

 

 

 

 

 

 

「お客様大変お待たせしました! スーパー海鳴、3時からの『春のお野菜半額バーゲン』でございまーす!」

 

「「「「「「お お お お お お!!!!」」」」」」

 

----『バーゲンセール』と言った。

 

 

 

 

 

「せいっ。ふむ、やはり野菜が入ってる棚の『底』に空間を繋いで手元の袋に落とした方が良さそうですね。大漁大漁」

 

----あと、戦士(主婦)達のなかにチート(異次元さん)が混ざってた。

 

 

 

魔法幽霊ソウルフル田中番外編その2、八神さん家の都市伝説。

 

 

 

「人参にじゃがいも、他には海老にアサリ……。今晩はシーフードカレーでいきましょう」

 

アッサリと激戦を制し、まんまと戦利品(食材)を片手に帰路につく『異次元おじさん』こと異次元ダイスケ。

 

あらゆる異世界に存在し、迷い込んだ人間を元の世界に戻す怪談である彼は現在、八神はやての保護者代わりという名目で居候している身である。

 

今日ははやての代わりに晩ご飯の材料を調達しているのであった。

 

「はやてさんもたまには子供らしく、遊んで頂きたいですしね」

 

はやては家で『メリーさん』や『足売りばあさん』と遊んでいる。

初めこそ自分も一緒に行くと言っていたがメリーさんに「遊びたい」と駄々をこねられ、そして異次元さんも毎日はやてにご飯を作って貰うのも悪いから任せて欲しい、という言葉に甘えさせてもらったのだ。

 

まあ、まだ10歳にも満たないはやてが居候含め4人分の食事を作る、家事をこなすといった状態自体異常な事。

 

『いくら今まで一人暮らしだったからとはいえ、今は私達がいますし『家族』皆で支えあっていきましょう』

 

買い物に行く前に異次元さんはこんな事をはやてに言ったら、はやての涙腺が軽く決壊してひと騒ぎしたのもいい思い出だ。

 

 

「危うく勘違いしたメリーさんに切り刻まれるとこでしたが、まあいいでしょう……ん?」

 

シーフードカレーに使う材料を確認しながら歩く異次元さんだったが、スーパーの袋の中身に不安を覚える。

ガサガサと中を探っていると気づいた。

 

 

「しまった、イカを買い忘れてました……」

 

そう、シーフードカレーの材料には欠かせない『イカ』を買っていない事に。

 

「ふむ、仕方ありません。辺りに人はいませんし」

 

しかし、これで焦るようでは都市伝説は務まらない。

異次元さんは右手を開き手刀を作る、そして何もない目の前の空間によく狙いを定める。

居合抜きを行う侍の如く集中し、目を見開いて----

 

シュバッ! ズンッッ!!!

 

「チェストォッ! ……手応え、あり」

 

「ム、アレハ『イジゲンオジサン』。オーイ……ッテヌオオオ!? マ、マグロガ!!?」

 

まっすぐに放たれる『抜き手』、凄まじい速度と鋭さを備えたそれは空間を引き裂き、次元を飛び越え、今まさに太平洋を回遊していた太平洋本マグロのエラを貫いていた。

突然の攻撃に本マグロはパニックに陥る――――間も与えられずに海鳴市の空間へ引きずり出され、ビチビチとアスファルトの地面を跳ねることしかできない。

 

「間違えましたね……。おや、ティーさんじゃないですか。パトロールお疲れ様です」

 

「オ、オオ。ソッチモ、『オツカイ』ゴクロウサマ……、イヤ、『リョウ』ナノカ?」

 

「ははは、『漁』じゃないですよ。そうだ、この本マグロいかがですか? 私の求めてる食材とは違いましたので……」

 

「イイノカ!? スゴイモッタイナイキガスルガ、イイノカ!?」

 

 

 

その後もう一度次元跳躍抜き手を放ち、見事産地直送のイカをゲットした異次元さんは、海鳴市カラス連合リーダーのティーと喋りながら帰る事となった。

 

「スマナイナ、オレタチノバンメシマデ……フンッ」バキバキッ!

 

「マグロを握力で絞め殺すとは」

 

「シラナカッタノカ? ウミナリカラスハ、オオワシノアクリョクヲ、リョウガスル」

 

「多分貴方だけだと思いますよ」

 

ちなみにこの『海鳴カラス』というのは文字通り海鳴市のみに生息するカラスのこと、通常のカラスより遥かに賢く、群れのボスにいたっては猛禽類と見まごう程の大きさになるのだ。

 

ティーはとりあえず跳ねて邪魔なマグロの息の根を止めて話し始めた。

 

「マアソレハサテオイテ、オドロイタゾ。ジユウヲコノミ、ソクバクヲキラウアナタガ、マサカ『カゾク』ヲモツナンテナ」

 

「自分も正直驚いていますよ。帰る場所があるというのがあんなにも居心地が良かったなんて、以前の私には考えられない」

 

異次元さんは今までの自分を思い出す。

あらゆる世界を飛び回り、観光ついでに迷い込んだ人間を元の世界に帰した日々。

あの時に不満などある筈もなかったが、それでもこの世界ではやてやメリーさん、足売りさんと過ごした時間はそれ以上に楽しかった。

 

「メリーさんが遊びに誘って、はやてさんはそれに応じて、足売りさんが悪ノリして騒ぎになって、私がそれを収める。毎日こんな感じですから退屈はしませんよ」

 

「ホウ、グタイテキニハ?」

 

都市伝説が3人も暮らす家庭というものはどんな日常を送っているのか気になるらしく、ティーはそんなことを聞いてきた。

異次元さんは「そうですね……」と口に手を当て少し考え込む。

 

「あれは、メリーさんを着せ替えて遊ばれてた時の事です――――

 

 

『このゴスロリもええけど、チャイナ服も捨てがたいなぁ。うーん……なあメリー、どっちがええ?』

 

『はやてが好きなら何でもオッケーよ♪可愛く仕上げてね! あ、ダイスケはあっち行ってなさい、レディの着替えを覗くんじゃないわよ!』

 

『かしこまりました』

 

『ふぇっふぇっ、ちょうどいい物を仕入れてきたよぉ……。最近のわたしのトレンドは『ロボ×美少女』! というわけでメリーの足パーツには是非この『ガン○ムタイタス』の足を着けるといいさぁ!』

 

『ダイスケ、やっちゃって』

 

『足売りさん、ボッシュートです』

 

『もぎゃあぁあぁあ!!?』

 

『地割れの如く次元を割った!? というか何処に落としたん!?』

 

『ご安心を、彼女の脚力なら戻るのに5分もかからないでしょう。……もっともその内3分は空中ですけど』

 

『空中!? まあ足売りさんなら宇宙に放り出されても大丈夫やろうけど……。ところで異次元さん、このパーツの腕もっとらん?』

 

『ちょっ!? はやて何を『ありますよ、どうぞ』ちょっとダイスケ余計なことしないでよ!? というかどうしてもってるのよー!』

 

『メリー、わたしな、たまには『メリータイタス』とかネタに走ってみたいんよ。分かる?』

 

『わかりたくないっ! 大体そんな太くてゴツイパーツ絶対にあたしに入らな……いやあぁあぁああ!!?』

 

『恐ろしい程すんなりはまったな、流石タイタス』

 

『ええ、流石タイタスです』

 

『しくしくしくしく……』

 

 

――――みたいな感じですね」

 

「ミンナワルノリシテルダロ!?」

 

賑やかではあったが、皆暴走していた。

確かに毎日こんなだったら退屈しないであろう。

 

「シカシ、アナタハナンデモモッテイルノカ。フツータイタスノウデヲ、ツゴウヨクモチアワサナイゾ?」

 

「伊達に異世界を巡っていませんから、大概の物は揃ってますよ? 昨日、田中さんに『今度頑丈な人型の人形が必要になるかもしれない』と頼まれたので自慢の甲冑コレクションから一つ差し上げるつもりですし」

 

「ドコデアツメタ、ソンナモノ。ソシテタナカハ、ナニヲスルツモリナンダ」

 

異次元さんがどこから甲冑を仕入れているのか、そして魔法少女たちと戦うと言っていた田中が人形を用意して何するつもりなのか問いただしたくなるティーである。

と、ここで田中のことが話題に上がったためか、会話の内容が田中の事にチェンジした。

 

 

「なんでも『ポルターガイストで操作して、魔法少女と幽霊を同時に相手にする』とか」

 

「……ダイジョウブナノカ、アイツハ。マエニ『トックン』二ツキアッタガ、カテルトオモエン」

 

ティーは思い出す、ちょっと前に『俺を怒らせてくれないか?』と頼まれて部下たちを用意して挑発させ、何故かハートフルボッコされていた様子を。

他の特訓も上手くはいっていないようだったようだし、相手は以前負けた幽霊と『魔法少女』、もう一度言おう、『魔法少女』である。

 

「相手が幽霊というだけでも、田中さんの性格上勝つのは難しいでしょう。その上魔法少女が相手となると……」

 

 

『だって、私の手にある魔法は涙も、恐怖も、幽霊もぜ~んぶ撃ち抜くの! あははハハハはハはハハははははっ!』

 

 

「「ゾクッ」」

 

大木の暴走体の時に出会ってしまった、田中の守護している人間にして魔法少女である高町なのは。

異次元さんとティーは『魔法少女』と聞いただけでなのはの暴走状態が浮かんでくるぐらいにはイメージが固定されてしまっていたりする。

 

「勝てる気がしませんね……まったくと言っていいほど。はやてさんには空を飛ぶ白い少女を見かけたら関わらないよう注意しないといけません……」

 

「ヤツノイウ『サクセン』ガ、ウマクイクトイイガ。オレモ、ブカタチニ『ソラヲトブシロイショウジョ』ヲミカケタラ、ナワバリアラソイヲイドムナ、トイッテオコウ……」

 

ちなみに、田中ははやてがいずれ魔法少女になることを都市伝説の面々に伝えていない。

本人は単に忘れているだけなのだが、これが後になってとんでもないことになってしまうのは少し先の話である。

 

 

「とはいえ、田中さんを死なせるわけにはいきません。いざとなれば花子さんが私に連絡をして、無理矢理でも戦線離脱させるように頼まれてますからね、勿論田中さんにはお話していません」

 

これを聞いてティーは安堵する、なにせ数ある都市伝説の中でも『異次元おじさん』程遭おうと思って遭える幽霊は他にいない。

なにせ遭うためには異世界に迷い込まなければいけないし、そんな彼が逃げに徹すれば次元を越えて追わなければいけないからだ。

 

「それに田中さんには聞きたいこともあります」

 

「キキタイコト?」

 

「はやてさんのことですよ」

 

それまでの雰囲気から一変、異次元さんの目が鋭くなる。

何かを警戒しているような、そんな目つきだった。

 

「あの家で居候をし始めた時から、ずっと疑問が浮かんでいたといいますか。腑に落ちないと言いますか、『不自然』なんですよ」

 

「フシゼン? ヤガミハヤテハ、フツウノショウジョダト、オモウゾ?」

 

異次元さんの言葉に首を傾げるティー。彼の知る限りでは八神はやてという少女は、確かに原因不明の病を患ってはいるものの、普通にやさしい少女のはずである。

ティーの思っていることが分かった異次元さんは「ああ、ちがうんです」と首を振る。

 

「不自然なのははやてさんではなくてですね、彼女を取り巻く『環境』のことです」

 

「カンキョウ……?」

 

そこでいったん異次元さんは言葉を切り、上を見る。

自分が思った疑問点について整理しているようだった。

 

「今から私が話すことはあくまで『疑問』です。ですからけっして真実ではないのですが……」

 

異次元さんは話し始める、八神はやてという少女についてまわる違和感を。

 

 

「まず第一に不自然なのは『10代にも満たないはやてさんが一人暮らしなのか』、ですね。いくら両親も、ほかに身寄りがなかったとしても、子供がたった一人で学校にも行かずに生活する……どう考えてもありえない。もっと荒廃した世界ならともかく……ここは法治国家ですよ」

 

「さらに、はやてさんはこれまで『グレアムおじさん』から送られたお金で生活していたわけですが、この『グレアムおじさん』にはやてさんは一度もあったことが無い。しかも『グレアムおじさん』は異世界にいる『魔導師』なんです、もちろんはやてさんは私たちに出会うまでこの事を知らなかった」

 

「ここまでくると、もう何か思惑があるとしか思えません。はやてさんは私たちが来るまでずっと一人で、会う人と言えば病院にいる石田先生ぐらい。『グレアムおじさん』から生活金だけが淡々と送られてそれで生きているだけ。これじゃまるで――――――牢獄の囚人だ」 

 

 

「カゴノナカデイカサレルトリ、カ。タシカニナ、グレアムオジサンハ、『エンジョ』シテイルノデハナク、『イカシテイルダケ』。ソウカンガエレルワケカ」

 

こうやって言葉にしてみると、『八神はやて』という少女がどれだけ異常な環境で生きていたのかを認識させられる。

この異常性の原因を知るために異次元さんは、自分たちがはやてと出会うきっかけを作った幽霊、田中太郎なら何かを知っているのではないかと踏んでいるのである。

 

「直接『グレアムおじさん』に問いただすこともできますし、今から田中さんに聞くことも出来ますが。前者は『危険』な気がしますし、後者は今忙しい。いずれ機会を見て話を伺うつもりです……と、長々と話していたら家に着いてしまいましたね」

 

「ム、モウツイタノカ」

 

そうこうしているうちに目の前には八神家が。

どうやらティーとの話もこれまでの様だ、最後に異次元さんは険しい表情になっていた顔をふっとゆるめる。

 

「とにかく今はジュエルシードの方が危険です。そちらが片付くまで私たちはこの生活を楽しむだけにしておきますよ。では、ティーさんも気を付けてくださいね」

 

「シンパイムヨウダ、アレガハツドウスルト、オレタチハ『イヤナオカン』ガハシルカラナ。アブナクナッタラニゲルサ」

 

バッサバッサとマグロを鷲掴みにして空高くへと舞い上がっていくティー。

適当に写真を撮って何かの雑誌に投稿したら間違いなく掲載されそうな光景だな、などと感想を抱いていた異次元さんは思う、今はこれでいいと。

 

確かにはやての事は気になるが、田中から『ジュエルシードを放っておけば世界が危ない』とまで言われているのだ。

ならば先ず目の前の問題を先に片付けなければ、違和感がどうだとか言ってられなくなるのは確実。

 

「今の私にできる事はジュエルシード回収に協力しながら、はやてさんと共に過ごす。いつも通りの日常を送るのが一番でしょう」

 

ガチャリと玄関へのドアを開ける。

家族がいる生活をいつも通りと思えるとは、自分も随分幸せ者だなと考えながら――――

 

 

 

 

 

 

「ダイスケぇっ、やっと帰ってきたあ! お願いだからなんとかしてぇ!!」

 

「ふぇーっふぇっふぇっふぇっ! どうだいこれがわたしのこーでぃねいと『水陸空万能型車椅子ポイメロライト』だよぉっ!!!」

 

「いやあぁあ!? 何やコレ車椅子に足がひっつきまくっとるー!!?」

 

――――はやての乗る車椅子がまるで昆虫の如く6本の生足を生やされ、ワサワサと重力を無視して壁を這い回るという実に気持ち悪い光景を目にする事となった。

 

「…………はぁ」

 

自分が目を離しただけでもうこの有様かと小さくため息をつく異次元さん。

少し騒がしすぎるこの家族のなかで、これから彼がやることはただ一つ。

 

 

 

「足売りさん、ボッシュートです。5分間空中で頭を冷やしてください」

 

「いい異次元おじさん!? ちょ、ま、3分でもかなりきつかっtもぎゃあああああ!!!」

 

事態収束の為、ボッシュートである。

 

 

 

数分後、地面に落下してボロボロになった足売りさんに車椅子の足を回収させ、八神家は晩御飯を食べる時間になった。

 

今日の晩御飯は異次元さんの予定どおりにシーフードカレー、調理もはやてがやるのではなく都市伝説達が担当した。

ちなみに都市伝説達の調理光景というのはこんな感じ。

 

「あのー、料理なら私がやるんやけど……?」

 

「いいんですよはやてさん。今日は私達に任せてください……ちぇりおっ!!」

 

「せめて素手やなくて包丁で野菜切ってもらいたいなー」

 

「痛っ!? ああもう使いにくいわね! ハサミでやった方が早いわ!」

 

「ピーラーよりハサミが皮むきに向いてるなんて聞いたことないんやけど、というかメリー怪我大丈夫なん?」

 

「ぐっ、このぉ……。なかなか新鮮な、がはっ。イカだねぇ……! あだだだ、から……み、つ、く」

 

「足売りさんなんで満身創痍のまま料理しようとしてるん!? こっち来て休んどき、ってイカがへばりついてえらいことになっとるし!?」

 

「離せぇ嬢ちゃん……! こいつのゲソは私がやるよぉ……!」

 

「どんだけ足に拘っとるねん!」

 

まさにカオスの権化だった、しかしそれでも食卓に並ぶシーフードカレーは見事な出来栄えである。

調理過程がアレとはいえ食材はまともだったからだろう。

 

まあその調理過程の所為ではやてがカレーを食べるのに若干の時間と覚悟を要した訳だが、なにわともあれ食事が始まるのであった。

 

 

「はやて食べてみてよ! あたしが腕によりをかけて作ったんだから美味しい筈!」

 

「う、うん……いただきます。えいっ----美味しい!」

 

どうやら味の方も見事な出来栄えであったようで、カレーを口にしたはやての表情が明るくなる。

 

「わたしが料理を手伝ったからねぇ、当然さぁ」

 

「足売りさんはイカの調理しかしてませんしたよね? ……うん、なかなかの出来です」

 

わざわざ手作りのルーを使っているとか、やけに新鮮な具のイカのことやら、ワイワイと料理の評価をしながら食事は進んでいく。

 

 

以前の八神家では考えられない程の騒がしい時間の中、ふと気になった様子で異次元さんが話題を料理から別のものへ切り替えた。

 

「そういえば。私が帰ってきた時のあの騒ぎって、何がどうしてあんなことになったのですか?」

 

あんなことというのは勿論、帰ってきた異次元さんを出迎えた6本足の不気味な車椅子『ポイメロライト』の事だ。

一体何がきっかけであんなタチ○マみたいな物を作ったのか、気にならない訳がない。

 

とりあえず真っ先に異次元さんの目がいったのは元凶である足売りさん。

ボッシュートが余程堪えたのか足売りさんは「ちち違うんだよぉ! わたしゃ悪くない!」と慌てふためいている。

 

 

「わたしゃ親切でやっただけさぁ! 嬢ちゃんとメリーが喧嘩してたから、喧嘩の原因を取り除こうと思ってやったんだよぉ……」

 

「え? 喧嘩していたのですか? お二人が?」

 

足売りさんの発言により、今度はメリーさんとはやてに視線を移す。

この二人が喧嘩をするというのはそれ程珍しい事ではない、何故ならメリーさんとはやての精神年齢が同じぐらいなので二人は姉妹のような関係だからだ。

 

ただ、二人の喧嘩の内容と言えば『着せ替えた服が似合わない』とか『変なパーツを付けた』等、足売りさんは別に興味をもたない様な理由が大半なのである、だから二人が喧嘩をしても足売りさんは何も出来ずにおろおろしているだけの筈。

 

その足売りさんが『喧嘩に干渉した』のだ、だからこそ異次元さんは驚いたのだが……。

 

 

「まずいわはやて、あたしたち何か面白いこと言わないとボッシュートされる」

 

「ならわたしに任せてな! この日の為に練習しとった『ゲームをしている最中に、猫にリセットボタン押されて落ち込む高橋名人のモノマネ』を……」

 

「しませんって、そしてはやてさん実は落ちる気満々でしょう。とにかく喧嘩について聞きたいんですが」

 

何やら細か過ぎて伝わらないモノマネをし始めたはやてを制止して、事情を聞く。

……初めてボッシュートを見せた日から、はやてがちょいちょいボケをかましてくる理由が分かった異次元さんであった。

 

「いや、喧嘩ゆうほど酷いもんやないけどなー……」

 

「あっ! ダイスケも説得しなさいよ! はやてったらすっごい頑固なんだからっ!」

 

「せ、説得?」

 

ビシリ、と指を突きつけられ異次元さんはたじろぐ。

二人の言いようからどうやらメリーさんがはやてに何か頼み事をして、中々了承してくれないといった所だろうか。

 

「『旅行』の話よ! 『旅行』のっ! お家で遊ぶだけじゃなくて偶には遠いとこに行ってみたい、っていってるの!」

 

バン! とテーブルを叩いて主張するメリーさん、しかし途端にはやてから「メリー、行儀悪いで」とお叱りを受けてしゅんとなってしまった。

 

「うっ、ごめんなさい……。でも、せっかく今の時期は大型連休なんだから、もったいないじゃない。それこそダイスケに頼めばエベレストからサハラ砂漠まで行き放題よ?」

 

「いや極端すぎるやろ。それに私の足はこんなやし、旅行いっても皆に迷惑がかかると思うし……」

 

「だからそんなの気にしなくてもいいの! あたし達がはやてを迷惑だなんて思うわけないじゃない!」

 

再び始まる二人の言い合いを見て異次元さんは全て理解できた。

つまり、足売りさんが何故あんな不気味な車椅子を作り出したのかというと。

 

「わたしゃ嬢ちゃんの車椅子を改良して、どこへ行くにも不自由の無いようにしただけだよぉ」

 

こういう事だった、確かに壁を這いずり回っていたあの車椅子ならいかに足場が悪かろうと自由に動くことができるだろう。

 

「貴女らしいやり方です、納得しましたよ。……ちなみに『ポイメロライト』の名前の由来は?」

 

「ふぇっふぇっふぇつ、よくぞ聞いてくれたぁ! 『水陸空万能』と銘打ったからには足も最高級品っ、『水』は『ポイヤウンペの足』、『陸』は『メロスの足』、最後に『空』は『ライト兄弟の足』を使ってるのさぁ!」

 

「ライトさん達の足使っても空は飛べませんよ!?」

 

じゃーん、と何処からか取り出した袋の中にある足を見せつける足売りさん。

足売りさんからしてみればかなりのラインナップなのだが、残念かな人類史上初飛行の足でも空を自由に飛べない上ビジュアル面で完全アウトな代物。

 

「ふっ、わたしを舐めちゃあいけないねぇ。こんなこともあろうかと飛行用義足『アトミック』を使うことも

 

「そんな核燃料で動きそうなロボ足を出さないで、片付けて下さい」

 

これ以上足もあんまり見たくないので異次元さんは足売りさんに袋を片付けさせる。

 

「旅行いきたいー! 花子達だけ温泉行くのはずるいー!」

 

「あ、それで旅行いきたいってゆうとったんやな。なら花子さんと一緒に温泉でええやん」

 

「ダメダメダメダメ……! ま、ま、魔法少女に見つかったらあたし達殺されちゃう……!」

 

「この街守っとる魔法少女てそんなに過激なん!? マフィアか何かか!?」

 

足売りさんと会話をしている内にはやて達の会話がヒートアップしていた。

いや、メリーさんの顔がみるみるうちに青ざめてしまっているからヒートダウンというべきか、一人の魔法少女がつけた心の傷はとても深いようだ。

 

「お願いだから思い出させないで……! とっ、とにかく! 近所じゃ命が危ないから外国とか遠いとこに行きたいの!」

 

「でもなぁ----

 

メリーさんは必死に説得するが、それでもまだ首を縦に振らないはやて。

そしてついに、メリーさんははやての態度に痺れを切らしてしまう。

 

「車椅子でも何でも迷惑じゃないって言ってるでしょ!? はやてのバカ! 意気地なし! もう知らないっ!!」

 

ガタンッ! と荒々しく席から立ち上がり、そのまま二階へと走り去ろうとするメリーさん。

 

「あっ!? 待ってメリー!!!」

 

はやてはメリーさんを傷つけてしまったと感じたのか、思わず椅子から身を乗り出して。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これで歩けるようなったらええのになぁ」

 

「やっぱり無理よね……ここアルプスじゃないし」

 

「二人共紛らわしい演技はやめて下さい、こっちがヒヤヒヤします」

 

二人同時にピタリと止まり、ため息をつく。

どうやら先程までの一連の会話から茶番だったらしい、異次元さんは思わずボッシュートしたくなる衝動に駆られるがなんとか堪える。

 

「あたしだって分かってるわよ、迷惑じゃなくても危ないかもしれないし、いろいろ難しいことぐらい」

 

「ほんとごめんな、観光までならええかもしれんけど……」

 

「いやよ見るだけなんて、あたし大自然を駆け回りたいもの」

 

「ホンマに元人形かっていうぐらいアウトドアやな」

 

二人は既に納得していたのである、旅行に行くことがどれだけ難しい事なのかを。

 

はやては車椅子だ、いくら一人で操作できる電動式とはいえ外で動き回れるような状態ではない。

その上この足は原因不明の病なのだ、つまりこれから先どうなっていくかが予想もつかないのである。

 

「はやてに何かあったら嫌だし旅行の事はもう諦めてるの。悪かったわねダイスケ、誤解させるようなことしちゃって」

 

「え、ええ」

 

本当は旅行に行きそうな表情だったが、はやての身体を心配してメリーさんは連休も家で大人しくすると言う。

異次元さんはメリーさんのこの発言を聞いて目を丸くした。

 

(まさか貴女が人を気遣うとは……はやてさんの人徳とかもあるのでしょうが)

 

幽霊という存在は、ごく一部を除いた大半が『未練』に縛られてこの世に留まっている。

だからなのか、行動原理にはこの『未練』を果たすことが第一となる者が多く、故に幽霊の殆どは自己中心的な考え方をするのだ。

 

その点で言えば『メリーさん』は捨てられた復讐の為に人々を襲う事を本質とした、幽霊のお手本みたいな存在だった。

そのメリーさんがである、自分の欲求よりも他者のことを優先したのだ、だから異次元さんは驚いたというわけ。

 

 

「だからわたしの足を使えば万事かいけt「アカンて、あんな車椅子で外出たら他の人が気絶する」

 

そしてぶれない足売りさん、いや、はやての足を取り替えずに車椅子にくっ付けようとしたのだから彼女も彼女なりにはやてを気遣っているのだろう、きっと。

 

(変わったのは私だけではないみたいですね、ふふふ……)

 

足売りさんはこの変化が、素直に嬉しいと感じていた。

都市伝説として人々から恐れられた自分達が、本物の家族の様に人と関わって変わっていく、まるで『生きていた』頃と変わらぬまま。

 

「はやてさん、メリーさん。諦めるにはまだ早いかもしれませんよ?」

 

「「?」」

 

だから異次元さんは家族の為に何かをしてあげたくなったのだ、たまに休暇をとって家族サービスをする父親の様に。

 

 

 

「『海水浴』なら、そうですね……ハワイ辺りならはやてさんでも一緒に楽しむことが出来ると思います。なあに、私に任せて下さい」

 

こうして、八神一家の大型連休の過ごし方が決まったのである。

 

 

 

 

 

「いやー流石南国。この時期でも余裕で海水浴日和ですね」

 

いつものスーツ姿から一転、麦わら帽子にグラサンをかけ、アロハシャツに身を包む異次元さんは南国特有の暑さに満足する。

 

翌日(と言っても時差の関係でハワイでは未だその日の11時)八神一家はオアフ島ハナウマ湾に着いていた。

 

青く輝く海、思わず目を瞑りたくなる太陽の陽射し、そしてバカンスを楽しむ人々の髪色や肌の違いから、ここが外国なんだということを思い知らせてくれる。

 

「おかしい、幾ら何でも日本からハワイまでの道のりがスムーズ過ぎるんやけど」

 

一方、異次元さんにおんぶされているはやては目の前の光景が信じられないらしくツッコミを入れていた。

ちなみにはやても水着を着ており、海で遊ぶ準備は万全である。

 

「驚くことないでしょ? だってダイスケは日本からハワイまでの距離なんて無い様なものだし」

 

人間態で同じく水着を着たメリーさんは、何を今更といった感じで返す。

そう、八神一家は異次元さんの力を使い八神家とハワイを直接繋いで来たのだ。

 

ハワイから日本までかかった時間は約2秒、その上飛行機を使わなかったので密入国は確実だったのだが……。

 

「いーやおかしいって! 異次元さんのゲート潜った瞬間から今晩泊まる予定のホテルの真ん前に出るわ、みんなの正体ばれたらアカンやないかて焦っとったらホテルの従業員さん総出で大歓迎されるわ、なんで突然現れたのに誰も驚かんの!? あんまり自然に事が進むから今までツッコムのも忘れとったわ!!!」

 

ハワイに着いた八神一家が初めて目にしたのはビーチで遊ぶ大勢の人とか青く綺麗な海とかそんなものじゃなくて、ホテルのロビーにズラリと並んだ従業員一同と何故か敷かれていたレッドカーペットだった。

 

密入国まがいな旅行だからてっきり人目を避けた場所に出るものと思っていたはやてはフリーズし、その間に従業員達がVIPに対応するかの如く手厚く歓迎&超豪華な部屋へ案内、異次元さんはホテルのオーナー的な人とかなり親しく話していた。

 

あの対応は、最早異次元さん達都市伝説が幽霊であることを知らないものではなかった、一体どうなっているのかとはやては言いたいのだ。

 

「ああ、それは……ここのオーナーさんとは知り合いでして。昔私は彼に『出遭い』元の世界に帰してあげた恩があるからですよ」

 

はやてのツッコミに対する異次元さんの答えはわかりやすいもので、要はそのホテルのオーナーは都市伝説、『異次元おじさん』に助けて貰った過去があるというものだった。

 

「ダイスケって怪談の性質上いろんな人間と関わりがあるから、けっこう顔が広いのよねー。文字通り世界規模で」

 

「異世界に迷い込む人間は意外と珍しいものではありませんからね……。勿論彼らは私がどういう存在なのか知っていますから別に正体を隠さなくてもいいわけです」

 

「なるほどなぁ……」

 

異次元おじさんはどちらかといえば人間には好意的な都市伝説なので、助けた人達にも良い印象をもたれている。

このため異次元さんは異世界に行く時は彼らに宿を借りることが多かったとか。

 

 

 

とにかくこれで、ホテルの件については納得できた。

あとはエメラルドグリーンの海に向かって南国をエンジョイするだけ……なのだが。

 

「それにしても足売りさん遅いなぁ」

 

「まだ水着に着替えてないのかしら? もう、海は目の前なのにー!」

 

そう、足売りさんがまだ来ていなかったのだ。

先刻、『わたしゃちょいと準備がかかるから、嬢ちゃん達は先に行っといてもらって構わないよぉ』と言って別れたのだが……。

 

「あーもー! 待ちきれないわ、あたし見てくるっ!」

 

「あ、メリーお願いな。もしかしたらなんかトラブルにあっとるかもしれんし」

 

さっさと遊びたいメリーさんは足売りさんを連れてくるべく戻っていった。

どちらかというと足売りさんはトラブルを起こす側だが、まあメリーさんがいれば何とかなるだろう。

 

「ちょうどいいですね、ならこの間にこちらも『準備』をすませましょうか」

 

「へ、準備?」

 

そういってはやてをおぶった異次元さんは海の方に向かって歩き出した、何も聞かされていないはやては何をするのか分からず動揺する。

 

「ちょ、異次元さん? もしかしてこのまま海に入るつもりなん?」

 

もしや異次元さんははやてを背負ったまま海で泳ぐ練習でもするつもりなのか、確かに自分は一人で水にははいれないが、と思ったはやては、あまりにも無茶すぎる行為に冷や汗をかくが……。

 

「いえいえそうではありません。実は『両足が動かない』はやてさんでも『海で泳げる方法』を考え付いたので、それを練習しておこうかと」

 

「泳げる……? わたしが?」

 

「言ったでしょう? 『私に任せてください』と」

 

にやり、と不敵に笑う異次元さん。

彼は八神一家全員がバカンスを楽しめるためにハワイに連れて来たのだ、はやてだけ砂浜で遊ぶなどさせるつもりはもとより無い。

 

異次元さんは片手で目の前の空間を切り裂き空いたゲートに手を突っ込む、どうやら倉庫代りの異世界から何かを探しているようだ。

 

「えーと、ここじゃない。確かあっちだったような……」

 

「ホンマに四次元○ケットみたいな能力やな。その異世界ゲート作るの」

 

「はは、努力すればはやてさんもできますよ……っと。ありました、これがあればはやてさんも泳げます」

 

「なんか聞き捨てならんこと聞いたような。え、もしかしてゲート作るのって人力なん? 物理的に穴あけとるん……て、『浮き輪』?」

 

異世界から取り出したのは『浮き輪』、何の変哲も無い正真正銘海の必需品、サイズもはやてに合わせて小さめな物で、魚のプリントがされている。

勿論足が動かないはやては浮き輪を使っても泳ぐのは難しい、だからこの浮き輪には何か特別な機能でもついているのかと注視するが……。

 

「これ……ホンマにただの浮き輪や」

 

「はい、特に仕掛けはありません。では早速これを付けて海に入りますよ」

 

「あの、異次元さん? 私は浮き輪付けても足が動かせんから進まんよ?」

 

言いながらも浮き輪を装着し、はやては異次元さんに抱えられたまま海へと入ってゆく。

異次元さんの腰が浸かる辺りではやては海へ下ろされた、異次元さんは背が高いので当然はやては足が着かず浮き輪のおかげてプカプカ浮かぶことになった。

 

「それがそうでもありません。『私達がいるなら』話は別です……よっと」

 

浮き輪に向かって右の掌を突き出す異次元さん、まるで何かを念じるかのように両目を瞑っている、すると……。

 

 

ス……ススス……

 

「わ、わわっ!? うごいとる!? なんで!?」

 

なんと、浮き輪が勝手に動き出した。

波に逆らって沖の方へ動いているので流されている訳ではない、何か力がかかって引っ張られているようだった。

 

「はやてさんにはお話ししてませんでしたか? これ『ポルターガイスト』ですよ」

 

そう、この力の正体は毎度お馴染みのポルターガイストである。

異次元さんは以前田中から「ポルターガイストを使って人形を動かすから、貸して欲しい」と頼まれていた、そこからこの方法を思い付いたのだ。

 

「ポルターガイストは生物以外なら何でも動かせます。そこではやてさんには浮き輪という対象を身につけてもらって、私達がはやてさんの行きたい方向へ動かせるようにします。ポルターガイストは幽霊なら誰でも使える能力ですから、はやてさんは私達の内一人が居れば自由に海を移動出来る訳です」

 

「ほえー、流石幽霊……て速い!? ちょ異次元さん速いはやいはやぁあぁあ!!?」

 

ポルターガイストのちょっとした応用だという事を説明していたら、はやてが水上オートバイも真っ青な速度でギュンギュンと水上を回ってしまっていた。

会話をしている内に集中力が途切れ、力の加減が甘くなってしまったのである。

 

「し、しまった! すいませんはやてさん!」

 

慌ててはやてを自分の方に移動させ停止させる、『準備がいる』というのはこれが原因、異次元さんは都市伝説なので霊格が高い、故にポルターガイストの出力も桁違いなっているので浮き輪を動かす時に手加減する必要があるのだ。

この手加減は力が大きいほど難しくなり、霊格の高い幽霊はだいたい大雑把且つ大規模なポルターガイストをしがちになる。

 

蛇足ではあるがそういう点において、花子さんや都市伝説ではないもののある程度霊格の高い田中は別格ともいえる、まあ異次元さんも器用なので出力を落とす位ならできるが。

 

「少し気を抜いていました……。次は大丈夫です」

 

「か、勘弁してな、余りの速度に胃から朝食が逆流するとこやった。……ホンマに大丈夫なんやな?」

 

「はい、そのつもりです。さっきの練習で精度は高くなりました、良い傾向です」

 

異次元さんの言葉になんとなくだが不安しか湧かないはやてである、主に速度的な意味で。

まあ大丈夫と言ったのだから大丈夫なのであろう、ポルターガイストの操作練習もほどほどにして後はメリーさんと足売りさんを待つだけになった。

 

 

「いやああああっ!! 助けてダイスケー! はやてー!」

 

「あ、メリー来た……どないした!? な、なんか怖い目に逢うたん!?」

 

早速来たと思ったメリーさんだが様子がおかしい。

瞳に涙をいっぱいにして駆け寄ってくる姿は、どう考えても何かから逃げているようにしか見えなかったからだ。

 

「何があったんですか! それに足売りさんは!?」

 

「おおおお願いダイスケ! 足売りさんが、足売りさんがぁぁ……『アレ』をこの世界に解き放ってはいけないわ!!!」

 

こちらに来たメリーさんは恐慌状態に陥っていて、まともに話ができていなかった。

あの『メリーさん』がである、ここまで彼女を怯えさせた存在といえば魔法少女しかいないぐらいだ。

 

(まっ、まさか。魔法関連の何かに襲われた……!? 足売りさんも、もう既に……!?)

 

異次元さんの頭に浮かぶ最悪のイメージ。

あの白い魔法少女はここにはいないが、だからといってハワイにもいないという保証は無いのだ、魔法少女を一人見たらあと40人はいると思え的な考え方である。

 

「落ち着くんや! メリー、足売りさんがどないしたって!?」

 

「あ、あああ、あっち。あっちから……アレが、アレが来ちゃう……!!」

 

メリーさんが指を指す方向、それは先程彼女が歩いた道であり必然的に足売りさんがいる筈だった方角。

彼女の動揺からして時間は余り残っていないと判断した異次元さんは両手を手刀の形にし臨戦体制をとる。

 

「 二人共私の後ろにっ! 最悪の場合はゲートで逃げて下さい!」

 

『アレ』とは何なのかさっぱり分からないままだが、異次元さんは全力を尽くして二人だけでも助けるつもりだった、例え自分がメリーさんや、足売りさんよりマイナーな都市伝説だとしても。

 

とんだ事態になってしまった、などと考えながら異次元さんはメリーさんの指指す方角を睨み付けていると……。

 

 

 

 

 

 

「ふぇーっふぇっふぇっ。嬢ちゃん、ちょいと待たせちまったねえ……」

 

そこには

 

「最近嬢ちゃんが風呂に入る度に『ウチの家族に足りないもの、それはええ形した胸や!』なんて言いながらメリーの胸触ってるからさぁ」

 

腰から上はしわくちゃで

 

「たまにゃわたしも良いとこ見せないと思ってねぇ。用意したんだよぉ、『クレオパトラの足』」

 

足だけが妙に艶かしい

 

「さあ! 胸はアレだけど尻は極上ッ!!! 世界三大美女の美脚をとくとご覧あr

「ボッシュぅぅぅトオオオオぉぉぉ!!!」

 

想像を絶する足売りさんがいたので、ボッシュートしました。

 

 

 

初っ端から波乱はあれど、こうして八神一家の家族旅行が幕を開けた。

これから先は、はやてにとってとても楽しい時間が待っている、しかし忘れてはならない。

 

 

「ふーっ、やっと居場所が特定できた。魔力も無しにハワイへ転移とか反則でしょ……。ま、最近あたしもついてないし、監視って名目で遊んじゃお♪アリアが聞いたら悔しがるぞ〜」

 

 

 

「もう、館長! なんでいきなりハワイ旅行に行くなんて言い出すんですか! 図書館も放ったらかしにして!」

 

「司書くん、野暮なことを聞くな。そこに海と! 水着と! 美女と! 美少女がある限り! 私は何処へでも駆けつけるのだよ! あと何か猫耳の気配もする!」

 

「お巡りさーん、この人です」

 

「ちょ!? 待ちたまえ司書くん! ハワイでは日本人旅行者が多いから日本語でも洒落にならないぞ!?」

 

「洒落じゃなくてマジで言ってるんです館長」

 

旅行に来てるのは、彼女らだけではないのだから。

 

 

 

さて、八神一家が訪れたハナウマ湾だが、ここはハワイでもとくに有名なダイビングスポットとして有名である。

砂浜からすぐそこにあるサンゴ礁には色とりどりの熱帯魚達が集まり、さながら宝石のような美しさを見せている。

 

(わ〜、綺麗やわホンマ。こんな近くにおっても全然逃げへんこの魚)

 

現在、シュノーケル付きゴーグルを装着したはやても目の前に広がる光景に見惚れていた。

サンゴ礁の隙間を縫って泳ぐ熱帯魚達は、海で泳いでいるはやての事などまるで気にしていない様子。

 

『えへへ、綺麗よね~。持って帰って飼ってみたいな~』

 

(!?)

 

耳元で響くメリーさんの声、しかし彼女ははやての隣、つまり水中にいる。

突然のことにはやてが驚くと、メリーさんの声は続けて説明しだした。

 

『ラップ音って水中でも鳴らせるの、便利でしょ。あー残念、ここの魚って触っちゃダメってビデオにも言われたしなぁ……』

 

そういう事だった、ちなみにビデオというのはハナウマ湾に入る前には必ず一度は見なければならない『ルール』について纏められたものだ。

ハナウマ湾の自然を保護するため湾内の自然には手を出してはいけないとか、ゴミの投棄は禁止といった内容で、約10分ぐらいの短い映像である。

 

 

とりあえずこのままでは会話が出来ないので、はやては水中から顔を上げることにした。

 

「ぷはっ。まあ仕方ないな……不法入国してる時点でもうアカンと思うけど」

 

「細かいことは気にしないの。それにしても、ダイスケ考えたわね。ポルターガイストで浮き輪を動かすなんて思いつかなかったわ」

 

メリーさんは感心した様子で海を移動するはやてを見る。

浮き輪を装着したはやてだが、浮力もなんのその、実は移動するだけではなく潜水もできるのだ。

これも、都市伝説である異次元さんの力があるからこそできる芸当だったりする。

 

「はやてさーん、メリーさーん」

 

「あ、ダイスケ」

 

「異次元さんどないした?」

 

ざっぱざっぱとクロールではやて達に近づいてくる異次元さん、何かあったのだろうかと二人はそちらに注目する。

 

「ふぅ、あまり遠くへ行かないで下さいね、距離が離れると制御が効かなくなりますから。それを伝えに来たんです」

 

「そうなんか、気をつけるわ」

 

「大丈夫よダイスケ、いざとなったらあたしがポルターガイストで動かすから。海流を」

 

「海流!?」

 

「やめて下さい、いくらポルターガイスト苦手だからってそんな大規模に動かしたら他の人に迷惑がかかります」

 

これが都市伝説の典型的なポルターガイスト使用例、ぶっちゃけ自然災害規模である。

 

「しかし、はやてさんも楽しんで頂けて幸いですよ。私も大分ポルターガイストに慣れてきましたし」

 

「ホンマ夢みたいや、まさかこうして皆と海で泳げるなんて思わんかった。ありがとうな、異次元さん。……皆で思い出したけど足売りさんどこいったん?」

 

「ああ、足売りさんなら……あちらに」

 

そう言って異次元さんが指をさした方向を見てみると。

 

 

「……………」

 

海面から真っ直ぐに突き出た美脚(クレオパトラの足)が2つ。

簡潔に表現するなら、犬神家状態でぶっ刺さっていたのだった。

 

「あの体制なら目の毒にはなりませんし。しばらく反省してもらいましょう」

 

「あー良かった。余りの気持ち悪さにあたし凄い動揺しちゃったから、あの体制なら問題ないわね」

 

「いや問題大ありやろ!? あれ息できんとちゃうか!?」

 

腰から頭までずっぽりと海に浸かってしまっている足売りさんは、ピクリとも動いていない。

実はもう手遅れなんじゃないだろうか。

 

「大丈夫ですよ、なにせ足売りさん肺活量が並外れてますから。伊達に足を売るためにしつこく付きまとってません」

 

確かに足売り婆さんは一度尋ねた相手をどこまでも追い続け逃がさない怪談だが、それでいいのか。

 

「それよりも、最近やけに風呂場が騒がしいと思えばなにをやってるんですか……足売りさんが暴走したのははやてさんにも原因があると思いますよ?」

 

「う゛。で、でもほら、おっぱいって癒しっていうか、母性の象徴やん? うちは足売りさんは論外やしメリーはまだまだ成長途中やから、ときどき無性に恋しくなるというかー……」

 

「だからってあたしの胸もむのはやめてよね。どーせあたしは成長なんてしないもん……ぐすん」

 

「あああごめんなメリー!?」

 

呆れ顔の異次元さんと、落ち込むメリーさん、そして見苦しい言い訳をするはやてはそのまま水上説教タイムへともつれこんでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「すばらしいっ! 雑誌で堪能するのも一興だが、やはり生で見る金髪美女の水着姿も捨てがたいッ!」

 

「なんでこの人逮捕されないんですかねー。ハワイまで来て白昼堂々とこんなこと叫んでるし……」

 

所同じくして、ハナウマ湾の砂場に二人の男女がいた。

言動だけでも分かりそうなものだが、男は海鳴図書館館長で女はその図書館で働いている司書である。

砂場に突き刺したビーチパラソルの下で体育座りをしている司書は、血走った目で周りの女性を観察している館長をみてため息を一つ。

 

「はぁー……。なんで昨日ハワイに行くって言い出して今日中に全ての準備が何事もなく終わってるんですか、図書館の方も代わりの方が管理してるし……」

 

「思い立ったら吉日即行動! が私の座右の銘だからね。ふふふそれにしても水着が似合ってるじゃないか司書君やはり私の見立てに間違いはなかった君の雰囲気ににぴったりマッチした『縞々』はその微乳をより一層きわだたせグバアアアアッ!!」

 

「微乳ゆうなっ! というか、館長からもらったこの水着もサイズがピッタリってどういうことなんです!? わたしサイズを言った覚えはありませんよ!?」

 

「ぐふっ、なかなか素晴らしいパンチだ……良い腋を見せてもら、まてまてもう堪能しなくてもいいからこぶしを収めるんだ。あと私は服の上からでもスリーサイズを当てることが出来るから問題な……目つぶしはやめてくれ!? ああでもマウントポジションから見える胸のささやかな谷間はごちそうさまぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「死ねっ! もしくは忘れろっ!!」

 

ドチュッ、グシャァッ! と砂浜で繰り広げられる惨劇、もとい制裁に周りの観光客がドン引きしているのだがはそんなことを気にしている暇はない、まずはこの歩く公然わいせつ罪を消すことが人類の為なのだ。

 

 

 

2、3分後~

 

「さて、司書君。そろそろ私たちもこの海を堪能しようではないか!」

 

「ぜぇ……ぜぇ……。あれだけボコボコにしたのになんでピンピンしてるんですか……?」

 

「はっはっは、この後に待ち受けるであろうエロスを想像すればたとえ五体を引き裂かれようとも生きられるというものだよ!」

 

辺りの人々が思わず目を覆うような制裁から一転、そこには制裁で体力を使い肩で息をしている司書と爽やかスマイルで仁王立ちする館長が。

そして驚くべきは館長の姿、司書による激しい制裁のおかげで主に顔が血まみれなのだが、怪我の跡がないのだ、恐るべしエロスの力。

 

「エロスって……ハッ、まさかこのまま私と一緒に海に入ってどさくさに紛れてセクハラする気ですね!? いやぁぁ! 助けておまわりさぁぁん!! ヘルプミー!!!」

 

館長のセリフに嫌な予感がした司書は大声を上げて助けを呼ぶ。

が、実を言うとさっきの制裁の方が警察沙汰になりそうだったことに気付いていない、呼ばれたとしてもつかまりそうなのは彼女の方だったりする。

 

「……相変わらず君の妄想力は豊かだなぁ、流石私が『文学少女っぽい容姿』だから採用しただけはある。まあ安心したまえ、私は君と海できゃっきゃうふふしてあわよくばラッキースケベを狙っているわけではない。いやできればそっちもしたいのだが」

 

「じ、じゃあいったい何をするつもりなんですか!?」

 

『きゃっきゃうふふ』というセリフに嫌な想像が膨らんできたのか、肩を抱いて震える司書。

「なにもそこまで引かなくても……」と肩を落とす館長、ちなみにこの男、エロスの塊のような人間だが女性に対して体を触ったセクハラ行為は一切しない人物である。言葉のセクハラは別だが。

 

「何をするも何も、普通にバカンスをエンジョイしてくれればいいのだが……。ここは有名なダイビングスポットだから潜って楽しむも良し、波もワイキキとは違って穏やかだからそのまま泳いでも良し」

 

「へ?」

 

「いつも君には助けてもらっているからな、この前木の化け物が来た時も最後まで残って私に逃げるよう言ったのも君だったし。優秀な司書である君へのサービスだよ、海外旅行も初めてなのだろう? しっかり楽しんでくれたまえ」

 

「か、館長……!」

 

「そしてあわよくば足でもつって溺れてくれれば合法的にキス(人工呼吸)合法的にパイタッチ(心臓マッサージ)もできるからごぶろべっ!!」

 

「んなこったろうと思ってましたよ! この変態!!!」

 

あくまで、合法的にならセクハラ行為する気満々であった。

司書の放ったボディブローが見事に決まりくの字に折れ曲がる館長、この司書意外と武闘派である。

 

「ぜったい、ぜぇったいに触らないで下さい! 訴えますからね!?」

 

相当なダメージが溜まってもなお崩れ落ちない館長に対し、まるで汚物をみるかのような目で言い放つ司書、バカンスにきたんじゃないのかお前ら。

 

 

「ぶふっ……それは無理な相談だ。もし君が危険に晒されたら、私は何と言われようと助けるからな。嫌なら準備体操を怠らぬよう……今迄の暴力で十分か」

 

そして不意に館長の口から出た真剣なセリフに、司書は一瞬固まってしまった。

見た目だけは良い男である彼がボロボロになりながらこんなセリフを言うと、かっこいいというか、似合うのである。

まあボロボロにしたのは司書なのだが。

 

「……っ!? わっ、わかってますよ! 絶対溺れませんからね!」

 

「ふむ、なら良し。さーて私は他に溺れている美女がいないか監視と洒落込もうかな! 待っていろ癒しのおっぱい! 母性の象徴よ!」

 

「………………」

 

「なんだね司書くん、言っておくが私はレスキューの資格は持っているぞ。こういう時の為に」

 

そして2秒で台無しにするのがこの館長である。

司書の見る目が最早石ころを見てるかのような状態まで冷めていった。

 

「別に、2秒前の自分の顔をはたいてやりたくなっただけです。ていうかこんな穏やかな海で溺れる人なんてそうそう…………あれ?」

 

呆れた様子で司書が海を見た時、視界に小さい『何か』が写った。

砂浜から少し沖の方に離れた海に何か、そう----

 

「…………」

 

『女性の両足』が海から突き出てるような……?

 

「っ!? かかか館長!! あ、あそこ人が……!?」

 

「! 司書くんは来てはいけないぞ、動揺していては逆に危険だ。とりあえず近くの建物で電話を貸りて連絡を頼む。 それにしてもあの美脚、クレオパトラの如き素晴らしい脚線美だ、そこらの美女がまるでかなわない程……待っていろ、すぐに助けに行くぞおおお!」

 

漢館長、海へ逝く。

 

 

 

 

 

「?」

 

「どうしたの、はやて?」

 

「いや、何か向こうで断末魔みたいな叫び声が聞こえた気が……?」

 

メリーさん達と海へもぐったり泳いで競争をして遊んでいたはやてが首を傾げる。

先程いた場所から遠く離れ、砂浜の喧騒は聞こえなくなっているので、多分気のせいということにした。

 

「こんなに平和なとこでそんな物聞こえる訳ないじゃない。ところでさ、次は何して遊ぶ?! 潜るのもちょっと飽きたしポルターガイストでビックウェーブ作ってサーフィンとか!」

 

「ですから、ダメですって。ワイキキビーチなら兎も角、こんな穏やかな海に激しい波を起こしたら色々まずいでしょう」

 

「えー! せっかく海に来たのよ! 渦潮とか作ってみたくなるじゃない?」

 

「最早お風呂気分ですか!?」

 

物凄い笑顔で物凄い物騒な遊びかたを提案するメリーさん。

旅行に行きたいという要望が叶ってかさっきからずっとこんな状態である。

 

「ぷっ、くくく……」

 

「はやて?」

 

そんな都市伝説達の浮かれた様子を見て、はやては吹き出してしまった。

 

「いや、なんかおかしくてな。メリーも異次元さんも、都市伝説ってあれだけ怖い話に出てくる幽霊やろ? それが普通に海で遊んどるからこう、ギャップが……」

 

それはそうだ、異次元さんはともかく都市伝説の中では凶悪な部類と言っていいであろうメリーさんが、どこにでもいる普通の少女と同じように海ではしゃいでいるのだから。

 

「あー、まぁ確かにね。あたし今までずぅっと町で人間おそってるばかりだったし、海に来たのは何度もあるけど、こうして遊ぶのって何気に初めてだったわ。……もしかしたら『海にメリーさんは出ないだろう』みたいなイメージであたし今弱くなってるかも?」

 

「確かになぁ、こんな海水浴場に都市伝説ってあんまりピンとこないし」

 

いくら観光地とはいえここは海外だ、いざという時は幽霊としての力が必要になるかもしれない。

そう思ったメリーさんは、今の自分の力がどれほどのものなのかを確かめるため試しにポルターガイストを使おうとしたのだが……。

 

 

「ところがどっこい、そうでもないさねぇ」

 

「どわぁっ! 足売りさん!?」

 

突然、なんの前触れもなく足売りさんが海から顔を出す、てっきりまだ犬神家状態なものと思っていた一同は驚いた。

 

「ば、馬鹿な……あの体勢から自力で脱出は不可能な筈……!?」

 

「ふぇっふぇっ、親切な兄ちゃんに助けてもらったのさぁ、だからもう一度空中に落とそうとするなもう足は戻してるよぉ異次元……」

 

先程の悪夢を思い出してか、やや錯乱しかける異次元さん。

海に浮いている足売りさんを落とそうとするなら、間違いなく海を縦割りしてモーゼ状態になりかねないことに気づいていないのが証拠である。

 

「あ、足売りさんを助けるって、奇特な人もおるもんやなぁ……。それよりも、『そうでもない』ってどういうことなん?」

 

で、その事に気付いて内心焦っていたはやては話を変えてしまおうと疑問を投げかけた。

 

「ああそうそう、嬢ちゃん。海水浴場に幽霊なんかいない、と言うのは大間違いということさぁ。普段は楽しい海水浴場でも必ず暗ぁーい部分もあるんだぁ」

 

すると、足売りさんはまるで怪談話をするかのように『ある幽霊』の存在を話し始めた。

 

 

「例えばそうさねぇ、海水浴に来て溺れ死んだ人間の霊なんか、海には腐る程いるんだよぉ……」

 

 

 

 

 

 

「〜〜♪」

 

グレアム提督の使い魔ことリーゼロッテは、人目につきにくいビーチの端辺りで泳いでいた。

普段は八神一家の監視という隠密行動のせいでなかなか体を動かせなかったために、海での水泳は丁度いいストレッチになる。

 

本来は猫である彼女だが、人間形態ならば水に濡れて体にへばりつく体毛なんて存在しないので別段水が嫌いなわけではないのだ。

むしろ程よく全身運動ができるから、肉体派の彼女は泳ぐのが好きであった。

 

「……っと、いけないいけない。近づきすぎたら駄目だった」

 

と、ある程度クロールで泳いだロッテは視界に捉えた八神一家に気付いて引き帰す。

八神一家は旅行でも、こちらは『監視』なのだ。

気付かれぬよう、しかし離れ過ぎず、尚且つ不審に思われないようにしなければならない、それぐらいの意識は当然ある。

 

「それにしても、あの子は足が動かない筈なのにどーやって泳いでるんだろう……」

 

自分と同じく、海で『泳いでいる』彼女達を見たロッテは当然の疑問を感じていた、車椅子で生活しているはやてが何故ここにいるのかを。

 

無論、ポルターガイストや幽霊の事を全く知らない彼女には答えを出す術はない、ここにグレアム提督がいたら『あれはもしや、水蜘蛛の術の応用か!?」などと100パーセント間違った答えを出すだろう。

 

「やっぱりあのばあさん達のおかげなのかな……。でも魔法で何かしてるわけじゃなさそうだし、魔力とは別の力……うーん」

 

考えても真実は見えない。

ただ一つ分かることがあるならば、つい最近から八神家に居候し始めた彼らが何かをしたのだということぐらいか。

 

かつて時空管理局本部へ単身攻め込み、自分を含めた局員を全て戦闘不能にしたあの老婆、そしてその知り合いらしい男性と金髪の少女。

グレアム提督は『彼らはニンジャだ!』と言ってはばからないがロッテはそう思っていない、あれは人間以上の『何か』だと本能で感じていた。

 

「……何にせよ、あのばあさんがあの子の味方でいる限り絶対戦うことになるだろうし。それまでの間に観察して、弱点の一つでも見つけないといけない」

 

そう、自分達は彼女達の『敵』なのだ、ならば恐れていてはならない。

いずれ打倒する為にも今はひたすらに『見る』ことに集中すべきだ、そう思いロッテは八神一家を観察し続ける。

 

 

 

 

ズ、ズズズ……

 

だからロッテは気づけなかった、海中から這いよる敵に。

『幽霊の出る場所で怪談をすれば遭う事になる』足売りさんが語り始めたとばっちりがロッテへ向かってきたのだった。

 

 

ガッ!

 

「っ!?」

 

強い力で右足首を掴まれた。

氷のように冷たく、男性の手のようなゴツゴツした感触。

 

 

 

「海で死んだ幽霊ってやつはねぇ、冷たくて暗い海の底に普段は地縛霊として縛り付けられてるから寂しくて仲間を欲しがってるのさぁ」

 

 

 

「がっ、な、だれっ!? うぷっ、っはっ!!?」

 

足を掴んだ手はそのままロッテを海中へ引きずり込むために下へと沈んでいく。

水の中で視界が歪み、肺に水が入る。

 

(くっ、このっ!!)

 

常人ならばまずパニックに陥り溺れてしまう状況だが、ロッテは拘束から逃れようと咄嗟に右足を掴む手に向かって左足で蹴りをはなつ――――が。

 

 

 

バシッ!

 

(んな!? 受け止められた!?)

 

 

 

「そして、そいつは一人じゃないんだよぉ。何人もの犠牲者たちが『寄り集まって』できてるのさぁ。だからそいつ等の力はわたしたち都市伝説にも匹敵するってわけだねぇ」

 

 

 

ロッテの蹴りを受け止めたのは、右手を掴んでいる手とは『全く違う感触』だった、まるで『小学生の子供の手』のように小さなもので、しかし氷のように冷たいのは同じだ。

そのまま左足も掴まれ、ますます引きずり込むスピードは上がってしまう。

 

(まずいまずいまずい! い、一体誰が----ひっ!?)

 

焦ったロッテは、とにかく襲撃者が誰なのかを確認しようとして、見た。

 

 

 

ゾゾゾゾゾゾ!

 

 

海の奥底から自分へと向かってくる、無数の白い手を。

 

(きゃああぁあぁああ!!?)

 

余りの恐ろしさにパニック状態になってしまったロッテ、悲鳴をあげそうになるが水中では代わりに口から空気がこぼれてゆくだけだった。

 

(しまっ、息が----!?)

 

慌てて口を閉じるがもう遅い、海面から空気を吸おうにも白い手達が彼女の体を縛り付けてしまっている。

 

次々と縛られていく体、両肩を女性の手に、右腕は老人の手に、左手も少女の手に、首も、腰も、体の全てを掴まれてしまった。

 

 

 

「犠牲者はあっと言う間に増えてって、いつしかそいつらは本当に都市伝説になっちまったのさぁ。『招き手』という都市伝説としてねぇ、今でも仲間を増やしてるって話だよぉ」

 

「ひぇ〜、えらいおっかない都市伝説もいるんやなぁ……」

 

「大丈夫よはやて、何があってもはやてはあたしが守ってあげるわ」

 

 

呼吸が出来ず、どんどん意識が朦朧としていく。

このままでは確実に死ぬ、そう分かっていても何もできないロッテは、ただただ理不尽を呪うしかなかった。

 

(苦……しい。なんで、あたし……死ぬの? やだ、いやだ……)

 

苦しさのあまりなのか、最早死ぬ寸前なのか、不意に体が浮くような感触を受けロッテは恐怖しながら----

 

 

 

 

「あっ、そういえば最近『招き手』の最新の噂を聞きましたよ」

 

 

ザパッ、と海上に持ち上げられて。

 

 

「なんでも最近、新しく『凄腕のマッサージ師』が死者に加わったので怪談の方向性を大幅に変更したとか」

 

「なん……やて……!?」

 

 

 

なんか、身体中の色んな部分を弄られ始めた。

 

「ひゃんっ!?」

 

突然下腹部やら胸やらにビリッと走った刺激、このまま窒息死させられると思っていたロッテは予想もしてなかったので妙に色っぽい声が出てしまった。

 

 

 

「その凄腕マッサージ師が他の招き手にマッサージを教えたから、今では全身マッサージによって人を癒す怪談になってるそうです」

 

 

モミモミサワサワグッグットントングイグイ…………

 

「な、なにこれ……、くっ、ん。ま、マッサージしてるの……?」

 

無数の手によって一斉に行われる全身マッサージは、どれも確実にロッテのツボを抑え、尚且つ痛みを伴わない絶妙な力加減により確かにロッテを癒していく。

 

しかし、異次元さんのこの話。実は一つだけ訂正がある。

 

 

 

モミモミサワサワグッグットントングイグイ………………『クチュ』

 

「〜〜っ、ソコ気持ちイイ……んひゃぃっ!? あん、どこ触ってああん! や、あぁあぁああ!!」

 

凄腕マッサージ師は凄腕マッサージ師でも、『性感マッサージ師』だったりする事だ。

 

「ふぁ、入っ……!? あっ、あっ、らめ。ソコは……ひぐうぅっっ!!?」

 

ドコをナニしているのかは、ご想像にお任せします。あとロッテさんエロい。

 

 

 

 

 

「あー、海楽しかった! もっと遊びたかったなー、ね! はやて!」

 

「ホンマやなぁ、けどここは遊べる時間が決まっとるから仕方ないな」

 

ハナウマ湾近辺の街を歩いている一行。

楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもので、ハナウマ湾の営業終了時間が間近に迫り、八神一家はホテルへと向かっていた。

 

口ではああ言っているがメリーさんもはやても海で遊べた事に大満足だったようで、車椅子を押すメリーさんの足取りも軽く、子供のようにはしゃいでいるのが見て取れる。

 

「容姿も全然違うのに、まるで姉妹みたいだねぇ」

 

「いいことじゃないですか、家族なんですから……二人とも、あまり離れないでくださいよー!」

 

その後ろを並んで歩く異次元さんと足売りさんは二人の様子を微笑ましく見ていた。

普段は家事をしっかりこなし、やんちゃをするメリーさんや足売りさんを諌めているはやてはどちらかというと母親的なポジションなのだが、今この瞬間は確かに姉妹である。

 

「ダイスケ達が遅いのよーっ! ほらほら早く、なんならどっちが早く着くか競争しましょ!」

 

「わっ、速い速い! 気をつけてな!?」

 

「ふぇっふぇっふぇっ、わたしに競争とは無謀だったねぇ……。今こそ超速度特化義足『フラジール』の出番

 

「そんな汚染物質を噴射しながら飛びそうな足を使わないで下さい。もうすぐつきますから歩いて行きましょう」

 

車椅子を押しながら駆け出すメリーさんに対して、なにか薄い板のような義足を取り出そうとした足売りさんを食い止める。

ちなみに足売りさん、スクリューがついてたり海中でも何故か消えない炎が噴き出すブースト義足を付けたりして好き放題している、おそらく海で一番楽しんでいたのは彼女だろう。

 

 

それはさておいて、異次元さんが『もうすぐつく』と言っていたが、その場所とはホテルの事ではない。

ホテルへ行くだけなら異次元さんの力でさっさと帰ればよいのだから。

 

「こっちこっち! 今ちょうどいい時間よ!」

 

海より少し高い所にある高台、そこから海が一望できるその場所が目的地だ。

一同はそこに集まって海を眺めると……。

 

 

「わぁ……夕焼け、綺麗や……」

 

「こりゃあ見事なオレンジ色だねぇ」

 

「たまには瞬間移動せずに寄り道も悪くないですね」

 

「すっごーい……」

 

そこには夕日と、夕焼け色に染まった海が視界いっぱいに輝いていた。

そう、この夕焼けを見に八神一家は歩いて移動していたのである。

 

普段はエメラルドグリーンの綺麗な海だが、日が落ちるわずかな時間帯だけに見せるこの景色もまた絶景だ。

 

全員が目の前の光景に圧倒されていると、ふとはやてが夕日を見ながら呟いた。

 

「私、こんなに幸せでええんやろか……?」

 

「?」

 

その言葉の意味が分からず、首を傾げるメリーさん。

 

「私な、正直言ってこんな日が来るなんて思っとらんかった。最近までずっとこの足が動かんで、一人ぼっちのまま家で生きてく。そう思っとったのに……」

 

「そんなこと、いいに決まってるじゃない」

 

今までの生活の事を思い出していたはやてに対して、メリーさんはスパッと切り捨てた。

 

 

「あたし達だってはやてと暮らせて幸せなんだからおあいこよ。それに、もういつだってはやては一人じゃないわ、あたし達がいる。昔の事なんかすぐ忘れちゃうぐらい楽しい毎日にしてみせるわ」

 

「はい、まだ旅行は一日目ですからね。楽しみはこれからです」

 

「その通りさぁ。それに、足のことだって必ずわたしがなんとかしてやるよぉ……」

 

「みんな……!」

 

はやては都市伝説達の言葉に感動して、自然と涙が溢れてきた。

お互いを思い合い、助け合い、日々を充実したものに変えてくれる。

人間と幽霊、存在は違えどそこには確かに『家族の絆』が感じられたのだ。

 

「せやな……寧ろ今まで寂しかった分を取り戻さなあかんな!」

 

「そうよ! その意気よはやて! 明日はハワイの街でショッピングよー!」

 

「ついでにお土産も買っておきましょう。田中さん達にも」

 

「お嬢ちゃんは誰か買う相手いないのかい?」

 

「そりゃ勿論お世話になっとる石田先生に……あ、石田先生にみんなのことなんて紹介しよ……?」

 

「「「………………」」」

 

若干未来への不安を残している気がしないでもないが、きっとなんとかなるだろう。はやては前向きに考えることにした、決して現実逃避ではない。

 

こうして、八神一家ハワイ旅行の一日目が幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

クチュクチュズプズプッモミュモミュ……

 

「あひいぃぃいいっ!? それ以上激しくしたら、は、発情しちゃうぅうぅ!!!」

 

 

 

「こっちですジャックさん! 館長、海で溺れた人を助けようとして自分が溺れちゃったんですよ!」

 

「なんということを……私の声が聞こえているか! しっかりしろ!」

 

「う、う~ん……足以外しわくちゃの化け物……ブクブク」

 

「お願いします、この人変態ですけど一応は良い人なんです! 助けてあげてください!」

 

「見ず知らずの他人を迷いなく救おうとするとは……剛毅な。いいだろう、私はレスキューだ。それ以上でも、それ以下でもない……。私の『男』にふさわしいか、助けさせてもらおう!!」

 

「助けた後の人工呼吸もお願いしますね! 貪るように! はぁ、はぁ……じゅるり……」

 

 

 

 

「「アッ――――――――――――!!!」」

 

夕日にそまるハナウマ湾に、二つの悲鳴が虚しく響いた。


 
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