episode134 気になる相手
IS学園にバインドが襲撃して一ヶ月が経とうとしていた。
『それでは次のコーナー。世界中に出没するようになった謎の存在・・・『シャドウ』についてです。そもそもシャドウとは一体何なのでしょうか?』
『正体が全く不明のアンノウンの呼び名です。影の様に真っ黒からその名が付いたのです』
『しかし最近ではそれと別の個体も現れていると言うケースもあります』
『なるほど。では、このシャドウが初めて現れたのは何時でしょうか?』
『公式的にはシャドウが初めて現れたと言う記録は残って無いんです。ですが少なくともISが現れる前よりも存在していると説く学者も居ます』
『でも、どうしてシャドウは世界各国の襲撃などと言うそのような行動を?』
『シャドウの行動目的は今も全く不明とされています』
『しかし、最近ではIS学園がシャドウの襲撃を受けたと言う事件もあります。それ以前に世界サミットでもシャドウの襲撃を受けているのです』
『IS学園と言えば世界で二人しか居ない男性が在学中でしたね。それと関連性というのはあるのでしょうか?』
『無いとは言い切れませんね。噂ではIS学園は何度もシャドウの襲撃を受けていると言う事がありますからね』
『しかしそれはIS自体が絡んでいると言う事も示唆しますね。現に世界各国のIS関連施設の襲撃事件が多いのですから』
『我が国日本でもシャドウの襲撃を受けていますからね』
『今後はシャドウに対してどういう対策を?』
『日本政府とIS委員会は最もシャドウとの交戦回数が多いIS学園に対して支援を行うそうです』
『しかしなぜそのような事を?』
『IS学園の生徒の中には各国の代表候補生と企業の所属のテストパイロットと言うのが居りまして、それぞれ強力なISを所持しているのです。中には何所の所属でもない者がISを持っているという例もあります』
『織斑一夏や神風隼人などはその分類でしょうか?』
『そうですね。後はISの生みの親である篠ノ乃博士の妹さんもでしたね』
『えぇ』
『そういえば篠ノ乃博士は今も行方が分からないのでしたね』
『はい。世間の声ではシャドウの対策の為にISをもっと作れと言うのが多かったですね』
『なるほど』
「・・・・」
隼人はテレビのニュースを見てからリモコンで消す。
「まぁ事実委員会や政府より支援は受けてはいるが、さすがに勝手が過ぎるな」
「確かに」
「そうですわね」
と、ベッドに腰掛ける鈴とセシリアが答える。
数日前に二人が目を覚ましており、記憶障害は無かった。しかし一夏同様連れ去られた後の記憶は無く、気付いた時にはベッドの上に居たという。
「ISがあるから何の正体も分からないバインドと戦え?何それ?言う方は安全な所と高みの見物かって」
「命がけで戦うわたくし達の気持ちもわからないで、よくあんな戯言を申せますわね」
「言えてるな。まぁいつもそうだ。言う方は気楽でいい。その重さも分からないのだからな」
「えぇ」
「ふん」
「それにしても、連中の目的が分からないわね」
「・・・・」
「わたくし達を連れ去ったのも、何の意図があったのでしょうか」
「ただ単に戦力に加える為に連れ去った訳じゃないだろうな」
「じゃぁ何が目的なわけ?」
「分かれば苦労などしない。分かればな」
「・・・・」
「ISは破損箇所が少なかったからすぐに修理は終えた。だが、まだ二人の身体の心配もある。しばらくは待機になるぞ」
「う、うん」
「・・・わかりましたわ」
そうして隼人は病室を出た。
「・・・なんかさぁ」
「・・・?」
隼人が出て少しして鈴が口を開いた。
「隼人が戻ってきてくれたのは嬉しいんだけど・・・何て言うか・・・」
「少し雰囲気が異なっている?」
「あんたも気付いていたんだ」
「えぇ・・・何となくですが・・・」
「・・・・」
「それに加えて隼人のクローンがもう一人増えているなんて・・・」
「リインフォースさんの妹さんまでいらっしゃる・・・」
「それに見知らぬ二人まで・・・なんか連れ去られた間に色々とあってるわね」
「そうですわね」
「・・・・」
隼人は第二格納庫に移動して目の前にあるISの調整をしていた。
(何とか修復は出来たな。まぁ、修復と言うより改装の方がしっくりくるけど)
そう思いながら調整を終えた。
「ちょうどいいタイミングで来ましたね、大尉」
と、隼人が後ろを向くと、そこにクラリッサが居た。
「気付いていたのか」
別に気配を消して近付いたわけではないが、それでも気付かれたのに少し驚いていた。
「何となくそんな気がしましたので」
「さすがはボーデヴィッヒ少佐の師匠ですね」
「成り行きと言う感じでしたがね。それに敬語で言わなくていいですよ」
「そうか。なら、そうしよう。それより、ISの方はどうなっているんだ?」
「今調整が終わった所です」
と、隼人は後ろにあるクラリッサの搭乗IS『シュヴァレツェア・ツヴァイク』を見る。
しかし以前より形状が大きく変化していた。
元々はラウラの使うシュヴァレツェア・レーゲンの二号機として開発されたのでほぼ同じ規格だが、レーゲンより少し機動力が高く作られている。しかし破損状況からそのフォルムを改装した。
装甲は少し増加しており、細身な形状からマッシブルな形状になっており、非固定ユニットの右側だけにあったレールキャノンは基部が大型になったキャノンに変更され、左側にはミサイルコンテナを搭載して背中には増加ブースターを搭載して、リアアーマーには棒状の長いパーツが二本搭載されていた。
「大尉から提供されたデータを元に、色々と俺が修正して、火力と機動力、装甲面を上げた改修を施しました」
「ふむ」
「レールキャノンの代わりに試作段階ですが、荷電粒子エネルギーを圧縮して作られるエネルギー弾丸を撃ち出すキャノンに、左側には小型でも強力なミサイルを搭載したコンテナを装備しました。機動力強化に増加ブースターを搭載し、ジェネレーター出力を上げていますので、バインドと対等に戦えるでしょう」
「だが出力を上げれば稼働時間が減ってしまうぞ」
「その為にエネルギー容量を増やし、臨時エネルギーを供給するためにエネルギーパックとプロペラントタンクを搭載しています」
ちなみにエネルギーパックの試作品をラウラのシュヴァレツェア・レーゲンに搭載して成功したので、その完成品を搭載している。
「・・・凄いな。これだけの強化と装備をよく一人で・・・。強さだけではなく、技術面でも凌駕している」
「設計図さえあれば作り出すのは容易い事ですよ」
「篠ノ乃博士より設計図を貰っているのか?」
「発案は俺がしました。それを束さんが設計図として構成し、俺が作り上げると言った感じです」
「・・・・」
あまりの凄さにクラリッサは驚きしかなかった。
「風の如く戦う。ですから新たに名前を『シュヴァレツェア・ウインド』と名付けようと思っているんですが」
「『黒い風』、か。『黒い枝』から出世した名だな。だが、私は気に入ったが、ドイツ側はそうとは限らないがな」
「まぁ、開発元はドイツですからね。それを勝手に改造しているんですから」
「この際そうも言ってられん状況だ。むしろ新機軸技術を導入されたとなれば断る理由は無いだろう」
「・・・・」
「私はこれからそう呼ぼう」
「ありがとうございます」
「あと、少し聞いていいか?」
「何でしょうか?」
と、クラリッサにさっきより少し声に緊張感があった。
「その・・・なんだ・・・織斑輝春の事について・・・知っていることはないか?」
「輝春さんの事ですか?」
「あ、あぁ」
「・・・そう言われても、俺はそんなに知っては無いんですよ」
「だが、織斑教官の知り合いであれば、知っているはずでは?」
「・・・輝春さんは去年の福音事件の時に初めて出会ったんです」
「なに?」
「それまでは千冬さんも行方が分かって無かったみたいで」
「・・・・」
「何年も間行方不明になって、一夏は物心付く前だったから知ってなかったんです。千冬さんだってもう死んだと思っていましたからね」
「・・・そう・・・だったのか」
「で、福音事件で俺もそこで輝春さんの存在を知った。それは幼馴染も同じですが」
「・・・・」
「まぁ色々とあって、輝春さんは実質一人目なんですが、確認された時期もあって公式上ISを動かせる三人目の男性として、IS学園の戦術教官の職に就いたんですよ」
「戦術教官、か。やはり実力が凄いのか?」
「そうでしょうね。輝春さんが使っているAGE-1は改装されているといっても、最も初期の第一世代型ISなんですから」
「それほど古い機体だったのか・・・」
「そんな機体でも本来なら性能の差がありまくりの最新鋭の機体と互角以上に戦えているんですから」
「まぁ、性能で全てが決まるわけではないが、極端すぎる」
改めて彼の強さと言うのを知って息を呑む。
「話がずれましたけど、輝春さんは色々と俺に教えてくれましたからね」
「そうか・・・」
「でも、どうしてそんな事を俺に?」
「あ、いや、ただ・・・その・・・」
理由を聞かれると、なぜか視線を泳がす。
「?千冬さんのほうが俺より知っていますよ。輝春さんの妹なんですから」
「それは・・・そうかもしれんが・・・織斑教官よりかは聞きやすいと思ってだな」
「・・・・」
「・・・・」
クラリッサは気付いているのか、そうでないのか分からない隼人の表情に戸惑うも、ため息を付く。
「・・・知りたいんだ。彼の事を・・・もっと」
「・・・・」
気まずくなったのか、隼人は頭を掻く。
まさかの惚れました発言だから、気まずくなるのは当然。しかもその相談をされても困る。どういやいいのか分からない・・・
「まぁ、そりゃ千冬さんには聞けないわな」
でもってクラリッサが千冬に輝春の事が聞けない理由を察する。
「・・・き、輝春には・・・できれば言わないで貰いたい」
「逆に言わないと分からないんじゃないんですか?」
「気付いているとは・・・思うんだが?」
「・・・・」
「・・・やはり言うべきか?」
「そう言われても・・・」
戸惑いながらも、隼人はシュヴァレツェア・ウインドを待機状態である黒いアームバンドにした。
「とりあえず、操作感覚は変わってませんが、いくつか癖が変わっているので気をつけてください」
「あ、あぁ」
「・・・あと余計なお世話かもしれませんが、伝えるべき事は伝えるべきですよ」
「そ、そうか。やはり言うべきなのか・・・」
と、最後の方をボソッと呟いた。
「そういえば、篠ノ乃博士はどこに?」
「束さんなら隠れ家にあるラボに戻っています」
「なに?」
「何でもラボで作り上げた大作を持って来るそうです」
「篠ノ乃博士が作り上げた・・・大作?」
「まぁそれが何なのかは聞いていませんが、内容から凄そうなものでしょうね。悪くもいい意味で」
「・・・・」
「・・・まぁ、頑張ってください」
「あ、あぁ。何とか・・・してみよう」
クラリッサは頬を少し赤く染めて隼人よりアームバンドを受け取って格納庫を出た。
「・・・・」
隼人はシュヴァレツェア・ウインドがあった場所の右を見ると、そこには修復された白式が安置されていた。
(修復は終えたと言っても、激しい戦闘ができる状態じゃないか。不知火も損失しているから、今の白式は第一形態のように雪片一本で戦う事になるか)
しかし今は実戦の真っ最中。そんな危険な状態で戦闘に出させるわけには行かない。
(競技ならまだしも、実戦で剣一本で戦うのは千冬さんぐらいの腕前がなきゃ保証が無い)
隼人は投影型モニターとキーボードを出して白式に細工を施す。
(あいつの事だ。白式を起動させて出る気まんまんだろうな。ロックを掛けておくか)
隼人にしかロックを解除できないように複雑な暗号でロックを掛ける。
「しかしあんな状態からよく修復が出来たな。本当に束さんはすげぇや」
と、呟くと――――
―――――――――!!!
すると非情警報が鳴り響いた。
「おいでなすったか!」
隼人はすぐにモニターを消して格納庫を出る。
「一夏?」
「隼人・・・」
と、格納庫を出た瞬間一夏を鉢合わせになる。
「何をしている」
「何って、決まってんだろ。いつまでも休んでばっかり居られるかよ」
「本気で言ってるのか」
「あぁ」
「駄目だ」
「何でだよ!?白式だってもう直っているんだろ!」
「まともに戦闘が出来る状態じゃない。死に行くようなもんだぞ」
「・・・・」
「気持ちは分かる。だが、無理をして何か異常が残ってしまったら元もこうも無いだろ」
「・・・・」
「今はそんな自分勝手ができる状況じゃないって事はお前だって分かるだろう」
「・・・・」
隼人は一夏の肩をポンと叩いて一夏の後ろでバンシィ・ノルンを展開する。
「言っておくが、白式にはロックを掛けておいた。俺が行った後で起動させようとしても無駄だぞ」
「っ!」
一夏は少し反応し、隼人は数歩前に歩きスラスターを噴射して飛び出した。
「・・・だからって・・・だからって!」
一夏は拳を握り締めると、格納庫に入った。
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トラックに轢かれそうになった女の子を助けて俺はお陀仏になった・・・。・・・って!それが本来の死じゃなくて、神様のミスで!?呆れている俺に、その神様がお詫びとして他の世界に転生させてくれると言うことらしい・・・。そして俺は『インフィニットストラトス』の世界に転生し、黒獅子と呼ばれるISと共にその世界で戦うぜ!