劉備との同盟を結んだ後、曹操との決戦に備え建業へと戻った呉の面々。
敵である曹操の軍勢は五十万とも六十万とも言われている。その大軍勢に対抗するため雪蓮は呉全土に総動員令を掛けた。かき集めれるだけ兵は集めた。
それも全てはこの戦いに勝つために
――そして孫呉の天下のために―
「雪蓮、全ての準備が整ったわ。……あとは出陣するのみよ」
「遂に来たのね……皆、揃ってるわね」
「はっ、将はすべて御前に控えております」
「兵の皆さんは城門にて、雪蓮さまのお言葉が掛かるのをお持ちしておりますよ」
「雪蓮様、出陣の号令を……」
「分かったわ」
「雪蓮……」
「大丈夫よ……行くわよ一刀。私、孫伯符一世一代の大舞台へと」
大きく、力強く、そして悠然とした足取りで雪蓮は城壁へと向かって行った。そして城下に控える孫呉の精鋭達の前に現れた。
「愛すべき孫呉の勇者諸君!遂にこの日がやってきたのだ!
我が孫呉の悲願が成就される時が来た!敵はただ一人曹操のみ!
勝て!何としても勝て!言えることはただそれだけだ!
咆えろ!叫べ!轟かせよ!
進め!我らが精鋭達よっっ!!!!!孫呉の、そして愛すべき者たちの未来のために!!」
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉl!!!!!」
雪蓮の号令を聞いた兵達は咆哮を上げ、決戦の地、赤壁に向かい進軍を始めた。
「赤壁のお城に到着っと。冥琳、ここが主戦場になるのか?」
「まさか。ここは劉備と合流するだけの城にすぎんよ。主戦場はここより北方よ」
「やっぱり船戦になりますかぁ」
「あぁ。曹操の大軍団と平地でまともにやり合う気にはなれんからな」
「いよいよ決戦か……ところで雪蓮と蓮華は?」
「二人は劉備を迎えに行っている。劉備と合流し次第すぐに赤壁近辺に陣を敷くから、皆そのつもりでいてくれ」
その後合流した蜀軍とともに赤壁へと移動した両軍。そして陣を敷くとすぐさま軍議へと移った。
劉「状況はどうなっているんですか?」
雪「ここまで来るのに後一日といったところね」
劉「後一日……いよいよ決戦ですね」
雪「そうね。冥琳、敵の総数はどのくらいか分かった?」
冥「……四十万よ。全くどこからこんなにも集めてきたのやら」
全員「四十万!!??」
趙「我らの兵数は十五万……予想はしていたとはいえ厳しい戦いとなりそうだな」
思「正面からぶつかっても勝ち目はない。何か策を講じる必要があるな」
明「一概に策と言っても、何をどうすれば言いのですかねえ~」
祭「策など必要ない!乾坤一擲の気概とともに曹操を粉砕してやれば良いのじゃ!」
張馬厳魏「「「「それは名案だ!!!」」」」
一「いやいやいや、それはいくら何でも無謀なのでは……」
祭「黙れ北郷!良いか?戦は頭でやるのではない。我ら武官が身体と魂を懸けてやるものじゃ!それをたかが文官風情がゴチャゴチャと御託を並べていつまでも講じておる……滑稽としか思えんな。戦とはなぁ!己の力を最大限に発揮し、それを敵にぶつけることじゃ!それを策が何だと…そのような腑抜けは下がっておれ!」
「控えろ黄蓋!貴様のようなたかが一兵風情が軍師に向かい罵声を浴びせるなど無礼千万!雪蓮、軍規に照らし合わせ、黄蓋を処刑とします」
「はっ、貴様のような臆病者のひよっこが!?出来もせんことを言うものではない、周公謹!」
「黙れ黄蓋!私は呉の大都督であるぞ!」
「それがどうしたというのじゃ!戦うことのできん臆病な大都督様なんぞただの飾りにすぎんわ!」
「そこに直れ黄蓋!!今すぐ成敗してくれる!」
「そこまでだ二人とも!周瑜、剣を納めよ!黄蓋、先程の暴言…あれは呉の将としては決して許されるものではない…誰か鞭をもて!黄蓋、貴様を鞭打ちの刑に処す!皆もよく見ておくのだ!この愚か者の姿を!」
「待って下さい姉様!それはいくらなんでもあんまりなのでは!一刀も見てないで止めさせて!」
「駄目だ蓮華。俺も一応文官という位置に居る身だ。確かに戦はできないけど、これまでに少しは呉に貢献してきたと思っているんだ。それを冥琳にとはいえ文官風情と言われたんだ。……良い気分はしないんだよ」
「確かにあまり良い気分はしませんでしたね~」
「穏までそのような事を!!どうしてしまったというのだ皆!」
「それ程先ほどのこやつの我々文官を軽んじた黄蓋の発言が許せないという事です。明命!黄蓋を縛りあげろ!」
躊躇する明命に祭の手足を縛らせた後、雪蓮は鞭を振るった。十回……二十回………三十回…………四十回と。瞬く間に血に染まっていく祭の身体。それは思わず目を反らしてしまう程であった。しかし目を反らした者に対して雪蓮は
「目を背けるな!!この愚か者の姿を眼に焼き付けるのだ!」
そう言いながら尚も続けられる鞭打ち。その後雪蓮に代わり鞭を振るう冥琳。そして一刀にもその役が回ってきた。その鞭を何の躊躇いもなく振るう一刀。その姿は呉の兵に大きな衝撃を与えていた。それもそのはず、今まで呉に全てを捧げてきた宿将が、たかが一介の文官である一刀に鞭で打たれているのだからだ。そして一刀が数回鞭を振るったその時、遂に祭の身体が崩れ落ちた。
「誰かその愚か者を牢にぶち込んでおけ!」
その冥琳の命令に誰も動こうとはしなかった。否、そのあまりに凄惨な祭の姿に誰も動けなかったのだ。そんな中動いたのは一刀であった。そんな祭を抱えあげ牢へと連れて行ったのだった。
「(ゴメン………祭さん…後は俺達がうまくやるから…もうちょっとだけ祭さんも頑張って下さい…)」
そう誰にも聞こえないよう呟いた一刀であった。
「周瑜。はっきり言わせてもらう。今の貴様らと同盟を組むことに、我々は危惧を抱いている」
そう言った関羽に頷く蜀の一同。
「孔明……貴様も同じ意見か?」
「言葉を返さなくても、周瑜さんは分かっていると思います……」
「……そうか。関羽よ、これは呉内部のこと。同盟を結んだからとはいえ内部にまで口を挟まないで欲しいな」
「何だとっ!?」
「まぁまぁ…黄蓋のことで不安になるのは分かるけど、決戦には影響がないと保証するからあまり目くじらを立てないで欲しいかな」
「影響がないって……どうしてそんなことが言えるのですか北郷さん?」
「絆…かな。俺達の絆はそんな事では絶対に切れない。絆の頑丈さ……それは劉備さんなら分かるはずだよ」
「絆…ですか。…………分かりました…。今は静観しておきます」
「そうしてくれると助かるよ。………詳しい事は孔明ちゃんに聞いてくれ。それで良いかな孔明ちゃん?」
「はい!ちゃんと説明しておきますから安心しておいて下さい」
「それじゃ軍議を終わりましょう。それと私達呉の内部でのゴタゴタで軍議をひき延ばしてしまった事を謝るわ」
蜀の面々に向かい頭を下げた雪蓮。そして劉備たちも頭を下げ、自分たちの天幕へと戻って行った。
「姉様!冥琳!一刀!先程の振る舞いはどういうことだ!あまりにもやりすぎではないか!」
「蓮華様…今はまだ説明できません」
「なにっ!?」
「ごめん蓮華。ただ劉備さんに言ったように俺達の絆を信じてくれ……頼む」
そう言い真剣な目で蓮華をじっと見つめる一刀。
「一刀……わ、分かったわよ、信じるわ。だからそんな眼で私を見ないで……」
「おぉ~蓮華は素直で良い子だな~、ヨシヨシ。姉さんとは大違いだ」
「もう、子ども扱いしないで!」
そんな二人を見て「あぁ、この非常事態でもこれか…さすがは北郷(一刀さん)(さま)だな……」と全員が思っていた。
「姉様と冥琳のことは任せたわよ」
「おぅ任せておけ!蓮華の頼みとくれば聞かないわけにはいかないしな!」
そう言って冥琳達のもとへと駆けだした一刀。その顔は無駄に爽やかであった。何故だ?
「お~い、二人とも」
「「一刀(北郷)か、どうかしたの?」」
「いや、祭さんが陣から抜け出した後どうするのかな~と思って」
「一刀もそのことを聞きに来たの?偶然ね、私もそれを今冥琳に聞きに来たのよ」
「えっ!?雪蓮ってこのこと知らなかったの?」
「それもそうだろう。私と祭殿も打ち合わせをしてないのだからな」
「………はっ?先刻のってまさかその場で二人が合わせてやったのか?」
「そうだ。祭殿はよくぞわが策に気付いてくれたと思う。それに雪蓮もな」
「私の場合はただの勘だったんだけどね~」
「凄いな三人とも……。なら何としてもこの策は成功させないとな」
「させるわよ。…必ず。で、冥琳、準備の方はもうできているの?」
「あぁ、新しい船の停留方法が発見されたという情報を赤壁周辺の村に放っておいた。船を鎖で繋いでおけば流されることもなく、揺れも抑えられえうという偽情報のな」
「さすがね冥琳。でも曹操がそれを信じるかしら」
「新しいもの、有効なものはどんどんと取り入れることによって曹操は急速に力をつけていった。それは曹操が保守よりも先進を選んできた結果よ。今回もうまく乗ってくれるでしょう」
「動けなくなったところを狙うのか……さすがは周公謹だなぁ」
「当たり前じゃない一刀。これが私が最も頼りにしている人物…周公謹……いや、冥琳よ」
「ふんっ、二人とも褒めても何もでんぞ」
「何よ冥琳、照れてるの~?珍しいわね~。………ありがとう冥琳。私なんかに今まで付き合ってくれて。おそらくこれが最後の決戦よ。これが終われば恐らく平和な世が訪れるわ。劉備が戦を仕掛けてくるとは思えないしね。 そうね、平和になったら冥琳には特別に休暇をあげるわ。どこか温泉にでも行ってきなさいな。ずっと働きづめだと身体を壊すわよ~」
「そうね、じゃあお言葉に甘えて休ませてもらいましょうか。北郷よどこか行きたい所はあるか?」
「「はい?」」
「あら、休みを貰えるのではなかったのかしら」
「休みをあげるとは言ったけど、なんでそこに一刀も含まれてるのよ!」
「一人で居ても退屈でしょう。それなら誰かと一緒に居た方が楽しいですしね。と言うことで北郷…どうだ?」
「あぁ、俺は全然構わな 「駄目に決まってるでしょ!!」 ………い…よ」
「そうか。なら北郷、何処か‘二人で’行きた 「だから駄目だって言ってるでしょっ!!」いところはあるかしら」
「いや俺は冥琳と一緒ならどこで 「おい!!!!!」 も構わないよ」
「そうか、なら適当に考えておくわ」
「聞けーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
その後も雪蓮を無視して話を進めていく二人。そんな時、黄蓋が脱走したとの連絡が入った。途端に真面目な顔になる雪蓮と冥琳。ここら辺は流石である。
「始まったわね、冥琳」
「えぇ、黄公覆…そして我らの一世一代の大芝居、見事演じて見せましょう」
こうして呉軍の陣に戻った三人。そこは慌てふためく者で混沌としていた。
「皆落ち着け!状況はどうなっているの?」
その雪蓮の一言でさっきまでの雑然としていた空気が一瞬で静まり返った。そんな中で思春が説明を行った。
「祭様は部下数名を引き連れて敵陣へと逃亡した模様です」
「祭……どうして私達を裏切った……」
「蓮華!祭さんを信じるんだ!そして俺達の絆を!」
「一刀……えぇ分かったわ。取り乱してしまってごめんなさい。それで姉様どうするおつもりですか?」
「勿論追撃をするわ。指揮は…穏に任せる。あなたなら私達の考えていることが分かっているのでしょ?」
「は~い分かりましたぁ。では皆さん完全武装した後、一生懸命追うフリをしましょ~」
「フ、フリですか!?」
「てへっ、間違えてしまいました~。皆さん一生懸命祭さまを追いかけましょうね~」
「「「「「はっ!」」」」」
―――――――黄蓋隊
「痛たっ……冥琳め、明らかに私怨が混じっておったぞ。それに北郷もじゃ。これは生きて帰れた暁にはキツイ灸を据えてやらねばなるまい……フフフッ」
「黄蓋様、後方より周、陸、そして十文字の旗が迫ってきております」
「ほぉ、北郷めやはり気づいておったか。なかなかやりおるわ」
「このまま追撃部隊を引き連れたまま曹操のもとへ向かうのですか?」
「当たり前じゃ。そうせんと曹操は我らのことを信用せんじゃろ。その為にも皆反撃する場合は本気でかかるんじゃぞ。このような茶番で死ぬ兵など居たとしても役には立つまい。これも良い訓練となろうぞ。そうじゃな、周と十文字の旗を徹底的に狙おうかの。先程の仕返しも込めての(ニヤ」
そうして黄蓋隊との戦闘が始まった。相手は呉きっての猛将、黄蓋率いる精鋭部隊。これが演技とは思えない、というか明らかに本気以上の何かを感じていた冥琳と一刀であった。
「なぁ冥琳……何か明らかに俺達が狙われているような気がするんだが…」
「北郷それは気のせいではないぞ。先程から祭殿は我々ばかり狙ってきておる…しかも私怨が感じられる…。これは戻ってきた時はキツイ灸を据えてあげなければいけませんね……フフフッ」
などと似たような事を言っている間に祭の船は曹操軍と接触を始めた。そしてこれを見た呉軍は後退を開始し始めた。
「(祭殿……あとは頼みました。そしてあなたを必ず救い出してみます)」
「(さて我が渾身の苦肉の策。曹操にどこまで通用するか見物じゃな……。冥琳、後の事は儂に任せておけ)」
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調子に(ry
お待たせしました!(数人は待っていて下さる方がいるはず!……です)
いや~遂に赤壁ですよ奥さん!
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