No.549112

~貴方の笑顔のために~ Episode 27 絶望と光

白雷さん

戦場で死ぬことは武人の誇りである! 関羽雲長、愛紗は昔よりそう思ってきた。
しかし、実際に彼女が感じたことは違ったものであった。
死を目前に、彼女はなにを考え、何を思うのだろうか?

2013-02-27 00:05:37 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8910   閲覧ユーザー数:7240

 

 

~愛紗視点~

 

「守りを固めよ!  城門を閉じよーー!」

 

「御意!」

 

敵の様子はもう城壁よりはっきりと見えるようになっていた。

 

「弓兵隊、準備せよ」

 

「はっ!」

 

「槍兵隊、城門の守りの位置を再確認せよ!」

 

「御意!」

 

 

 

 

 

「伝令伝令―――――!!!」

 

 

「なんだ、何事だ!」

 

私が各隊に戦闘の再確認をしていたところ、伝令がかけてきた。

 

「城内より火が、火が!」

 

「なんだと!」

 

「城内にいる呉兵が寝返りました!」

 

「なにっ!」

 

「おそらくは、反乱軍の一部かと」

 

振り返ると、ところどころでまだかすかではあるが煙が上がっているのが見える。

 

くそっ!城内にもいたのか。

 

「火をすぐに消せ!」

 

「ぎょ、御意!!!」

 

私は、そばにいる別の伝令に話しかける。

 

「城内にいる敵の数は!?」

 

「はっ、それほど多くはありません」

 

「では、すぐにけりをつけるんだ! もう時間がない!」

 

もうすでに敵は目前まで迫ってきていた。

 

「・・・」

 

「どうした?、早く行動に出よ!」

 

私のそんな命令になぜか動かない伝令。

 

「どうした!もう時間がないのだぞ」

 

「そ、それが・・・・」

 

「なんだ?まだなにかあるのか?」

 

 

 

 

「関羽様、 南門が、南門が、破壊されております」

 

なん、だと・・・南門・・・

 

私は遠くからこちらに向かってきている敵をみる。敵は戸惑うことなく南門へと侵攻している。

このままでは、このままでは・・・

 

城内の反乱軍は時立つことなく、鎮めることができるであろう。

しかし、門が壊されていたのでは、なにもできない・・・

このまま敵が城内に侵攻してきたら我々は壊滅する・・・

我々は負ける・・・・

 

我々が負けたら、このまま呉の反乱軍は蜀に侵攻、

結果、私は部下の命も無駄にした挙句、民の命も守れなっかたということになる。

 

 

そんなことは、あってはいけない。

誰かがやらなくては。誰かが・・・・

 

 

 

 

「愛紗、君の武は誰のためにある?」

 

再び、彼の言葉が頭をよぎる。

 

私の武は・・・・刃様。

もう答えは見つかりましたよ。

私の武は、わが信念を貫くためにある!

 

 

 

「伝令、用事を頼んでもよいか?」

 

私は目の前に待機している伝令にそう告げる。

 

「はっ、もちろんであります!」

 

 

「もし、私に何かあったのなら、

 私が今からかく文を成都へ、いや蜀王劉備様へ、届けてきてほしい。」

 

「何かあったら・・・それってどういうことですか!関羽様!!」

 

伝令もさすがに私の言葉に驚いたのか叫びに近い声をあげている。

 

「質問はなしだ。」

 

「・・・・」

 

「これは、関羽雲長の命令である! 私の言葉を復唱し、その言葉を実行するのだ!」

 

「・・でっですが!」

 

「命令だ!」

 

「はっ!  私は、もし・・・もし関羽様に何かがあったときは関羽様の文を

 命がけでも劉備様に届けることを誓います!」

 

「それでよい。 つらい任、すまんな」

 

気づけば伝令は地面に跪き、涙していた。

 

「頼んだぞ」

 

「御意」

 

 

 

私は、そうして、文をかき、南門へ向かっていった。

 

 

 

 

静かだ・・・周りは騒がしいはずなのに。 

でも、私には何も聞こえない。

 

「そこをどけい!」

 

私は南門に固まっている兵士たちにそう叫ぶ。

 

「関羽様! 門が、門が閉じません」

 

第7部隊隊長がそう叫びながらこちらに走ってきた。

 

「わかっている。いいから、そこをどくのだ!」

 

「関羽様?・・・なにを・・」

 

「お前らは下がっていろ。」

 

「・・・・・」

 

「下がれと言っている!」

 

「断ります!」

 

「主の命令がきけんか!下がれと言っている。」

 

「関羽様!」

 

「なんだ」

 

「我々も、お供させてください。」

 

「・・・」

 

「もういったはずです、関羽様、我々の命はあなたとともにあると。

 そして関羽様は言ってくれましたよね。後悔だけはするなと。

 ここで我々が行かなかったら、我々は一生後悔します。

 絶対です。だから、関羽様行かせてください」

 

そんな隊長の言葉を皮切りに第7部隊の兵たちが次々と

いかせてください!お願いします

と叫んだ。

 

「お前たち・・・・ わかった。  準備は、いいか?」

 

「はっ、もちろんであります。  ご命令を」

 

そう隊長が言うと兵たちはじっとこちらを見る。

 

「見ての通り南門は閉まらず、ここから敵を侵入させてしまうと我々が壊滅するのは

 確実である。 南門はそれほど大きくはない、しかし敵は間違いなく

 この門に向かってきている。

 我々はこの門を死守する!誰一人として城内に入れるな!」

 

「御意!」

 

「それでは、参る! 私の後に続け!」

 

 「うおおぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

私はそう命令すると私を先頭に第7部隊は迎撃のため門の外へとかけて行った。

 

 

そうして、戦いが始まった。

 

 

 

 

「いいか!無理に前には出るな!我々の目的はあくまでこの門をまもりきることだ」

 

「はっ!わかっております!」

 

聞こえてくる剣が重なり合う音。

こんな、危機的戦いはいつ以来だろうか・・・

おそらく、魏との戦い以来だろう。

 

「そこ!まえにですぎだ!下がれ!」

 

「御意!」

 

私はそう命令を下しながら門を守るため次々押し寄せてくる敵を倒していく。

 

 

しかし、倒しても倒してもきりがない!

雪蓮どのが率いる呉の兵とはくらべものにはならないが、三国時代を生き抜いてきた者たちである。そう簡単にはいかない。

そして何より数だ。

相手の数は減っていくが、こちらの数もだんだんと減っていっている。

 

くそっ!これではいつまでもつかわからない。さすがに守る場所は少ない分

すぐにやられるというわけではないが、このままでは、兵の体力が持たない。

一日も、持たないかもしれない。

 

その間に援軍は来るのか・・・

伝令はすでに出しておいたが運よくこの近場にいる部隊はいるのか・・・

 

そんなことを考えていた時である。

 

 

 

 

 

「関羽様――――――――!」

 

そう叫び声が聞こえ、どさっと、人が、私に倒れかかった。

 

なんだ・・・何が起こった・・

 

私は起き上がろうとすると私の目の前に第7部隊隊長が倒れているのが見える。

その胸には矢が刺さっていた。

 

「おい!おい!しっかりしろ!」

 

全然気が付かなかった・・・矢は私の死角からいられていた。

もしこの男が私をかばわなかったら今ごろ私は・・

 

「・・かんう、さま。ぶじでよかった」

 

その隊長は力なく首をこちらに傾けるとそう言った。

 

「なにをいっている! しっかりしろ!  おいっ!救護へ」

 

私がそう、救護兵をよぼうとすると、隊長がわずかに私の手に触れる。

そしてその首を力なくふる。

 

「かんう、さま・・・いきてください。」

 

男はそういうとその目は、力なく閉じていった。

 

「おい!おい! 返事をしてくれ、お願いだ!」

 

しかし、その男はもうこの世にはいなかった。

 

 

「うああぁぁぁぁぁああああ!」

 

私の目が見開いていくのを感じる。 

私は、偃月刀をとると、敵に向かっていった。

 

「お前らぁ!!!!」

 

「私は許さんぞ、絶対に許さんぞ!」

 

   「ひぃいい!! ばけもんだーーーー!

 

「お前らがいるから! せっかく平和をつかみ取ったのに!」

 

   「関羽だ、蜀の関羽だーーーー!」

 

 

「許さん!!そこになおれ! この偃月刀の餌食にしてくれよう!」

 

 

私は偃月刀をそう振りながら、敵を次々と切り倒していく。

そんな私の手には、先ほどの男がもっていた絹が握られていた。

戦の前、彼がうれしそうに話してくれたことを思い出す。

 

 

 

 

 

 「関羽様、すこし、お願いがあるのですが」

 

 「うん?なんだ?」

 

 「自分、実はこの戦いが終わったら、結婚を申し込もうと思いまして」

 

 「ほぉ、なんだ。お前もやっといいおなごを見つけたか」

 

 「はっ、おかげさまで。それでですね、もしその申し込みが

  成功して結婚式を挙げることになったら、その仲人を関羽様に

  お願いしたいのですが・・・」

 

 「わたしなどでよいのか?」

 

 「はっ! 関羽様であれば、我々はずっと幸せに暮らしていけそうです」

 

 「そう、か。そこまでいうのなら、よし。 その任、引き受けよう」

 

 「ありがとうございます!」

 

 

私は、彼が婚約の贈り物として用意していたきれいな花の刺繍がはいった絹を

握りしめる。 その絹は彼の血でその美しさの面影をなくしていた。

 

 

 

「うぉぉおおおおおお!」

 

もう、戻らない過去。そんなのはしっている。知っているのだ。

それでも、私は今この感情を

止められない。足が勝手に動く。この気持ちを私は制御できない。

 

 

私は修羅だ。 ここを守るためになら私は鬼になる!

 

 

「誰だ!誰もいないのか! この関羽が相手になるぞ!」

 

   「にんげんじゃ、ない!」

 

「だれでもいい!この関羽を倒せると思うなら、かかってくるがよい!」

 

   「ひいいぃぃ!!」

 

 

私はそう叫びながら敵に切り込んでいく。

 

 

   「弓兵、目標を関羽に集中させよ!」

 

   「はなてーーーーー!!!!!!」

 

 

 

そんな敵の声が聞こえた時、私は初めて自分が孤立して戦っているのに気づいた。

目の前からは何十という矢が私に降り注ぐのが見える。

 

くそっ!  避けられない・・・!

 

 

 

 

“グサッ”

 

回避しようとするが、頭をかばっていた右手に3本矢が刺さる。

 

 

「ぐっ!」

 

痛みが頭に響いてくる・・・右手は、もう使えない・・

私は包帯で右手を偃月刀に縛り、左手でそれを抑える。

 

 

くっ!

 

偃月刀を振るたびに尋常じゃない痛みが頭に響いてくる。

 

 

“グサッ”

 

そんな私の左足に2本矢が突き刺さった。

 

 

 

 

「うっ、うわああぁぁぁあああ」

 

私はあまりの痛みに声を抑えきれずそう叫んだ。

 

 

もう、これではまともに、動くことができない・・・・

もう、だめ、なのか・・・

ここで、私は散るのか・・・

 

私は足の痛みでその場にひざをつく。

敵がこちらに迫ってきているのがわかる。

痛みで、視界がだんだんとゆがむ。

 

「くっ!」

 

私は足に刺さっている二本の矢を引き抜く。

そして、偃月刀を支えになんとかその場に立つ。

 

 

「死ぬ気のあるものはかかってこい! この関羽雲長が相手になる!」

 

  「ばけもんだ、やつはばけもんだ。 倒れないのか!」

 

偃月刀をふるてが死ぬほど痛い。その痛みで体がふらつく。

 

“カラン”

 

私は目の前の敵をたおすと、偃月刀が手からはなれ、地面におちる。

そして、それと同時に、その場にひざまずく。

もう、偃月刀をつかむ力はなく、立ち上がる力もない。

 

もう、だめなのか・・・

 

 

 

私は空を見上げる。

 

戦場で散るのは武人の誇り・・・ずっと、そう思っていた。

思っていたはずなのに、手足が震える・・・

 

気が付くと私の瞳から涙があふれ、頬をつたわる。

 

 

 

 

   「関羽が倒れたぞ! 関羽が倒れたぞ!  今が好機!奴の首をはねよ!」

 

遠くか、近くかはわからない。だけどそんな叫び声が聞こええる。

 

もう、私に戦う力はない・・・

 

死ぬことは怖くない、そう思っていたはずなのに。

怖い・・・死ぬことが怖い・・・

 

やっぱり、いやだ。死ぬなんて・・・いやだ。

 

でも、・・・もう・・・

 

私は空を見上げていたその目を静かに閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛紗―――――――――――!!!!!!」

 

 

 

そんな時だった。確かに、そんな声が耳にきこえたのだ。・・・

 

 

 

 

 

 

・・・・・まって、いましたよ・・・

信じていましたよ、あなたが来てくれることを。

 

ずっと、まっていたんですから・・もう、遅いですよ・・

どれだけ、待っていたと思うのですか?

どれだけ、怖かったと思っているのですか?

どれだけ・・・・

 

私の中に、なぜか先ほどあった恐れはなくなっていた。

ただ、うれしさがこみあげていた。

私は目をあけ、その声の方角を見る。

 

敵が次々と吹き飛んでいくのが見える。

 

 

 

「愛紗―――――!」

 

そう叫ぶ彼の声がどんどんとこちらへ近づいてくる。

 

光を・・・感じる。

この絶望した状況の中で、彼の声を聞いた瞬間私は救われた。

 

正直死を覚悟していたという気持ちはある。

けれど、やっぱり怖かった。最後になって私の手は震えていた。

それは、痛みによるおそれではない。

いままであったものがすべて失われてしまうかのような、

桃香様たちと過ごした、この大切な時間が何もなかったように

なってしまうのが怖かったのだ。

 

でも、やっぱり彼はきてくれた。あのとき、私たちを救ってくれた時のように。

 

 

 

 

「刃殿―――!」

 

 

気づけば私は自分の居場所を知らせるかのようにそう、彼の名を呼んでいた。

 

 

「刃殿!刃殿―――!」

 

私の左足は、もういうことを聞かなくなっていた。それは右手も同じことだった。

だから私は、彼の名を叫ぶことしかできなかったんだ。

 

 

「愛紗!」

 

「刃ど」

 

時もたつことなく、彼の姿が目の前に現れた。

そうして私が彼の名をもう一度呼ぶ前に、彼は私を力強く抱きしめた。

 

「よかった。愛紗。無事で・・・よかった」

 

十分に動けない体で私は彼を抱きとめることができなかったが、

それでも、私はそんな彼がこの腕の中で涙をこらえながら震えているのが

わかった。

 

「ありがとう、ございます。刃殿」

 

私はただ、そんな言葉しか言えなかった。

いや、ほかに言うことが見つからなかった。

私の瞳からは先ほどとは違う涙が流れていた。

 

「この戦いの後、治療するから、もうすこし辛抱してくれ」

 

「いや、しかし!」

 

私もまだ戦わなければといいかけた。しかし、周りを見ると、

先ほどまでの私たちが一方的に攻められていた状況は変わっていた。

 

「大丈夫だ、愛紗。  ここは、俺と亞莎にまかせてくれ。」

 

よく見ると、その援軍は呉の呂蒙の旗を掲げていた。

 

「刃殿・・・はい、わかりました」

 

私は、刃殿にすぐに城内へと運ばれた。

 

私を運ぶ彼の腕はたくましく、そしてなにより暖かかった。

 


 
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