~愛紗視点~
なにか、おかしい。
数日前、蜀を出立し2日前、樊城についた。しかし、呉王雪蓮殿からの連絡が全くない。
それに、樊城では、私の知る将が待っていると思ったのだが、そうではなかった。
つまり、それほど呉の反乱というものは大きいものなのか?
それとも、あまり我々に話したくないようなこと、つまり我々が知る将が反乱に加わっているのか・・・
それにしても、ここ、樊城はいたっておだやかだ。反乱の兆しなど見えない。
なにかが、おかしい・・
「伝令はいるか!」
「はっ、ここに」
「今から私が書く文を呉王孫策殿にとどけてきてほしい」
「御意」
そうして、私は雪蓮殿あてに、緊急要請に関する情報を問うため文を書き始めた。
~亜莎視点~
伝令の報告により数日前、愛紗さんが樊城に完全武装状態ではいってきたという情報が
入りました。
おかしすぎます・・
なんのために今、呉に完全武装状態で来ているのでしょうか?
私はたぶん、呉の将の中で一番樊城に近いはずです。
であるならば・・・ここは伝令を愛紗さんにおくるべき、
いや、しかし蜀からきた愛紗さんからの伝令はありません。
そして雪蓮様からもありません。
つまり、ここは待機するべきところ・・・
うかつにうごいたら何が起こるかわかりません。
そうして2日たったころ、
雪蓮様からの伝令に驚愕しました。
蜀、魏ともに兵を送ってきたのは呉の敵の策略、文によってであり、
ともに危機に陥る可能性大。
一番近くにいる私は、兵を率いて、樊城にいる愛紗さんにことを話し、
ともに守りを固めよ。
その書状には驚くばかりでした。
蜀が五胡25万と交戦すること、そして魏の敵は、天の御使いである、一刀様
の名をつかっていること。
正直言って物事がおおきすぎて頭がついていっていけません。
でも、今わたしにできることは、愛紗さんのもとへ急行。
事の詳細を伝えること、そして彼女とともに守りを固めることです。
愛紗さんが率いている兵は1万。
そして私が今引いている兵は5千。 樊城の守りを固めるには
最低でも4万が必要です。 それにはこのあたりにいる呉兵を招集しなければいけません。
それには一日はかかります
けれど、いまの情勢的に大丈夫です。一日であるならば。
おそらく、まだ敵は私たちが敵の策に気づいたことに気づいてはいません。
「伝令、樊城にいる関羽殿にこの文を届けてほしい。至急です。」
「はっ、」
でも、おかしい。こんな大規模な侵攻で、策にこんなに大きい欠陥があってよいものなのでしょうか? 確かに、蜀と魏が侵攻という情報をきき、これは相手の策と気づくのは
難しいです。しかし、敵は冥琳様が気づくということを恐れていなかったのでしょうか。
そもそも、げんに私たちは敵の策に気づき行動をしています。
多少の被害は免れませんがそれでも、敵の負けは確実です。
そんなことがあってよいのでしょうか・・・
「伝令!伝令!呂蒙様!緊急事態です!!!!」
「何事です!」
「はっ、あの、その・・」
「落ち着きなさい。」
「はっ、申し訳ありません」
「それで、伝令の内容というのは」
「はっ、はい。 ここから10里はなれたところよりこちらに
完全武装した状態で向かってくる兵あり。」
「それは、味方なのでしょうか?」
「そう、穏やかなものではありません。 我々の仲間が何人か問答無用で
殺されました」
「そう、敵、なのね。 それで、敵の旗は?」
「それが・・・」
「続けなさい」
「はっ、敵に旗などなく、敵はそろって呉兵の格好をしています。
それも、正規部隊のものかと」
・・っ!そういうことですか。
こちらに向かってくるものは間違いなく反乱軍。
つまり、私たちが相手の策に気づこうが気づきまいが関係なかった。
豪族たちは時期をうかがっていただけだった。
もう敵の準備はできていたということですか・・・
「敵の数は?」
「1万5千であります」
私が今率いる兵は5千。正直言って立ち向かうのは死に向かうようなものだ。
であるならば、私がとる選択は撤退しかない。
私たちが敵の策に気づいてなくとも結局はわけもわからないまま
撤退を強いられていたし、
気づいていても撤退を強いられている。
私たちは利用されているのだ。 蜀に行く伝令はこう伝えるだろう。
呉は関羽殿をみすて、撤退したと。
でも、私がここで1万5千の兵と当たってもどうしようもない。
ただ部下の命を死にさらすだけだ。
で、あるならば私は蜀を、そして愛紗さんを信じる。
私のところに向かってきたのが1万5千の兵ならば、愛紗さんのところに向かっているのはもっと多いはずだ。つまり、籠城してしまったら、数日も持たない。
愛紗さん、どうか、一時撤退を。
私はそう信じ、撤退を始めた。
~愛紗視点~
「伝令――――!伝令!」
「どうした!何があった!」
伝令が私のいる部屋に飛び込んできたのは私が雪蓮殿に手紙を書き終えたころだった。
「はっ!ここより東、7里離れた地点に戦闘態勢の整った軍隊を確認。
敵は総じて呉の鎧をきております。」
「呉の反乱軍か!」
「詳細は不明。しかし、相手には戦意しかない様子からそう断定できます」
完全に武装した兵であるということはほぼ反乱軍で間違いはない。
呉から反乱に関する正式な書はまだ届いていない。
つまり、それほど呉の内部は混乱に陥っているということなのか・・・
「敵の数は!」
「はっ、4万であります!」
・・4万、4万だと・・・
正直言って1万と4万では相手にならない・・
ならばここは撤退しかとる選択肢はない。
撤退、しか・・・・
「関羽様、ご命令を!!」
そう考えていると、あの時の星や桃香様とかわした会話が頭に流れてくる。
「愛紗よ、とる選択を誤るなよ。」
「愛紗ちゃん、危険になったら・・・」
とる選択肢・・・危険になったら・・・
そんな言葉が何度も私の頭の中に響いてくる。
ここで、撤退したらどうなる?
確かに、撤退中に各地に伝令をだし、蜀に残る兵を集めれば、対応できるだろう。
しかし、それには数日かかる。
その間に、彼らによって、侵略される村はいくつある?殺される民は何人いる?
失われる笑顔はいくつある・・・?
私たちの理想・・・自分の意志、桃香様は絶対に曲げるなとそういった。
その私たちの理想は、苦しんでいる民を、笑顔を忘れてしまった人たちを、
感情をなくしてしまった民たちを、
少しでも多く助けたい、そんな思いから
始まった。
そうだ、私の理想・・・
あの小さい村から始まった。
鈴々とであい、盗賊を倒し、そして桃香様と出会った。
私の最初の理想はこの民たちが苦しむ世の中を少しでも明るくしたい、
そんなところから、始まったんだ。
それが、いつの日か桃香様に自分の理想をおしつけ、
桃香様を守ることが、桃香様がすべてだと言い聞かせていた。
そっちのほうが簡単だったからだ。
それでも、そんな間、桃香様は私の分までその理想を背負ってくれていた・・・
こんな大切なことをいままで忘れていたなんて・・・
そう思うと、いままで胸にあったわだかまりがふっと、消えていくのを感じる。
やっと、見つけました。いや、改めて気づきましたよ。桃香様。
私の理想。私の意志に。
1万と4万、これは完全に負け戦だ。しかし、私がここでひいてしまえば、
幾万という民の命が失われる。それはどうしても避けなければいけない。
戦術的撤退、聞こえはいいかもしれない。しかしそれは、蜀の危機と何万という民を天秤にかけ、蜀の運命を優先させた結果でしかない。
国が民をつくるのではない。民が国をつくるんだ。
であるならば、私がとる選択肢は一つ。
伝令を各地に派遣し、ここを死守しながら援軍をここで待つ。
「部隊の隊長を招集してくれ」
「はっ!」
私はそう伝令に伝えた。
時もたつことなく軍議室にはすべての隊長が集まっていた。
「みんな、最初に謝っておきたいことがある」
「・・・」
わたしのそんな言葉に隊長たちはみなじっと私を見ている
「今、4万の呉の反乱軍がこちらに向かっているという情報が届いた。」
「なんだって!」
「嘘、だろ・・・」
そんな私の言葉にみな動揺を隠しきれない。
「皆、静かに」
「はっ!」
「そのことに対する対しての私の決断はこうだ。
ここを死守する。」
そういったとき、部屋に沈黙が流れる。
「この作戦、いやわたしの意地は命令ではない。
いまからここは死地とかすだろう。 参加したくないものは部隊を率い、
この樊城を去ってもかまわん」
「・・・・以上が、わたしから言いたかったことだ」
私は怖くて目を閉じた。実際、こんな無謀なことに誰もがついて来てはくれないと
そう思っていたところもある。
だが、目を開けてみるとそこには驚くべき光景があった。
誰もがこの部屋を去ろうとしていなかったのだ。
「関羽隊、第2部隊、喜んでこの作戦に参加します!」
「関羽隊、第7部隊、自分も同じく!」
「関羽隊、第5部隊、もちろん自分も参加させてもらいます!」
「関羽隊、第8部隊、自分も!」
「関羽隊、第3部隊、その言葉を待っていました!」
「お前たち・・・・」
その後も次々と隊長たちはそういいながら立つ。
「関羽隊、第1部隊。 関羽様、自分たちは関羽様といままで理想を、そして、
夢をともにしてきた者たちですよ。 いまさら、お願いなんてなにを
いっているのですか。 民を救いたい。今我々がここでひいてしまったら
幾万という民が命を落としてしまう。そうお考えになっての言葉なのでしょう?
関羽様、自分たちの命は、いえ自分たちの意志はいつまでもあなたとともにあります!
命令をお願いします!」
最後にのこった第一部隊の隊長がそういった。
正直、私は泣きそうだった。
そして私は幸せに感じた。こんなにもよい部下を自分は持っていたのかと
改めて感じることができたから。
「ありがとう。それでは、命令を下す!
我々はここで、呉の反乱軍よりこの地を死守する。そして救援をまつ。」
そういった後、私は、各部隊ごとに命令を下していく。
「以上だ。 解散」
「御意」
私が命令を伝え終えると隊長たちは軍議室から去っていく。
私は城壁にのぼる。
「壮観だな・・・」
遠くも離れていないところに砂煙が見える。
おそらくは、呉の反乱軍であろう。
「いよいよ・・・か」
私は目を閉じる。
そうすると、みんなとともに駆け抜けた輝かしい日々が広がってきた。
わたしは、守りたい。自分の意志を。みんなの理想を。
いまこそ、桃香様に押し付けるわけではなく、
ちゃんとこの手で。
命を懸けなくていい、意志。
そういう意味で桃香様はいったのではない。
命があってこそ、すべてだと桃香様はいったのだ。
だからこそ、桃香様、私は思うのですよ。
この命を懸けてでも守りたいものがある。 そんな風に。
桃香様、知っていますか?
命を懸けていいほどの意志が、そして理想が見つかった時、武人は輝くことを。
命を懸けていいものが見つかった時、人はもっと強くなれることを。
命を懸けていいものがあれば、人は、どこまでもまっすぐに進んいけるということを。
私は、これより歩いていきます。自分の道を。
関羽雲長、いざ、参る。
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呉で、反乱の兆しあり。そういう情報に呉にでむいていった愛紗。
しかし、それは簡単な作戦ではなかった。
複雑に絡まる情報、敵の策略。自分の見いだせなかった答え・・・
愛紗ははたして、その状況で何を見つけていくのであろうか?